(第54楽章)誕生・死の聖母にして死の聖女と地母神の帰還

(第54楽章)誕生・死の聖母にして死の聖女と地母神の帰還
 
「その名前を消し忘れた人って誰?」とジルは好奇心で魔導輪ザルバに尋ねた。
「名前はジャンヌの処刑執行人、ただ一人でー。『ジョロワ・セラージュ』だったな。
彼は魔神レミリアと魔人フランドールの血の儀式を見てこう言い残したそうだぜ!
『地獄に落ちるかのような激しい恐怖を感じた』とな。」と魔導輪ザルバは答えた。
「成程、言葉だけ残って本当の意味は違っていたのね。」
「そういう事だ!もう……あんたは……いや!何でもないっ!」
鋼牙はまるで何かを認めたくないと言った素振りでジルから視線を逸らした。
何故かジルはそれが分かっていた。
 
秘密組織ファミリーの本部に当たる大きなお屋敷。
白い清潔な白いタイルで覆われた医療空間である。
そこは狭い手術室とは別のもっと広い四角い医療器具も
何も置かれていない殺風景な部屋にいた。
シルクのいとこの女の子が赤い服と
ロングスカートを着た状態で部屋の中央に立っていた。
そして今の彼女は例のデモニックジーン(悪魔遺伝子)を殺すワクチン
『ダークエンジェル』の改良型を投与された事で
『神の奴隷にならない反逆者を悪魔に変える遺伝子を殺す一種の神殺しの能力』
を得たシルクのいとこの女の子をジョン・C・シモンズと
マルセロ・タワノビッチ博士は見ていた。
ジョンの右手には黄金に輝く魂(ある神の概念かあるいは精神性)を持っていた。
その黄金に輝く魂(ある神の概念かあるいは精神性)
は彼の掌でふわふわと浮いていた。
「本気かね?あの『死の聖女』『死の聖母』の地母神サンタムエルテに
新しい肉体を与えて。転生させるとは……」
「大丈夫さ!彼女は中南米地域で信仰されている。メキシコやアメリカ国境周辺でね。
それに今我々、魔獣新生多神連合の新たな柱になってもらう。
今。この場で必要なのは死を司る存在による奴隷の死の庇護なのだから。
特に東のミカド国にとってね!」
ジョンはそう言うとニッコリと笑い、シルクのいとこの女の子に向けた。
「君は今日今、一度だけ新たな地母神を産む母として役割を与えよう」
するとシルクのいとこの女の子は不安そうな表情でジョンを見た。
「それで?本当に家に帰してくれるの?」
「ああ、もちろんさ!僕は魔王ホラー・ベルゼビュートだ!
約束は必ず守るさ!我々の望む新たな地母神を与えてくれたらね!」
「約束よ!本当に約束よ!人間じゃない魔王ホラーの貴方を
信用してあげるから!本当に約束は守ってね!」
シルクのいとこの女の子は涙目でジョンにそう訴えた。
「勿論だ!ちゃんと約束は守る!安心したまえ!」
ジョンは右手に持っていた黄金に輝く高貴な魂(ある神の概念かあるいは精神性)
をシルクのいとこの女の子の下腹部の皮膚に当てた。
やがて黄金に輝く高貴な魂(ある神の概念かあるいは精神性)
シルクのいとこの女の子の身体の中に滑り込んだ。
そして黄金に輝く高貴な魂(ある神の概念かあるいは精神性)は胎内で彼女の
生命エネルギーである生体マグネタイドと例のデモニックジーン(悪魔遺伝子)
を殺す抗体とG変異株の抗体を全てを取り込み、転生し、自ら新しい肉体を形成した。
新しい肉体はいわゆる日本人とメキシコ人のハーフとして顔や容姿を変化させて
胎児としてまとまった。勿論、性別は地母神なので当然、女の子である。
やがてシルクのいとこの女の子は下腹部に痛みを感じた。
下腹部の痛みの余り、自ら両手で腹を押さえた。
更に彼女はその場に座り込んで涙目となった。
「うっ!ああっ!痛っ!痛いっ!うっ!あっ!産まれるの?ううっ!」
やがて彼女の下腹部が真っ赤な光に包まれた。
それはすぐさまシルクのいとこの女の子の全身を覆った。
間も無くして彼女の全身の真っ赤な光が消えた。
シルクのいとこの女の子は無意識の内に立ち上がった。
そしてその両腕に彼女の胎内を経て新しい存在として産まれ落ちた
地母神サンタムエルテの美しい胎児を抱いていた。
シルクのいとこの女の子は優しく美しい茶色の瞳で
地母神サンタムエルテの美しい胎児の顔を見た。
金髪と美しい茶色の瞳で顔は愛らしく可愛かった。
そしてジョンが見ると彼女の表情は宗教的な恍惚と歓喜の混じった
とても複雑な表情を浮かべていた。更に言うなら忘我状態だったと言おうか?
とにかく彼女は「神との合一」を一時的に果たす神秘体験をした。
まるで高名な聖女のイエスズのテレジアのように。
きっとこのシルクのいとこの女の子が経験した神秘体験は
彼女の今後の人生にどう影響するだろう?
願わくば今後、現実世界で僕以外の善き男と結婚し、人間の子供を産んだ時、
この神秘体験が良い方向に影響されるのを願い続けよう。
僕は人間ではなく魔王ホラーであるが故に。僕はあの子を幸せに出来ない。
だからせめて別の純粋な人間の男と子供を家族を作り幸せになって欲しい。
僕はディレックとは違ってちゃんと引き際も心得ている。
それがあの子にとって一番良く賢い選択なのだから。
当然、ジョンとマルセロ博士は今後の予定について話し合った。
そしてシルクのいとこの女の子は心配しているであろうシルクロード
他のメンバーの元へ帰す予定をある程度決めた。勿論、ちゃんと約束は守ったが。
同時に産まれたばかりの地母神サンタムエルテとも別れなければならないが。
これもやはり仕方の無い事だ。これ以上、
僕や秘密組織ファミリーに関わってはいけない。
でなければ彼女は危険に晒される事になる。
あのニューヨークで活躍中の日本のアイドルグループ『NYK48』
同メンバーの山田真帆が仲間のメンバーに依頼されてアイドルの
自宅住所や個人情報を転売するのを所業としているある男ともう一人の男に
自宅にまで押しかけられて暴行を受けたという痛ましい事件が起きている。
彼女も対立している大天使や天使達が危害を彼女に加えてくるかも知れない。
勿論さっき地母神サンタムエルテと一時的に合一した事によって彼女の能力と
技を母親に当たるシルクのいとこの女の子は手に入れたかも知れない。
しかしそれでも危険だ!何より僕は彼女に危害を加えたくない。
特に捕食なんてもっての他である。(どんな理由であろうと全てにおいて)
それに秘密組織ファミリーの構成員のシモンズ家の連中も私欲に目が眩んで
彼女に危害を加える可能性が無いとも限らない。
だから日本の家に戻すべきだし、そこが一番平和で安全なのだ。
勿論、魔王ホラーである僕は彼女との交わした約束は必ず守り通す。
そしてその胎児を抱いたシルクのいとこの女の子は母親として
茶色の瞳を通してまだ存在が不安定な地母神サンタムエルテを
彼女自身の観測の力によって存在理由を固着させて確定させた。
その事により地母神サンタムエルテは彼女の娘として女神として
存在する理由を自らの意志で与えた。名前も「地母神サンタムエルテ」である。
さらにジョン・C・シモンズは自らの魔王ホラーの力の一部を
地母神サンタムエルテの胎児に右手をかざして与えた。
そして地母神サンタムエルテの胎児はジョン・C・シモンズ
つまり魔王ホラー・ベルゼビュートを父親と認識した。
やがて魔王ホラーベルゼビュート事、ジョンに向かって
赤ちゃん言葉を交わし短い両腕を伸ばして甘え始めた。
ジョンはシルクのいとこの女の子に近付いた。
2人は揃って地母神サンタムエルテの胎児を見た。
まるで父親と母親のように。正し血は繋がっていない。
あくまでも霊的な繋がりがあると言うだけだ。
それでも地母神サンタムエルテの胎児は純粋な笑みで
2人の顔を見たのでまるで本当の父親のように嬉しくなった。
またマルセロ博士によればまだ成人化するのに時間が掛かるらしい。
 
ジルの自宅。
アリスとダーマとモトキはあの心霊現象の後もジルの部屋でパソコンに向き合い、
適度に休憩を取りながらまだあの『ファイブナイツアットフレディーズ2』
をプレイしていた。その時モトキのスマートフォンが鳴った。
一応、まだゲーム実況中だったので一度ジルの部屋を出て廊下で電話に出た。
電話の相手は意外にもあの失踪していたシルクのいとこの女の子からだった。
「もしもしジルさんのお宅ですか?えーとモトキさん?」
「ええっ!まって!(本名)さん?今何処にいるの?」
「それは言えないわ!言えないの!でも今日中には帰れるの。
それでだからシルクとンダホやダーマに今日会えるかも知れないって伝えてくれ無い?
心配をかけて御免なさい!!」
「あーうん!分かった!伝えておくよ!伝えておく!」
それからモトキは電話を切ると壁にもたれかけた。
続けて両瞼を閉じて声を長々と上げた。
「あーあー見つかって良かったなあーっ!」と。
それから今日中に帰れる事をダーマやアリスに伝えた。
「えーっ!(本名)さんが見つかったって?」
「良かったね!早くシルクさんやンダホさんにも知らせなきゃ!」
「そうだね!はあー良かったあーっ!」
その後、モトキはまだジルの部屋のドアを閉じて今度は
何処か別のホテルに泊まっているシルクのスマートフォンに電話を掛けて
シルクのいとこの女の子が見つかって、自力で今日中に帰ってくる事を伝えた。
モトキは「多分、ジルさんの家に来るんじゃないか?」と推測した。
シルクは「分かった!合流したらまた連絡して!」とやり取りをした。
その後、電話を切った。それからダーマもアリスもモトキも一応、
玄関の方とチャイムを意識しつつもとりあえず
『ファイブナイツアットフレディーズ2』のゲーム実況プレイをし続けていた。
 
ジルと鋼牙は全ての真実を話した後、人気のない廃工場から出て
再び自分の車に乗り、BSAA北米支部へ向かって車を走らせていた。
その時、ジルのスマートフォンから
BSAA代表のマツダ・ホーキンスから電話があった。
それによると良いニュースとして例の行方不明になっていたシルクのいとこの女の子が
秘密組織ファミリーの車に乗って、BSAA北米支部に構成員と共に来たそうだ。
彼らはシルクのいとこの女の子我々BSAAに引き渡すという形で保護したそうだ。
そして現在、医療施設で精密検査を受けて貰っている。
結果は肉体的、精神的にも異常は無く純粋な人間のままだった。
ただG変異株と未知の遺伝子(デモニックジーン・悪魔遺伝子)
に対する抗体が発見された。しかし彼女自身には影響はないらしい。
それで今、ニューヨークにいる家族のシルクロードさんに連絡して
ようやく無事に再会しました。それで全て正常なので
とりあえずシルクさんと共に仲間のいるホテルへ帰したそうだ。
 
(第55楽章に続く)