(第65章)怪獣世界は光と闇の世界

(第65章)怪獣世界は光と闇の世界

凛が見ると、デジタルカメラの画面に、呆れかえり、
今にも、いい加減にしろと言いたげな蓮の表情が見えた。
しかし凛は
「それは分かっているわ!けれど!それしか方法が思いつかないの!
蓮は我慢の限界に達したらしく少し大きな声で
「いい加減にしてくれ!怪獣世界はこの世に存在し無い!お前の想像の世界だろ!」
と思わず言った。
しかし凛は蓮の言葉を聞いて静かな声で
「ひょっとしたら?蓮君の言う通りかも知れない……あたしが想像した世界なのかも?」
すると蓮は少し笑い満足げな表情で
「だろ!人の想像の中にしか存在しないんだろ?現実的に考えろ!」
しかし蓮が現実的に否定すればする程、ますます考え込み、
凛は
「それなら!怪獣世界は人の心の闇と光なんだわ!」
蓮は
「つまり!お前が言いたいのは!光と闇の果てし無き戦場か?」
と呆れた顔で言った。さらに凛が何かを言う前に蓮は続けて、
「それじゃ!醜く怪獣化した彼女の姿は彼女の醜い心の姿!つまり破滅する場所の目印さ!」
と笑いながら言った。
凛は「キッ!」と蓮の顔を鋭い目で睨みつけた。
ようやく蓮の隣に来た洋子は
「蓮君!やめて!今!凛ちゃんは彼女を救おうと真剣に考えているのよ!」
と怒った。
蓮は
「OK!分かった!これからどうするんだ?」
と言いながらデジタルカメラ新約聖書のページを録画していた。
山岸は
「あっ!今!思い出したけど……ガーニャって?確か数年前の
カナダの大学で起こった凍死事件で宇宙人を最初に目撃した人だっけ?」
洋子は
「その話はもちろん知っているわ……色々雑誌や新聞にも出ていたわ!彼は有名人よ!」
蓮は
「なるほどね……サンドラとガーニャは知り合いな訳か?」
と腕組みをして考え込んだ。
 その時、「ガタン!」と言う物音が聞こえた。
蓮のデジタルカメラの光に洋子の
「どうしたの?」
と尋ねる顔が見えた。
山岸はデジタルカメラの光に照らされている凛に向かって
「いや?何か物音が聞こえた気が……」
と返した。
再び洋子が言った。
「何も聞こえないよ!」
再び蓮は
「いや……何か聞こえた気がする!もしかしたら!」
洋子は
「もしかしたら?」
蓮は
「いや!やっぱり何でもない……」
と自分の心の中にある疑惑と不安を否定した。
そのデジタルカメラの光に移された蓮の表情を洋子は心配そうな顔で見ていた。

 美雪が、4つに開いたヒレの内側を良く観察すると、鋭い歯が多数見えた。
瑞穂は特殊な電子顕微鏡でその鋭いカミソリのような多数の歯を拡大した。
美雪は
「これを使って男の衣服を引き裂くのね……」
続けて美雪はこう説明した。
「恐らく……これで全ての衣服をズタズタに引き裂いて裸にした後に……」
この8本の触手とは別の生殖用の太い触手を伸ばして急所に卵を産み付ける……
終われば自然に……その急所から抜けるのね。」
サミーは渋い顔をして
「酷いな……男達はこうやって卵を植えつけられ、急所に残った冷凍液で凍死するのか?」
と素直に感想を述べた。
「でも変ね」
「何がですか?」サミー。
「実はその肝心の生埴用の太い触手が何者かに切除された痕跡があるの」
「なんだって?」
その時、生きている4つに開いた触手は4つのヒレのついた口からグエッと青い液体を吐き出した。
青い液体は傍に置かれていた肉の塊を瞬時に凍らせた。
「これは?冷凍液?」
「そう、これの冷凍液は生殖行為以外に外敵から身を守る為の攻撃の手段よ」
「彼女はこれで男の下腹部を引き裂いて生殖行為を果たそうとした?どういう事だ?」


 急用を思い出した神宮寺博士は網走厚生病院の広場で周りを見渡し、
人がいないかどうか確認すると携帯電話を取り出し、国際電話をかけた。
 しばらくして男の声が聞こえた。
「もしもし?神宮寺博士?」
神宮寺博士は切羽詰まった表情で
「もしもし?とにかくやる事はやった!」
電話の男は
「ご苦労さんです!とにかく周りの人達に悟られてはいませんか?」
神宮寺博士は
「大丈夫の筈だ!さあ教えてくれ!『プロメテウス』計画とは何だ!」
と電話の男に尋ねた。
電話の男は
「まだ!詳しく!お話は出来ません!
その結果はサンドラの様子を見れば分るでしょう!
余計な邪魔も入りましたが!計画は順調に進んでいますよ!心配はいりません!」
と言うと電話を切ろうとした。
しかし神宮寺博士は
「ちょっと待ってくれ!切らないでくれ!ひとつ聞きたい!」
電話の男は
「なんですか?できれば手短にお願いします!」
神宮寺博士は
「サンドラのウィルスのワクチンはどうする?」
電話の男は
「ああ…その事ですか?それなら心配はいりませんよ!」
神宮寺博士は電話の男の意外な回答に動揺した様子で
「心配いりません?どういう事ですか?早くワクチンを作らないと!」
と大慌てで尋ねた。
電話の男は
「今更ワクチンを作らなくても。ワクチンを使わなくても自然に治癒しますよ」
と静かに返した。

(第66章に続く)