(第66章)呪いの赤い薔薇

(第66章)呪いの赤い薔薇

 

魔導輪ザルバは緊迫した表情を浮かべたまま鋼牙にこう言った。

「こいつはマジか?・・・酷過ぎるぜ!なんて怨念だ!」

魔導輪ザルバは急にドアの先の真っ暗な部屋から感じた言いようの

無い名状し難い何か禍々しい邪悪な

。吐き気をよもおす何かを感じ続けていた。

不意に鋼牙の心臓はまるで鷲掴みにされたようにギュウッ!と激しく痛みを感じた。

更に喉の奥底から強い吐き気がこみ上げてくるのを感じてしまい。

「おえええっ!」と無意識に嗚咽を漏らしてしまった。

危うく吐きそうになり大慌てで飲み込んだ。

喉に酸っぱい酸の焼けるような痛みが走った。

しかしすぐに苦しそうな顔から元の不愛想で冷静な表情に戻った。

鋼牙は何事も無かったかのようにゆっくりと真っ暗な部屋の中に足を踏み入れた。

床は腐った木らしく踏みしめる度に今にも割れそうな程に大きく軋んだ。

更に木の床が割れる音がした。パキパキパキと。

鋼牙はエイダから渡された懐中電灯で暗い部屋の中を照らした。

周囲に散った白い光は腐った木の壁や天井や柱が見えた。それ以外は全く無かった。

しかし確かにあの名状し難い何か禍々しい邪悪な

気配は部屋中にまるで重いガスの様に充満していた。

「こいつは呪いだ。こいつは反メディア団体ケリヴァー達が残したメディアの

テレビやゲーム、携帯、スマホ、SNS(ソーシャルネットワークサービス)

や今の人間社会に対する憎悪、嫉妬、傲慢な選民思想の全ての負の感情が入り混じった

強烈かつ強力な呪いだ。呪いは人間の負の感情そのものだからな。

口や言葉、文章にして相手の机や手紙、SNS(ソーシャルネットワークサービス)

に書き込むだけで今は簡単に人を呪い殺せる時代だ。特に自殺者がそうだ。

だがこれはもっと古いやり方のようだが。まあーやり方は今の

SNS(ソーシャルネットワークサービス)の書き込みと似たようなものだがな。」

「今じゃ。呪いの原理は得てして単純なものだ。相手の身体の一部。

髪や皮膚、ボタン、子供の歯、血、爪。今は相手のスマートフォン

パソコンの自分で作ったホームページやユーチューブで投稿した動画のコメントや

チャンネル評価欄と言った精神の一部に呪いの効果がある暴言や荒し行為、

誹謗中傷のコメントや低評価の無意味な使用による全ての動画の否定。

彼らは遊びや正義の為にやっているだろうが。そのせいで実際に

呪いによって精神が壊れて自ら命を絶ち、死亡する事例が後を絶たない。」

「しかも当のご本人様は呪い殺していると言う自覚が無い上に証明出来ない。」

「ついでに呪いは直ぐにSNS(ソーシャルネットワークサービス)

が伝染させて周囲に拡散させる。だから多くの自殺者が出てしまう。」

「だから昔よりも被害が大きくなってしまう。酷い時代だぜ!」

「例の日本の東京の歌舞伎街で発生した田村花さんの弟の

男子中学生が起こした不特定多数の人々を殺した事件。

あれはリアリティ番組で起こった問題行動をきっかけに。

SNS(ソーシャルネットワークサービス)による激しい誹謗中傷を

集中的に受け続け、不特定多数の医名の人々の言葉と暴力によって自殺した。

男子中学生は自分の姉のSNS(ソーシャルネットワークサービス)

に書き込んだ不特定多数の人々に同じ苦しみを味合わせ復讐しようと。

現実の不特定多数の人々に『静かなる丘』の力を利用した呪いを拡散させた。」

「そして不特定多数の医名であるが故に全く姉のSNS

ソーシャルネットワークサービス)の誹謗中傷の書き込みに

関わらず無関係の人々にも呪いが跳ね返って降りかかり、多数の死傷者が出た。」

「何もしていないのにいきなり無関係の人々の頭上から

呪いが雨あられと降り注ぐ全く!これじゃ災害だぜ!」

鋼牙は懐中電灯を持って真っ黒な部屋をあっちこっち照らした。

特に気になる者は無かった。

鋼牙は腐りきってぽっかりと開いた穴の開いた床を照らした。

床は見事に割れて細長い穴が幾つも開いていた。

鋼牙は慎重に足を踏みしめて先へ進んだ。

彼は恐る恐る懐中電灯で穴だけの腐った床を照らした。

すると穴だらけの床の底にはー。悍ましい光景が広がっていた。

床の底にはパズルの木箱があった。

更に木箱は開いているらしく蓋が本体と大きくズレて中身が見えていた。

「鋼牙・・・・これはマズいな・・・・」

「あの名状し難い禍々しい邪気の正体はこれだな。」

さらに蓋が開いたパズルの木箱の中から大量の緑色の植物が飛び出ていた。

それはいわゆる蔓植物だった。緑色の葉や茎に無数のまるで剣のような

長い棘が表面に並んで生えていた。

それをよく懐中電灯の明かり照らしてみた。

正体は薔薇(バラ)だった。

しかも周囲には懐中電灯の光に照らされて白骨死体が多数放置されていた。

恐らく反メディア団体ケリヴァーが仕掛けた罠の犠牲者だろう。

彼は白骨死体を見た。

体格的に考えて腰の骨、つまり骨盤は丸い形をしていた。

しかも全員、骨は男と比べて小さくほっそりしている。

どうやら女性の白骨死体で間違いなさそうだ。

白骨死体の周囲にパズルの木箱から伸びた薔薇の蔦が絡まっていた。

しかもまだ呪いと共に生きていた。

また全員では無く一部の白骨死体の骨盤は変形していた。

更に骨盤で囲まれる空間から大量の緑色の薔薇の棘だらけの蔦と

歪に大きな血のように真っ赤な薔薇の花が多数咲いていた。

「こいつは?まさか?女性の子宮から??」

「最悪だぜ。この呪いの薔薇は人間の女の・・・・」

しばらくして鋼牙と魔導輪ザルバは黙り込んだ。

鋼牙は口を開き、パズルの木箱を照らした。

「どうやら生贄は動物と人間の一部と8つの薔薇を使用したのだろう。

これはどうやら最近問題になっている・・・・」

「新型の・・・・だな。間違いないぜ!鋼牙!」

地下にあった薔薇の花と大量の蔦に

絡め取られた白骨死体は異様な程身をくねらせていた。

それは今にもその瞬間、苦しんでいるようにも性的快楽に悶えているようにも見えた。

鋼牙は白いコートの内側から魔戒剣を抜いた。

彼は銀色に輝く両刃の長剣を片手で構えた。

鋼牙は険しい表情を浮かべると「おおおおおっ!」と雄叫びをまた上げた。

それから穴の中に飛び込むと銀色に輝く両刃の長剣をパズルの木箱に突き刺した。

続けて手首を大きく捻った。パズルの木箱から甲高い悲鳴が長々と響き渡った。

「うぎゃあああああああっ!ぐあああああああっ!ぎゃああああああああっ!」と。

続けてパズルの木箱はバコン!と音を立てて砕け、消滅した。

同時に薔薇の花の棘だらけの茎も葉も根もあっと言う間に茶色に枯れ果ててしまった。

そしてただの土の塊となった。

周囲に渦巻いていたあの名状し難い禍々しい

邪悪な気配も一瞬にして完全に消滅した。

彼は呪いの邪気を断ち切ったのであった。

そう魔戒剣は人間の邪心や欲望の塊の陰我を断ち切る力がある。

しかしそれと同時に呪われた血の薔薇の木箱からここで何が起こったのか?

鋼牙は周囲の赤い薔薇の呪いの箱によって呪い殺され白骨化した

被害者の女性達の残留思念を探ろうと静かに瞳を閉じて耳を澄ました。

だがすでに呪いの力のせいなのか?もう現場に残留思念は全く残っていなかった。

だからここで何が起こったのか?分からずじまいだった。

くそ!何も残っていないのか?

「どうやらここには残留思念は残っていないようだ。」

残念そうに魔導輪ザルバも呟いた。

だが鋼牙は冷静にここで呪いの赤い薔薇の入った呪いの箱の実験を推測した。

おおよそではあるが。

間違いなく実験はこの腐りきった部屋の地下室で行われたであろう。

多分、実践訓練か何かであろう事は想像に難くない。

犯人は間違いなく若村秀和か幹部か団体メンバーの仕業だろう。

どれだけの破壊力があり?どれだけの効果か?

破壊の範囲は?何十人の人々が呪いで殺せるのか?

しかしそこまで分かったところで・・・・。

守りし者としてあの白骨化した彼女達は・・・。

救えなかった・・・無念だが・・・・。

気持ちが沈んだ鋼牙を魔導輪ザルバは彼なりに励ました。

「何もかも遅すぎた。・・・・。とにかく破壊した。

ここでは少なくとも亡くなった人間の彼女達の魂は呪縛から解放された筈だ。」

鋼牙は何かを感じて天井を見上げるとー。

呪縛から解放された無念の多数の女性達の魂が自由に

腐りきってぽっかりと開いた穴の開いた床を通って

次の転生の為に天へと召され、飛び去って行った。

それは喜びと安堵の声を上げて何処までも高く高く高く飛び続けた。

しばらくして鋼牙もようやく安堵と穏やかな表情で見送った。

鋼牙はふとはらりとあの若い女性の魂が自分達を解放してくれた

お礼として空からメモを落してくれた。

鋼牙は礼としてそのメモを手に取った。

きっとこれ以上自分達のような反メディア団体ケリヴァーの呪いや

怪異の被害者を増やして欲しくない。

そう言った強い想いと思念がメモから残留思念として強く感じた。

鋼牙は彼女の強い想いと思念を汲み取り、メモをしっかりと読んだ。

「人形・・・二体・・・起動・・・。A型 W型・・・霊力と精気で・・・。

呪いの箱・・・呪いの赤き薔薇。我々の自然なる呪術の力。

魔人フランドールに神を胎内に宿す・・・。赤き薔薇・・・被験者死亡。

死んだ数・100名。SCP財団に要注意。」

どうやらそれ以外は何も書いていないようだった。

彼らはやはり若い女性の精気と霊力を利用して何かを作ろうとしていた??

だが?連中は一体何を何の目的で?いや。

もしかしたら?呪いの箱と呪いの赤い薔薇以外にも

呪具(じゅぐ)か何かを製造していたのだろう。

思い当たるとしたら呪いの人形だろうか?

A型とW型の呪いの人形か何かを?。

しかしふたつの呪いの人形はどうやって?何の用途あるのだろう?

彼は両腕を組み、しばらく考えていたが答えは出なかった。

そこに魔導輪ザルバはまたカチカチと鋼牙に話しかけた。

「もう少し手掛かりを手に入れないと分からないな」

「ああそうだな。とにかくこの『静かなる丘』の土着神復活事件を

片付けたら直ぐにアサヒナ・ルナと烈花法師と共に調査を開始しよう。

いや、この呪いの人形の件はシェリル刑事が解決しそうな何となくそんな予感がする。

だから反メディア団体ケリヴァーが仕掛けた同型の呪いの薔薇の入った木箱と

あの黒い液体の入った呪いの木箱・・・・の通常型も見つけたら

解呪して破壊しないとな。あの呪いから解放された被害者女性達の為にも」

続けて魔導輪ザルバも静かにカチカチと金属を鳴らしてこう言った。

「全く骨の折れる仕事だが!彼女の無念の魂の想いの為に

都市伝説の解決に全ての呪いの箱の処分。」

「呪いの薔薇の入った木箱。・・・・の通常型。

あれは間違いなく反メディア団体ケリヴァーの連中が無差別にゲーム会社や

スマホと携帯会社、テレビ局の女性と子供を殺す為に仕掛けたものだ。

つまりメディアに関係している女性や子供達を殺して自分達のメディア抹殺が正しいと

世間や人間社会に主張して自らの行為を正当化させるテロ行為を行っている。

しかも『静かなる丘』の霊的な力の影響で

田村花さんの弟の男子中学生が起こした怪異。

オペラ座の怪人』が起こした24の新約の秘跡の怪異。

更にアキュラスによるあのマネキンモンスターが起こした怪異。

他にも数多くの怪異がアメリカ各地で限定的に発生している。

既に幾つかの怪異は自分の知人達の惜しみない協力に

よってほとんどの怪異事件はどうにか解決している。しかし・・・・」

「ああ、例の呪いの箱の怪異は片付いちゃいない。

あの被害者女性のような惨劇がニューヨークの街の

何処かの闇の中で出ているかも知れん。

ほとんど手掛かりは少ないがニューヨーク市内とアメリカ各地の

都市伝説が怪異と深く関係しているのは間違いないなさそうだが。

どれも共通して呪いの木箱と赤い呪われた薔薇の

種に纏わる不気味な都市伝説の怪異の数々。」

鋼牙は魔導輪ザルバの話を聞いた後、直ぐにバサッと白いコートを

翻してジャンプして上の階に戻り、用の済んだ真っ暗な部屋を後にした。

 

(第67に続く)