(第22章)サトル・ユウマの記憶と異世界誕生の原因

(第22章)サトル・ユウマの記憶と異世界誕生の原因

 

再び約一年前。アミコはサトルと別れ話をしていた。

それからすぐにアミコの新しい彼氏の宮田文夫にサトルは

ボガッ!ズゴッ!ドガッ!ガッ!と右拳、左拳、右腕と左腕で

二回ラリアットで首を叩き、さらに両腕でホールドして首を絞め上げた。

次の場面ではアミコはヤバいと思って必死に止めた。

「だから!ちょっと!死んじゃうって!顔真っ青!!」

宮田はようやく両腕を離して彼を解放した。

サトルは地面に四つん這いになり、ゴホゴホと咳き込んだ。

それから次の場面ではサトルは一人、濃い霧の中の

『静かなる丘』の街中を彷徨い続けた。

そして街をあっちこっち彷徨い歩き続けながら

自分の思いをあっちこっちに振りまいた。

主にモーテルのプールのある場所や幾つかの部屋に特に一番多く

こびりつくように彼の思いが無念の思いが残って行った。

「アミコに振られたのがショックだったんだ!」

「だから!トルーカー湖で入水しようとした!」

「自殺したかったけど」

「とても怖くて出来なかった」

「死ぬのが怖い!!」

「怖くて無理だ!僕は宮田の言う通りチキンだ!」

「でも!!こうなったのもあいつのせい!!憎い!復讐してやりたい!!」

「アミコ!アミコ!好きだ!好きだ!もう!抑えられない!」

「満たされない!満たされない!あいつのせいで!!誰かと!」

「アミコでもいい!ほかにも女の子が欲しい!欲しい!ウウッ!」

やがて彼はあのワンバックと言う怪物になった。

更に多数のワンバックが濃い霧の中でネズミ式にどんどん増えて行った。

濃い霧と共にワンバックのコピーは全米へ急速に広まって行った。

更にボコボコと泡立ち、中から『オペラ座の怪人』の姿をした

黒い人影のもう一人のサトル・ユウマと黒光りする

不定形な怪物のファントム(幻影)が次々と黒い池からザバーンと現れた。

やがてファントム(幻影)はサトルの性欲を爆発させるように

周囲に円形に急速に広がって行った。続けてエアは目の前が真っ暗になった。

いや正確には視界は黒光りした液体に覆われたのだ。エアはすぐに我に返った。

エアはツーバックからミカエルソードを引き抜いた。

そして自らの体内の賢者の石の力を封印して元のエアの姿に戻った。

ドオン!と言う音と共にツーバックの5mの巨体は横倒しになった。

しかも思いっきり剣を突き刺したのにも関わらず不思議と致命的な傷は

一切負っていなかった。エアはすぐにツーバックの茶色のゴムの皮膚の首筋に触った。

幸いな事にまだ脈はあった。あと僅かにすーすー呼吸をしていた。

どうやら生きているようだ。ツーバックはそのまましばらく眠ってしまったようだ。

その時、暗闇に向かって白いフクロウが飛び去って行くのが一瞬だけ見えた。

良かった!生きてる!殺さずに済んだぞ!!

エアは安心感から全身の力が抜けてぺたりと真っ赤なガラスの床に座り込んだ。

そして自分の右手が床に触れた時、何かを触った。

手に取るとそれは長四角の鉄板だった。

また鉄板の中央には『父親』と言う文字が深く刻まれていた。

「なんだろう?こりゃ?」と言うとエアはポケットにそれを閉まった。

そして先のツーバックが入って来たドアの先が気になった。

エアはそのまま先の四角く開いた入り口に入った。目の前には。

血と錆に覆われた裏世界の中に真っ赤なガラスの空間の

広大な円形のピザの斜塔のような空間があった。

しかもその下には広大な広場で大勢の女性達や子供達が多分、外の現世の

世界から持ち込んだであろう大量の衣類や薬や食料品の入った

段ボールをワンバックの大群が背中に乗せて列に並んで

立っていたので次々と背中から受け取っていた。

「これは?一体?何なんだ?フレッパー達なのか?」

呆然とするエアの真横にブラックフランドールが現れた。

「ここは!世界中のあらゆる場所で虐待にあった人達のシェルターなのよ。

つまり世界中で政府達が作った虐待防止法や権力者の圧力、武装勢力の圧力によって

器の外に零れ落ちた絶望と痛みと悲しみと苦しみの中にいる人達がここにいるの」

「何故?こんなものが?こんな裏世界にあるなんて」

「彼のサトル・ユウマの優しさ。僅かな良心が産み出したのよ。

ここなら身体的虐待も心理的虐待も受けずに済むわ。

少なくとも言葉の暴力も無視も嫌な思いも恥ずかしい思いもしない。

叩かれる事もつねられる事も無く。

なんも身体も悪くないのに薬を飲まされる事も無い。

男達に性的暴力やDV(ドメスティックバイオレンス)や

性行為や裸で抱き合わせられる事も無い。

権力者も武装勢力カルト教団も入れない安全な場所。食事も取れるし。

みんな助け合ってトイレの手伝いもする。

赤ちゃんを放置して遊びに行かれる事も無い。

お金も必要無い。ワンバックが持って来てくれる。必要なものも。

そして彼らの力で守護するツーバックやワンバック、フランバブルヘッドナース。

ストレドジャケットフランは殺せない。

いずれそんな奴らは世界の終末と共に滅び去る。

でも仮に何も滅び去らなかったとしても

ここはシェルターとして今後も機能し続けるわ。」

ブラックフランドールは赤い瞳で広場の奥の四角い小部屋に

天魔ヴァルディエルが羊皮紙に何かペンで熱心に書き続けていた。

一体?何を書いているのだろう?相変わらず勉強熱心だな。

天魔ヴァルディエルはブルブルと頭部を左右に震わせていた。

ブラックフランドールは正面に向き合った。

「ちなみに他にも気になるものがある筈よ!」

エアは「えっ?」と思いつつも広場を見た。

すると広場には大勢の女性や子供達の他にも平和に

今まで暮らして来たであろう男性やその他家族もいた。

しかも彼らは恐らくアフガンやイスラエル、アフリカ等の各国の

紛争地やイスラム系テロリストに支配されて来た人達であろう。

他にもアフリカのゲリラ武装勢力から逃げて来た人達も見えた。

どうやら彼らもリビド・ストランディング(性の座礁)を通ってきたんだろうか?

だとしたら?リビドーストランディング(性の座礁)は全米のみならず

すでに世界中に広がっているのだろうか?

ウウーウウウウウウウウウウウウウウウウウウーウウウウーツ!!ウウウウッ!!

ウウウーウウウウウウーッ!!ウウウウッ!!ウウウウッ!!

やがてエアはまた頭が痛くなって来た。またどんどん頭の傷みが酷くなり、

サイレンが長々と響く中、平衡感覚がまたおかしくなった。

エアは立っていられずやがてドサッと横倒しになった。

徐々に目の前が真っ暗になり、完全に意識を失い、瞼を閉じた。

またしてもエアは目の前の暗黒の世界を彷徨った。

再び意識が戻った。彼は瞼を開けた。

そこは表世界のアルミケラ病院の受付にある

待ち時間用の赤い椅子の上に仰向けに倒れていた。

そして見知った天井が見えた。どうやら帰って来たらしい。

エアはゆっくりと上半身を起こした。立ち上がった。

しかしエアが周りを見てもエイダの顔も姿が影も形も無かった。

まさか?彼女はまだ裏世界に?裏世界に取り残されているんだ!!

じゃ!早く救わないと!!とエアは慌てて周囲を見た。

彼は『EXAM ROOM(診察室)』

に近付いてドアノブを回したが鍵が掛かっていた。

「あれ?おかしいな?」とエアは首を傾げた。

続けてエアはまた表世界の『EXAM ROOM(診察室)を通った。

エアは廊下の奥の前の扉を開けた。そこは真横に『MWDCDICNE ROOM』

の茶色のドアがあるあのL字型の廊下に出た。

続けて先程、エイダと一緒に入った『BSTAFFL UNGE』も

鍵が掛かって入れなかった。更にエレベーターもボタンを押しても全く動かなかった。

何処も全ての部屋には鍵が掛かっていて。入れなかった。

仕方なくエアは独りでアルミケラ病院から出ようと裏口に続く廊下を歩いた。

彼は裏口の四角いドアの前に立った。

すると裏口に続く扉にメッセージのメモがあった。

「『MIDWAYA RE』と『CANYON ST』の交差点で待っているわ。

ホワイトフランドール」とあった。

ホワイトフランドール?一体?何者だ?ブラックフランドールと何か関りがあるのか?

いや!もしかしたら?エイダやフランの行方も!!

エアは裏口の扉を開けて外へ出た。

そこは裏口の『ALCHEMILLA HOSPITAL』の看板の付いた

もう一つの玄関だった。エアは階段を下りた。玄関には円形の広場があった。

中央には木が生えていた。更に枝にはまた白いフクロウが休憩していた。

エアは出口を求めて広場を一周した後、何も無かったので細い道を歩き続けた。

そして病院の広場から出て『CANYON ST』の道路から入り口に出た。

エアはホワイトフランドールのいる交差点へ向かって歩き出した。

エアは誰も乗っていないパトカーの辺りを通り過ぎた。

その時また無線が鳴った。

エアはいつものように無線に出た。

「もしも?エイダ?」

「いや!僕だよ!!グーフィだ!エイダさんに何か?」

エアはアルミケラ病院の裏世界でエイダが消えた事を話した。

グーフィは「おいおい。マジかよ!無事だといいが。あっ!

それと実はまた色々と調べて分かった事があるんだ!それはね。凄いぞ!!」

グーフィは嬉しそうに話を始めた。

 

(第23章に続く)