(第29章)門にして鍵

(第29章)門にして鍵

 再び東京とある閉鎖された空間。
「やれやれ困った事になった。」
ドイツの地球防衛軍司令官の中年のドイツ人は溜息を付いた。
「第2のフーパ。まさか我々が造り出した特別なG血清と自分の息子が造ったウィルスを利用して
物兵器ビジネスをしようとしていたとは。」
「しかし残念ながら彼は私理欲に目が眩んでいる余り、
このGコロニー計画その最終目的に気が付いていない。」
カナダの地球防衛軍司令官の白初のカナダ人は机に両手を組み、口を開いた。
「大戸島の島上冬樹氏が発見した洞窟の女性の遺骨の中に眠っていた初代ゴジラのクローンを利用し、
偉大なる異形の神、呉爾羅族を蘇らせ、我々は再びこの地球を支配するように準備を進めた。」
ケ二アの地球防衛軍司令官はニヤッと笑った。
金田トオルは気分が沈んだのか無言となった。
「どうしたのかね?トオルさん嬉しくないんですか?」
金田トオルは無言だった。
ロシアの地球防衛軍の司令官は大統領暗殺の名目でミセスGを動かした。
だからMJ12は彼を追放にした。
その理由はこのGコロニー計画の詳細を絶対に彼女に知られてはいけないからだ。
何故ならこの計画の詳細を彼女が知ったら彼女はこう考えるだろう。
このGコロニー計画 によって全人類やミュータント、ノスフェラトゥ達は
あの大戸島ビルのテロ事件以上の未曽有の恐怖を味わう事になるだろうと。

大戸島。
蓮、覇王、山岸、真鍋の乗ったレンタカーは大きな古い洋館に続く道路を走行していた。
山岸はカメラを真鍋に渡し、以前ル―シから貰った洋館の地図の裏に密かに書かれた文章を読んでいた。
文章は島上ル―シが万年筆で書かれたものだった。
「私は日本の地球防衛軍SBI(特殊生物情報局)の諜報員で凛の同僚です。
今……時間が無いから急いでこの文章で伝えます。
私はある権力者が秘密結社ドラクルを裏であやつり、同僚の凛さんを誘拐しようとしていた事を突き止めました。秘密結社ドラクル所属の医師が去年の冬に季節性インフルエンザの予防接種と偽り、
濃度が非常に薄い危険なウィルスを音無凛さんの体内に投与しました。
そして後日、血液検査で手に入れた血液サンプルから危険なウィルスに対する強力な抗体が発見されました。ウィルス兵器は軍事商品になる。しかしワクチンが無ければ高価な商品にはなり得ません。だから早くしないと。同僚の音無凛さんがどこかの極秘研究所に監禁される前に助け無いといけません。
でなければ彼女は抗体生産工場にされてしまいます。」
「………」
山岸は言葉を失い無言になっていた。
「何故?それを早く私に伝えなかったんですか?」
「いや、すいません。」
真剣な表情の蓮の言葉に山岸は複雑な表情を浮かべた。
山岸は何カ月か前に彼女と言い争いをした事をぼんやり思い出した。
凛は「これ以上あなたをテロ事件に巻き込みこみたくない」と言う理由で
自分の正体とテロリスト達が自分を狙う理由を話すのを頑なに拒み続けた。
しかし僕は凛の正体を何も知らず、そればかりか、もし彼女と子供が出来たらと思うと不安でたまらない。
僕は彼女と結婚前提で付き合っていたからその心配は当然なのだろう。
少なくとも彼女が自分の正体を語り、心を開いてくれないと僕は彼女を守れない。
 しかし、あの大戸島のモーテル風ホテルで凛はとうとう自分からこう言った。
「この事件が終わったら、今まで言えなかった自分の正体や
何故テロリスト達があたしを狙うか理由を話すわ。だからもう少し待っていて欲しいの。」
僕は彼女の真剣な口ぶりからして凛ちゃんの秘密はかなり危険なものだと悟った。そ
れでも僕は彼女の秘密が原因で命を落としたとしても。
まだ見ぬ彼女と子供の為に彼女の秘密を知りたい。
山岸は無言で車の中でそう思い続けた。何故なら彼は心の底から凛を愛しているからである。
 4人が乗ったレンタカーは洋館の敷地内の砂利道に停車した。
山岸と真鍋はカメラとマイクを持ち、車のドアを開けた。
その時、すぐ近くの茂みがガサッと動いた。
「なんでしょう?」
真鍋はすぐ近くの茂みを見た。再びガサッと動いた。
「離れて下さい!怪獣かも?」
蓮はメーサショットガンを両手で構え、慎重に茂みに近づいて行った。
覇王もメ―サハンドガンを構え、蓮の後に続いた。
そして茂みがガサガサと大きく揺れ、中から茶色の服と灰色のズボンの男が現れた。
その男は待ってくれと言う様に両手を振った。
「貴方は……」
山岸はその男に見覚えがあった。
そう、大戸島大学の寺川修教授の部屋の窓から見たあの裸の男の顔にそっくりだったのだ。
「島上冬樹さん?」
「そうです。」
男は答えた。
「一体ここでなにを?」
真鍋はマイクを島上冬樹に向けてそう言った。
「君はGコロニー計画が何なのか知っている筈だ。」
すかさず覇王はそう言った。
しかし蓮は覇王の肩を掴み、慌ててそう言った。
「覇王さん、早くしないと凛が。」
「待ってくれ、教えてくれGコロニー計画とは何だ?」
覇王は何故かそれを知りたがっていた。
山岸はカメラでその覇王の顔を映した。
しばらくして島上冬樹は答えた。
「MJ12の組織は女性の遺骨の中に眠っていた呉爾羅族を信仰している。
彼らは初代ゴジラのクローンとG血清を製造しました。
MJ12の組織が造り出した初代ゴジラのクローンは門であり鍵であるヨグ=ソトースです。」
「何ですかそのヨグ=なんとか?」
真鍋は彼の話しが全く理解できず、少し声が震えていた。
「初代ゴジラのクローンが本来の宇宙怪獣バガン由来のゴジラの姿に戻る事で
門の鍵が開かれ、呉爾羅が全身から放たれ、世界中に広がる。」
「そして僅かに生き残った全人類やミュータント達が呉爾羅族に変身し、放射能放射性物質
汚染される恐怖、凶暴な怪獣や宇宙人に襲われる恐怖から完全に解放される。
彼らは全ての恐怖を超越した神に近い存在になり、みんな幸せな世界になる。
島上冬樹は山岸が構えたカメラに向かってニッコリと笑いかけた。
「しかし。G血清は本来、怪獣化による突然変異を抑制させてコントロールさせるものでは?」
とすかさず覇王は反論した。
「ええ、……G抗体を持つ凛さん、蓮さん、覇王さんノスフェラトゥ達には投与不可能です……」
それだけ言うと島上冬樹は獣のような素早さで再び茂みの中に消えた。
その様子を見ていた覇王は両腕を組んだ。
成程、特別な……いやG血清は欺瞞だったんだな。そして恐らく特別なG血清の正体は。
何らかの方法でゴジラのDNAを組みこんだ生物兵器か何かだろう。
凛や蓮、ノスフェラトゥ達や私にはG抗体が存在するから例えゴジラのDNAを持っていた
としてもその呉爾羅の生物兵器は感染できないんだろう。
あの秘密結社ドラクルが製造した危険なウィルスのように。

(第30章に続く)