(第31章)アノマロカリス

(第31章)アノマロカリス

 

『静かなる丘』の『LOWST』通りにある肉屋。

エアは鳴葉を右腕に付けたままセクシャルスラーパーの死体を調べてみた。

セクシャルスラーパーは見事あのブッチャーの鋭利な肉切り包丁に

よって下半身を切断されていた。しかも大量の血や中身も思わず良く見てしまい。

エアは惨殺死体の直視に鳴れていない為、思わず肉屋の壁近くにあったゴミ箱に

戻してしまった。しばらくエアは顔を真っ青にしたままペッ!とゴミ箱に唾を吐いた。

鳴葉もガタガタと全身をまるで生まれたての小鹿のように震わせていて。

顔も真っ青でパクパクとまるで魚のように口を開け閉めしていた。

しかし辛うじて正気は保っていた。

「あいつ。貴方にも見えるの?」

「ああ、確かにはっきりと見えた。多分ここだと・・・・・」

「おかしいわね。ニューヨーク市内では私だけにしか見えなくて

他の人達には全く見えなかったの。でも『静かなる丘』では」

「多分!ニューヨーク市内の異世界の神の力が弱いから。

一番、心の闇を持っている鳴葉さん以外には見えなかったんだと思う。

でもここ『静かなる丘』では異世界の神の力が

強いから鳴葉さんも僕も見えるんだと思う。

過去のジェームズ・サンダーランドさんのケースでも似たような

現象があったのは知っているからな。」

しかしホワイトフランドールはどうやら各場所、神の力の強さと弱さ関係無く

あのブッチャーやセクシャルスラーパーやその他のクリーチャーの姿を

区別なく視認できるらしい。更に鳴葉によると濃い霧の中に日本人の男らしき

人物をチラリチラリと目撃したらしい。もしかしたら生存者かも知れない。

鳴葉とエアとホワイトフランドールは生存者と思われる2人を探して

下半身が切れて切断されて死亡したセクシャルスラーパーの横を通った。

途中で鳴葉は扉の壁から救急箱を拾っていた。

その先の肉の入った木箱から栄養ドリンクを見つけた。

しかしあえてそれには触れないで置いた。

訳の分からない幽霊をお持ち帰りしたくない。

エアと鳴葉とホワイトフランドールは巨大な赤い長四角の肉が吊り下げられた

ところを抜けて廊下をまっすぐ進み、出口の茶色の木の扉をキイイッ!と

音を立てて開いて肉屋から出た。そこは裏口になっていて扉の上に

真っ赤な看板と白い文字で『DELIVERIES』と書かれていた。

そしてこのまま段ボールの山やごみ箱を通り、細長い通路から街へ出た。

そこは『TOLUCA ARE』通りの道路だった。

周囲は相変わらず白い霧に覆われていた。

更にホワイトフランドールによるとブラックフランドールに連れられて

東洋人女性が肉屋の隣の電気屋へ入ったのを目撃したのだと言う。

彼女の話からするとどうやらアルミケラ病院で失踪したエイダ・ウォン

間違いないようだった。エアと鳴葉ホワイトフランドールの一行は

隣の肉屋の別の売り場用の建物を通り抜けてすぐ隣の電気屋へ向かった。

しかし数歩も行かない内に3度、真っ白な霧濃い霧の塊が現れた。

マズイ!リビドー・ストランディング(性の座礁)だ!!

あちくしょう!こんな時にっ!!何で目の前にっ!!

やがてリビドー・ストランディング(性の座礁)の内部で何かが蠢いていた。

それはあのツーバックでも巨大生物でもない別の存在だった。


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やがて左右に霧を裂き、蠢いている何かが出現した。

その姿は扁平な狭い楕円型の頭部と胴部がややくびれた5mの身体。

胴部背側には木節状の鰭が並んでいた。頭部の両側に黒い目が2対あった。

そして内側にある無数の棘が並んだ4対の長い前部の付属肢を伸縮させた。

その姿はアノマロカリスそっくりだった。

エアは直ぐに鳴葉とホワイトフランドールに肉屋の中へ逃げるように指示した。

2人は再び肉屋の裏口から中へ入った。

一人残されたエアはアノマロカリス型ファントム(幻影)と正面から対峙した。

アノマロカリス型ファントム(幻影)は上半身を起こした。

頭部の下部中央の放射線状に配列された輪切りのパイナップルの形の

鋭利な牙を花弁のように開いた。

口内から真っ赤な火球を多数乱射して来た。

エアは出来るだけ肉屋の建物から離れようと路上に向かって全速力で走り始めた。

アノマロカリス型ファントム(幻影)はエアの後を追った。

『TOLUCAARE』の道路の奥までアノマロカリス型ファントム(幻影)

をうまく誘い込むと両手でマシンガンを構えた。

そして銃口を向けて引き金を引いた。

連続音と共に放たれたマシンガンの弾丸はアノマロカリス型ファントム(幻影)

の口内を撃ち抜き続けた。アノマロカリス型ファントム(幻影)は苦しみ。

身体を左右に振った。それからエアは再びマシンガンの弾丸をリロードした。

続けてエアは両手でマシンガンを構え、また引き金を引いた。

更にアノマロカリス型ファントム(幻影)はマシンガンの弾丸を

避けるようにバシャーンと音を立てて黒光りする不定形な液体に沈んだ。

間も無くしてまた黒光りする液体からアノマロカリス型ファントム(幻影)

が再び浮上して飛び出した。更に全身が変色した。

同時にエアはそのアノマロカリス型ファントム(幻影)の全身の細胞が活性化して

かなりの高エネルギーが発生している事を全身で感じた。

まさか?こいつ?

するとアノマロカリス型ファントム(幻影)内部から男の子の声がした。

男の子の声は「よくぞ!分かったね!」と嬉しそうに答えた。

更に嬉々とした声でこう話しを続けた。

「そうさ!僕はパパやママをいじめた報いをあいつらに与える!!

僕は魔女王ホラー・ルシファーに言われて悪魔の賢い石を

アダムである君から取り込んだのさ!!幻影は完璧さ!

この神の力で悪徳社長もあの高慢な連中もこれで

体液を吸い尽くして全員ミイラにしてしまうんだ!!僕は天空の裁判官だ!!

既にモーテルの軍隊は僕に恐れをなして逃げ出した!!

僕は最強の存在なんだ!僕には。そしてファントム(幻影)には生殖能力があるんだ!

君達!アダムとイヴのおかげでね!」

「なんだって??じゃ!あんたは??サトル・ユウマ?」

「そう!そう!既にあの悪徳社長の愛人2人も僕達のものさ!!

既に仲良く僕達SHB(サイレントヒル・ベイビー)は何だと思う?」

「それは異世界と現世を繋げる力のある赤ちゃんだろ?」

「そうそう!大正解だよ!!それで何が起こると思う??」

「何が起こるって言うんだ?」とエアは苛立った。

「絶滅と進化だよ!こんな風にあんたは絶滅するんだ!!」

アノマロカリス型ファントム(幻影)は再びパイナップルの

形の鋭利な牙を花弁のように開いた。

そして口内からまた真っ赤な火球を乱射してきた。

エアはV字型に何枚も重なって飛んでくる火球を間を縫って回避した。

アノマロカリス型ファントム(幻影)は4対の長い前脚の付属肢を伸ばした。

そして内側にある無数の棘でエアの身体を切り裂こうと左右に

素早く振り回しながらエアに接近して来た。

エアは攻撃を喰らわない様に素早く後退してひたすら

マシンガンの引き金を引き続け攻撃の手を緩めないようにした。

なるべく今は大怪我をしたくなかった。

大怪我してエイダさんや一般人の鳴葉さんを守れなくなったら一大事だ!!

エアはさらに後退して時々、放たれる火球を全て回避しながら

マシンガンの引き金を引き続けた。

アノマロカリス型ファントム(幻影)は大量の攻撃を受けて苦しんだ。

しかしアノマロカリス型ファントム(幻影)は

再び口内から大量の火球を乱射して来た。

エアは直ぐに間を縫って火球を回避する為に上下左右に動き続けた。

更にアノマロカリス型ファントム(幻影)は4対の長い前脚と付属肢を

2本ずつ絡めてエアの頭上に向かって何度も振り下ろした。

エアはそれを素早く左右に側転して回避した。

エアはお返しだと言わんばかりにリロードした後、マシンガンの引き金を引き続けた。

たちまちアノマロカリス型ファントム(幻影)は全身ハチの巣となり。

全身から黒い血を吹き出した。

怒ったアノマロカリス型ファントム(幻影)は4対の長い前脚で

エアの身体を絡め取り、持ち上げた。

続けて何度も何度も執拗に13回ほど叩きつけて彼を放り出した。

エアは立ち上がり、全身の激痛で右膝をコンクリートの道路に付けた。

しかし全ての激痛を無視してエアは立ち上がった。

かなりダメージを喰らったようだ。

それでもエアは全身の激痛を歯を喰い縛って耐えた。

どうやらアノマロカリス型ファントム(幻影)のあの

4対の脚は長さや細さを変幻自在に変化させられるようだ。

エアはあのアノマロカリス型ファントム(幻影)の全ての攻撃を

見切り回避し続けながらマシンガンを撃ち続けた。

しかしまたもやアノマロカリス型ファントム(幻影)は

4対の長い前脚でエアの身体を絡め取り、持ち上げた。

続けて何度も何度も執拗に13回ほど叩きつけてまた放り出した。

さらに追い打ちをかけるように再び口内から大量の火球を乱射して来た。

エアは起き上がり様に直ぐに間を縫って火球を回避する為に上下左右に側転し続けた。

エアはすぐさまマシンガンの引き金を引き続けた。

アノマロカリス型ファントム(幻影)は大量の攻撃を受けて苦しんだ。

すかさずアノマロカリス型ファントム(幻影)は4対の長い前脚の付属肢を伸ばした。

そして内側にある無数の棘でエアの身体を切り裂こうと左右に素早く振り回して

反撃した。対するエアは攻撃を喰らわない様に素早く後退してひたすら

マシンガンの引き金を引き続け攻撃の手を緩めないようにし続けた。

そして長い間の死闘の末にようやくアノマロカリス型ファントム(幻影)は

力尽き、再びドーン!バシャ―ン!と音を立てて黒光りする

不定形な液体の底へ深く沈んで行った。

しかし再びバシャアアン!と水しぶきが上がった。

そして2mまで小さくなった

アノマロカリス型ファントム(幻影)がひょこっと現れた。

やがてそれは真っ黒なフードに白い仮面を被った黒いマントの男の子に早変わりした。

「では!!改めまして!私は『オペラ座の怪人』。

僕はサトル・ユウマの心の闇から産まれた者。

そう君がアルミケラ病院で戦ったツーバックのサトル・ユウマは心の光で。

僕は心の闇。僕は復讐したいんだ!あの宮田フーズにね!

僕はその為に君の恋人のストークスちゃんを利用させて貰った。

いずれ君とストークスちゃんは新しいアダムとイヴとなり、

新しい人間達をたーくさん!たーくさん産むんだよ!!」

「くそっ!本当にサトル・ユウマなのか?別人に見えるぞ!」

「フハハハハハハハハッ!エア・マドセン!また会おう!!」

オペラ座の怪人は高笑いすると黒光りする不定形の液体の中に

ぽちゃっ!と沈み込みスーツと道路に広がった不定形の液体の中へ消え去った。

同時に不定形の液体も周囲を覆っていたリビドー・ストランディング

(性の座礁)も影も形も残さす全て消えた。

そして数分後。肉屋に避難していた鳴葉とホワイトフランドールの元に駆け付けた。

幸いにも2人は無事で傷一つもなかった。どうやらあいつの狙いは僕のようだった。

「大丈夫なの?エア?」とホワイトフランドール。

「ああ、心配ない。奴は去った!」とエア。

「殺していないの?ちょっと大丈夫なの?また襲われる!」

不安そうな表情で鳴葉はエア・マドセンを見た。

「とりあえず!追い払った!また出てきても僕が必ず何とかするさ!」

とエアは明るく言うとマシンガンを見せた。

「それでも」とつぶやいた鳴葉の表情はまだ怯えた表情をしていた。

どうやらまだ不安は消え去っていないようだ。

 

(第32章に続く)