(第53章)帰還

(第53章)帰還
 
牙浪の世界。
ジルとクリスを向こう側(バイオ)の世界と
こちら側(牙浪)世界を繋げる結界を制作すべく。
数人の魔戒法師達は高原の草の無い広い
広場の地面にペタペタと貼っていた。
一方、邪美法師は魔導筆で五角形の模様を描いていた。
そして向こう側(バイオ)の世界と
こちら側(牙浪)世界を繋げる結界を制作している間は暇だった。
ジルは相変わらずドラキュラ伯爵の事を考えているらしく
神社の階段に座りこんで長い間物思いに耽っていた。
クリスはなんだか魔戒法師の卵である子供達の
元気な歌声が聞えたのでそちらに行ってみる事にした。
広い広場では鈴法師の優雅な指揮に合わせて魔戒法師の卵である
子供達が声を張り上げ元気な歌声を披露していた。
それは魔界語では無く日本語だった上に歌詞にも聞き覚えがあった。
向こう側(バイオ)の世界から流れて来たCDと歌詞を見つけたのだろう。
その歌はクリスも平成辺りから好きで見ていた
特撮の歌だったので良く知っていた。
その歌は仮面ライダーアギトだった。
仕事の合間に自分の端末機から仮面ライダーアギトをこっそり
隠れて見ていた事を思い出し、懐かしい気持ちになった。
そして仮面ライダーアギトの歌を懐かしさに
浸りながら最後まで聞き続けた。
 
バイオの世界。
いよいよ長い魔獣ホラーとの戦いを終え、
それぞれ元の世界に戻る時が来た。
烈花はクイーン・ゼノビアのホールの
床に描かれていた五角形の中央に立った。
そして魔導筆を胸の位置で構えた。
「ありがとうな。いや、すまなかった!
大変な事件に巻き込んでしまって。」
「そんな事、今更いいですよ。」
「いや、あんたがいなければ魔獣ホラー達ともまともに戦えなかった。」
「貴方が助けてくれたおかげです。」
クエントとパーカーは感謝の言葉をそれぞれ言った。
「こちらこそ!クエント、パーカー、元気にしてろよ!」
「もちろんさ」
「烈花さんも元気で身体には人一倍気お付けて下さい!」
「あっ!あああっ!そうするよ!」
烈花はクエントに急に声を掛けられ、戸惑った表情を見せた。
その時、パーカーはふと何かに気付いた。
「なんで?お腹を撫でているんだ?」
次の瞬間、烈花は僅かに顔面をピンク色に染めた。
これを見たパーカーは気付いてしまった。
ああ、マジかよ。気が付かなければよかったかな?
パーカーは呆れ顔でクエントを見た。
「いや、クエントは悪くないんだ!俺が!!」
「何を言っているんですか?貴方が悪い訳ありません!」
「はあー分かった!分かったから!この事は黙っといてやるよ!
真実も闇の中!それでいいだろ?そうだ!
ところで子供の名前はどうするんだ??」
するとクエントと烈花は同時に声を上げた。
「男の子でも女の子でも!名前は音速!ソニック……にしようと思う……」
パーカーは恥ずかしそうな2人を見てしばらくニヤニヤ顔をしていた。
それを見ていた烈花とクエントはほぼ同時にうーっ!と唸り声を上げた。
そして烈花は五角形の模様の中央に立ち、魔導筆を当てた。
気合を入れ、「はあああっ!」と大きな声を上げた。
やがて五角形はオレンジ色に発光した。
やがてクイーン・ゼノビアのホールはまばゆいオレンジ色の光に包まれた。
2人は眩しくて両目を覆った。
それから数分後、オレンジ色の光が止み、2人がホールを見た。
すると烈花の姿は忽然と消えていた。
ホールの床には五角形の模様が僅かにオレンジ色に光っていた。
「行っちまったな」
「寂しくなりますね」
「後はジルとクリスの帰還を此処で待ちましょう!」
「そうだな」
2人はホールの端っこに座りジルとクリスの帰りを待つ事にした。
そして合流したらこのクイーン・ゼノビアは向こう側(牙狼)の世界
の烈花や邪美、大勢の魔戒法師の手によって回収される。
多分、BSAAの回収部隊が急いで回収しに来ると思うが。
既に手遅れだろうな。
パーカーはそう思った。
 
牙浪の世界。
クリスとジルは閑岱の少し離れた高原の広場の中央に
絵描かれた五角形の模様をじっと見ていた。
やがて地面に描かれた五角形の模様がオレンジ色に強く輝き始めた。
「うわっ!光った!」
「大丈夫なのか?」
ジルとクリスはかなり心臓をドキドキさせながらも
そのオレンジ色に強く輝く五角形の模様を凝視していた。
やがてオレンジ色の光は強くなり、その場にいた
鈴、鋼牙、邪美、翼、我雷法師、媚空を初め、閑岱中の
魔戒法師の卵である小さい子供達や少年・少女達、
クリス、ジルは眩しさで両目を覆った。
それから数分後。
オレンジ色の光が止んだ。
ジル、クリスを初め、邪美、翼、鋼牙、我雷法師、
魔戒法師卵である子供達や少女達が見ると。
五角形の模様の中央に烈花法師が立っていた。
「成功じゃな!」
「はい!ありがとうございます!我雷法師!」
烈花は少し恥ずかしそうに我雷法師の元に歩み寄った。
我雷法師は何故か烈花の下腹部に掌を当てると両目を静かに閉じた。
その場にいた全員、何故?我雷法師が
そんな事をしたのか誰一人分からなかった。
やがて我雷法師は静かに目を開けた。
「うぬ!よろしい!お主の覚悟しかと確認したぞ!」
我雷法師は微笑んだ。
それからしばらくしてジルとクリスは五角形の模様の上に立った。
「お世話になりました。」とクリスとジル。
「元気でな」と邪美。
「元気にしろよ」と烈花。
「ジルさん!クリスさん!身体には気お付けてください!」と鈴。
「向こう側(バイオ)の世界に戻っても元気でのう」とゴルバ。
「お前たちとの日々は苦労も多かったが、楽しかった。
さらばだ!ジルとクリス!」とザルバ。
「また会うのを楽しみにしている!」と鋼牙。
そこに媚空を先頭に魔戒法師の卵の小さい子供達や
少年・少女達が集まりそれぞれ別れを告げた。
「元気でいてね!」
「これからも友達だよ!」
「また向こう側(バイオ)の世界のお話しをしてね!」
「魔戒騎士の訓練場に戻ったら!ジルお姉ちゃんやクリス兄さんの様に
『守りし者』として立派な魔戒騎士になる為に訓練頑張るよ!」
「弟の出雲の怪我の治療をありがとう!あたしも!闇の中で苦しんでいる
人達の魂を救える様な魔戒法師になります!」と媚空。
「達者でな!俺は媚空の弟の出雲を連れて、修練場に戻る。
そして若い魔戒騎士達にお前たちの活躍を話したいと思う。
その方が訓練の励みになると俺はそう信じている。」
「もう、お主の活躍は既に閑岱や
元老院の魔戒法師達や魔戒騎士達に知れ渡っている。
困ったものじゃ!今頃、大騒動じゃな。」
「まあ、それは一時的だ。いずれ騒ぎは収まる。」
翼は苦笑いを浮かべそう言った。
「では達者で!」
「ありがとうな!オートミールクッキ!」
「色々教えて貰ってありがとうございます!」
「健康に気お付けるのじゃぞ!」
「元気でね!ジル姉ちゃん!クリス兄ちゃん!」
「ではさようなら!ありがとう!」
「皆さんお元気で!」
やがて高原の広場の中央に描かれた
五角形の模様は再び眩いオレンジ色の光を放った。
全員は眩しくて両目を覆った。
それから数秒後、オレンジ色の光が止んだ。
やがて鋼牙達が高原の広場を見るとジルとクリスの姿は忽然と消えていた。
地面の五角形の模様はオレンジ色に僅かに光っていた。
「あーあー行っちゃったな!」と邪美。
「これから大仕事が残っていますけど。」と鈴。
「さよなら。みんな……」と烈花は小さく呟いた。
鋼牙と翼はハアーと大きく息を吐いた。
すると隣に立っていた邪美法師が鋼牙と翼をからかう様にこう言った。
「寂しんだろ?話し合い手が二人もいなくなってさ!」
「ああ、確かに寂しいが。」
「またいずれ会う事になるだろう」
翼と鋼牙は穏やかで少し寂しさの混じった複雑な表情を邪美に向けた。
「そっか!そうだよな!」
邪美は自然に笑みをこぼした。
するとその場にいた全員も自然と笑顔になった。
 
(次回いよいよ最終章に続く)