(第33章)弱肉強食の結末

(第33章)弱肉強食の結末

 

BOW(生物兵器)及びウィルス兵器開発中央実験室深部の特性商品テスト広場。

エアは直ぐに遠くなった意識を自力で回復させて立ち上がっていた。

あれだけの凄まじい魔女王ホラー・ルシファーの攻撃を胸部に受けたのにも関わらず

全身擦り傷程度でしかもあの巨大な10対の鉤爪が服を貫いて胸部の皮膚に

突き刺さっているのにも関わらず十字の浅い傷のみで大穴は開かなかった。

しかも時間が経つとほとんどの擦り傷は元通りになった。

これもあの魔人フランドールと死闘をしたおかげなのだろうか?

しかしそれでもエアは彼女に素直に感謝出来なかった。

そしてエア・マドセンと魔女王ホラー・ルシファーはお互い睨み合っていた。

その時、不意に天井の近くに強い気配を感じた。

エアもマドセンと魔女王ホラー・ルシファーもほぼ同時に。

そして天井の壁近くに向けられた2人の視線の先はメンテナンス用の

空きっぱなしの通路と細長い通路の金網の上に両腕を組み、

魔人フランドールが立っている姿が見えた。

彼女は丁度開きっぱなしの通気口と細長い通路と真っ赤に輝く

分厚い板を無理矢理丸く変形させて、強引にそこに居座っていた。

「何をしに来たんじゃ?また我とこやつの戦いを邪魔しに来たのか?」

殺気立った視線を魔人フランドールに向け、魔女王ホラー・ルシファーは

唸るようにそう言った。しかし魔人フランドールは全く臆する

事無く静かに口を開き、こう返した。「邪魔はしないわ!ただ見届けに来たのよ!

貴方とエア・マドセンのストークスを巡るこの弱肉強食の争いの結末を」

「フン!あの男に力の使い方を教えたのも汝じゃろ?

ついでにあの旧米陸軍の研究の情報も!」

魔女王ホラー・ルシファーはエアを指さしてそう言った。

「ええ、そうよ。魔王ホラー・ベルゼビュート様の理念。

『強き者が弱き者から何かを手に入れる。その為には力が必要。

しかし力を持たぬ者がいくら正義の言葉を並び立ててもそれを文章にして

非常識な仕事をしたとしても。それは力無きものが語るだけの方便に過ぎず。

所詮、力無き者は常識を熟知した真の強者に食いつくされるだけ。

真の強き者は全ての権力や大金にも誰かに必要以上にすがり

頼る事もせず己自身の意志と信念。そして野生本能を心の中で

目覚めさせた者こそが真の強者となる。野生の本能!それは人間、人外、植物、

動物、ウィルス、細菌、カビ、寄生虫、昆虫。貴方達がここで

商品として作っているBOW(生物兵器)もウィルス兵器も

プラーガーも全て同じよ!彼らもただ人間の欲望を利用して

自ら食物連鎖の頂点に立ちたいだけ!エア!貴方も同じ!

貴方はその力を宿した子孫を残す為につがいのストークスを欲している。

魔女王ホラー・ルシファーは魂を喰らい、こちら側(バイオ)の世界で活動するのに

必要な血肉を持つストークスを宿主に欲しがっている。

ここで強い奴が。強い意志と野生本能が強い奴が勝ち!

トークスを手に入れる!さあー闘いなさい!エア・マドセン!

弱肉強食の頂点はここで決まるのよ!!私に結末を見せて!!」

魔人フランドールは真っ赤な瞳をキラキラと輝かせた。

それはまるで子供がアニメや漫画を楽しんでいるような。

とても楽しそうで心の底からワクワクしたような素振りを見せた。

エアは「ハハハハハハッ!」と笑った。

彼の心の底から熱い何かがこみ上げて行くのを感じた。

それは強い者と戦う興奮。ストークスに対する自分の思い。

色々な感情がどんどん煙突の煙のように湧き上がった。

すると魔女王ホラー・ルシファーは呆れた表情を見せた。

「やれやれ!あの男!エア・マドセンを調子づかせたか。」

続けて口元を緩ませてニヤリと笑いこう言った。

「まあーよい!これでまた一段と面白くなったわ!」

魔女王ホラー・ルシファーは両腕を組み、左右に広げた。

同時に魔女王ホラー・ルシファーの身体から真っ赤に輝く

天使の輪の形をした衝撃波を周囲に放った。

天使の輪の形をした衝撃波は高速でエアに向かって接近して行った。

しかしその魔女王ホラー・ルシファーが放った天使の輪の形をした衝撃波がエアの

身体に到達する直前、エアは不意に天井に向かって太く長い気合の入った叫び声とも

奇声ともつかぬ声を上げた。

「つつつつつつつつ!!しゃあああああっ!ひょおおおおおっ!」

同時にエアの身体から真っ赤に輝く天使の輪の形をした衝撃波が放たれた。

そして魔女王ホラー・ルシファーとエア・マドセンが放った天使の輪の形をした衝撃波がお互い激突し、粉々になりまるでガラスの破片のように周囲の上空へ広がった。

「我と同じっ!同じ力っ!とうとう並んだか!!」

魔女王ホラー・ルシファーは歓喜の叫び声を上げた。

「俺はッ!お前なんかに絶対に負けん!!絶対にストークスはお前に渡さないっ!

必ず!倒すっ!」とエア・マドセンは力強い口調でそう言った。

「俺はっ!お前なんかに絶対負けん!!絶対に!!絶対にストークスは渡さん!

トークスはっ!ストークスはっ!俺のものだああっ!おれのつがいだあああっ!」

エア・マドセンはまるで野獣のような野太い叫び声を上げた。

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」

ドオン!と真っ赤な分厚い板に覆われた金属の床を踏みしめた。

エアは一気に前方に向かって身体の全体重を掛けた。

同時にエアはまるで大砲の弾丸の様に超高速で前にいる魔女王ホラー・

ルシファーに一気に距離を詰めるどころか突進した。

魔女王ホラー・ルシファーはとても冷静に両肩の堕天使を思わせる両腕を組み、

超高速で殴り掛かったエアの左拳を受け止めた。

ザザザザザザザザザザザガガガガガガガッ!!!

と大きく擦れる音と削れる音の後に高速で魔女王ホラー・ルシファーは

一気に後退した。エアは手応えがあったと思った。

しかし魔女王ホラー・ルシファーは両肩の堕天使を思わせる

両腕を一気に左右に開き、エアを吹き飛ばした。

続けて魔女王ホラー・ルシファーもドオン!と真っ赤な分厚い板に

覆われた金属の床を踏みしめて一気に前方に向かって全体重を掛けた。

同時にエアと同じくまるで大砲の弾丸の様に超高速で

エア・マドセンに一気に詰め寄った。

続けてエアが両腕を組んでガードする間も無く魔女王ホラー・ルシファーは

また超高速で右足を弾丸のように射出した。

ドゴオオオオン!と言う大砲のような爆音が響いた。

放たれた右足はエアの胸部にモロに直撃した。

「グッ!ああっ!」

エアは苦しそうに呻き声を漏らし、両手で腹部を抑えた。

そして大きく背中を丸めてうずくまった体勢となった。

しかしその後、エアはお返しと言わんばかりにエアも左脚を弾丸のように射出した。

ドゴオオオン!と再び大砲のような爆音がした。

放たれた右足は魔女王ホラー・ルシファーの胸部に直撃した。

「ぐっ!」と呻き、背中を丸めるこそしなかったが僅かに笑った。

 

HCFセヴァストポリ研究所のウィルス兵器遺伝子改良実験室の厳重に

ロックされた分厚い改良ウィルス遺伝子サンプルを持つ

実験動物を収容する部屋の中で萌博士は顔面蒼白のまま我に返った。

その時、またAI(人工知能)アポロがスピーカーを通してある指令を与えた。

「先程、ダニア博士から『特別実験指令937』発令!!

『ウィルス兵器遺伝子改良実験室』の全職員、スタッフ、研究員は萌・被検体の

胎内に宿った変異型G生物の性質を持つリッカープラントデッド・プロト

の胚は日々観察して、萌・被検体の細胞と胚の植物細胞が時間をかけて融合して

成長してゆく様子を記録して下さい!なお萌・被検体の遺伝子と胚の遺伝子は女性故に

適合しています!この為、いずれは完全なリッカープラントデッドとなるでしょう。

あとリッカープラントデッドの胚の保護を最優先せよ!!

萌・被験者は本来の人間の細胞が全てリッカープラントデッドの

植物細胞に全て入れ替えられた時点で全て破棄して良しとします。

あの彼女自身の知脳低下も問いません!以上!」

「マジか・・・・まさか?2体のG生物みたいなやつを相手にするのか?」

「正確にはそのお世話と生物兵器の研究開発よ!」

「やれやれだな・・・・主任の僕も責任重大だな!」

「G生物ってラクーンシティでは良い思い出は無いわね。でも。

あの萌博士。いずれは人間ではなくなるのでしょ?気の毒ね。でも。

余り同情できないわね!だってあの・・・・カーラやディレックと同じ!!

とんでもないイカレ野郎ね!!」と思わずエイダは両拳をぎゅっと握った。

するとそれに同調するようにスペンス主任は辛辣にこう言った。

「ああ!その通りさ!エイダ!萌博士は

中途半端な正義感で裏社会の組織に手を出した。

しかも余りに非常識な目的の為にな!これはそのしっぺ返しで報いさ!!」

 

(第34章に続く)