(第2章)ミルトン

(第2章)ミルトン

 

エアは一度、マルフォス隊長の通信を切り、保安部隊の父親のブレス保安部長に

マルフォス隊長とその部隊7名が無断で夏の肝試しのつもりで潜入し、7名の内、

男性3名が死亡し、女性隊員は拘束されていると報告した。

レオナ・ポートマン隊員は例のピエロ型宇宙人のポップコーン卵を胎内に宿している

可能性があり、十分に警戒するようにと

医療チームのアッシュ博士にもしっかりと伝えた。

それから報告後、直ぐにマルフォス隊長の通信に繋げた。

エアは通信の声でマルフォス隊長簿無事を確認した。

直ぐにマルフォス隊長から「OK」と言う返事が聞こえた。

どうやらまだ無事生存しているようだ。

そして保安部隊や医療チームに報告したと

伝えるとマルフォス隊長は「BAD」と答えた。

どうやら後でしこたまブレス保安部長に怒鳴られるのが怖いらしい。

だが自分がまいた種だ!残念ながらまいた種は隊長が自ら責任取らなければならない。

マルフォス隊長ははきっと100%隊長職はクビになるだろう。

隊を危険に晒した隊長など必要ないからだ。少なくとも彼が裏切り者として被検体

にされぬように僕からもどうにかダニア博士や

HCF上層部に掛け合ってみるつもりだ。

せっかく生き残って被験者は流石にマルフォス隊長が可哀そうだ。

せめて隊長のクビと無期限謹慎で済ませられるといいが。

無線からマルフォス隊長が「もう少しで出口だ」とつぶやくのが聞こえた。

すかさずエアは「がんばれ!!もうすこしだ!」と応援した。

間も無くして無線機のスピーカーからブウウンと言う車のエンジン音と

キーキーキーとブレーキ音が終始聞こえていた。

バタン!とドアが閉まる音とゴツン!と言う殴る音が聞こえて来た。

エアは「まさか?」と思わずドキリとした。

しかしすぐにブレス保安部長の野太いまるで雷のような怒鳴り声が聞こえて来た。

「このクソ馬鹿野郎!無断で部隊を動かすとは何事だああっ!

この間抜けがっ!お前は本部に戻ったら処分だ!!」

マルフォス隊長は泣き出し、震える声でこう言った。

しかしそれはかすれた声で「ごめんなさい」としか聞き取れなかった。

「ブレス保安部長!早く仲間の生存者を救出しましょう!」

リー・マーラの美しい声が聞こえた。エアは思わずうっとりと聞き惚れてしまった。

やがて多分、サーカスのテント型UFOから

マルフォス隊長を探して出て来たのだろう。

あのピエロ型宇宙人達のザワザワした声がどんどん聞こえて重なって行った。

エアは事の成り行きを声を押し殺して黙って耳を澄ませて聞いた。

僕のできる事はここまでだ。あとはリー・マーラさんと

父親のブレス保安部長に任せるだけだと思った。

 

D市街地の廃遊園地(正確な位置は不明)

リー・マーラとアッシュ博士を乗せた救急車をよそった研究車。

ブレス保安部長と保安部隊を乗せた保安部隊の武器トラック。

更に取引用の『10人の男女反メディア団体ケリヴァーのメンバーの囚人を積んだ

大型トラックが次々と到着した。『静かなる丘』の若村秀和の『教団』

に加わる事は無かったがそれでもまだ若村の思想に影響され続けて

また懲りずに数名がHCFセヴァストポリ研究所に侵入していた。

しかしながらブレス保安部長率いる保安部隊にあっと言う間に全員拘束されている。

リー・マーラとアッシュ博士を乗せた救急車をよそった研究車。

ブレス保安部長と保安部隊を乗せた保安部隊の武器トラック。

更に取引用の10人の男女反メディア団体ケリヴァーのメンバーの囚人を積んだ

大型トラックが停車した目の前にはサーカスのテント型UFOが着陸していた。

しかも丁度、D市街地の廃遊園地の古びたお化け屋敷と一体化していて

どこまでがお化け屋敷で何処までがサーカスのテント型UFOなのか分からなかった。

そしてお化け屋敷の出口から今にも

泣きそうな表情のマルフォス隊長が飛び出してきた。

車から降りたブレス保安部長は仲間の隊員にすぐにマルフォス隊長を拘束するよう

命令した。マッドとウースは銀色の手錠でマルフォス隊長の手首を拘束した。

続けてブレス保安部長の前に突き出した。

するとブレス保安部長はマルフォス隊長にげんこつを炸裂させ、

雷のような声で怒鳴りつけた。そしてマルフォス隊長を保安部長の

命令で保安部隊の武器トラックに無理やり乗せた。

そして馬鹿な隊員の処置が済んだところで廃遊園地のお化け屋敷の入り口から

20体余りのピエロ型宇宙人がゾロゾロと出て来た。

リーは一歩前に出て目の前にいるリーダー格の

ピエロ型宇宙人に申し訳ない表情で語り掛けた。

「御免なさいね!うちの諜報部の隊員達が夏の肝試しで入ったのは謝るわ。

それで虫や良いかも知れないけど捕らえた女性隊員をこちらに返して貰おうかしら?」

「フン!勝手に我々の事を探っていた訳ではないと?全く!迷惑な事だな!」

「ええ!そうね!こっちの管理不足のせい!御免なさい!」

「今回の人間の食料と繁殖の数は?」

「今回も男5人と女5人の反メディア団体のメンバーの囚人よ!」

「少な過ぎだな!もっといないのか?あの女隊員も!」

「ダメよ!取引は成立しない!ちゃんとルールは守って欲しいわ!

じゃないと今後!貴方達と取引しないわ!

いい?ルールは守って!人間のルールをね!」

「フッ!気に入らんな!あの人間共は!!」

「何で?何処が気に入らないって言うの?」

するとリーダー格のピエロ型宇宙人は理性的な茶色の瞳で

リー・マーラの足元から美しい顔まで舐めるように見た。

「俺が一番気に入らないのは!

あの人間達が反メディア団体ケリヴァーだと言う事だ!!

あの人間は!我々と比べてまるで思考も本能も退化している哀れな存在だ!

あいつらはとことん哀れな連中だな。自分達の価値観を無理矢理、同種の人間に

押し付けて!更に自分の要求が通らないと分かれば!邪魔な他の価値観や

大事なテレビやゲーム、その他の物やキャラクターの存在を否定し!

自分達に都合の悪い存在を完全に排除しようとする!

更に何もできないか自分の要求が通らないと言う事が分かれば今度は他人を殺して

自らも死ぬと喚き散らし、他人を恐怖で支配しようとする!奴らはそうやってする事でしか自分の存在価値も意識もロクに見出せぬただの噛ませ犬だろ?

そんな奴らの遺伝子が我々種の存続に役立つとはとても思えないな!」

「じゃ!貴方にとって自分の種の滅亡を救えるような人間の遺伝子ってどんなの?

例えば?ジル・バレンタインとか?」

「そうだな!ジル・バレンタインの遺伝子!彼女の遺伝子は我々の種の滅亡を救う

良い遺伝子だったな!おかげで種の滅亡は避けられた。お陰で助かっている!

そして君の遺伝子も優秀な筈だ!私は欲しい!リー・マーラ!お前の身体が!」

ピエロ型宇宙人は笑った。それはーとても恐ろしく醜い表情はますます邪悪に

恐ろしく醜くなっていた。しかしリー・マーラの表情は変わらなかった。

更に続けてリーダー格のピエロ型宇宙人は言った。

「君はクールで!強い女だ!反メディア団体ケリヴァーの連中とは違う!」

「残念だけど私は無意味な事はしない主義なの!」

「では!こうしよう!君が私を抱いてくれたら!

拘束した女性隊員達。ベディ、アンナ、メイは風船から解放してやろう!」

ついでにレイナ・ポートマン隊員には我々の生態を調べる為の

私の可愛い子供達を宿してある!あとはいつも通りだろ?」

「ええ!そうね!全員解放してくれるのね??」

「勿論、公式な取引と言う奴さ!」

そのピエロ型宇宙人の提案にしばらくリー・マーラは深く考え込んでいた。

長い間、読闇の空に沈黙の空気が流れた。そしてリーはピエロ型宇宙人を見た。

その姿は正にリーダーかあるいはボス、団長とも言えるような風貌だった。

真っ白な髪に目の周りに赤いクマのようなメイク。

更に大きな丸い鼻。ヒラヒラの付いた襟にオレンジ色の水玉の付いた

模様の付いたピエロの衣装。今回は光線銃の代わりに大き真っ黒な

オレンジ色の縞模様の付いたエクレア型の

葉巻気を大きな赤い唇のある口で咥えていた。

その体格は昔ハリウッドで演技に定評のあった名優のアル・パチーノそっくりだった。

大体1997年当時の『ディアボロス悪魔の扉』に出演していた当たりの歳に見えた。

なのでHCFは全員、この個体を『ミルトン』と呼んでいる。

対してリー・マーラはHCF産業スパイの中でエイダ・ウォンと並ぶ美女であって

エアの母親のアンへラと同様に男性職員や研究員、スタッフに人気があった。

「残念ですが。無理ですね。私は既に本当に愛している男との間に

一児の子供がいるので。つまり事実婚である以上は無理です!」

リー・マーラはきっぱりと断った。

するとミルトンと言う名のピエロ型宇宙人は「ぐぬぬぬ」と声を上げた。

「引き際を覚えるのも大事ですよ。ミルトンさん!私は強い男が好きですが。

引き際の知らない誰かに頼りすがるような弱い男には興味ありません。

私は尻軽ではありませんので。」

「ググググッ!このおっ!私が引き際を知らぬとでも?」

「これから知る事になりますよ!公衆の面前でセックスは控えるように。

それと我々HCF女性隊員達を捕らえて十分満足したのでは?」

 

(第3章に続く)