(第3章)忍び寄る悪魔と幽霊

(第3章)忍び寄る悪魔と幽霊

 

セヴァストポリ研究所の外の白い建物の屋根の上。

そう、白い屋根の上に何かがいた。それはHCFの産業スパイでも

作業員でも保安部の人間でもない何かだった。

その姿はぼんやりとした幽霊か雲のようなもので

夜空の星々や屋根が何度も揺らめいた。

しかしその目に見えない何かは人型をしていた。

また背中に一二枚の翼らしきものと両手には巨大な10対の鉤爪らしきものがあった。

正体不明の何かは白い屋根の上からセヴァストポリ研究所を観察した。

長い間、白い何かは白い屋根の上からセヴァストポリ研究所を観察し続けていた。

まるで何かを探しているように。何かはまるでノイズが掛かった

高い声で何かをしゃべり始めた。

「我・・・・の・・・・肉体・・・・器・・・・になる人間の女は・・・・。

ここに・・・・いる・・・・のか?・・・・・ベルゼビュートよ!」

そして何者かは白い屋根の上から飛び降り、3mの高さから降りた。

ドスン!と音を立てて地面のアスファルトを蜘蛛の巣状に砕き、着地した。

更に速足で歩き出した。そしてー。再びまるで幽霊のようにスーと姿を消した。

 

セヴァストポリ研究所内『BOW(生物兵器)及び

ウィルス兵器開発中央実験室の一本の廊下。

僕事、エア・マドセンはまたいつものようにストークスに会いに行こうと地下室へ続く

廊下をスタスタ歩いていた。彼は腰にハンドガン、背中にマシンガンを携帯していた。

だが彼が持っている籠には彼女の好きなお菓子や物が沢山入っていた。

彼女を喜ばせたかったのだ。そして歩いている途中、何人かの研究員やスタッフが

僕の方を白い目で見ながらお互いヒソヒソ話をしていた。

勿論、僕は聞かないふりをした。聞いたところでどうせ僕の悪口に決まっている。

実際、僕とストークスの関係はここでは公になった。

その為、実際、僕と彼女の中を快く思わない連中も多くいた。

でも僕は気にしなかったし、なんとも思わなかった。

彼女とは一応、まだ3日間は一緒にいられる。

3日後には彼女は新型ウィルス兵器の強力なウィルス抗体の製造工場として

利用される為にコールドスリープ(冷凍冬眠)

カプセルの中に閉じ込められる事になる。

もうストークスと僕は隔離部屋の中で話す事もクッキーを食べたり

チーズケーキを食べたりして笑い合う事も出来なくなる。

一緒にいる月日もそう長くはなかった。

だからこそ今日のこの時間を出来るだけ長く彼女と過ごしたかった。

昨日の会議でHCFの幹部達や10日後に彼女を

コールドスリープ(冷凍冬眠)カプセル

に保存し、すでに完成させた新型ウィルス兵器(T-sedusa(シディウサ)と

そのワクチン製造の為に利用される事が決定した。リーやエイダの話によると

ワクチンの製造が成功すれば新型ウィルス兵器として商品になるらしい。

つまり人殺しの武器の完成だ。安値で買える手頃な。

僕はそれに異論を唱える事も意義や反対意見を言える程の力は無い。

自分が調子に乗ってそんな事を言った所で無駄な足掻きだ。僕には何の力が無かった。

そして新型ウィルスとワクチンの完成後は彼女は

上層部では殺処分されると言う話があった。

しかし僕は絶対に認めない!!殺処分なんて!!僕は許せない!!

僕は彼女を救う為に父親のブレス・マドセンを通して電話でHCFのBOW

生物兵器)及びウィルス兵器開発研究員主任のダニア・カルコザ博士に

コンタクトを取った。そして僕はストークスの殺処分に猛抗議した。

勿論自分が上層部の怒りを駆ってここを首になって彼女共々

殺処分されても別に構わなかった。

むしろ彼女と一緒に死ねるなら本望だった。

何故なら僕にとって彼女は命懸けで守りたかったからだ。

「処分なら覚悟しています!上層部にたてついて!!

会社を攻撃する敵だと思って貰っても全然構いません!!

それでもストークスの殺処分は反対なんです!!

お願いです!!どうにかなりませんか??」

するとダニア博士の長い溜息が聞えた。

「どうやらすぐに答えが必要なようね。分かったわ。

なんとか上層部達に掛け合ってみる。ただしあまり期待しないでね。

無理かも知れないし!やるだけやってみるわ!」

「ありがとうございます!!ダニア博士!!」

僕は感謝の言葉を言いながら電話を切った。

それからダニア博士は緊急としてHCFの上層部を集めた。

ダニア博士は会議の中で新型ウィルス兵器の抗体の製造工場として10年間利用され、

10年後に殺処分される予定のジルのクローンのストークスの

処分についての話し合いがもう一度もたれた。

それからHCFの上層部の連中はブレスの息子のワガママのせいで

集まったと知るや否や何人かはうんざりとした表情になった。

「この話はもう終わったはずだ!ダニア博士!」

不満な表情でダニアを見ていた男はそう言った。

その男の名前はザビエ・キングスレ。HCF特研部災害対策委員議長である。

そしてザビエの意見に応答するようにもう一人のHCFの上層部の男が口を開いた。

「まあまあ。彼はまだ若いんだ。世の中の厳しさを分かっていない。」

アレキサンダー・マイクはHCFの衛生管理部問部長である。

「私も同意見です!商品のサービスと管理の為に―。」

マイケル・ケイラーはHCFの商品サービス管理責任者である。

その男はアレキサンダーの意見に同意した。

つまり「彼女を秘密保持の為に処分する」と言う話だ。

しかしHCFのBOW(生物兵器)及びウィルス兵器開発研究員主任の

ダニア・カルコザ博士は反対した。

そして息子の意見を尊重し、HCFの保安部長の

ブレス・マドセンも反対意見を出した。

丁度意見は彼女の処分反対が2人。彼女の処分賛成が3人だった。

やはりダニアとブレス側が不利だった。

しかしもう一人のブレスの妻でエアの母親のアンヘラ・マドセンも

夫のブレスとエアとダニア博士に次いでストークスの殺処分に反対意見を出した。

これで3対3で同じになった。

(エアは幹部でも上層部でもないただの保安員なので

余り力は無いので除外。含めれば3対4ではある)

これでしばらくは長い長い話し合いが続いた。

そして結論はなかなか決まらず話し合いも難航した。

どうやら決まった『彼女の殺処分』の決定を覆すにはまだまだ時間が掛かるようだ。

ダニア博士とアンヘラ博士はHCFの3人の幹部の説得を試みていた。

それからダニア博士はこんな意見を出した。

「我々はかつて倒産したライバルのアンブレラ社の失敗を

犯すべきじゃないと思います。」

「つまり?それはどう言う事かね?」

「私もダニア博士の意見に賛成です。かつてアンブレラ社はアークレイ山中の

極秘研究所でウィルス投与実験を長期に続けていたリサ・トレヴァーは自我を失い。

『ネメシス』を取り込んで僅かな知性を取り戻した事でー。」

「いや、始祖ウィルス投与時にも同じ反応を示したわ。」

「はい。そうですね!ダニア博士。それで3人の女性研究員の顔を剥ぎ、それを被って

しまうと言う奇行を繰り返し、彼女は念入りに生命反応停止を確認したのにも関わらず

生き続けて、アルバート・ウェスカーによって研究所の洋館を爆破されるまで館内を

彷徨い続けていたと言う記録があります。」

「つまり?彼女を殺しても死なないと?君はそう言いたいのかね?」

「はい!可能性は極めて高いと思います。処分出来なければ彼女がこの研究所の脱走。

あるいは死に場で生き返って周囲の町や村で秘密情報が漏洩する可能性も

否定しきれません。安易な殺処分は控えるべきかと」

「そもそもあの新型のウィルス兵器にはまだ未知の部分が多いです」

「それにあの子はグローバルメディア企業の所有物でしょ?」

「それは軍用AI(人工知能)はちゃんと取り出してそのー。」

「何故??殺処分を?何か不都合でもあるんですか?」

「理由は極秘だ君達には話せない。」

ザビエはなぜかそこで何かに気付き、お茶を濁らせるかのような発言をした。

その瞬間、2人は一部のHCF上層部が何かを隠している事に気付いた。

きっとグローバルメディア企業も何か情報を漏らすヘマをしたのかも知れない。

しかしそれはあくまでも憶測であって分からなかった。

それからHCF上層部もグローバルメディア企業ともう一度相談した上で

殺処分を再検討すると言う事で話がまとまった。

こうしてストークスの処分は先延ばしになった。

一方、他の白衣を着た研究員達は最近このセヴァストポリ研究所内で起きている

些細な幽霊か怪異現象の噂を口々に話していた。

それはどこかの廊下で白い影が横切るのが見えたとか。誰かの笑い声が聞こえたとか。

中には研究資料の入った棚がひとりでに宙へ浮いたとか。

HCFの幹部達もその話を信じてはいなかったが。

 

(第4章に続く)