(第54章)チェス

こんにちは畑内です。
ゴジラの自作小説を載せます。

(第54章)チェス

 蓮は放心状態の洋子を連れて一度自宅に帰った。
 蓮は台所に行き、食器棚からコップを取り出した。
水道で水を汲み、冷凍庫から氷を2個、取り出し、コップに入れると、洋子に手渡した。
洋子はおずおずと
「ありがとう……」
と言い、氷で冷やされた水を一気に飲み干した。
普通なら頭が痛くなる所だが、洋子は寒冷を好む宇宙人なので全く平気だった。
むしろ、熱い飲み物よりも、冷たい飲み物を飲んだ方が落ち着くのである。
蓮は熱いコーヒーを入れようとコップにコーヒーの粉をひとさじスプーンに入れながら
「瑠璃は?」
放心状態の洋子はようやく我に返り、
「あっ!瑠璃は……保育所に預けているわよ!」
「いつ?迎えに行く?」
「まだいいわ……」
と言いながら、昨日、瑠璃と遊んだままに置いてあるチェス盤に乗せられた9個の駒を茫然と見た時
「あの老人……『どんなに距離が離れていても必ず一か所に駒が揃う日が来る』
って言っていたわね……あたしもあの老人もこのチェスの駒の一人なのかしら?」
と馬の駒を手に取った。
蓮は棚からミルクの瓶を取り出し、蓋を開け、スプーンで
ひとさじ白い粉を熱いコーヒーの中に入れた。
洋子は老人が言った言葉を思い出そうと無言で考え込んだ。
しばらくして洋子の脳裏に
「ヤサカニノマガタマ……アトランティス大陸……朱雀の巫女……
邪悪な勾玉の一部で樟運佑作った生物の肉体に宿る朱雀の魂……」
「朱雀って何だ?怪獣の事か?」
さらに洋子は続けて
「『不安なら、君と同じアトランティス大陸の『北の玄武』の
前世の記憶を持っている音無凛を訪ねたまえ……』」
とつぶやくと、バタッと大きな音を立てて倒れたが、また急に洋子は立ち上がった。
蓮は驚きのあまり危うく、コーヒーを自分の清潔な白いズボンにこぼす所だった。
「急にどうした?」
とようやくコーヒーを飲みながら蓮が言った。
「だったら!行かなきゃ!」
「行かなきゃって?何処に?」
アメリカの友紀ちゃんの所!」
蓮は訳が分からずに
「友紀ちゃんって?まさか?あの勾玉を?」
「ええ!」
「貰った勾玉は、大分前に友紀ちゃんに偶然会って……凛ちゃんが持っているとか?」
「それなら……凛は確か?ボルチモアにいるっけ?」
蓮もコーヒーを飲み終え、コップを台所の流しに置くと
「ちょっと待てよ!君が言いたいのは……」
と言いかけた時、洋子は
「お願い……凛ちゃんと連絡を取って……あたしも全ての答えが知りたいの!」
彼女は心の中で
「もしかしたら、あたしに時々電話の掛って来る
ウリエル・バラードについて何か分かるかもしれない……」
と考えていた。蓮はしばらく腕を組み、考え込んでいたが、
洋子は少し大きな声で
「お願い!連れてって!あたしが行かないと……」
と必死に蓮に訴えた。

 地球防衛軍本部『スピーシ・バック』のアヤノが一人、轟天号で出撃する為に
地下ドックへ向かう途中、天井のスピーカーから自分の名前が聞こえた。
アヤノは呆れた顔で
「なんなの?これから出撃なのに……」
と思いつつも、指定された軍内の電話ボックスから電話に出ると、
相手はどうやらロシア人の女性らしい。
聞き覚えのあるロシア語で
「元気?アヤノさん!」
その聞き覚えのあるロシア語を聞いたアヤノは驚きのあまり
「まさか?レイ?あんた……ロシアの地球防衛軍本部に拘束された筈じゃ?」
静かにレイは軽い口調で
「それよりも!あなたに忠告して置きたい事があるの!」
「なんですって!」
「3年前北海道で!よくもあたしの身体に傷を負わせて大事なパートナーを奪ったわね!
その時の恨みはすぐに晴らしてやる!覚悟するがいいわ!」
「逆恨みのつもり?ふざけないでよ!」
とアヤノは思わず怒鳴り声を上げた。
すると急にレイの言葉が穏やかになり、
「ねえ……確かにあなた達、地球防衛軍に所属するミュータン
ト達は普通の人間よりも高い身体能力を持っていて!

軍人だから戦闘はプロ中のプロだけど……もし?
そのあなたが所属している地球防衛軍が内部から崩されたら?どうなると思う?」
「なにが言いたいの?」
「あなたも人間とX星人のハーフなら直ぐに分かるでしょ?

人間はね!疑り深い生き物なのよ!」
「まさか……あなた……地球防衛軍内部に何かしたの?」
「すぐに分かるわ……次の計画に大事なチェスの駒も全て揃えないといけないから!じゃあね!」
と言う言葉を最後に電話が切れた。
アヤノは受話器を戻し、軍内の電話ボックスの外へ出ると、
廊下を歩きながら轟天号の出撃準備のために長い髪を結び、メガネをかけた。
 その時、彼女の目の前に、特殊生物犯罪調査部と名乗る2人の男が現れた。
アヤノは動揺した様子で
「なんですか?今!轟天号に乗って出撃しないと!失礼したいんですけど……」
しかし一人がアヤノの手を捕まえた。
「何をするんですか?」
もう一人の特殊生物犯罪調査部は
「アヤノさんですね!先程……轟天号の出撃は中止されました!」
アヤノはますます動揺した表情で
「一体?どうして?」
「実は……緊急事態が発生しまして!」
「あなたに!ディスプレイ殺人の重要参考人として来て貰います!」
「そんな!ディスプレイ殺人に関わってなんていません!」
「いや!有力な目撃情報や物的証拠が掴めました!とにかく来て貰いましょうか?」
と言い、アヤノの両手に情け容赦無く手錠を掛け、無理矢理、
轟天号の地下ドックではなく特殊生物犯罪調査部へ連れて行った。

(第55章に続く)

大分、話が進んでいるのでそろそろまとめて終わらせなければ!
では♪♪