(第19楽章)覚醒する悪魔召喚師のエチュード(前編)

(第19楽章)覚醒する悪魔召喚師のエチュード(前編)
 
聖ミカエル病院のアサヒナの病室。
しばらく鋼牙とザルバが話しているとベッドの上ですやすやと眠っていた
アサヒナ・ルナは静かに瞼を開けて、上半身を起こした。
「あのーカオルさん!この人達は?」
アサヒナが目覚めたのに気付いたカオルはホッと一安心した。
「良かった!意識が目覚めたのね!」
アサヒナは寝ぼけた表情で鋼牙とザルバを見た。
「この人達はだーれ?」
すると鋼牙とジルと魔導輪ザルバは短く自己紹介をした。
鋼牙はアサヒナに色々質問した。
アサヒナは鋼牙の質問にひとつひとつずつ答えた。
「君は第3の世界(真女神転生Ⅳファイナル)の
東京が大アバドンによって完全に消滅した際に
時空の中を魂のみで彷徨っていた時に……」
するとアサヒナは驚いて両眼を見開いた。
「えっ?大アバドンで東京が完全に消滅??
そうじゃないわ!でも違うわ!私の知っている歴史とは?」
「と言う事はどうなっている?」と鋼牙は魔導輪ザルバに尋ねた。
「恐らくあいつは俺様達の知っている
第3の世界(真女神転生Ⅳファイナルロウルート)
とは全く異なる道を辿った並行世界(パラレルワールド
の第3の世界(真女神転生Ⅳファイナルカオルスルート)から来たのだろう。
ややこしい話だがそうとしか考えられないぜ!」
「では?あんたのいた第3の世界
(真女神転生Ⅳファイナルカオスルート)はどんな世界なんだ??」
「えっと?私が知っているのは!大アバドンによる
巨大ブラックホールを発生させる為に無限発電炉ヤマトを
暴走させようとした大天使メルカバーは昔の仲間達が倒して。
そして私の仲間で幼馴染みの男の子で名前はナナシ。
彼が私達を裏切って魔神ダグザの人形から魔王ルシファーに
新しい命を貰って味方になった。私達を裏切って。そして東京の人々を支配して。
神が支配する東のミカド国を支配して。魔王ルシファーが支配する
『強い者だけが望むだけ変えられる世界』になったの。
でもそれは永遠の悪夢の世界だった。だから私が耐えられなかったの!
それでいつもの公園で泣いていたらそいつに出会ったのよ!」
「成程!そいつはどんな姿だった?」
「見た事も無い悪魔で頭から長い茎が生えた。
えーと灰色の種の姿をした奴で。名前がー。」
「まさか?エイリスか?」
「うん!そう名乗っていたわ!」
鋼牙の指に嵌められていた魔導輪ザルバは成程と何度も頷き、カチカチと口を開いた。
「エイリス!ホラーの始祖メシアの涙と呼ばれた強大な力を持つ太古のホラーだぜ!
奴は時空や時の流れを変化自在に操り、あらゆる時代に時空の裂け目を作り、
邪魔な人間、魔戒法師や魔戒騎士を異世界に引きずり込んだりする。
更にエイリスが完全に目覚めた際はあらゆる時代に
大量の素体ホラーの群体を送る事が出来る。
厄介な能力を持つホラーだぜ!恐らくカオルやアサヒナが異世界
もといこちら側(バイオ)の世界に現れたのも」
「つまりこちら側(バイオ)の世界に魔獣ホラーや並行世界(パラレルワールド
第3の世界(真女神転生Ⅳファイナルカオスルート)
の人物が現れたのも全てエイリスの仕業と言う訳か?」
「ああ、エイリスは他にも時空を彷徨っている
別世界の悪魔や神々を呼び寄せている事も考えられる。」
「成程!成程!つまり?こちら側(バイオ)の世界でBOW(生物兵器
やウィルス兵器以外の奇妙な怪事件の数々はエイリスによってここを訪れた
異世界の悪魔や神々の仕業だと言う可能性がある訳だ!」
「と言う事は?アサヒナ・ルナさんもエイリスに連れて来られた。」
「そうだから!あたしと同じように異世界から来たのね!
カオルはそうやって自分の頭を整理しようと色々思考を巡らせながらそう答えた。
しかしのちに暑くて頭がパンクしたのか?
「うううっ!」と大きく唸り、目を瞑り、頭に両手を当てたまま
思考が完全に停止し、動きはピタッと止まった。
「無理に理解しようとするな」と鋼牙は妻のカオルを気遣った。
アサヒナはベッドの上で鋼牙と魔導輪ザルバと
カオルの会話を聞いてまだきょとんとした表情をしていた。
間も無くしてアサヒナはハアーと溜息をついた。
「実は昨日の夜の白波不動産のモデルハウスで起こった事は。
あの、その。たくさんの見た事も無い悪魔達に襲われた時の事は余り覚えていないの」
「そうか!覚えている事だけでもいい。話せるか?」
鋼牙は落ち着いた穏やかな口調でアサヒナに聞いた。
するとアサヒナは静かに口を開き話し始めた。
「あの日、あたしは友達のカオルさんとニューヨーク市内の
不動産で管理している格安物件にを見に行ったの!」
 
回想・昨日の夜。
アサヒナとカオルは夜頃に白い大きなモデルハウスに行っていた。
その時に茶髪に笑顔がとても眩しい日本人の好青年・白波秀行に連れられてー。
それで坊主頭の男と黒いスーツを着た男4人。
しかも全員、白い肌でしゃべる度におかしかった。
メイド姿の胸元まで伸びた黒髪の女性4人もいた。
危険を感じたカオルがアサヒナを逃がそうとするが
彼らに取り囲まれて出る事が出来なかった。
カオルは直ぐに彼らが魔獣ホラーだとすぐに分かった。
そして黒いスーツの男は不自然な太い声で
「幸せそうな女二人だ!ほんと!うまそうだ!」
そう言うとニャリと笑った。さらにメイド姿の女は不自然な甲高い声で
「きっと!素敵な夢が見れたわね!」
もう一人の黒いスーツの男は「あの幼い女の子の魂が欲しい。」と言った。
続けてその一人の黒いスーツの男はニッコリと笑った。
カオルはしっかりと両手でアサヒの身体を抱きかかえ、必死に守ろうとした。
しかし、じわじわとアサヒナとカオルのところに包囲網を狭めていった。
「早速!食おうかな!ウフフフッ!」
カオルは完全に怯え切って、今にも泣き出しそう
になっているアサヒをしっかりと抱き締め、大声で叫んだ。
「この子に触らないで!倒してやる!」とカオルは絶叫した。
「この野郎!やっつけてやる!」と彼女は涙目で叫んだ。
続けて白波は2人の前に立つとその場に座り込んだ。
白波はまた眩しい笑顔でこう言った。
「心配ありません!幸せになれますよ!」と言うとまた立ち上がった。
その時、アサヒナは怯え切った表情で涙をぼろぼろと流し、ぶつぶつと呟き続けた。
「死ぬのは嫌!死ぬのは嫌!死ぬのは嫌!助けて!助けて!」
「さーてそろそろ幸せにしてあげましょう!」
やがて周囲にいた彼の配下の魔獣ホラー達は一斉に唸り声を上げた。
カオルは「やめてええええええっ!こうがあああああっ!」と絶叫した。
次の瞬間、突如天井を貫いて真っ赤な光の柱が
アサヒナに向かって落ちるのをカオルは見た。
周囲の魔獣ホラー達も白波も目が眩んで一斉に後退した。
やがて真っ赤に輝く光の柱はアサヒナの周囲から消えた。
しばらくアサヒナは無表情で沈黙していた。
周囲は完全に沈黙し、物音一つもしなかった。
間も無くしてアサヒナは静かにこう言った。
下級ホラーの寄せ集め共に…………この私が殺せるの?」
しかもその表情はさっきの泣き腫らして怯え切った表情とは異なり、無表情だった。
更に灰色の瞳は完全に見開かれていた。
 
さらにアサヒナの背中から巨大な影のようなものがフーッと現れた。
しかもその黒い影はやがて徐々に形を作り、それはー。
三角形の頭部。ひし形の両眼。
黄色の2対の牙が下顎から生えていた。
両肩には巨大な輪をした突起物が生えていた。
更に右側の巨大な輪の中には真っ赤に輝く炎があった。
また左側の巨大な輪には真っ青に輝く氷があった。
右側の分厚い鎧に覆われた胸部は赤色の体色だった。
左側の分厚い鎧に覆われた胸部は青い体色だった。
右腕は真っ赤な分厚い鎧に覆われていた。
右手には赤い細長い鉤爪が5本生えていた。
左腕は真っ青な分厚い鎧に覆われていた。
左手には真っ青な細長い鉤爪が5本生えていた。
また両腕は常に身体から分離しており、宙に浮いていた。
白波や周囲の配下のホラー達はあっけに取られ、それを見ていた。
「なんだ!陰我ホラーなのか?そんな……バカな……」
白波は目の前のアサヒナの背後に浮かぶ、壁を見て驚いた表情で見ていた。
そしてさっきの笑顔も消えていた。
続けてアサヒナは静かに口を開き、こう言った。
目障りなのよ………消えろ!」
アサヒナは左腕をブンと真横に振った。
同時に背中にいたホラーもまるで遠隔操作されているかのように
真っ青な分厚い鎧に覆われた左腕も真横に振った。
次の瞬間、彼女の左手とホラーの左手から絶対零度の冷気が大量に放たれた。
同時に周囲にいた白波の配下のホラー達、白い坊主頭の男も黒いスーツを着た男も
黒いメイド姿の女の8人の下級ホラー全員一人残らず氷漬けにされた。
後にバリン!バリン!バリン!バリン!バリン!と音を立てて
次々と粉々に肉体ががまるでガラスのように砕け、消滅した。
「バッ!バカな!私の配下がああっ!陰我ホラーめっ!このおっ!」
白波は自分が集めた配下のホラー達が瞬殺されるのを見て、思わず怒りの声を上げた。
「君は!私のやっている事が理解できないのか??
私はみんなを笑顔にしたんだよ!ほら!ほら!見ろ!見たまえ!」
そう言うと白波はコンクリートの床の上に落ちている大量のカードを指さした。
コンクリートの床に落ちている大量のカードは今までに配下のホラーと共に
捕食し続けた笑顔を浮かべた人間達の顔写真があった。
 
(第20楽章に続く)