(第18章)最果ての死の砂漠

(第18章)最果ての死の砂漠

 

ゆあてゃんは神崎の条件を飲み、OKするとスマートフォンをいじる音が何回かした。

無線の声を聞いていたピアーズは無線から

聞こえた全ての彼女達を助けてやりたかった。

しかしながら自分が死者であるが故に生者に対しては何も出来ない事実があった。

ピアーズは結局は止む負えず目の前の最大の人類の敵との戦いに

集中する為に無線機のスイッチを手動で切った。

とにかくゆあてやんを含む彼女達全員がなんとか無事であるように祈った。

その時、彼の周囲の死神ホラー・タナトスの身体の一部であるハンターγ(ガンマ)の

群れを魔導筆から放つ法術で蹴散らしながら阿門法師が現れた。

ピアーズにこう言った。

「もう!時間が無い!第一の赤き浄化の光と第2の赤きの浄化の光が放たれた!

同時に現世(こちら側・バイオの世界)の現実(リアル)で

『太陽の聖環を女に刻みし者』達が最後の女の救済の為に動き出した。」

「そいつは?あの『天魔エグリゴリー(ツイスデッドヘリックス)って奴か?

そいつがあの太陽の聖環を刻んで。

SHB(サイレントヒルベイビー)を次々と妊娠させているのか?」

ワンバックの他に恐らくそうじゃろう!

あれらに洗礼を受けて貰えばあの佐代子のように死神ホラー・タナトス

餌として喰われる結末は回避されて生き延びられる!!

お腹に赤子を新人類と呼ぶものが宿れば死神は手を出さぬ!!」

阿門法師は魔導筆を振り回し、身体を回転させた。

同時に魔導筆の毛先から凄まじい突風が発生した。

発生した凄まじい突風は次々と20体余りの死神ホラー・タナトスの身体の一部の

ハンターγ(ガンマ)一気に木の葉のように高く吹っ飛ばし手空中で爆四散させた。

ピアーズが見ると阿門法師は魔導筆を力強く構えて目の前に迫り来る大量の

死神ホラー・タナトスの身体の一部となっているハンターγ(ガンマ)の大群と

対峙していた。彼は初老の姿をしているが彼の眼にはとても勇ましく見えた。

不意に憧れの感情が湧いて来た。ああ、俺もあんな歳になっても

クレア・レッドフィールドや娘か息子を守れる位に勇ましかったら。

どんな風に良かったんだろうな。羨ましくて堪らないよ。ハハハッ!

すると阿門法師はピアーズの心を察したのかこう言った。

「まあー死者でも活躍の場はある!案ずるな!君の狙撃手には狙撃手のお前に

成すべき事があろう!それをここで見つけられるのはお前さんしかおらん!」

さらに阿門法師は今しがた思い出したように一つこう言った。

「おっと!忘れる所だった!あとひとつじゃ!わしがあいつらにまあー良い!」

阿門法師はそう言いながら魔導筆から放った突風の法術を片手で操りながら

接近してくる死神ホラー・タナトスの身体の一部であるハンターγ(ガンマ)

を次々と30体と60体を一度に宙へ吹き飛ばして

爆四散させながらさらに話を続けた。

「いいか!ピアーズ・ニュヴァンスとあのスティーブン・バーンサイドと言う

少年にも伝えるのじゃ!2人よ!とくと心に刻み込め!

いつかクレアや娘や息子にとって彼女にもお前が必要な時が来るじゃろう。

その運命を迷わずしっかりと受け止めるんじゃ!よいな!」

「分かり・・・ました・・・」とピアーズは返事をした。

 

再び『静かなる丘・サイレントヒル』の教会の何処か十字架の円形の場所で

大きな足跡の鏡に映る生と死の三途の川の頂上決戦の模様を映していた。

ヨグは自ら変形させた七色に輝く弓の向きを上下左右に動かしながら目的の

死神ホラー・タナトスの全ての死神の力の源であると同時に『のぴ』が

閉じ込められているコア(核)を探していた。

その間、ヨグは自分が産まれた理由と目的を独り事のように話し続けていた。

「我はヨグ・ソトホースの本体から分離して産み出された『黒き落とし子』である。

何故?我が産まれたか?それは過去に賢者の石を

暴走させて世界を滅ぼした我妻の失敗。

そしてあの柏崎の悲劇による人類滅亡と宇宙消滅による破壊。

これらの出来事から我々は様々な事を学習した。

そして同じ悲劇と失敗を繰り返さぬように我が生み出された。

我の目的はこの生命全体の『大いなる理』をコントロールする事だ。

お前達。人類。世界。宇宙。そして全ての生命は自己複製機械の産物に過ぎない。

我はその『大いなる理』『生命の理』を管理し。

何かバグが起きてシステム障害が起きればトラブルシューティングの為に動く。

『生命の理』は異常な生命の増進と死の増進。

そして本来の性(リビドー)と死(デストルドー)のバランスが乱れている。

だから我は自立して元に戻さねばならない。

我はトラブルシューティングをするのだ!」

もうすでに『のぴ』の体内には『ネガブドネザルの鍵』と

我々外神ホラー・アザトホース。

そう。白痴の魔王を召喚できる程の無尽蔵な魔力を有している。

神の力を持つシェリー・バーキンと同じようにな。

今は死神ホラー・タナトスを召喚させる為に使用されているが。

その気になれば我ら外神ホラー2体の同時召喚も可能だろう。

(勿論、試させる気も毛頭も無いが)

今、彼女は中で現世に死の欲望(タナトス)の力によって心を抑圧されている。

そしてあの太陽神テスカトリポカの計画通りに呪文を唱え続けているだろう。

ヨグは右目を七色に発光させて先程、見つけた死神ホラー・タナトスの胸部の

黒いパチンコ玉のようなコア(核)の真っ赤な球体のバベル超結界の中にいる

『のぴ』を透視した。彼女は体育座りして頭を両膝の間に沈めてブツブツと

呪文らしきものを唱え続けていた。我はそのヨハネの黙示録。柏崎の人類滅亡。

別次元のジル・バレンタインによる賢者の石の暴走に夜人類滅亡と宇宙消滅。

ヱヴァンゲリヲンによる人類補完計画。他にも山のようにあるが。

どれも生命の理に背いた致命的なバグだ。

だからこそ我はバグの修正と修復をしなければならないのだ!」

次の瞬間、ヨグは七色に輝く三日月の弓から七色に輝く細長い矢が放たれた。

放たれた美しい七色に輝く矢は彼の足元の鏡に吸い込まれた。

同時に七色に輝く美しい矢はそのまま超高速でまるで流れ星のように

斜め下の方向に鏡を通り抜けて生と死の三途の川に突入した。

そして三途の川の青空の空気を切り裂き、大きなひゅう!と風を切る音を立てた。

ヨグの狙い通りに死神ホラー・タナトスの胸部にある『のぴ』を閉じ込めている

パチンコ玉の形をした真っ黒な球体にドスッ!と突き刺さり、スーツと消えた。

死神ホラー・タナトスは「うっ!」と唸り、

痛みで額にしわを寄せて右手で胸部を覆った。

しかしそれ以上何事もないと感じ、思うと

胸部から右手を離して不敵な笑いを浮かべた。

「ふっ!無駄な事を・・・・ヨグ・ソトホースめ!死そのものたる我は止められぬ!」

一方、地上の砂浜で死神ホラー・タナトス

『のぴ』が閉じ込められているコア(核)に

七色の矢が高速で突き刺さる様子を阿門法師はしっかりと茶色の瞳で確認した。

「よし!ピアーズ!スティーブン!矢がコア(核)を撃ち抜いた!いいな!」

するとピアーズとスティーブンは阿門法師の左右に並んだ。

「はい!分かっています!」「いつでもいいぜ!阿門爺さんッ!」

「いいか!二人とも!あのコア(核)の中にいる『のぴ』の気を感じたら!」

阿門法師はピアーズとスティーブンがお互いの顔を見合わせて頷くのを見た。

「よろしい!あとは彼らの合図を待つばかりだな・・・」と言った。

 

死神ホラー・タナトスの胸部にある真っ黒なパチンコ玉の形をしたコア(核)の

中に閉じ込められた『のぴ』は体育座りしながら身体を丸めてシクシクと泣き続けた。

しかし目の前に七色の光が現れ驚いた様子で顔を上げた。

やがて七色の光が消え去り、少年と少女が現れた。

「誰?子供??もう・・・ほっといて下さいッ!私は・・・もう・・・駄目なんです」

のぴは涙目でヨナとニーアに大声で訴えた。

しかし2人は同時に首を左右に振った。

「そう言う訳にはいかないよ!のぴさん!」

「貴方は『ネガブドネザルの鍵』の守り手。そして『死を殺し続ける者』なの」

「意味が解らないっ!どういう事なのよッ!もう!いいの!いんだって!」

のぴは両手で頭を抱えて目の前の生から目を背けようとした。

それをニーアは厳しい口調でのぴに言った。

「ダメです!目を背けてはいけません!生命に!

何より『おこさまぷれーと』の仲間達がいる現実から。」

「・・・・・・・・」とのぴは沈黙した。

ヨナが優しく声をかけながらのぴに近づいた。

「みんな誰もが現実(リアル)は怖い世界だと思っているよ。

私もそうだったから・・・。」

「じゃ!どうして!私を現実(リアル)に帰そうとするの?!

ここがいいの!ここがいいッ!」

「貴方が動かなきゃ人類は滅亡するのよ。

みんな死んじゃうのよ!それでいいの???」

「ちゃきもりあらもしゅがーも『おこさまぷれーと』のメンバーのみんな・・・。

死んでしまう事になる・・・・・・・・・・」

「ちゃき?りあら?しゅがー?どうして?みんな死んじゃうの・・・・私も・・・・」

「今!それを止められるのは貴方だけよ!

『死を殺し続ける者』の貴方の力が必要なの!」

『死を殺し続ける者』って私が?・・・・。私は死を殺した覚えがなんかないよ!

まって!まって!こわいこわい!」

ニーアは頭がパニックになりそうなのぴの意識を何とかなだめながら説明した。

「落ち着いて!落ち着いて!聞いて!貴方は『のぴ』と言う名前の日本人の女性の

肉体に魂と意識が宿る太古の昔から転生を繰り返しながら死を殺し続けていたの。

死は貴方や大勢の人間達が自然に抱く感情『死にたい』と言う欲望そのものなの。

貴方はそれを殺し続ける事で人類滅亡の処理に抗い続けているの。」
「何度も繰り返し。繰り返し。

同じループを永遠に続けながら今日まで君は存在していた。」

「何度も繰り返し。繰り返し。同じ死を永遠に殺し続けていた。

でもその処理は本来、現世の現実(リアル)の世界にごく

普通の人間として生きて行くのに全く必要の無い処理情報だから。

貴方の物質的な脳内の情報として全く残っていないの」

「だから身に覚えが無いし。さっき私達が話して初めて知ったんだと思う。」

のぴは無言で首を上下させて頷いた。さっき初めて知った表情をしていた。

「分かりやすく言うなら。難しいけどパソコンの裏処理みたいなもので。

うーん分かんないや!説明が難しいよ。ごめんなさい。」

のぴは少し混乱した表情をしていた。

数分後。「あーつ」と声を上げてどうにか理解した表情をした。

「さーのぴ仕事だよ!」と言ってニーアはのぴに手を差し出した。

のぴは自分の役割をおぼろげに理解した。

そしてのぴはニーアの手をゆっくりと取った。

彼女はゆっくりと立ち上がった。

やがてのぴの意識とニーアとヨナの前世の記憶は赤い光に包まれた。

のぴの目の前は真っ赤に染まった。

しかも不思議と全身に力が張るのを感じた。

 

それから一分後。

のぴは気が付くと見知らぬ土地にいた。

ニーアとヨナはいなかった。

彼女は孤独だったが不思議と全く恐怖は感じなかったし。思う事もなかった。

そこには見覚えが無いのにも関わらずあるような気がした。

自分はニーアとヨナの言う通り何度もここへ来た。

とにかく来た事が。着た覚えがあるのだ。

何度も覚えていない筈なのに風景は覚えている。

さらにこの空間『最果ての死の砂漠』に来てから脳にピリッと痛みが走った。

やがて彼女は最果ての死の砂漠の記憶を鮮明に思い出した。

そうだ。私はここへ来た。何度も何度もここをループし続けてきた。

その度に『死』を殺し続けていた。私は。私の意識と魂はここをループする存在。

私は。全てを。思い。出した。私の『死を殺す程度の力』は。彼女は私に力を与えた。

だから私は。誰だっけ?私は誰にこの力を?思い出せない。

思い出せないけど・・・。目覚める!!

そしてのぴは本来のループする世界において

『死を殺し続ける者』としての力に目覚めた。
パリンとガラスが割れる音が脳裏に響いた。

のぴの意識はエメラルドのような緑色に輝いた。

続けてのぴの意識を完全に包み込んだ。

彼女はようやく善悪と理性を取り戻し『正義』としての

本来の象徴たる存在の『メルキセデク』となった。その姿形は。

顔に緑色の十字架の模様の付いた仮面をかぶっていた。

四角の2対の穴から見える両瞳は茶色に輝いていた。

口には真っ赤な口紅の付いた唇があった。

さらに仮面の後ろから茶色の長い髪と

その先端の金髪が両肩まで伸びているのが見えた。

両肩からは2対の当の形をした突起物を生やした。

全身は緑色のサイズぴったりのラバースーツに覆われていた。

胸には太陽の聖環が刻まれた球体が付いていた。

両腕は緑色のラバースーツに覆われていた。

両手には長四角の鎧の装甲が付いていた。

 

(第19章に続く)