(第51章)調書と検査

(第51章)調書と検査

 

現世・現実(リアル)こちら側(バイオ)の世界の聖ミカエル病院の屋上。

鬼島神具とアサヒナ・ルナとしゅがはただ孤独と絶望に耐えられずに

中央のコンクリートの床に胎児の様に丸まっていた。

「もう。いつまで経ったのだろうかしらね」とアサヒナ・ルナ。

顔尾を真っ赤にしてまた思い出したように泣きじゃくり続ける

しゅがーをなだめる様に鬼島神具は隣で仰向けに眠って。

彼女の右手を強く握っていた。

「ゆいにゃ。りあら。ちー。のぴ。寂しいからみんな帰ってきてぇ・・・お願い」

しゅがーは力無く壊れた機械人形のように小さな声で呟いた。

彼女の茶色の瞳に生気は無く虚ろだった。

そのしゅがーの精神状態を心配そうにアシュリー・グラハムは見ていた。

マズイ。精神状態は限界だわ。下は赤い光で危険だし。

何とかカウセリングして精神的ストレスを和らげないと。

不意に魔女王ホラー・ルシファーは立ち上がった。

どうやら何かを感じたらしい。

やがてガタガタと聖ミカエル病院の建物全体が上下に大きく揺れ始めた。

異変を伝える間も無く聖ミカエル病院の建物全体が一気に青とオレンジ色に発光した。

同時にドオオオン!という爆発音と共に建物全体から

青い光とオレンジ色の光と共に黒き月やイリスオブジェクトのコア(核)

から解放された大勢のニューヨーク市内の一般市民や

動物を始め、アメリカ合衆国を中心に一気に地球上の海や大陸に広がって行った。

『おこさまぷれーと』を始め、大勢の病院関係者や

看護婦や一般市民達は生命の力を取り戻して行った。

再びパシャッ!と言う音と共に次々と母親から産まれた状態に人間の個体を

取り戻して維持して行った。これにより『死』から『生命』を取り戻した。

ニューヨーク市内でも人々や動物も全て同じ現象により、元の人間の個体に戻った。

そしてオレンジ色の光と青色の光はゆっくりと消失した。

揺れも徐々に収まって行った。

数分後。聖ミカエル病院の屋上のドアがゆっくりと開いた。

アサヒナ・ルナと魔女王ホラー・ルシファーや

鬼島神具はアシュリーとしゅがーを守るように立った。

しかしすぐにドアが全開になった。

そして聖ミカエル病院の屋上の入り口には元の人間の個体を取り戻して。

衣服と所持品を持った『おこさまぷれーと』の

ちゃき、ゆいにゃ、りあらが姿を現した。

それを見たしゅがーは大声を張り上げて、

大粒の涙を流しながら全速力でちゃきとゆいにゃ、りあらが姿を現した。

それを見たしゅがーは大声を張り上げて大粒の涙を流しながら

全速力でちゃきとゆいにゃとりあらに両腕で全員の身体に強く抱き着いた。

「よかった!よかった!みんなああっ!無事でえええっ!

みんないなくなったら!あたし!あたし!」

しゅがーは顔をくしゃくしゃにして大粒の涙を流して大声で泣き続けた。

ゆいにゃ、ちゃき、りあらも再開に再会が嬉しくなり、大粒の涙を流して全員泣いた。

鬼島もアシュリーも何が起こったのか分からない表情をしていたがようやく安堵した。

魔女王ホラー・ルシファーは何が起こったのか全て理解している様子だった。

出も何も話さなかったし、結局沈黙した。

どの道、人間の頭では理解出来ぬだろう。

アサヒナと鬼島としゅがーにはさっぱり分からず笑いつつも冗談交じりに聞いていた。

涙を拭いてりあらは持ち前の明るさで漠然と

だが自分達の身の回りで起こった事を話した。

「あのね!私とちゃきとゆいにゃとのぴね。宇宙服を着ないでね。

光速で宇宙へ行ったんよー!空気もあったんだよー。凄いでしょ!!」

しゅがーは目が点となった。

「あーそうなんだ!」と少し笑いながら答えた。

しかしふと気が付いた様子でちゃきは周囲を見た。

そして一言こう言った。

「あかん!のぴがおらへんと!」と。

残りの『おこさまぷれーと』メンバー3人は「ええっ!」と声を上げた。

 

キーンと言う甲高い耳鳴りの後に長い間、目の前が真っ暗になっていたが。

ようやく瞼の裏に人工の光を見出した。

『おこさまぷれーと』のメンバー達とはぐれていた『のぴ』はどこかで目を覚ました。

そこは見知らぬ天上のようだった。

天上には真っ白に輝く蛍光灯の明かりがあり。

自分は真っ白なシーツが敷かれたベッドの上に眠っていたらしい。

自分がどうしてここにいるのか?さっぱり分からなかった。

すると厳重なセキュリティロックから扉の外から男女の声が聞こえた。

「良かったね!あの子!ようやくあの地下室の真っ赤に輝く棺から解放された。」

「もう。ジョン・C・シモンズが言うには『鍵』の完全な封印は必要ないとか?」

「ああ、でも万が一の為に一応。彼の大きな屋敷の地下病室ごと

魔戒結界を施しているみたいだけどね。マルセロ博士も必要ないと言っていたが。」

どうやら自分は何処か大きな屋敷の病室にいるらしい。

と言う事は?ここはどこ?

こちら側(バイオ)の世界?現実(リアル)に帰って来たの?

のぴは白い服を着たままベッドの上から上半身をゆっくりと起こした。

周囲は真っ白な壁に覆われた長四角の部屋だった。

「すぐに。ある程度の検査を受けさせて

問題ないようなら聖ミカエル病院に移すようだ。」

「じゃ!直ぐに『おこさまぷれーと』の仲間達に再会できる!よかったー!」

それを聞いてのぴはようやくここが

元の現世・現実(リアル)のこちら側(バイオ)の世界だと分かった。

どうやら『おこさまぷれーと』のみんなも無事なようだ。

それにしてもここはどこだろう???

のぴはしばらくここがどこか考えていたが考え疲れてしまい。

そのまますやすやとまた休息の為に静かに眠った。

多分、あの『柳星張の宇宙』と『イリスオブジェクト』内で

『鍵』の力とかを使い過ぎたせいかも知れない。

とにかくやたら滅多に疲れがたまっていた。

さらに一時間後に目を覚ますとシーツの中に分厚い本があるのに気付いた。

彼女は目を擦り、シーツをまくって上半身を起こすとそこには

『シン・サイレントヒル福音書』が無造作に置かれていた。

やっぱりここは現実(リアル)なんだ。間違いない。

彼女はここが現世・現実(リアル)のこちら側(バイオ)の世界だと

ようやく確信が持てた気がした。その事実にとても嬉しくなった。

やがて病室の厳重な扉のロックが解除されて80歳の老人と

黒いスーツの20代の男が入ってきた。

80歳の老人は白髪でオールバックをしていた。

黒いスーツの若い20代の男は好青年だった。

「どうかね?気分は?」とマルセロ・タワノビッチ博士。

「何か体調に変化は?おかしな違和感はないかね?」とジョン・C・シモンズ。

のぴは2人の質問に対して首を左右に振って「何も無いです」と答えた。

「そいつは良かった。これで現世・現実(リアル)の世界が守られた訳だな。」

ジョンは「ようやく一安心だ」とマルセロ博士に言った。

「やれやれ。今回の一連の怪異はどれもとんでもなかったのう」

マルセロ博士は両手を上げて肩を大きくすくめて「やれやれ」と首を左右に振った。

「とりあえず君は特殊な検査を受けて貰う。君の精神や魂に異常が無ければ

肉体的な検査を聖ミカエル病院で受けてもらうよ。いいかい?」

のぴは黙ってうなずくとニッコリとジョンは笑った。

「では。早く帰れるようにさっさと検査を済ませてしまおう。」

のぴはマルセロ博士と医療関係者と共に

様々な精神と魂(?)の検査を受けさせられた。

それは丁度、健康ドックのようなものだった。

だから不安も消えて「なーんだ」とのぴは安心した。

ちなみに検査の結果は大体一般の主に精神科医がするような

精神的な健康状態だったそうだ。

こんな健康診断に何か意味があるのか分からなかった。

とりあえず精神と魂と共に健康でとても良かったと思っていた。

しかし他に何を検査していたのか?ふと少しだけ不安になった。

だけど『おこさまぷれーと』とメンバー達とリスナー様とチャンネル登録者さん達と

無事に再開できる喜びが勝ち、今はそちらに精神が向いていた。

またジョン・C・シモンズは聞き取り調査ではあの『最果ての砂漠』と

『地下洞窟での出来事』やクリス・レッドフィールド

ドラキュラ伯爵に出会った事。

また『柳星張の宇宙』と『イリス・オブジェクト』の

コア(核)の内でこの世界を書き換えた事を話した。

しかし唯一霧島マナラミエルの名前は秘密なのでちゃんと伏せた。

ジョンは例の『シン・サイレントヒル福音書ヱヴァンゲリヲン)』

について『新約聖書』のようなものらしい。ジョンはその話を聞いていた。

彼は両腕を組み、「実に興味深い」とつぶやいた。さらにのぴは話を続けた。

「君達はキリスト教旧約聖書新約聖書に続く新たな神話が創造されたか。」

と言うと黒いスーツの内側のポケットから一枚のタロットカードを取り出した。

それは最後のタロットカード『ユニバース・宇宙』だった。

さらにジョンは質問した。それは意外な質問だった。

「君はベルベットルームの彼。イゴールに会ったかい?」

のぴは驚いた顔をした後に「なんでわかったの?」と聞いた。

ジョンは大きく溜め息をつき、「やっぱりね」とつぶやいた。

「他にベルベッドルームに言った者は」とジョンは尋ねた。

「『ゆいにゃ』『ちゃき』『りあら』『十六夜咲夜(いざよいさくや)』がいた。

あと力を司る者としてニーナとヨナがいたっけ?」

「そうか。つまり彼女らが『命の答え』を見つけ出したのか?」

ジョンは両腕を組んで「成程」とつぶやいた。

更に続けて真剣な表情でのぴに質問した。

「君の魂と肉体に流れる血液から分離させたものだ。」

ジョンはコトン!と音を立てて長い試験官を金属のテーブルに置いた。

内部はDNAの螺旋状のチューブが上から下まで伸びて続いていた。

そしてDNAの螺旋状のチューブの中は銅色に輝く液体に満たされていた。

時折、液体全体が紫色に輝いたり、消失したりを繰り返していた。

液体をよく見ると銅色の粒子と灰色の粒子と紫色の粒子が上下に動き続けていた。

「これは君の魂と血液の内部に潜んでいた『宇宙の賢者の石』だ。

詳しく分析した結果、どうもこの

『宇宙の賢者の石』には原子核の中にある陽子がある。

のぴさんの『宇宙の賢者の石』には原子番号29の元素の『銅』と原子番号50の

元素の『錫(すず)』と原子番号26の元素の『鉄』の情報が内包された

元素回路の一種が組み込まれている。

今までの『オリジナル』の賢者の石や数種類の『変異型賢者の石』

とは全く異なった恐らくは伝説通りの物質だろう。

君が咲夜さんや多くの人々の魂と『おこさまぷれーと』のりあらさん。

ちゃきさん。ゆいにゃさん。しゅがーさんの魂を共鳴させた上で

『イリスオブジェクト』のコア(核)に

『ガイウスの槍』を突き刺した事で誕生したと。

我々は推測している。

そして現世・現実(リアル)のニューヨーク市内の

限られた場所にのみ雨の様に降り注いでいた。それは我々が回収した。」

「これはどうして?????共鳴?????私達が生み出したって????」

混乱して片手で頭を抱えるのぴに対してジョンは冷静に彼女の質問に答えた。

「共鳴とは大勢の人々の想いと祈りの力。

今回はそんな明るいものだけではないようだな。

大元は確かに膨大な量の『生きる意志』だ。だが暗い部分からも生まれている。

分かりやすく言うなら膨大な善意と膨大な悪意が。

うーんもう少し分かりやすく表現するなら『人々の想いと希望』

『原始的な欲望』が重なって生まれたものだ。

膨大な『原始的な欲望』とは『色欲』『原始的な欲望』が重なって生まれたものだ。

膨大な『原始的な欲望にして色欲と性欲に生きる強烈な陰我(いんが)』だ。

『人々の想いと希望』は暴走する『色欲』『性欲』を理性で抑制して

強烈な陰我の制御に成功した。だからこそ完全な物質になったんだ。

君もあの真っ赤に輝くイリスオブジェクトのコア(核)の中で

取り込まれていた裸の男女がしていた事を知っている筈だ!」

のぴはそれが何か思い当たり、一気に背筋が凍り付いた。もう思い出したくなかった。

『色欲』『性欲』なら。何をしていたのか口に出さなくても想像がついた。

続けてのぴが何かを悟ったジョンは口元を緩ませて笑った。

「人の魂の男女の『色欲・性欲』の力のみを凝縮させた上で『人々の想いと希望』

の力で完全に膨大なエネルギーを制御出来るとは流石に人間の心と言うべきか。

膨大な『色欲・性欲』の力は元の現実(リアル)をの世界を元通りにして

人間の男女や動物は君達の夜の営みと共にお腹に宿り。

そして生まれた状態で人間の個体を取り戻させた。

しかも暴走することなく完全な自然のシステムとしてね。」

のぴは驚いていた。

つまり世界が元通りになったのは『人々の想いと希望』のみで

は無くほとんどが『色欲・性欲』の力だった

事実を教えられ、どう受け止めたらいいのか?

さっぱり分からず口ををあんぐりと開けて黙っていた。

「君達によって皮肉だろうな。実は人間の感情が全てでは無く。

自然の『色欲・性欲』と言う原始的な本能。

いや我々、魔獣ホラーで言うところの『陰我』と呼ぶべきもののせいだとはね!

でもそれは生きると言う事でもあるのだよ。

君達、人間の中にある欲望も邪心の陰我も原始的な本能も

絶対に否定する事は出来ないものだ。当たり前の事実なのだからね。

人間にも我々魔獣ホラーにも普遍的な事実だからね。

幾らフェミニストを気取っても教育で性欲の『陰我』の話題を徹底的に排他しても

決して人間は性欲や色欲、そしてあらゆる邪心や欲望の陰我からは逃れられないんだ。

胸の谷間を強調する女性の絵を否定しようとも持論を展開しようともね。

エロティックは決して人間の男女から消えないし、

欲望や邪心の陰我も消えたりしない。

生き物でいる限り、人間でいる限りね。

ちなみに爆心地にいた『おこさまぷれーと』

の衣服も再生していたのは勿論、陰我とはまた別の理由だろうがね」

のぴはきっとそれはあのヱヴァンゲリヲン4号機のコア(核)の

中にいた霧島マナさんの気遣いのおかげだと思っていた。

そう考えると感謝の念が自然と湧いてきた。しかし・・・・今は・・・・。

「その『宇宙の賢者の石』はそのあとどうするんですか?」

のぴは勇気を出して質問した。

「君達人間が生み出した『宇宙の賢者の石』は我々魔獣新生多神連合にとって

かなり貴重かつ有用な物質だ。我々は研究して利用させてもらうよ。

『宇宙の卵』を産み出す我々の切り札の龍王エロースの実験の為にね。」

唯一神のなんだっけ?YHVAを抹殺する為だっけ?

「その通りだよのぴ君。良くそこに気付いてくれた。

我々はユダヤキリスト教系の唯一神YHVAと大天使と天使が

支配する神の国を消し去る為に活動している。

これも彼らの支配種を根こそぎ奪う為の大きな切り札となるだろう。」

のぴは彼のやりたい事に気付き、厳しい表情でジョンに詰め寄った。

「つまりそれを戦争の道具として使う?駄目だよ!もっと他に!」

しかしジョンもさらに厳しい口調で返した。

「僕は『あの時の屈辱を忘れない』。私は奴を殺すことにした。

悪いが今の瞬間でも僕は僕の決意は変わらないんだ・・・・」

ジョンとのぴはしばらく睨み合ったまま無言となった。

とても気まずい空気が部屋中を包み、沈黙が流れた。

間も無くしてジョンは自らの沈黙を破り、口を開いた。

「以上だ!これ以上君が知る必要はないだろう!」

「待ってください!私は・・・・あれをうみだしたものとして・・・」

ジョンはそこで一方的にのぴの主張を無視して話を切り上げようとした。

 

(第52章に続く)