(第52章)愛を叫んだ獣


【エヴァ】残酷な天使のテーゼ【最終回 BGM】Piano cover

(第52章)愛を叫んだ獣

 

「自分が存在して生きる理由・・・・僕は。僕は。僕は。」

そしてエアの脳裏に再び笑顔のストークスや父親のブレス保安部長。

お互いふざけ合って手を振り回したり、指を頭から出したり、笑顔だったり。

クスクス笑うマッドやウース、その他隊員達の顔。

ダニア博士、アッシュ博士、リー・マーラさん、エイダ・ウォンさん。

僕には今は仲間がいる!支え合う仲間がいるっ!!

僕はこの世界に存在していいんだ!僕はこの世界で生きる意味があるんだ!!

僕は存在してはいけない理由なんか!ここには絶対ないんだ!!僕は生きたい!

僕は大切な仲間と!最愛の人ストークスと生きたい!

僕はこちら側(バイオ)の世界を守りたい!どんな奴にも僕は!

決して負けない!僕は闘う!理不尽と!僕は僕を好きになれるかも知れない!

僕はこの世界に仲間と共に!ストークスと一緒にいたいんだ!そうだ!

僕は僕を隙になれるかも知れない!僕はこの世界に仲間と共に!

トークスと一緒にいたいんだ!!そうだ!僕は僕でしかないっ!

トークスや仲間を幸せに出来るのは!

僕しかいないんだあああああああああっ!!」

エアは最後に自らの心に答えを見出した。

気が付くとエアはベッドから立ち上がっていた。

やがて周囲に閉じこもっていた暑い卵の殻が粉々に砕けるように空気は一変した。

彼は決意した。僕はストークスとみんなを守り!幸せにして見せると!!

彼は気が付かない内に笑顔を取り戻していた。

地母神イナンナとして復活したアンヘラ・マドセンは安心した表情をした。

そして顔はとても穏やかな表情となっていた。

「これで安心です!勿論人間として生きる貴方は私が目に見えない自然神であるが

時には助け、時には試練を与え、時には2人の幸せ。

私の息子と恋人のストークスとその子供達をずっと見守り続けるわ」

それからゆっくりと地母神イナンナであるエア・マドセンは

静かに金色の粒となってこちら側(バイオ)の

世界と宇宙に溶け込むように消えて行った。

エアはそれを寂しそうに見送った。しかしすぐに左手のこぶしを握り締めた。

彼はようやく自信を取り戻し「よしっ!」と声を上げて口元を緩ませた。

しばらくしていつもの時間にカウセリングしてくれる精神科医が訪ねて来た。

しかし精神科医はエアの吹っ切れた表情に驚きを隠せずにいた。

それから精神科医にエアはさっきあった出来事を詳しく全て話して聞かせた。

精神科医の女性は信じられないと言う表情をしていた。

しかし彼が明らかに嘘をついているとは到底思えなかった。

またAI(人工知能)アポロの報告により、

彼の部屋に確かにマグネタイド(生体磁気)

を感知しており、目に見えない何かがいたのは確かなようだ。

彼が言うにはその目に見えない何かは地母神イナンナとして復活した

(と本人は主張している)自分の母親のアンヘラ・マドセンが現らわれたらしい。

そして自分はアンヘラに説教されて、励まされて生きる気力を取り戻したとの事。

「そう言えば?ストークスはどうなったの?」尋ねられたので

精神科医は優しく安心させる口調で答えた。

「大丈夫よ!今!冷凍冬眠覚醒室で処置を終えて、

元の体温に戻されて無事目覚めたわ!

魔女王ホラー・ルシファーは彼女に何もしなかったみたいでとにかく健康体よ。

後の精密検査も食欲も精神面も何も問題無いわ!」

それを聞いたエアは大きく息を吐き、全身の力が抜けそうになった。

よかった!!彼女も無事っ!僕はあいつから彼女を守り切ったんだ!!

いや。違う。最終的に僕とストークスが守ってくれたのは。僕のママだ!」

彼は一瞬暗い表情になったが「でも」と明るくなった。

「今後は僕がもっとしっかりと自立して!ストークスをちゃんと一人で守れるように!

僕も!もっと!もっと!強くならなきゃ!もっと強くなってやるっ!!」

エアはそう言って自身の人生をストークスの為に捧げる事を誓った。

精神科医はそんな前向きに生きる意欲を取り戻した事を素直に喜んだ。

しかしその一方で魔女王ホラー・ルシファーがHCFに出現した原因が

実はストークスのクローンのジル・バレンタインにあると言う事は

知らせない方がいいかも知れない。あの秘密組織ファミリーの

小さなスパイの魔人フランドールが言うには

『ジルの精神世界から魔女王ホラー・ルシファーが産まれた。

そして本人が知らない間に現世に飛び出してしまった』らしい。

勿論これには余りにもファンタジックでオカルト的で

ホラー映画のような話はにわかに信じがたいが。

私が彼の話を聞く限り、嘘をついているようには思えなかった。

でも他の聞いていた同僚の精神科医達はほとんど信じていないようだったが。

勿論、魔人フランドールもそれが当たり前だと言っていた。

でも・・・・私は・・・・とてもじゃないが・・・・・。

あの子が言った事は嘘じゃなく真実だと思っている。

私には分かる。何故なら・・・・。いや、今はここで話すべきじゃない。

今は仕事中。仕事中だから。精神科医の女性はそう必死に自分に言い聞かせた。

それからエアは精神科医に話し終えた後、何処かすっきりとした表情を浮かべた。

それを見て精神科医は穏やかな表情になった。

エアはその穏やかな表情をした精神科医をじっと見た。

その精神科医は日本人女性だった。

両頬まで伸びた黒髪。太く長い黒い眉毛。ぱっちりとした茶色の瞳。

低い丸っこい鼻。ピンク色の唇。ふっくらとした両頬にやや丸顔をしていた。

少女のような愛らしさがあった。

エアはしばらくして精神科医の名前を尋ねた。

すると精神科医の日本人の女性は思い出したように名刺をエアに渡した。

名刺には『葛葉(くずのは)美佳』と言う名前と電話番号が書かれていた。

それから大体エアはから話を聞いた後、アッシュ博士や他の精神科医達に報告する為。

彼の自室を後にした。そして一人となったエアはまだベッドに座ったまま

何もせずに一人でずっとぼーっとしていた。それからふと木の机の上に

置いてあった外のニューヨーク市内で手に入れた新聞『ニューヨークタイムズ紙』

があったので暇つぶしに新聞を読み始めた。

ちなみにそれは赤い大蛇がニューヨーク市内を飛び回っている記事が載っている

今日の朝のものである。そして今読んでいる今日のニューヨークタイムズ紙の記事には

さっき読んだ記事以外に興味がありそうな記事が無かった。

しかし読み進めている内にある記事が目に入った。

それは魔人フランドールに関する記事だった。

エアはさらに新聞記事を読み進めた。

『2025年7月21日。ニューヨーク市内のタイムズスクエアの交差点近くの

廃マンションの一室で約10名の

イスラム系テロリストの武装集団が惨殺されているのを

廃マンションで食べ物を探していたホームレスがニューヨーク市警へ通報した。

そしてニューヨーク市警や刑事が駆け付けるとそこにはピアノ線が部屋中に

多数張り巡らせていてほとんどのテロリスト達がピアノ線に身体を切断されていて

殺害されていた。また一室を脱出した3人のテロリストは1人は長い刃物で首筋から

心臓まで刺し貫かれて即死し、2人目は長い刃物で背中から刺し貫かれていて

即死しており、最後の一人も目の前から剣のようなもので

心臓を貫かれて即死していた事がニューヨーク市警の現場捜査により明らかになった。

また殺害されたイスラム系テロリストは近々、ニューヨークのタイムズスクエア

爆弾テロを計画していた証拠が多数見つかっている事も判明している。

そしてこの謎の殺し屋(アメリカ版必殺仕事人)は爆弾テロか

自爆テロを計画しているイスラム武装グループを

対象に暗殺している事が分かっていた。

その為、多くのFBIニューヨーク市警は戸惑いを隠せずにいた。

しかも暗殺の手口は完璧であり、プロの殺し屋の犯行とみて間違いない様だ。

また目撃談や犯人に繋がるあらゆる物的証拠も指紋も一切発見・検出されず

未だに犯人は不明のままである。しかし事件が起こる直前に必ず殺害現場周辺に

金髪の赤い服を着とリボンの10歳未満の女の子が目撃されているようである。

FBI捜査官の間ではその10歳未満の女の子が犯人ではないか?

と推測している。本来なら有り得ない話ではある。

しかし実際に10歳の幼い少女が連続殺人事件を起こした事例もある

それは『メアリー・ベル事件』である。しかしながら彼女が連続して

殺害したのは4歳から3歳までの子供で自分も幼い女の子故に殺害方法も

手口も限られており、それなりの協力者が必要なのに対して今回の謎の

殺し屋(アメリカ版必殺仕事人)はたった一人で協力者も無くピアノ線トラップを

仕掛けて自分よりも大きな男達を2人か2人余りをほとんど殺害し。

残りの3人も剣で殺害していると言う事実にFBI

ニューヨーク市警の大男達を震え上がらせている。」

エアは大欠伸してニューヨークタイムズ紙の新聞を閉じた。

それからテレビを付けて見た。するとこのニューヨーク各地に

出現する悪魔についての特集がワイドショー番組で組まれていた。

金髪の若い女性の司会者がコメンテーターと色々と議論を交わしていた。

更にここ最近、起こった悪魔が犯人と思われる幾つもの事件が取り上げられていた。

 

(第53章に続く)