(終章)終章

最後のゴジラの自作小説です。

(終章)終章

 地球防衛軍本部特殊生物情報部の特殊諜報部の自動ドアが開き、覇王と蓮が入って来た。
 中央の椅子には特殊諜報部の責任者の波川玲子が座っていた。
波川は静かに
「それで?今回の黒幕の『第3の堕天使』について何か掴めたの?」
と尋ねた。
ハーブの紙巻きを吸う、ブロンドの女性が部屋の隅に立っていた。今度は彼女が尋ねた。
「第3の堕天使は存在しなかったの?」
「いや!確かに第3の堕天使は存在していました!」
凛はハーブの紙巻きの煙を吐きながら、
「でも?その黒幕の物的証拠は何一つ掴めなかった訳ね!蓮と覇王さん!」
覇王は凛の紙巻をちらりと見た。そのとたん、紙巻が勢いよく燃え出した。
「キャッ!」
と凛はいかにも女の子らしい叫び声を上げた。
「煙なんか吐かないで、熱線でも吐いたらどうだ」
と覇王が静かに言うと、凛は真っ赤になり
「パパッ!!」
「私語は慎んでください。で、回答は?」
と波川がたしなめた。
蓮が言った。
「私は、第3の堕天使の正体がロシア人の考古学者ジョアン・ハスチネイロ
である可能性を調査していました……実際、
この地球防衛軍本部でテロ行為をしたレイは黒幕の『第3の堕天使』
と思われる男に利用されていたと自ら証言していました!」
「でも?物的証拠は何一つ掴めず!結局その『第3の堕天使』の目的は謎のままかしら?」
とまだ顔の赤い凛が言った。
「それは!」
と覇王と蓮は食い下がろうとしたが、波川玲子は2人の発言を無視し、
「これからお互い蓮さんと覇王さんはコンビを組み!特殊生物犯罪調査部で
今後起こると予想される怪獣を使用したテロ事件や犯罪に立ち向かってもらいます!」
蓮は仕方が無く
「はい!」
と答え、
覇王も渋々
「ありがとうございます!」
と答えた。
波川が最後に
「今までの調査ごくろう!2人共!帰ってよろしい!」
と言うと、2人は軽く礼をして背を向け、自動ドアから出て行った。
 その後ろ姿を見送ったあと、凛も、次の仕事の会議があると波川に告げ、
中央の椅子に座っている波川玲子に蓮と覇王と同じく軽く礼をすると、自動ドアから外へ出て行った。

 真鶴にあるCCI特殊生物研究所の隣にある会議ドーム。
 ロシアの地球防衛軍代表で元CIA長官の若いロシア人と、
カナダの地球防衛軍代表で白髪のカナダ人が会議室の椅子に座っていた。
 他にも、ドイツの地球防衛軍代表でアメリカの元航空技師の中年のドイツ人。
オーストラリアの地球防衛軍代表でアメリカの元共同研究開発委員会会長のオーストラリア人。
 メガネを掛け、常に腕を組み、考えるポーズを
取りながら座っている日本人の元内閣官房副長官の金田トオルも座っていた。
 他にもケニア地球防衛軍代表で元ライト・パターソン空軍
基地空軍物資司令部の肌の黒いアフリカ人。
アメリカの地球防衛軍代表で元国防総省長官と思われる立派な服を着たアメリカ人。
 日本の生物学者でメガネを掛けた博学な日本人の神宮寺博士もいた。
 元アメリカ国家安全保障会議事務局長でこれもまた立派な服を着たアメリカ人が座っていた。
また不機嫌な表情で両腕と両足を組んでいるエバート大統領と
そのエバート大統領の様子を無言で観察しているエバート大統領の特別補佐官らしき人物がいた。
それから若いロシア人は
「これで『ミセスG』を含む12人全員が揃ったな!会議を始めよう!」
「さて?『ミセスG』君には、G血清を悪用して作り出した
M塩基破壊兵器に関する証拠をロシアの特殊部隊の『ウラヌス部隊』と共に全て隠蔽して貰ったが……」
と白黒の髪の混じった中年のドイツ人が尋ねた。
「さてさて?『ミセスG』!ロシアの『ウラヌス部隊』によれば!
あなたは途中で行方不明になったと聞いたが?何かあったのかね?」
と今度は肌が黒く体格のいいアフリカ人が上機嫌に言った。
しかし『ミセスG』事、音無凛はブロンドの髪をなびかせ首を左右に振り、
「何もありません……」
と返すとライターと紙巻きを取り出し、紙巻きの先端に火をつけ、
タバコを吸う様に口の中に含んだ。彼女のお気に入りのハ
ーブで作られた紙巻きのハバール・シガーレットである。
ただこのときは、吸ってもいいでしょうかと聞くことを忘れなかった。
「何だね?いつもどおりにしたまえ。さて、次の仕事の話を始めよう!」
と元アメリカ国家安全保障会議事務局長と思われるアメリカ人
が言った。
「君は地球防衛軍犯罪調査部から特殊生物情報部に昇進した訳だが、
実は内閣の関係者達が極秘に、とある東京の農場を実験地域に選び、
ゴキブリやレタスに付くアオムシの害虫駆除用の農薬の開発と装って、
裏でゴジラを殺す薬品の開発に着手していると、元内閣官房副長官の金田トオルにより、情報を得た!」
「つまり?それらを全て隠ぺいしてほしい訳ね!でも!
たかが数cmのゴキブリやアオムシを殺すのが精一杯の農薬じゃ
ゴジラは殺せないと思うわ!芹沢大助博士のオキシジェン・デストロイアを除いてはね!」
「だからと言ってゴジラを殺す薬品の開発を黙って見逃す訳にはいかないだろう……」
「大きい魚は稚魚から生まれますよ!まあ!
あのテロリストでレイと言うノスフェラトゥが盗んだ
ゴジラに関する極秘文章が収められたファイルも既に無事ペンタゴンに返還されている!
日本の地球防衛軍の活躍でね!そのおかげで信頼も少しずつ回復しつつある!」
と肌が黒いアフリカ人が未だに上機嫌なまま言った。
「この情報を地球防衛軍犯罪調査部の山根蓮に提供して
その未許可の農薬について調べさせ!その後、この事実が公にならない内に隠ぺいするんだ!」
と白髪の髪のカナダ人が言った。
凛は深いため息をつき口からふうーとハーブの紙巻きの白い煙を吐き出すと
「分かったわ!すぐにローランドの毒殺事件も明るみに出るでしょ?」
「ああ!もちろんだ!よろしい!今回のMJ12の会議を終える!」
と若いロシア人が言うと12人全員会議が終わり、それぞれ
「ガタガタ」と騒がしい音を立てて、席を立った。
 凛も紙巻きを吸いながら会議の椅子から立ち上がった。

 大勢のプロレスファンが集まり、東京ドーム全ての席は満員だった。
 洋子は新しくデザインし直された衣装を着て「コツコツ」
とブーツを鳴らし現れると、優雅にリングのロープを潜って、
大勢の観客に両手で投げキッスのサービスを何度もした。
 彼女の対戦相手は、前回の試合で洋子と戦い一時は彼女を追い詰めたものの、
反撃され敗れた日本人のプロレスラーと、
その仲間の『暗黒肉弾魔人』と恐れられる黒い肌の屈強な外国人プロレスラーだった。
仲間を連れて来た一人は
「おーい!仲間を連れて来たぞ!
今度こそプロレス界の俺達の実力を示してやる!」
とドラ声を張り上げた。
しかし彼女の返事は無かった。
すると『暗黒肉弾魔人』が
「おい!聞いているのか?どうした?今更、怖じ気付いたか?」
とせせら笑った。
洋子はその2人の様子を顔色一つも変えず、じっと見ていた。
 相手の2人のプロレスラーは洋子よりもやはりどちらも体格が大きかった。
 その一番手前の観客席には特殊生物犯罪調査部の残りの仕事を急いで終え、
地球防衛軍本部から真っすぐ東京ドームに来ていた山根蓮、
アメリカから帰国した山梨友紀と山岸雄介も見ていた。
音無凛は仕事で忙しく、来られないのでいなかった。
 ちなみに3人のプロレスのチケットは実は彼女から貰ったものである。
一番前にいた山岸は隣に座っている蓮にヒソヒソ声で
「ねえ?洋子ちゃん大丈夫かな?2対1だよ!」
山岸の隣に座っていた友紀もヒソヒソ声で
「本当に……洋子ちゃんよりも背が大きくて体格も良いプロレスラーが2人じゃ!完全に不利よ!」
「いや!まだ勝負は始まっていない!」
と蓮。
それからゴングが鳴り、相手プロレスラー2人の攻撃が始まった。
 まずはあの前回の試合で敗れたプロレスラーが鍛え抜かれた
筋肉を持つ両腕を振り、前回と同じく洋子の首に掴みかかった。
観客席では友紀が
「洋子ちゃん逃げてええっ!」
「ヤバイ!見てられないよ!」
と山岸は思わず顔をリングから背けそうになった。
「よし!懐をすりぬけろ!」
と蓮は大声を上げた。
リングでプロレスラーは洋子の首を
「掴んだ!」
と思った。
しかしプロレスラーが掴んだと思った自分の両腕を見ると洋子の姿は何処にもいなかった。
そして背後から
「その程度の攻撃は聞かないわ……」
と声がした。
 プロレスラーが振り向くと顔面に強烈なラリアットが入った。
彼は両腕で顔を押さえ、蹲った。
 その仲間のプロレスラーの様子を見ていた『暗黒肉弾魔人』は
「この女!」
と仲間と同じく鍛え抜かれた筋肉を持つ両腕で洋子に掴みかかった。
しかし洋子はその鍛え抜かれた両腕を両手で掴むと
そのまま両足を踏ん張り、プロレスラーの攻撃を受け止めた。
それには流石の黒い肌の屈強なプロレスラーも驚き、
「そんなバカな?チクショウ!」
とさらに洋子の細い両腕に力を込めた。
 洋子はズルズルと後方に下がって行く。
その様子を観客達は驚き、全員半狂乱で洋子を応援した。
 しかし洋子の首にかけている勾玉がリングの白いライトに反射し、
朱色とオレンジに静かに輝いた。
 その瞬間、突然、洋子の両脚が先程、鍛えたばかりの様に太くなった。
続いて、両腕も細い腕から少し太い筋肉のある両腕に変わった。
洋子は
「ウオオッ!」
と獣の咆哮を上げ、その黒い肌の屈強なプロレスラーを逆に押し返し、
リングの銀色の柱に叩き付けた。
 彼女に押し返された別の黒い肌の屈強なプロレスラーは
リングの銀色の柱に「ガツーン!」と騒がしい金属音を立ててぶつかり、
背中の激痛でその場に倒れ込んだ。
 洋子は牙を剥き出し、その黒い肌の屈強なプロレスラーを
威嚇するように「ガルル……」と獣の声で唸りながら、
顔面の痛みが癒えたばかりの別の日本人のプロレスラーの首を両腕で掴み、
グイグイ締め付け、持ち上げると勢いよく、投げつけた。
まるで前回の試合の恨みと言わんばかりである。
 プロレスラーはリングの床を転がり痛みで、動けずにいた。
 洋子はその隙を突き、その日本人プロレスラーを抑えつけ、3カウントを取り、見事、圧勝となった。
「洋子ちゃん!凄い!」
友紀は立ち上がり、何度も拍手を送った。
「大した強さだ……いつの間にあんなに強くなったんだ??」
と蓮。
「女は強くなると怖いな~」
としみじみと感じる山岸。
 それから洋子がリングの観客席の中央を見ると、
そこに赤い血の様な両目と赤い稲妻模様を持つ漆黒の翼を持つ怪獣が見えた。
洋子はその怪獣に笑顔を向け、周りの観客に
「やったわあああっ!」
と、両腕を上げ、東京ドームの天井に向かって勝利の咆哮を上げた。
その様子はまるで勝利の雄たけびを上げるゴジラを彷彿とさせた。
 しばらくして洋子は勾玉がなくなっていることに気が付いた。
そしてもう一度、赤い目の怪獣のいた場所を見ると、
そこに確かにいた筈の怪獣はもはや影も形も見当たらなかった。

(完)

次回作のゴジラの自作小説はまた構想段階ですが……気が向いたら書きます。
では♪♪