(第65章)ニュクスプログラム(後編)

(第65章)ニュクスプログラム(後編)

 

エアの脳裏には荒々しく吐く息と喘ぐ声が聞こえ続けていた。

「ああっ!ああっ!気持ちいい!ああっ!ああっ!気持ちいいッ!

気持ちいいよおっ!ああっ!はああっ!んんっ!

あっ!ああっ!あんっ!ああっ!はあああっ!はあああっ!はあああっ!ああっ!

はああんっ!気持ちいいッ!ああっ!あっ!んあああっ!はああんっ!!」

やはり山岡・フィリップス・莉奈さんは

体位を変えられて四つん這いから座位に変わり!

大きな白い肌の美しい巨尻は前後左右に

目にも止まらぬ速さで白い肌の表面が波打ち続け。

腰がカクン!カクン!と動く様はまるで乗馬のようで。

ついでに姿勢もピーンと背筋が伸びてとても美しい。

ご両親がしっかりと愛情をと厳しさで教育した証拠だ。

さて今回は・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

しばらくガルヴァスター・D・スカーレット伯爵夫人も

パトリックと言う名前の男性吸血鬼も黙った。

やがて莉奈の喘ぎ声の混じった甘い声と荒々しく吐く息が聞こえた。

「あっ!どうして?!ひゃああん!私の身体が変わって行くのぉっ!ああっ!

凄く気持ちいいッ!あん!あっ!全身の細胞が作り替えられて。」

「やりましたぞ!実験は成功です!コア(核)は完成した!!」

「よし!彼女は無事に人間の姿を保ち全身コア(核)になった。

彼女は知恵の実と生命の実を得た。

そして彼女は女神ニュクスとして転生したのだ。

これで龍王エロースと心はシンクロしている。

そしてエロースが『宇宙の卵』になったあとは卵を破壊しようとする

大天使や天使達や同じLAW(ロウ)の神々から心臓を守る優秀な兵士となろう。

『宇宙の卵』さえ孵化してしまえばそれでいい。

『新宇宙誕生前』に未来から過去の2030年の時代に彼女は帰還する。

ジル・バレンタインの望み通りだ。なのも心配もいらない。

コア(核)も彼女も正常だ!!問題無しだ!!」

エアはモノクロの目の前の景色がカラーの元の景色に戻った事を知った。

そして同時にガルヴァスター・D・スカーレット伯爵夫人と

男性吸血鬼のパトリックや実験に失敗した女性達と莉奈の声もぴったりと止んだ。

エアはただ茫然と突っ立っていた。直ぐに3人は鳴葉の捜索を開始した。

3人は上の方の細長い赤い血と錆に覆われた壁と廊下を歩き続けた。

しかも周囲には金網の隙間から壁の表面をオレンジ色に蠢く影が見えた。

それはまるで魔人フランドールが負った火傷の生々しい傷跡に見えた。

魔人フランドールは少しだけ気分が悪くなったが気にしないようにした。

エアとエイダは周囲がオレンジ色の霧がかかって先が見えない事に不安を感じていた。

もしかしたら?この先で鳴葉さんが・・・・。

更にその先の正面の茶色の扉を開けようとした。

その部屋の中からあのアキュラスの声がした。

3人は扉に耳を当てて彼の話を盗み聞きした。

勿論、良い子は真似してはいけない。

これは非常時であり、エア、エイダ、魔人フランドールからの約束である。

そしてアキュラスは何かをしゃべり続けていた。

「何故だッ!アキュラス!俺にどうして逆らうんだ!何故だッ!

お前は神の代理人である役目を捨てる気か??」

それは多分若村の声だろう。

鳴葉はニュースの仕事で彼の声は良く聞いていたので間違いないと思った。

やがてアキュラスの小さな声が聞こえて来た。

「はあっ!言いたい事があったらはっきりと言ったらどうなんだ??」

その若村の大声にアキュラスは更に大きな声で答えた。

「もう!嫌なんだ!同族を!自分と同じ存在の物達を壊してさ!

女の人の精気を奪って人の形を奪うのが!」

「何を言ってやがる!あいつらはメディアのせいで汚れてんだ!!」

「だから?そんなにやりたかったら一人でやればいいッ!

僕はもう!あんたの操り人形でいるのは嫌なんだ!!

そしてあの子を苦しめるのも!あの火傷の呪いで悪化させて!

長い間、アレッサみたいに苦しめるのはもう嫌だよ!

僕は!あの子、魔人フランドールを苦しめたくないッ!

もう!いいんだよ!僕はこんな地獄の舞台から降りるんだ!」

やがて若村の怒鳴り声が響いた。

「なんだと!俺は目的を達成させる!その為の操り人形だ!

お前は俺の言う通りに動いていればいい!!」

しばらくして若村は慌てふためいた口調と恐ろしく悲しい声で

アキュラスに向かって小さな声で叫び続けた。

「おいっ!まて!行くなっ!お前はいなければ!俺は・・・・・・・。

くそっ!行くんじゃないっ!!お前の今まで溜めた女の精気を与えれば

完全に復活した紙はますます強くなる。君には最後の役目が・・・・お願いだ!」

「どうせ!僕を神に食らわせて生贄にする気だろ?

全部!ガルヴァスター・D・スカーレット伯爵夫人から聞いたぞ!

悪いが俺は神の生贄に誇りをもつ事なんか出来ない!もう!!

俺はあんたの操り人形じゃない!バイバイ!若村!

もう二度と会う事はないねー!自由に生きるんだ!!」

「まてーまてー畜生!何故だっ!どいつもこいつも!

『R型』と言い『アキュラス』と言いどうして俺に逆らう??

もう!いい!俺は仲間のあいつらとやってやる!!必ず!必ず!!」

それから長い間、続いたアキュラスと若村の声はパッタリと止んだ。

ドアの先の部屋からは何も聞こえなくなった。

エア、エイダ、魔人フランドールはアキュラスが操り人形で

全ての黒幕が若村秀和だと知った。

そしてアキュラスの造反に3人は余りにも予想外の展開で驚いていた。

それ以降、聞き耳を立てていたがそれ以上は何も聞こえず静かだった。

3人はもうこの扉の前に立ってもしょうがないと判断した。

エア、エイダ、魔人フランドールはそのままエレベーターのところまで戻った。

そして反対側の先へ進み、消えた鳴葉の捜索を開始した。

3人は廊下の奥の一番端の扉の前に立った。

開けようとしたが鍵が壊れて開かなかった。

そして代わりにまたアキュラスと若村の会話と何かを投げつけられた。

ガシャンと音を立てて床に落ちる音がした。

続けてアキュラスの怒号が聞こえた。

「物投げんじゃねええええっ!壊れちまうだろうがあああっ!!」

「・・・・・・・・」とアキュラスの余りの迫力に若村は黙っていた。

「どうしたんだ?今ままで俺の言う通りに動いていたじゃないか?

あのプログラム通りに忠実に動いていた。どうしてだ??」

「僕は。俺はお前達と違う!違うんだ!いい加減しつこいよ!

次!僕の目の前に現れたら息の根を止める!!」

廊下の奥の一番端の扉の前から聞こえていたアキュラスと若村の会話は消えた。

しばらくの沈黙の後に静かにエアが口を開きこう言った。

「完全に交渉決裂だな」

「引き際を知らない奴は嫌われるわよ」とエイダ。

「今、もうあいつは十分嫌われ者よ。人間達にも者達にも。

人間社会のメディア達からも!反社会勢力も同然よ!」

魔人フランドールはやれやれと言った表情でそう言った。

それから二番目の扉を開けて先へ進んだ。

暗くてよく見えないが相変わらず赤い汚れた廊下のようだ。

しかもまた目の前に2体の武装したケリヴァーミショナリーが現れた。

すかさずエイダとエアが前に出てマシンガンで攻撃される前にハチの巣にした。

ケリヴァーミショナリー2体倒したエアもエイダを先頭に

魔人フランドールの背中を守るように後ろを向きながら進んだ。

更に鉄のフェンス前でも武装したケリヴァミショナリーが現れた。

しかしエアは大きな鉈を持った右腕を振り上げた時に素早く

近付いて手首を掴んで床で投げ飛ばしマシンガンで倒した。

エイダと魔人フランドールは手分けして先々の2つの扉を

調べるが鍵が壊れて開かなかった。

3つ目も。しかも正面の玄関だけは何故かガチャッと開いた。

細長い直線通路の角のある場所である。

もしかしたら鳴葉がいるのかも??そこは広い四角い部屋だった。

多分元は食堂だったのだろう。

隅には食器の乗ったテーブルが積み重なっていた。

エアはエイダと魔人フランドールで部屋内の探索を開始しようとした。

丁度その時、またもやエアの無線が鳴り始めた。

エアが出るとお馴染みのグーフィ博士が出た。

「伝えたい事があるんだ!実は『静かなる丘』に行ったっきり

行方不明になっていた女性達が次々と自宅の風呂場で家族によって発見された。

最初に発見されたのがアリー・スラグスと言うロシア人の若い女性だ。

そして次々と失踪した女性達が自宅の風呂場で見付かっているんだ!

しかも様々な場所でマネキンモンスターに襲われて肉体を

マネキン化されて身体の一部にされた多数の若い女性達も

次々と自宅のお風呂場で発見されているんだ!!

全員無傷でしかも妊娠はしていない。何故だろう?」

「じゃあ。あのリベラル・アーツ・カレッジ女子大学の女子生徒達や

アメリカや日本の高校や中学校の大勢の男子高生や男性講師や

女子生徒達やビーチにいた女の子も男の子達も全員風呂場で見つかったと?」

「自宅の風呂場で見つけたのは家族で全日本と全米各地の多数の人々。

勿論、リベラル・アーツ・カレッジ女子大学やビーチの女子も男子も

大勢の男子高生や男性講師も含めてな。全員、蘇生した上に無傷で無事だった。

しかも全員アキュラスに襲われた記憶を失っている。

ただ頭の中に全員

『アダムとイヴとなり新しい世界で繁殖し、自由に暮らすがいい』」と。

「アダムとイヴか・・・そうか。どうやらアキュラスは若村秀和の

操り人形だったが。今では仲たがいして彼の元を去った。」

「操り人形が自我を持って反発したのか?」

「あいつは操り人形として『死』を全く恐怖せずに無感情で言う通りに

儀式を進めていた。彼のプログラム通りに。

でも途中で何故か若村に反発してプログラムに反した行動を取っていたらしい。

どうやら何度も破壊されて再生を繰り返す度に

『死』の恐怖と自由意志が芽生えたようだ。」

「なーるほど。プログラムされていた。

コンピューターが何度もデータを壊されて修復している内にバグが起こったんだな。

つまりバグったのさアキュラスはさ」

「バグを起こしてあんな行動を??」とエア。

「あれだよ!物を大事にしないで乱暴に扱ったからさ。彼の性格が災いしたのさ」

グーフィ博士がそう答えた。エアは「ふーん。そうなんだ」と呟いた。

そしてグーフィの無線の報告を聞き聞終えて無線を切った。

そのあと魔人フランドールとエイダと共に

教会の地下の異世界を進み、鳴葉を探し続けた。

 

『静かなる丘』の教会内のとある場所の部屋。

そこは数時間前にエア一行が通ったあの吊り下げられた

大きな長四角の箱と穴と細長いL字型の廊下にある鍵の壊れた部屋だった。

それは魔導輪ザルバがその部屋の中に言いようの無い名状し難い

何か禍々しい邪悪な。吐き気をよもおす何かを感知したらしい。

「おいおい!気おつけろ!鋼牙!こいつは凄い邪気だぜ!!」

魔導輪ザルバから聞いた鋼牙はお構いなく「おおおっ!」

と声を上げて鍵が壊れて開かないドアを叩き壊して中へ侵入した。

魔導輪ザルバも呆れて「おいおい、それじゃ!面倒事になるぜ!」と。
「どのみちここは反メディア団体ケリヴァーの活動拠点だ。

若村意外の連中が潜んでいる場所は調べておく必要がある。

その先は真っ暗で部屋の中に何も無く何も見えなかった。

やっぱり何も無いか?と鋼牙は思った。

しかしすぐに鋼牙は何かを感じた。

更に魔導輪ザルバは緊迫した表情を浮かべた。

 

(第66章に続く)