(第67章)美雪

こんばんわ畑内です。
ゴジラの自作小説を載せます。

(第67章)美雪

 蜂蜜と真っ赤な血液が混じったプールの中に沈められ、
溺れて気絶していた美雪の首に掛けていたインファント島の
十字架のお守りが数年ぶりに黄金に輝き始めた。
プールの端に座っていたマークは
「すまない……美雪……私には時間が無いんだ!
追手に見つかる前にこのGBT計画を終わらせなければ!」
とつぶやき、彼女が気絶したと分かるとシクシク泣き出した。
 水の中で気絶した美雪は真っ暗闇を彷徨っていた。
しかし目の前に光が差し、何処かの森でゴジラはジラと
ガイガンらしき怪獣と戦っているのがチラッと見えた。
 それからボルチモア市のホテルの部屋にローランドと
7人のロシア人らしき人物と金髪の男が立っているのが見えた。
 その金髪の男を見た時、驚きのあまり上ずった声で
「覇王君?まさか?帰って来たの?この地球に?」
再び場面が変わり、数人の研究員と北村に運ばれるサンドラや、
自分の娘の凛とその友達の洋子の様子が見えた。
 彼女は、見えたゴジラと覇王、サンドラ、娘の凛や洋子に助けを求め、獣の様な声で吠えた。
 ゴジラと覇王、サンドラ、凛、ジラ、ガイガン
美雪の吠え声に気が付いた様子で次々と視線を合わせた。
洋子も気がついているらしいが、今まで聞いた事の無い
得体の知れない怪獣らしき声に混乱し、神経質に陰気な廊下の周りを見渡した。
 しばらくしてプールの水面が再び、泡立ち始め、
ブハッ!と大きく深呼吸し、美雪の頭が水面から飛び出した。
マークは
「美雪?大丈夫か?」
と言い、両肩を掴み、力無く両手両足をダランとしていた裸の
美雪をプールの床から引き揚げた。
彼女は静かに目を開け
「なんて事をするのよ!」
と思わず怒鳴った。
マークは美雪の気迫に圧倒され
「すまない……」
と謝った。
しかし彼女の怒りは収まらず、マークを威嚇するように唸ると、
衝動的にアメリカ・コロラド州の大学の同級生で恋人であった
マーク・アーヴィンに牙を向けた。
 凛は急に何かを感じた様子で
「ママ??」
とつぶやくと、何処までも続く真っ暗で陰気な廊下の先に視線を向けた。
 洋子は先ほどの、今まで聞いた事の無い得体の知れない怪獣
らしき鳴き声に混乱し、神経質に周りを見渡し、
「どうしたのよ?……クスン……なんか怪獣みたいな鳴き声が
聞こえたけど……クスン……なんなのよ……クスン……」
凛は洋子の顔に視線を戻し、
「ママが……あたしに助けを求めた様な気がしたの……洋子ちゃんもママの声が聞こえたの?」
と洋子に尋ねた瞬間、遠くからマークの
「やめろおおっ!美雪!やめてくれええっ!
あの『第3の堕天使』と名乗る老人に頼まれたんだ!頼む!」
と言う絶叫が陰気な廊下に響き渡った。
そのマークの絶叫を聞いた凛は
「ママだわ!きっとそこにママがいるのよ!」
と言うなり、未だにクスクス泣いている洋子の左腕を掴み、
全速力でそのマークの絶叫がする方へ向かって走り出した。
 洋子と凛が首に掛けている勾玉と小さい鏡がそれぞれ黄金色
と青緑色に強く発光していた。

 覇王が整形手術に関する2枚の顔写真を見ると、
一枚目には、整形手術前のロシア人のレイの顔写真が、
もう一枚の写真には、レイの整形手術後の、日本人のアヤノに似た顔があった。
「そんな事はどうでもいい!これは?なんだ?」
と覇王に追及され、とうとうローランドは、日本の小笠原怪獣ランドに来る
5年前、ニュージランドの整形手術病院内に医師として潜入し働いていた事、
そこに日本人のアヤノそっくりのレイが現れ、
なるべくロシア人に似た顔に整形するように頼まれた事を素直に白状した。
すると覇王は
「どうしてロシア地球防衛軍に通報しなかったんですか?」
ローランドは苦笑いを浮かべ
「彼女は昔、私が交通事故で死にかけた所を
助けられた命の恩人だから!通報しないように頼まれたし!」
ロシアの『ウラヌス部隊』の隊長は恐る恐る覇王に
「どうするつもりですか?」
「とりあえず!すぐにローランドを日本の地球防衛軍の特殊犯罪調査部に
この2枚の整形手術の写真と共に引き渡そう!」
「そんな!現在日本の地球防衛軍本部は封鎖されていて!」
「特殊部隊に所属しているアヤノさんは、スパイとディスプレイ殺人の容疑で逮捕されています!
整形手術をした後レイが遠く離れた日本の地球防衛軍に来た可能性は考えられません!」
「この整形手術の2枚の写真は本当かも知れないのに??」
「しかし……その整形手術の結果は全く信じられません!」
「だったら、せめてその整形手術の2枚の写真とローランドは我々の特殊生物犯罪調査部に!」
それから長い間、覇王と7人のロシアの特殊部隊達は口論を続けていた。
「どうにも……『ウラヌス部隊』の作戦は腑に落ちない……」
「ちょっと待って下さい!今回の我々は美雪さんとサンドラの救出の為に、
彼をその極秘の地下研究所まで道案内させるよう司令官から命令を受けているんですよ」
「でも変だろ?この誘拐事件の真実を良く知っている犯人を
わざわざ銃撃戦で危険が予想されると思われる極秘研究所に連れて行くなんて!
それにこの整形手術の写真を放っておくことはできない!」
結局、ローランドは、覇王が携帯で呼び出した国際警察の手により、
2枚の整形手術の写真と共に日本の地球防衛軍の特殊犯
罪調査部に連行される事になった。
 『ウラヌス部隊』の隊長は呆れかえった表情で……覇王を見ていた。
 覇王と7人の『ウラヌス部隊』は3時間もローランドのホテルの部屋を捜索したが、
2枚の整形手術の写真以外はローランドから聞いた手掛かりしか掴めなかった。
その時、覇王は急に何かを感じた様子で
「美雪??」
とつぶやくとアパラチア山脈が見える窓の方に視線を向けた。
一人のロシア人は
「どうしたんですか?」
しかし覇王はすぐに窓からロシア人の顔に視線を戻し、
「美雪が……俺に助けを求めた様な……」
するとロシア人の一人は苦笑しながら
「まさか?テレパシーですか?」
覇王は冷静に
「……本能だ……彼女はあそこにいる」
とつぶやくなり、状況が呑み込めない『ウラヌス部隊』を連れ、
アパラチア山脈のシェナンド国立公園にある極秘研究所アルカドランへ向かって行った。

(第68章に続く)

では♪♪