(第21章)楽園なる新世界

(第21章)楽園なる新世界

 

ドラキュラ伯爵の警告を受けて無言で赤い光に触らないように注意しながら

のぴとクリスは近付いた。その赤い光に包まれた四角い広場には

オレンジ色の液体の水溜まりがあっちこっちに広がっていた。

さらにたくさんの女性ものの衣服がバラバラと散って落ちていた。

しかし男物が一つもなかったのは奇妙だった。

また一人の黒髪の男が訳が分からず赤い光の中を歩いていた。

直ぐにクリスは太い大きな声で警告した。

「おい!早くこっちに来い!そこは危ないぞ!」

また別の金髪の女がフラフラと歩き回る黒髪の男を制止しようと赤い光の中へ入った。

「ねえ!ちょっと!ヘンリック!何処に行く気なの!

早く・・・・は・・・・や・・・」

同時に金髪の女は赤い光の影響により生命の力を消失した。

同時にパシャッ!と大きな水の音を立てて金髪の女のスレンダーな肉体は

生命のスープとなり、オレンジ色の液体に変化した後に崩壊した。

そして水溜まりが一気に広がった。

そこにパサッ!とTシャツと青いジャージの衣服が

オレンジ色の液体の水溜まりの上にプカプカ浮いていた。

「そんな・・・・一体?何が??」とのぴは青ざめた表情のまま呟いた。

さらにもう一人の黒髪の男も同じ運命を辿るのかと思いきや

全く平気で人間の個体を失う事無く人間の個体を保ち続けていた。

「何故だ?どうして個体を保ち続けている?何かの加護なのか?」

のぴとクリスとドラキュラ伯爵は黙って黒髪の男の行く末を見続けた。

それは何かの呪文でもあり、教義にも聞こえた。

「滅びの時。柳星張復活せん。

さすれば死神と太陽を喰らい不老不死とならん。

高次なる神。想像上の神よ。

かつて人間の文化にてガメラ3邪神(イリス)覚醒』

特撮映画にて『柳星張』の存在が示唆された。柳星張は実在したのだ!

映画の中の存在は謎の多いギャオス亜種と呼ばれた生命体として描かれた。

しかしそれは柳星張の真実ではない。存在が示唆されただけだ。

あれは超次元の世界に住んでいるのだ。

『イリスオブジェクト』神の器として。

1999年の終末の人間達は映画と言う手段を使って

この神の存在を現世の人々に認知させたのだ。私は理解した!!

あれは実在している!本当にいたのだ!

私は若村秀和の加護により。

迷える羊の魂をここへ導いた。

そして魂は神に捧げられた。

もうすでに選ばれた同志と人間の女達は神との合一を果たしている。

もうすぐ。もうすぐ。妻にも会える。

若い女を神に捧げていれば必ず!

あれが完全復活して空想から現実に降臨すれば

若村様とイリスの巫女(のぴの事)。我々選ばれた人間達が合一し。

メディア社会と欲望の負の感情に支配されている人間達。

全ての世界そのものを死神と太陽神共々喰い尽くすのだ。

こうして全ての苦しみや痛み、憎悪、争い殺される

恐怖と殺す恐怖からも解放されるのだ。

我々こそ!全ての世界を喰らい。高次元の食物連鎖の頂点となるのだ!

さてと!まだ別の生き残っている女達を誘うとしよう。

私には『柳星張』の肉体の一部を授かっている若村様の手によって。

私は性の力を使い。神が喰う目印となる

肉体の子宮を通して刻まれた証は魂に刻まれる。

甘き死の果実をね!あはははははははははははははっ!

待っていてね!女達よ!妻よ!」

黒髪の男のヘンリックは高笑いを長々と続けて

その赤い光の先の時空の歪みの中に消えて行った。

クリスとドラキュラ伯爵は「クソっ!」

「とんでもない奴だ!」と次々と感想を述べる一方でのぴの反応はと言うと。

青ざめて全身を震わせていた。

するとドラキュラ伯爵は淡々とこう説明した。

「あれは汚れた肉体を浄化する赤い光だ。あれがただの人間が触れれば。

生命の力が消失し、個体生命を維持できなくなって生命のスープに還元される。

そして魂はあのヘンリックの言う狂信者の言う通りに『イリスオブジェクト』

神の器に運ばれているのだろう。そして同化するのだろう。」

クリスが見ると確かに青緑色に輝く球体が天井の穴に向かって飛んで行った。

のぴはあのヘンリックの意味不明な狂信的な行為に強い恐怖を覚えていた。

恐怖の余り、何もしゃべる事が出来ずにただ無言のまま唇を震わせていた。

その時、白いノートが石の地面に落ちていた。

のぴは震える手でゆっくりと白いノートを拾い上げた。

ノートの持ち主はどうやら『アサヒナ事務所の探偵』だった。

名前はあのヘンリック・ターナでどうやら若村秀和の事を深く深く探っている内に

若村から禁断の知識を教えられ、恐らく徐々に発狂して正気を失ってしまったようだ。

のぴが白いノートのページを恐る恐る開くとボールペンで何か書いていたようだ。

「若村の人体実験?被験者若い女性?2020年の失踪者達??死者の女??

『イリスコピー・クローン』の製造??新型BOW(生物兵器)??

創造神の器。オズウェル・E・スペンサー?マザーミランダ?

関係なさそう。『人類補完計画』?謎の計画。

『静かなる丘・サイレントヒル』の土着神とは無関係か?被害者リスト。

この先の若村の研究室で自分が目視できた人数のみ。他にも多数いる。

レイアン。ルービス。エレナ。沢口桜。デニス。メリッサ。

ケリー。根元はるみ。田中萌歌。ダニエル・シー。そしてノートの

次のページには若い女性の顔の写真の画像が沢山張られていた。

さらにエレナの顔写真を見た時、クリスは見覚えがあった。

この子は死ぬ直前にイーサンが話したあのE型特異菌の原種が存在する

あのヨーロッパの村に住んでいた女の子だ。

どうやら写真のすぐ近くの文章によると若村秀和と言う男に助けられたらしい。

彼女は時空の歪みから連れ出されて難を逃れてしばらく一緒に行動していたようだ。

それから彼女は助けられた恩の為に自らの意志で

最初のイリスコピー・クローンの受精実験に参加した。

そして見事成功した。彼女の行方は。

イリスコピー・クローン第一号の胎児を持って現実(リアル)の世界へ逃亡。

その後の行方は不明。自分は彼女と若村の策で

この異世界の虚構の空間に閉じ込められる。

未だにループ世界から脱出できない。

クソっ!最果ての死の砂漠か。

あの光は何だろう?出口か?それにしても赤いな。

砂漠の外か?行ってみよう。ここにいても埒が明かない。

これは?若村秀和が残したメモか?念の為に書き写しておこう。

『解放』若村秀和。儀式の依り代のぴ。アダムと虹の女神イーリス。

虚無。暗黒。憂鬱。絶望。誘惑。起源。監視。混沌。生贄の魂。

『解放』の若村と融合。コア(核)化。神『柳星張』『イリス』の器。

十の心臓10人の女の魂の生贄。

若村と(黒く塗り潰されている)アダムとイーリスの融合。

コア(核)化。欠けたイリスの心『母体』の生贄。他の選ばれた女性達。

ケリヴァーの同志達の選ばれた多数の魂。融合。コア(核)化。

8体の量産型イリス。8本の槍。突き刺して貫く。

(完全なる21の赤き土の禊より)』。(その先はボールペンで殴り書きがあった。)

私は全てを知った。知ってしまった。世界は太陽神によって滅亡するのだ!

私は無力だ!アイザックは妻のニコルを守ると言うがそれは無理だよ!

他人を守る方法。愛する人から魂を守る方法はひとつしかないのだ!

アイザック!君にはニコルを守れない!私が守ってやろう!!

私はニコルをあの太陽神が起こした終末の騒ぎを利用して私が攫った。

私は性の力の証を与えた。抵抗はされたがうまく行った。そして

車で赤い光のところまで連れて行き、魂を浄化させて彼女の魂を神に捧げた。

あと若村秀和様から託されたメモもノートに挟んでおこうな。ヘンリック・ターナ。」

そして若村秀和が残したメモの内容は以下の通りである。

「私は死んだ!しかし私は人間の選ばれし女性達の生命の力を借り、肉体を得た!!

私は地獄に囚われている黒き月の女性達を救い出したのだ。

そして!私はついに!!仮の肉体を利用して真の神の肉体を手に入れたのだ!

これもE型特異菌のおかげだッ!!私の仮の肉体はE型特異菌と融合している!

儀式は完璧だッ!!既に私が選んだ人間の女性の魂は私の真の神の器の器の中にある!

太陽神テスカトリポカ!裏切った報いの罰を受けて貰うぞ!!

勿論、『死』そのものと宣うホラー・タナトスもだ!あいつもだ!

あとは!のぴの中にある『ネガブドネザルの鍵』と8つの槍だ!

そう、ついに黙示録の中の楽園へ。選ばれ無かった哀れな女達の魂と男達の魂は

偽りのメディアに汚れ切った地獄の永遠の裁きを受ける為に黒き月の中へ。

最後に私は偽りの太陽神テスカトリポカを殺して創造神に成り替わるのだ!私が!」

「全く反骨精神だけは一人前だな」とドラキュラ伯爵が言うとクリスにメモを渡した。

ヨハネの黙示録の真似をするつもりか?

まるで自分がイエス・キリストのようだな。」

「こいつ。こいつのせいで生命と死の理(ことわり)がおかしくなって」

のぴは苦々しく唇を噛んだ。その瞬間、ドゴオン!と大きな音を立てて地震が起きた。

地面は大きく上下に激しく揺れた。全員何とかバランスを足元をふらつかせつつも

その場で踏ん張った。ドラキュラ伯爵は「チッ!」と舌打ちした後にこう言った。

「奴め!とうとう死神ホラータナトスと黒き月を分離させたな!激昂しているな!」

「これで?あの七つのラッパってやつは停止したのか?」

「いや!死神ホラー・タナトスは七つのラッパを放つ力は消滅した。

ついでにあの黒き月もタナトスから分離しているだろう。

そうなる事で現在、死神ホラー・タナトスが鳴らしていた2つのラッパ以降の

5つのラッパは若村秀和が鳴らすだろう。

つまりあの天使の輪の所有権も若村に移った。

神の力。創造神の力と死神の力を若村秀和は根こそぎ強奪したんだ。

タナトスは死神ではなくただの魔獣ホラーだ。あとはタナトス

太陽神テスカトリポカを排除するだけさ!」

「なんて奴だ!何故だ?

若村はそこまでして創造神になりたがろうとする?」とクリス。

「奴は取り戻したいんだよ。自分に欠けた母親の愛情をな。

そこに2度と誰も奪えないように自ら創造神になろうとしているんだ。」

ドラキュラ伯爵は答えた。それからドラキュラ伯爵とのぴと

クリス・レッドフィールドは若村のいるところに急いだ。

その道中、3人は時々、曲がり角に現れる

赤い光に照らされた道に入らないように慎重に足を止めて、

引き返してまた別の赤い光に照らされていない道を選び、進んで行った。

しかも厄介な事にこの細長い通路は複雑に絡んだ

迷路を抜けた先はまるで祭壇を思わせる円形の広場が見えた。

そこに祭壇となっているであろう円形の台座の上に

巨大な生物が安置されていた。クリスはそれを見た時、信じられない表情をした。

「バカな・・・これは?あの村は爆発して存在しない筈?サイレントヒルの力か?」

そう、クリス、のぴ、ドラキュラ伯爵の前にかつて存在していたが。

2030年現在には既に存在しない筈のものがあったのだ。

円形の台座に置かれた巨大な物体は菌根だった。

その形はどこか胎児にも似ていた。

しかしその胎児の姿はあのイーサンと自分がかつてがあの村で目撃した人型とは

異なっていた。また巨大な菌根の胎児は巨大カプセルの中に収容されていた。
その胎児の姿形は三角形の頭部につぶらな丸い瞳を持ち。

背中に輝く金色に輝く結晶のまるで貝殻のようなものを背負っていた。

また多数の赤い触手が多数の脚のように生えていた。

ドラキュラ伯爵が言うにはもう生命反応は無い様だ。

クリスは「何かの実験体か?」とつぶやいた。

更に続けて「これは貝類と鳥の遺伝子を合成させた新型のBOW(生物兵器)か?」

ドラキュラ伯爵はその貝類と鳥類のキメラ型の

BOW(生物兵器)と思われる生物が入った

カプセルに近づくとゆっくりとガラスのカプセルのガラスに手を付けて目をつぶった。

しばらくして彼はゆっくりと目を開けた。

「成程。こいつもまた別世界の並行世界(パラレルワールド)の生物だな。

E型特異菌の菌根にその生物の遺伝子が組み込まれ、この姿に模倣されたんだな。」

「その生物とは一体何なんだ?」とクリスはドラキュラ伯爵に質問した。

「『イリス』または『柳星張』。これはそいつのクローン・コピー生命体だな」

「見た事も聞いた事も無い名前だな。さっきの奴も言っていたが?

一体?なんなんだ?そいつは?本当に神なのか??」

「かつて別世界の並行世界(パラレルワールド)の

ガメラの世界に災いをもたらした邪神さ!」

「つまり?若村はそれを利用して新しい世界と楽園を創造しようとしているの?」

「そういう事だ!どうやらあいつは『R型事件』クエントと烈花法師に逮捕されて

アメリカの刑務所に収監されている数か月間、独房の鏡を利用してこの隠してあった

最果ての赤き砂漠の中の研究室や他のガメラの世界やら過去の2020年の

イカン村に出入りを繰り返していた。」

「だから誰も気が付かなかったのか?まさか?

鏡で本当に異世界を出入りしているなんて」

「ああ、そして最終的にはあの刑務所の脱獄ルートにもなった。」

「それは既に冴島鋼牙から聞いた。そんな経験はした事があったからな」

 

(第22章に続く)