(第44章)夢で終わらせない

(第44章)夢で終わらせない

 

スローモーションのように太陽神テスカトリポカと

エア・マドセンはガクン!と身体をくの字に曲げた。

そしてスローモーションが消えて太陽神テスカトリポカとエア・マドセンは

超高速でお互い離れ、左右後方へ弾け飛んで行った。

超高速で吹き飛ばされたエア・マドセンは超高速で右斜めに落下した。

べコオオオン!と大きな硬いものが砕ける音を

立てて真っ赤な分厚い床の一部を粉々にした。

太陽神テスカトリポカも超高速で左斜めに落下した。

続けてバゴオオオン!とやはり大きな硬いものが砕ける音を

立てて真っ赤な分厚い床の一部を粉々にした。

太陽神テスカトリポカもエア・マドセンも砕けて宙に舞った

大小の真っ赤な瓦礫の下敷きになり動かなくなった。

長い間、指一本さえも全くピクリとすら動かなかった。

やがて太陽神テスカトリポカは千鳥足でフラフラと立ち上がった。

それから両腕を組んだ。

「ぐおおおおん!」と言う甲高いライオンに似た吠え声を上げた。

彼女は自らの身体をアーチ状にエビ反りにした。

太陽神テスカトリポカの胸部の暗黒を基調とした半袖の服が

左右にバックリと引き千切られて行った。

その為、美しい白い美肌に覆われたIカップ(950cm)の大きな張りのある

柔らかい両乳房とピンク色の乳輪と乳首が露出した。

魔人フランドールは急に顔を真っ赤にして

三角形の尖った両耳たぶまで真っ赤に染めた。

太陽神テスカトリポカの深い胸の谷間の胸部の白い肌がバカッと左右に開いた。

やがて苦しそうに呻き声を上げ続けた。

更に荒々しく息を吐いた。

直ぐに割れた深い胸の谷間の大穴からオレンジ色に輝く胎児が入った

球体がバリバリと音を立てて飛び出した。

「あれは?分霊?」

「何故?こんな事を?彼女!もう!肉体が保てない崩れるわ!」

魔人フランドールと鋼牙はその様子を黙って見ていた。

太陽神テスカトリポカの深い胸の谷間から大量の血を吹き出しながら

オレンジ色に輝く胎児が入った球体を胸に力を込めて空中に吐き出した。

オレンジ色に輝く球体はどんどん空高く昇り、浮いて行った。

魔人フランドールと鋼牙は戸惑う中、たった一人だけエアは黙って見ていた。

これで良い!これで良い!いいいんだ。と何故?安心したのかは自分でも分からない。

でも自分の意識とは無意識にそう思っていた。

魔導輪ザルバはほんの微かだけ虚空の女王ホラー・イリスと

思われるホラーの気配をエア・マドセンから探知した。

しかしすぐにその気配は消え去った。

どうやら彼の内なる魔界(精神世界)から本来の真魔界に帰って行ったようだ。

「あいつ・・・・」と小さくつぶやいた。

それを鋼牙は「どうしたザルバ??」と魔導輪ザルバに尋ねた。

「いや…ほんの一瞬だけ・・・ホラーの気配がした。だが・・・どうやら。

エア・マドセンの内なる魔界にいたようだが。もう真魔界に帰還しちまった。」

「なんだって?いつの間に???」と驚きつつも鋼牙は何故?

彼女が真魔界に返った?一体?虚空の女王ホラー・イリスは何を見届けたのだろう??

「まさか?あの太陽神テスカトリポカの分霊の胎児の事か?」

と魔導輪ザルバは呟いた。


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そして太陽神テスカトリポカの分霊の胎児の姿をした球体は。

ふわふわと空高く浮きながらこれから消滅して

行くであろう母親の太陽神テスカトリポカを見た。

太陽神テスカトリポカはそんな自分の分霊の胎児を安らぎに

満ちた表情でゆっくりと口元を緩ませて笑った。

「フフフッ!かつて我が選んだ道。

しかし我が人間達の『教団』の手でインキュバスに堕落する遥か昔。

我は別次元の地球に現れた全ての生命に死を与えた死神ニュクスを愛した。

わたしは・・・・一人娘の虚空の女王ホラー・イリスを産んだ。

他にも沢山の神々や天使達も産んだ。

そしてお前もまたその中の一人なのだ。

一人息子よ。姿はこちら側(バイオ)の世界の行く末を見守り!

必要なら人間達に力を貸すとよい!」

するとオレンジ色に輝く胎児ははっきりと男の子の声でこう答えた。

「分かりました!太古の母上よ!私はこの息子として!

まずは立派な人間の男性の姿に成長して!

こちら側(バイオ)の世界の行く末と人々を見守り!

必要とあらば我が天魔の力を持って人々に手を貸しましょう!」

それからオレンジ色に輝く球体の胎児は

あっという間に天井の穴に向かって飛び去った。

そこにすかさず鋼牙がエア・マドセンに向かって力の限り大声を張り上げた。

「今だあああああああああっ!フラウロスを起動させろおおおおっ!」

「動くように念じればいいのよ!貴方ならできるわああああっ!」

魔人フランドールも鋼牙と同じように声を張り上げてアドバイスをした。

エアは急に我に返り、慌てふためいた様子で右手に持っていた

フラウロスを茶色の瞳で見た。

それからフラウロスを起動するように念じ続けた。

太陽神テスカトリポカは安らかな表情で静かにつぶやいた。

「これが人の子らの力か?我が幾ら人の子らの霊魂を現実(リアル)の

今の世界から引き離し、心を捕まえようと空を抗っても。でも。

あともう少しで捕らえられたはずだった。

しかし人子らはこの現実世界でこの理不尽な悪意に晒され。

弱々しくも雨に撃たれ。

身を震わせる力無き者がいれば理不尽な悪意に立ち向かい

雨に撃たれ身を震わせる力無き者達がいる事を大勢知った。

彼らがいれば!!

彼らもまた自由に暮らせる権利が得られた。

例え!例えどんなに理不尽に悪意を振りかざして権力や暴言や

自分の価値観を無理矢理押し付ける暴君の力を振り回して!

人の子を噛み削ろうとしても気付いた不特定多数の人々が力を合わせて!

理不尽な悪意で開いた大穴を塞ぐだろう!そうだ!

我はこう言う勇気のある人々の心を知りたかったのだ!!

それは叡智の最高の結論だが!それは!

『日々自由に生活と闘い取らねばならぬ者こそ!自由と生活に享くるに値する!』

そしてこちら側(バイオ)の世界ではそんな風に様々な邪心や欲望と悪意の

危険に囲まれて、子供も大人も老人もまめやかな歳月を迎えるのだ!

我はそういう人の子らの群をみたい!我はキリストの選民思想を捨て去り!

我は自由な世界の国々の民と生きたい!そう言う瞬間に呼び掛けたい!

『止まれ!いかにも人々は美しいから!』と。

この世界の人の子らの生活の痕跡は幾世を経ても滅びる事はないだろう!

そう無情の幸福を想像して!我は最高の刹那を味わうのだ!!」

太陽神テスカトリポカが高らかにしゃべっている間にエアの掌に

置かれたフラウロウスが黄色に強く発光した。

そして彼の掌からふわりと舞い上がった。

やがてフラウロスは宙へ浮いたままやがて上下左右に

小さなオレンジ色に輝く小さな三角形のパーツに分離した。

さらに中央のやや大きなひし形のパーツを中心に周囲の

小さなオレンジ色に輝く三角形はグルグルと高速で回転し続けた。

同時に黄色の光も非常に強くなり、やがてひし形のパーツに集束した。

続けて何十本ものオレンジ路に輝く有刺鉄線の形をした細長いひもが発射された。

そして伸びて来たオレンジ色に輝く何十本もの有刺鉄線は

太陽神テスカトリポカの白い肌の首、両腕、腰、両脚に

しっかりとグルグル巻きついた。

太陽神テスカトリポカはあえて一切抵抗しなかった。

それはまるで負けを認めたかのように。

太陽神テスカトリポカは満足そうに笑い、ゆっくりと瞼を閉じた。

太陽神テスカトリポカの成人女性の身体は小さな四角い

ブロック状にバラバラにあっと言う間に分解されて行った。

そしてオレンジ色に輝く大きな光のオーロラの中に吸い込まれて行った。

やがて太陽神テスカトリポカの完全な神格の肉体は完全に消失した。

続けてオレンジ色に輝く光にオーロラはそのまま分離した

全て組み立てるように再度くっついた。

そして元の三面体の箱に戻った。

プシューとオレンジ色の蒸気を発した後にガツン!

と音を立てて真っ赤に輝く分厚い床に落下した。

しばらくバチバチとオレンジ色に点滅していた。

エアと鋼牙と魔人フランドールは落っこちているフラウロスをじっと見ていた。

「終わったの??」と魔人フランドール。

「どうやらそのようだ。」

鋼牙は黄金騎士ガロの鎧を解除して白いコート姿の男に戻った。

「やれやれ!太陽神テスカトリポカは完全に封じられた!」

エアは屈んでフラウロスを拾い上げてまじまじと見つめていた。

しかし突然、バキバキベキべキ!と聞けば嫌な音が無形の空間内に響いた。

エアは驚いて周囲を見ると太陽神テスカトリポカが作り出した真っ赤に輝く

異世界全体に蜘蛛の巣状のヒビが大量に出来ていた。

「マズイぞ!鋼牙!こちらの異世界が崩壊しかけている!早く脱出しないとマズイ!」

魔導輪ザルバの呼びかけに鋼牙、エア、魔人フランドールは

冷静に異世界の出口を探した。

そして全員同時に天井を見上げた。

何故なら天井の方から声がしたのだ。

しかも一人ではなく何人かの声が聞こえていた。

「おい!上だ!上を見ろ!」とシルクロード

「早く!太陽の聖環をくぐって下さい!」とマサイ。

「本当に急いで!シェリル刑事さん!長くは持たない!」とンダホ。

「早く!昇ってくれ!早く!」とダーマ。
「エアさん!魔人フランドールさん!鋼牙さん!急いで!帰って来て!」と鳴葉。

「早く帰るわよ!ほら!グズグズしないの!エア!」とエイダ。

「早くして!私達が貴方達の帰りを待っている!!」とブリー。

それから魔人フランドールと鋼牙とエアは砕けかけた

分厚い床を力強く蹴飛ばして宙に出来るだけ高く浮いた。

エアはフラウロウスを服のポケットの中にちゃんと落ちないようにしまった。

鋼牙と魔人フランドールとエアは垂直に曲がらぬように

真っ直ぐを意識しながら天井に向かって飛び続けた。
やがて天井に巨大な真っ赤に輝く太陽の聖環が見えた。

「よし!あそこが出口だ!」と鋼牙。

「さあ!帰ろう!みんなのところへ!」とエア。

しかし魔人フランドールは沈んだ表情をしていた。

だがすぐに仲間達の声がした。

「急いで!私を助けたみたいに私達が貴方を助けるの!」

その声はブリーだった。

更にもう一人の日本人のはるままゆみも声を枯らして応援し続けていた。

「がんばって!こっち!見えているの!あともう少しよ!頑張れ!」

アリーも大声で鋼牙達に向かって「戻ってきて!」と叫び続けた。

またスクールバスの男子生徒も女子高生も一斉に徐々に叫び。

鋼牙とエアと魔人フランドールに帰ってくるように必死に呼びかけていた。

「こっちよ!」と唐突に急に声が聞こえた。

エア、鋼牙、魔人フランドールが上の方を

見ると幽霊のリサ・ガーランドの姿が見えた。

彼女は右腕をブンブン上下に振りながら大声でこう言った。

「こっち!こっち!付いてきて!ほらほら!」

鋼牙、エア、魔人フランドールはリサに急かされてどんどん上へ昇って行った。

はあー!なんて!全くきついマラソンだな!とエアは思った。

鋼牙は余り疲れた表情を見せるどころか平然とした表情で

魔人フランドールを抱えて昇り続けていた。

やがてリサの背後に真っ赤に輝く巨大な太陽の聖環があった。

そしてようやく鋼牙、エア、魔人フランドールはリサの横に並んだ。

「早く行きましょう!あそこをくぐって!!」

リサと共に魔人フランドール、エア、鋼牙は真っ赤な太陽の聖環をくぐった。

 

(第45章に続く)