(第8章)リビドー・ストランディング(性の座礁)

(第8章)リビドー・ストランディング(性の座礁

 

エアとエイダは『静かなる丘』の『KOONTZ・ST』の通りの道路を

真っ直ぐと歩いていた。エアは時々、立ち止まり、地図を見て何回か方角を確認した。

何せ白い濃い霧のせいで周囲の景色もほとんど見えなかった。

だから方角をきちんと確認する必要があった。

そして長い間、路地を歩き回り、ようやくコンクリートの灰色の壁を

見ながら進み始めた。そして角が現れ、緑色の看板に『KOONTZ・ST』と

赤丸の看板に『STOP』標識が見えた。2人は矢印通りに角を曲がった。

しかしその時、濃い白い霧の中から声がした。とりあえず女の声のようだった。

続けて何発か銃声が聞こえた。2人は直ぐに女の声と銃声がした方角へ向かった。

やがて濃い霧の中から一人のトルコ人女性が現れた。

トルコ人女性は首筋まで伸びたサラサラの茶髪の四角い形をしたショートヘア。

キリッとした茶色の眉毛。右斜めになっている茶色の前髪。両耳。

ふっくらとした両頬に形の整った四角い顔。高い鼻。茶色の瞳。ピンク色の唇。

その時、エアは前にストークスとデートした時の街頭テレビで

ニューヨーク市内のテレビ局のニュース番組や様々な番組に出演していた

新人スタッフさんであの時は「何かがいるっ!」と言って取り乱して怯え始めた

日本人の女性アナウンサーを落ち着かせようと奇麗な日本語で「大丈夫!」と

何度も呼び掛けて落ち着かせた光景が昨日のように思い出された。

エイダは彼女の軍事用の特殊な真っ黒のベストと分厚い服とビニールの特殊な

ズボンを履いた上で黒縁の四角い眼鏡をかけた知的な女性を一目見て間違いなく

トルコ軍の諜報員だと分かった。両手には真っ黒な手袋を履いて、ハンドガンで

何度もリロードしながら発砲し、白い濃い霧の中にいる何かに攻撃を繰り返した。

エイダは一応同業者なので彼女に近付こうと歩き出した。

その時、エアが大慌てでエイダに両腕を伸ばして制止した。

「待って下さい!早く!しゃがんで下さい!囲まれています!」

エイダはエアの考えに従い、慌てて道路にしゃがんだ。

エアはエイダは続けてこう言った。

「この周辺に無数の動体反応を感知しました!!

恐らく白い霧の中にいる何かも僕と同じ賢者の石が・・・」

更に目の前にいたトルコ人女性は両手で次々とハンドガンの

引き金を引き続け、発砲を繰り返した。

ちなみに彼女の名前はクルセアーン・ネイリスである。

クルセアーンは弾が尽きるとまたハンドガンに弾をリロードした。

しかし両手でハンドガンを構えて白い霧の中にいる何かに銃口を向けた。

その直後、白い霧の中から金色の細長い針が高速で飛んで来た。

金色の針はクルセアーンの右首筋の皮膚にプスリと突き刺さった。

彼女は「うっ!」と小さく唸った。やがて両腕が細かくプルプと震え出した。

更にカラン!とハンドガンを道路に落とした。やがてドサッと道路に横向きに倒れた。

どうやら意識はあるようだがぐったりした動かなかった。

すると白い霧から今度は4本の細長い触手が現れクルセアーンの両手首に巻き付いた。

しかしすぐに彼女の全身から真っ赤な光を放った。

間違いなく賢者の石の力だとエアは直感した。

すると白い濃い霧の中から現れた4本の細長い触手はほどけて霧の中へ消えた。

クルセアーンは立ち上がり、どこかへ駆け出し、走り去った。

残されたエイダとエアは白い霧を良く見た。

どうやら霧の中にはまだ他にも多数の怪物らしきものがいるらしく。

その姿がチラチラと見えた。しかもあの白い霧だけ、今まで歩いて来た霧とは全く

濃さが違っていた。しかも白い霧はまるで巨大な座礁した小島のように

周囲に点々と不自然に存在していた。

エイダは慌ててガスマスクを二人分取り出してエアにも被せた。

「マズイ!こいつはリビドー・ストランディング(性の座礁)よ!

排卵期の女性が吸うと少々面倒な事になる」

「聞いています。男なのでどうなるかは想像が尽きます」

エイダとエアはしゃがんだ状態のままゆっくりと前進し、

周囲にいる無数の怪物達に存在を気づかれぬようにスニーキングした。

このまま何とか気付かれないようにアルミケラ病院に入らないと。

気付かれたら無数の怪物たちの相手をする羽目になる。

とにかく何とかしてここを潜り抜けないと。

エアとエイダはしゃがみ態勢のままコンクリートの壁に

沿ってどんどん先へ慎重に歩を進めて行った。

「気お付けて進まなと不用意に白い霧の中に踏み込めばファントム(幻影)と言う

正体不明の怪物や他のクリーチャー達に襲われる羽目になりますよ」

「ええ、正体不明の何かに襲われるのは正直勘弁ね。」

そう会話しながらエイダとエアはしゃが態勢のまま

先へ進んでいる内に不意に遠くの霧が上下左右に裂けた。

続けて裂けた霧の内部から太く長い触手が数本伸びていた。

更にグニャリと黒光りする不定形の身体の一部が

何度も現れたり、消えたりを繰り返した。

また白い霧に覆われた道路のあっちこっちに主に昆虫のクリーチャーらしき

姿が少なくとも4体チラリチラリと見えた。ゴキブリやセミのような個体だ。

続けて「ドシーン!ドシーン!」と言う地鳴りと共に道路が上下に大きく揺れた。

エアとエイダは目を凝らして白い霧の中を見た。

一瞬だけ巨大生物らしき四足歩行の生物が見えた。

2人は息を殺してリビドー・ストランディング(性の座礁)地帯を抜ける為に

かなり慎重に不自然に濃い霧の部分を左右に大回りして慎重に避けながら進んだ。

しかも細長い触手を危うくブーツで踏んずけるところだった。

エイダは慌てて細長い細長い触手の1mm近くで踏み留まった。

しかし向こうの道路で不幸にも見ず知らずの金髪の女がムニュッと

細長い触手を踏んずけてしまった。するとシュルシュルと高速で動き、

金髪碧眼の若い女性の両脚に巻き付くとあっと言う間に白い霧の中へ引きこんだ。

長々と叫びが響いていた。しかしすぐに遠くへと消え去った。

どうやらかなりの数の若い女性が取り込まれているようだ。

エイダとエアはとにかくひたすら『KOONTZ・ST』の一本道をしゃがみ慎重に

前へ進み続けた。どうやらリビドー・ストランディング(性の座礁)は歩道と

広い二車線道路に位置しているようだ。つまり複数存在している。

エアとエイダはジグザグに右左右左と慎重に大回りしながら避けて通り続けた。

『FFT135』の看板から斜めに『POST OFFICE』まで慎重に歩き。

続いてまた斜めに歩き出すと斜め前の目の前にアルミケラ病院の

鉄の左右の開きっぱなしの門が見えた。

エアは「見つけた!」と小さく声をかけた。

エイダはアルミケラ病院の門の真横を指さした。

しかし真横には今回現れたので一番巨大な入道雲のような

真っ白な大山の形の濃い霧の塊が見えていた。

「『リビドーストランディング(性の座礁)』だ!でかい!

今までこんなでかいのニューヨーク市内や全米には・・・・」

「もしかしたら?アルミケラ病院にあの発生原因があるんじゃ?」

「確かに。この周辺で発生しているのは気になるな。

調べてみる必要があるようだ。もしかしたら!そうかも知れない!」

エアとエイダは巨大な入道雲のようなリビドーストランディング(性の座礁

を通り抜けてアルミケラ病院の門へ歩き出した。

2人は斜めに慎重にしゃがみながら進んで行った。

その時、ふと道路の上に1989年に母国アメリカで公開された深海を

舞台に描いたモンスター・ホラーのチラシと2020年に実写版真・女神転生

同じ月日で公開されたこの深海を舞台にしたモンスターパニックホラーのリメイク版の

ポスターが落ちていたので拾った。そのリメイクとオリジナルのタイトルは同じ

『DEEPSTAR SIX』であり、映画に登場する深海の異形の怪物は

ユダヤ教の神秘派の『ゾーハル』のエデンの園神の国を守護する

天使『シャムシェル』と呼ばれていたって設定だったな。

エアとエイダはしばらく斜めに歩き続けてまず最初に

エイダが『アルミケラ病院』の門をくぐり抜けて中に入った。

続いてエアも『アルミケラ病院』の門をくぐり抜けようと近付いた。

次の瞬間、急に何に反応したのか分からないがいきなり真横の

『リビドーストランディング(性の座礁)の中からヌルッとした

まるでタールのような黒光りする不定形な肉体の一部が飛び出した。

エアは慌てて真横に走り出した。するとボコッ!ボコッ!ボコッ!

と泡立つ音を立てて黒光りする不定形な肉体の一部が左右にガバッと開いた。

同時に黒光りする上半身のみのHCFセヴァストポリ研究所の隔離部屋にいる

筈のエア・マドセンの恋人のアメリカ人のストークスが飛び出して来た。

しかも全身は黒光りする膜に覆われていた。

さらに両腕を伸ばしてエアの両肩をがっしりと掴んだ。

「なっ!ストークスなんで??ここにっ!!いや!違う!こいつは!!」

エアは咄嗟にあのファントム(幻影)がなんらかの方法で

僕の思考と記憶を利用して再現したのだろうと思った。

丁度、3Dプリンターか何かのように。

しかもストークスの姿を模倣したファントム(幻影)は恐ろしい事実を口にし始めた。

どうやら知能があるようだ。

 

(第9章に続く)