(第33章)クリス・レッドフィールド選手の槍投げ

(第33章)クリス・レッドフィールド選手の槍投げ

 

「どうするおつもりですか?」

碇ゲンドウはゼーレの議長のキール・ロレンツに質問した。

「米国第1支部にてプロダクションモデルのヱヴァンゲリヲンの実験」

「つまりS2機関の搭載実験が行われる。パイロットは不要」

「必要なのは生贄。コア(核)の中の魂ですな!!」

「彼女を生贄にするのは心苦しいがね」

「では!彼女の誘拐の手配を進めましょう!!」

「よろしい!そうすれば!人類補完計画は必ずうまく行くだろう!」

「人類の裏切り者。偽りの光のルシファーをコキュートスの氷河に落とす。」

こいつら!くそっ!ふざけた事を・・・まさか?マナは?だからっ!くそっ!!

ドラキュラ伯爵は彼女がイリスオブジェクトのコア(核)の中にいる事に気付いた。

そして怒りが心の奥から沸き上がるのを感じた。

更に彼は激しく獣のように唸り声を上げた。クリスは心配になった。

霧島マナ碇シンジの恋人だった女の子だ。

碇シンジエヴァに乗る前からゲンドウに呼び出されて

特務機関ネルフに来る前から付き合っていたらしい。

のちに両親の許可を取って時々遊びに来ていたようだった。

しかし・・・・彼女と碇シンジが親密になり、肉体関係の可能性が

現実味を帯びてきた事を察知したゼーレと彼の父親のゲンドウの手によって。

彼女は。アメリカに連れ去られて。

あの量産型イリスのように生きたままコア(核)に閉じ込められた。」

「ただ米国第2支部ごと事故を装って処分されたのかどうかは不明だ。」

「じゃ!肉体も魂もか??ディラックの海に沈めたかも知れないとだと!!」

クリスは怒りを隠せなかった。なんて奴らだ!!少女にそんな!!

「そして偶然か運命か」とつぶやきドラキュラ伯爵はゆっくりと指さした。

「あのイリスオブジェクトのコア(核)の最奥の場所に

ヱヴァンゲリヲン4号機と霧島マナが閉じ込められている筈だ!

それは儀式を阻止する為のラストピースだ!

『ネガブドネザルの鍵』。

『ガイウスの槍』。

ヱヴァンゲリヲン4号機のコア(核)』。

あと十六夜咲夜(いざよいさくや)。

『正義』ゼルエル

のぴと『正義』メルキセデク。これで全部だよ!!」

イリスオブジェクトの本体が安置されている『柳星張の宇宙』。

「もう!ちょっと!私を忘れないでよ!いつまでおじさん達!話してんの?」

ドラキュラ伯爵とクリスは色々な事に気を取られ過ぎて

近くにいたアスカの存在を忘れていた。

2人は罰悪そうに揃って「すまん」「すまない」と謝った。

アスカは何の躊躇もなく大声で質問をした。

「もう。いいけどさ!霧島マナって誰?

バカシンジに恋人なんか要る訳ないじゃない!」

クリスはまたよく分からずにこんがらがった。「知らないのか?」と聞いた。

アスカはさも当たり前のように

「全然知らないし。見たことも聞いた事も無いわよ」と答えた。

するとドラキュラ伯爵がクリスと同じく頭がこんがらがっている

惣流・アスカ・ラングレとクリスをフォローする為に

簡単に分かりやすくこう説明した。

「その霧島マナと言う人物は惣流・アスカ・ラングレのエヴァの世界にいない。

式波・アスカ・ラングレの並行世界(パラレルワールド)の人物だ。

しかも幾つかの式波の中の何処かの並行世界(パラレルワールド)のな。

「私の知らない。シンジの恋人か・・・・」とアスカは羨ましそうに言った。

「あるいはエヴァのループ世界で描き直された世界にいたのかも知れないな」

「違うエヴァ世界線の人か・・・・それはさておき!」

クリスは切ない表情を一瞬だけ見せたが直ぐに真顔になった。

「よし!早く!太陽神テスカトリポカがここに来る前に阻止してしまおう!」

「ああ!アスカ!ガイウスの槍をクリスに!」

ドラキュラ伯爵に促されてアスカは「はい!おじさん!」と元気よく返事した。

そしてクリスに向かってガイウスの槍を差し出した。

クリスは大きく戸惑った。「おい!まさか?俺が投げるのか?」

ドラキュラ拍車とアスカはただただ黙って頷いた。

「冗談だろ?」アスカとドラキュラ伯爵の顔を見たがどうやら本気らしい。

クリスは渋々ガイウスの槍をアスカから受け取った。

ガイウスの槍の力は中庸(ニュートラル)の力を持つ。つまりこの槍は。

ロンギヌスの槍とカシウスの槍とも違う存在だとドラキュラ伯爵はクリスに説明した。

クリスは改めてガイウスの槍を見た。そのガイウスの槍は。

右側はオレンジ色。左側は青色。半分の形をしていた。

それはフォークとスプーンの形をしていたものが組み合わさったように見えた。

白い中央の長い棒の左右に三角形の青とオレンジの鋭利な先端をしていた。

左右に鳥の羽根のような突起に中央は白い棒にまるでDNAの螺旋状に

青とオレンジの槍の一部が複雑に絡み合っていた。

そしてとにかく持ちにくかった。

これをあの!イリスオブジェクトのコア(核)に突き刺せば儀式を止められる!!

そしてこの槍は元々神では無く人間が創ったものだから人超えた神や

人間ではない存在の自分達では扱えないようだ。

つまりドラキュラ伯爵やアスカが投げても槍の力は100%発揮できないと言う。

ガイウスの槍を100%の力を確実に引き出すには純粋な力を持つ人間の力が必要だと言う。今ここにいるただの人間であり、精神と自らの意志の強さを持つ純粋な人間。

ガイウスの槍を使用できるのはクリス・レッドフィールドだけだと言う。

クリス・レッドフィールドはしばらくガイウスの槍を見ていたが直ぐに決心した。

「ぬおおおおおおおおっ!重いッ!やり投げなんかやった事無いぞ!!」

クリスは上腕筋をフルに使い、歯を食いしばり、右腕でガイウスの槍を持ち上げた。

右腕を真上に上げた。

しかも重くて仕方が無かった。

しかしこれを投げないと!!みんなや世界は助けられないッ!!

クリスは気力だけで両腕でガイウスの槍をさらに掴み、持ち上げた。

続けて一度だけ降ろした。

そして身体を後方に逸らした。

両手にギリギリと力を込めた。

腕は痺れつつあった。

しかし今!ここで落とす訳にはいかないッ!せかいを!妹のクレアの為にッ!!

クリスは歯を食いしばり、槍の重さに全力で耐え続けた。

イリスオブジェクトは頭上に真っ赤に輝く光輪を浮かせていた。

しかし目立った動きは無く常に静止していた。

ドラキュラ伯爵は「行くぞ!」と号令をかけると静かにカウントダウンを始めた。

「投擲まであと4!3!」と。

クリスは右脚をグッ!と虚空の床をしっかりと踏みしめた。

そして自分の身体の重心を安定させる為に歩幅を調整した。

ドラキュラ伯爵のカウントダウンは続いていた。

「2!」と。「うおおおおおおおおおおおおおおっ!」

クリスは眉毛を動かして獣のように大きく唸った。

「1!」とドラキュラ伯爵がカウントダウンを言ったあと。

ガイウスの槍はオレンジ色と青色にぴかーっと力強く発光した。

クリスはドラキュラ伯爵が「ゼロ!」と叫んだと同時に身体を斜めに傾かせた。

続けて自らの筋肉質な身体をゆっくりと前進させた。

クリスはガイウスの槍を片手でしかも右腕の筋力だけで全身全霊で支えた。

そして一気に前進しながら歯を食いしばり、口を大きく開けた。

長々と渾身の太い叫び声を上げながら右腕を大きく前後に振った。

続けてクリスがタイミングよくガイウスの槍を手放した。

クリスが全身全霊の全ての筋力を使って

投げたガイウスの槍は超高速で飛行を開始した。

ガイウスの槍は斜め上に真っ直ぐ飛んだ。

超高速で飛んだガイウスの槍はオレンジと赤の光の槍となった。

ヒュウウウウウウ!と宇宙にも関わらず空気が切れる音と共に

ガイウスの槍は一転違う事無く真っ直ぐイリスオブジェクトの

巨大な真っ赤なコア(核)目掛けて飛び続けた。

やがてイリスオブジェクトが張った真っ赤な分厚い

バベル超結界を軽々と突き破って突破した。

そしてあっと言う間にイリスオブジェクトのコア(核)の表面に突き刺さった。

一瞬でイリスオブジェクトのコア(核)と刺し貫きそのまま停止した。

さらにガイウスの槍は周囲に青とオレンジ色の壁のようなものを形成した。

やがてイリスオブジェクトの真っ赤に輝くコア(核)は青とオレンジの壁により

全て覆い尽くされた。するとドラキュラ伯爵は「良しッ!」とガッツポーズをした。

「これで?・・・・・うっ!つかれ・・・・・た・・・・」

クリスは呟くと全身の力が抜けて一枚板のようにバッタリと仰向けに倒れた。

彼は全身の力が抜けて指一本も動かせなかった。

するとドラキュラ伯爵は虚空の床に

倒れて身動きも取れなくなったクリスを見降ろした。

「これで君達人類はひとつの事しか選べなかったが。

ガイウスの槍によって若村秀和の人類補完計画

あるいは太陽神テスカトリポカの絶滅と進化。

そして現実(リアル)の世界を元状態に完全に再構築する人間の魂の力によって

ガイウスの槍によるインパクトのどれか3つの選択が与えられた。」

「そう。だから結局どうにかできるのは人間の力だけなのよ。おじさん。」

アスカはクリスの顔を覗き込みながらそう言った。

「あとは『のぴ』とあそこに取り込まれた魂の選択次第」

成程、結局ガイウスの槍を投げただけでそれだけだったのか・・・・。

クリスは自分のできる事がそれだけなのが無性に腹が立った。

しかしどうにもならず。自分のできる事がそれが精一杯だと悟った。

クソっ!俺は・・・・また。あのイーサン・ウィンターズと同じように全ての決着は。

ただの理不尽に巻き込まれた一般人が付けるのかよ!このっ!なんでだ!!」

しばらくクリスは悔しそうな表情のまましばらく沈黙していた。

それをなだめるような。どう声を掛けたらいいのか分からなかった。

アスカはクリスの顔を覗き込みながら話を続けた。

「もう私達の役目は終わったわ。あとは魂の中の人間達の意思次第なの。」

「・・・・・・・・・・・・・」クリスは長々と沈黙した。

 

イリスオブジェクトの真っ赤なコア(核)の中に侵入していたのぴと

おこさまぷれーとのメンバーのちゃきと

ゆいにゃとりあらは若村秀和と向き合っていた。

絶望的な表情をした若村に対して希望に満ちたのぴが言った事。

「大丈夫!貴方を必ず救い出す!あのウォルター・サリバンのように・・・・」

それに対して若村秀和はのぴの言葉を頭ごなしに

全否定して決して信じようとしなかった。

「嘘をつくな!それは偽りの希望だ・・・・・」と若村は反論した。

その直後、パアアアアン!と甲高い音がイリスオブジェクトの

コア(核)の内部の真っ赤な壁に反響するように広がって行った。

同時に真っ赤なコア(核)の青い壁は青とオレンジの分厚い壁に覆われた。

「これは?ガイウスの壁?ようやくクリスとドラキュラ伯爵と

アスカさんがうまく行ったんだ!」とのぴ。

のぴも既に前回と前々回のループの記憶を全て思い出していた。

一方、若村秀和は訳が分からず激しく戸惑い続けながら周囲を見渡した。

何が起こってんだ??おい!これはなんだ??

儀式じゃない!俺のしたいやつじゃない!

彼は頭の中がパニックになった。そして激しい怒号を上げた。

「どうなってんだ??お前達の仕業なのか??えっ?滅茶苦茶にする気かぁ!

余計な事をすんな!余計な事をっ!このクソ女め!何をした?!」

彼は狂ったように太い声と荒々しい口調でのぴに詰問した。

のぴは怖がる事も無くただ黙って若村の言葉を聞いていた。

のぴは落ち着きの払った静かな口調で若村にこう言った。

「新しい儀式よ!もう・・・・いや!酷い事!悲しい事を終わらせるの!」

若村は彼女の言葉に衝撃を受けて口を閉じた。

「やめろっ!儀式はッ!俺がやるんだよ・・・・なんでだ・・・・」

やがて若村は精神的ショックを受けたのか全身と両拳を震わせた。

やがてイリスオブジェクトの核(コア)内部では若村の周囲の

反メディア団体ケリヴァーのメンバー達がゆっくりと集まり始めた。

若村と反メディア団体ケリヴァーの大勢のメンバー達は蜂の巣を

つついたように一斉に激怒した。同時にみるみると悪霊に変貌した。

大勢の魂が融合し、超巨大な芋虫と赤ちゃんを組み合わせたような怪物となった。

ちゃき。ゆいにゃ。りあらは絶叫してのぴのうしろに隠れてしまった。

それからさっきのガイウスの壁とガイウスの槍の力によって。

あるいは人間の強烈な意志と感情によってイリスオブジェクトの

核(コア)にのぴよりも早く到達していた。

天魔ゼルエルを持つ者。十六夜咲夜(いざよいさくや)はさっきまで

若村に操られていた洗脳が消え去って我に返った。

彼女は正気と元の自我を取り戻した。

その為、咲夜は何故ここにいるのか分からずしばらくキョトンとしていた。

しかしすぐに十六夜咲夜(いざよいさくや)は

前回と前々回のループの記憶を取り戻した。

ちなみにその際も自分が若村や反メディア団体ケリヴァーメンバー達と思われる

多数の男達に呼ばれて「みんな呼んでいる・・・・」と思い込んでしまい。

そのままコア(核)に取り込まれたが。

正気と自我を取り戻して洗脳から解放された瞬間。

気が付けば咲夜はまたイリスオブジェクトの真っ赤なコア(核)の

上に立っている事も同時にい思い出した。

更に彼女の脳裏には今まで起こった過去の長い長い記憶も存在していた。

それは『サトル・ユウマ』の21の新約の秘跡の事件を解決して烈花や

リヴィアのゲラルド達から別れた直後の『子宮の卵』をどうにかした後だった。

また思い出した事があった。

それはフィリパ・エイルハートとリヴィアのゲラルドと天魔イロウル

私の精神の中にいた天魔ゼルエルと烈花と協力して2つ目の神降ろしの儀式は

確か新約の12の秘跡。儀式自体は『子宮の卵』は孵化せずに機能を停止させた。

それは自然の調和を大きく乱した事で失敗したはず。

聖母マリア』の子供は虹の女神のイーリスの力は失われて。

何の変哲も無いただの子供になった。母子共にゲラルドが助けた。

術者の『オペラ座の怪人』の真の肉体も『虚無』『暗黒』『憂鬱』。

『希望』『誘惑』『起源』『監視』『混沌』の8つの槍を突き刺して。

『裏切りのサイファー』のゲラルドに倒されたのよ!

彼は異世界と共に消滅したの。間違いない。でもどうして?

聖母マリア』の日本人も『絶望』から『希望』になったのに??

どうして?あの虹の女神のイーリスの力は私に宿り『母体』となった。

消えた筈の『絶望』は若い女性の魂に宿っている。でもでも。

あの女性の魂は・・・。まさか?あの日本人記者?別人?分からない。

急速に時間をないがしろにして失敗した筈の儀式がどうして??

若村秀和は他の儀式の一部を集めて新しく作り直す為だったとしたら?

この儀式に『子宮の卵』は登場しない。代わりにあのイリスオブジェクトの

コア(核)が現れた。私は『母体』。そして『知恵』がのぴさん。

『ネガブドネザルの鍵』『虹の女神のイーリス』全てがあいつが??

じゃ。サトル・ユウマの悪の部分の『オペラ座の怪人』はまんまと利用されたわね。

そして私は若村秀和に精神を操られて。天魔ゼルエルがいたのに・・・・。

私は生命と創造を司る虚空の女王イリスに・・・・。分からないけど。

『かえるのうた』!あれのせいだ!私はあの後色々思い出せないけど。

そして若村にのぴよりも先に水溜まりに突き落とされた。

私はブクブクと鼻と口から泡を出して沈んで行った。

私は水の底へと動けないままどんどん沈んで行き。そしてー。

私は真っ赤に輝くコア(核)に着地した。

 

(第34章に続く)