(第48章)M神社の奇跡の夜(前編)

(第48章)M神社の奇跡の夜(前編)

 

M神社の何処の建物の板は木材なので完全に腐りきって

建物全体の痛みはかなり酷いものだった。

とてもじゃないが人が住めたものじゃない。

長い間、忘れ去られてしまい建物も信仰も風化してしまった

この古い神社で自分達に何ができるのか不安になった。

また神社の周囲には黄色の光のような粒が舞っているのが見えた。

もっとも全員に見えている訳では無く見えているのマッドだけだった。

マッドは隊員達の間から歩を進めた。

目の前の神社のボロボロの今にも崩れ落ちそうな建物の

玄関前で両手を合わせてマッドは恥を忘れて祈った。

他の隊員達もそれに倣って両手を合わせて祈った。

彼らはエアとストークスとアンヘラとブレス保安部長の幸せを祈り続けた。

ただ雑念を払い、ずっとずっと。長い間、本人達もかなり粘って祈り続けた。

しかし何も起こらなかった。やがてぽつぽつと雨が降って来た。

隊員達は諦めずにただひたすら祈り続けた。

何も起こらない。何の変化もない。祈りは届かない。

ただただひたすら諦めの色と焦りが見え始めた。

しかしとうとう何人かが祈りを諦めそうになった。

これではせっかくここまで来た苦労が水の泡になってしまう!

たのむー。たのむー。奇跡を!!起こってくれええっ!

マッドは心の声でただ叫び続けた。

その時マッドの頭の中に女性の声が響いた。

まるで何処からか遠くから優しく穏やかに語りかけたような。

「遠くから私に奇跡を祈り続けているのは貴方達?」

マッドは無意識の内にその女性の言葉に答えた。

「はい!そうです!僕達は親友の為に祈っているんです!」

「貴方達。善き人ですね!!いいでしょう力をお貸ししましょう!」

そして目の前に緑色の光が現れた。

マッドと他の隊員は眩しくて両手で目元を覆った。

しばらくして緑色の光はふっと消えた。

おずおずと全隊員は両手から目を離した。

目の前には赤い目をした緑色の美しい人間代のアマガエルが現れていた。

現人神(アラヒトガミ)の化身だろうか??

D市街地のどこかにあるM神社の玄関先に現れた赤い目をしたガマガエル。

つまり現人神(アラヒトガミ)の矢守神の化身が

マッド達に再びこう静かに語りかけた。

「貴方は親友の為に祈り続けているそれは何故ですか?」

マッドは他の隊員達を代表して質問に勇気を持って答えた。

「親友は大好きで最も大切だった母親を。

母親は自らの意志で魔女王ホラー・ルシファーに肉体と魂を捧げて。

そして母親は肉体を乗っ取られ、魂も食われてしまいました。」

「そうですか。魂が喰われて現在貴方達のいる外の世界には存在しないようですね。

残念ですが恐らく輪廻転生も叶わないでしょう。

「マジかよ・・・」とマッドは静かにつぶやいた。

美しい緑色の人間大のアマガエルの矢守神の化身は

明るくこう言って絶句するマッド達を安心させた。

「ですが方法はひとつだけあります!それは貴方達が

『親友の母親がもう一度、この外の世界に存在出来るように祈るんです。』

ですがそれだけでは足りません。もっと話を。」

「私達の親友は急に目の前で母親を失ったんです。

そして親友はその精神ショックで心も病んでしまい。

大人になる事も闘う事も拒むようになってしまったんです。

「だから俺達は。その親友の病んだ心を癒して。

大人になる勇気と魔女王ホラー・ルシファーと彼女のストークスを守る為に

闘った時のその勇気をまたもう一度取り戻させたい。」

「成程、親友に元気を与えたいと言う訳ですね。」

するとマッドや他の隊員達もうんうんと上下に首を振り頷いた。

「そしてこの方法はこの外の世界に残っている親友の母親の残留思念を集めて

新しく現人神(アラヒトガミ)として転生させるのです。

それに貴方達の親友の元気を願う祈りの力。私は奇跡を起こす風神の力を使います。

そして私の力と貴方達の『親友に元気を与えたい』と言う強い祈りを

同じ場所、同じ時間で祈り続ける力を合わせて母親の残留思念を

現人神(アラヒトガミ)として復活させる。つまり集団で存在や役割を

母親の残留思念に与えるのです。そうして親友と再会させる事が出来れば!」

するとマッドは直ぐに決断した。そして他の隊員に向き直った。

そして彼は大声で演説するようにこう呼びかけた。

「よし!みんな!やろうぜ!これでエアの母親がどうにか

この世界に存在出来るようにして。母親の残留思念を集めて!!

現人神(アラヒトガミ)として復活させて!

エアと再会させてやろうぜ!!なあーみんな!!」

「ああ、もちろん!」ととウース。

「グーフィ!やろうぜ!」とエンリコ。

「俺も!」とウォルト。

「やるぞ!」とケイシー。

「ああ、やろう!」とマイク。

そして全員マッドの演説に共感し、直ぐに始めた。

彼らは全員、息もぴったりにその場に座り、

強くなり始めた雨を頭からザーザーザーと

被りながら頭を下げて、両手を合わせて祈った。

とにかくHCF保安部隊の隊員達は長い間、ずっとずっと黙って黙って黙ってずっと。

全員、両瞼を閉じてただひたすら祈り続けた。

その時、ふと赤い目のアマガエルの現人神(アラヒトガミ)の化身は

「おやっ?」とつぶやいた。そして続けてこう言った。

「どうやら。貴方達の親友のエア・マドセンと恋人ストークスの幸せを

願っている者はここにいる貴方達以外に他にたくさんいるようです。

彼らは自分自身個人が幸せになれないから。

せめてエアとストークスの幸せだけでも

深く祈り考えようとしている者がたくさんいます。

エアと魔女王ホラー・ルシファーの戦いで彼の思いを知った沢山の理解ある人々が

エアとストークスの幸せを願っています。

私は人の想いや考えを心の眼で知る事が出来ます。

彼らは暗闇の中で彼らなりに2人に光を見出そうとしています。

これだけの沢山の人々の想いや考えが集まれば必ず奇跡は起きます。

私も本来の現人神(アラヒトガミ)の力を

子の外の世界で久しぶりに取り戻せそうです!

私も頑張ります!皆さんは!ただ考えて祈り続けていればいいです!

私は奇跡を起こそうとする貴方達とみんなの想いと考え。

他人の幸せを望む強い意志と想いを私は汲み取り。

ここで奇跡を起こす手助けをしましょう!」

そして次の瞬間、再び赤い目の美しいアマガエルはまた緑色に発光した。

すると緑の長い髪の少女に変身した。

続けて緑の長い髪の少女は左手を既に大雨が止み、

満天の星空に覆われた夜空に掲げた。

続けて強い風が吹き出した。それは彼女が起こす風神の力である。

 


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「私は現人神(アラヒトガミ)東風谷早苗!!」

東風谷早苗は静かに目を閉じて呪文を詠唱した。

次第に風はどんどん強くなり、それはまるで天翔ける龍が起こした

吹き荒れる神の風に相応しいまで高まって行った。

それはどんどん早く高速に強く光速まで達し、力は頂点まで一気に上りつめて行った。

同時に風に乗って『エアの病んだ心を癒して大人になる勇気』。

『大事な人であるストークスを守る為に

闘った時の勇気を取り戻させたいと言う想い』。

『親友に元気を与えたい』と言う想い。

エアとストークスの幸せを心から願い続ける保安部隊の隊員達や

HCFにいる不特定多数の人々の全ての想いと考えが集まって来た。

同時にこの世界に残っていた金色に輝くエアの母親の残留思念が一気に集まって来た。

そしてエアの母親の残留思念が集まり、その量は驚くほど膨大となって行った。

更に他にもD市街地に散らばっていたと思われる

とある強大な力を持つ地母神の残滓(ざんし)も集まっていた。

どうやら自我が保てない程、このD市街地に散らばっていたようだが

この奇跡の神風に乗じて寄り集まりつつあった。

勿論、東風谷早苗は気付いていた。恐らくそいつの名前は『イナンナ』だろうと。

恐らく『母親』『親子』『息子』の思念を持つエアの母親の残留思念に引き寄せられた

のだろうと考えた。そして今、新しい役割と共に復活しようとしていた。

今後、復活した彼女は自分の息子を守護するように地母神になるように

現人神(アラヒトガミ)である東風谷早苗は祈った。今はそれしかないのだから。

間も無くして東風谷早苗と他の隊員達の周囲は膨大な光に満ちた。

やがて膨大な光は強烈な神風と共に誰の目にも見える事も止まる事も無く

一気に吹き抜けるように天空を切り裂き、光の矢の如く進んで行った。

 

(第49章に続く)