(最終章)平和

(最終章)平和
 
ジルとクリスは牙浪の世界とバイオの世界を繋ぐ異空間の中を漂っていた。
クリスにはオレンジ色に輝く道しか見えなかった。
ジルは暫くオレンジ色の輝く道を通っている最中、
何の前触れもなくいきなり脳幹への鋭い痛みに襲われた。
同時にキイイン!と言う甲高い耳鳴りが聞こえ始めた。
「うっ!なんなの?耳がっ!痛っ!」
しばらくそれが続いた末に彼女は灰色の不気味な遺跡内に辿りついた。
「ここは?何処?」
その遺跡の中は暗闇で恐ろしく冷たく陰気な場所だった。
「まさか?はぐれた?そんなバカな!」
更に遺跡の中の周囲の壁一面には旧魔戒文字で書かれていた。
「嘘……此処は……魔獣ホラーの遺跡?」
暫くして遺跡の中央の祭壇に置かれた大きな黒い卵が見えた。
更に黒い卵が置かれている祭壇の周囲では無数の素体ホラー達が
しきりに名状し難い甲高い声で何かを叫んでいた。
それは旧魔界語らしいが。意味が今一つ分からなかった。
しばらくして祭壇に乗せられた黒い卵が風船のように破裂した。
黒い卵から現れた人型らしき魔獣ホラーの幼体をチラッとだけ確認した。
その瞬間、再びジルの目の前をオレンジ色の光が覆い尽した。
 
バイオの世界・クイーン・ゼノビアの船首甲板。
パタパタパタとヘリコプターのプロペラが回る音が聞える中、
ジルとクリス、そしてクエントとパーカーはようやく合流した。
そしてカーク・マシソンが乗るヘリコプターに搭乗しようとしていた。
その時、ジルとクリスの無線機を通じてBSAA代表が連絡して来た。
「はい、ジルです。」
「クリスだ!BSAAの皆に心配をかけて申し訳ない。」
BSAA代表は安堵の溜息を漏らした。
クリスは多分、クイーン・ゼノビアの行き先の件。
自分達が失踪して何週間も行方をくらませた件で
かなり心身に堪えているのだろう。
それからBSAA代表はある調査を報告した。
「クリス、ジル、落ち着いて聞いて欲しい!」
「なんだ?」
「なんですか?BSAA代表!」
「オズウェル・E・スペンサーの行方が判明した。」
2人はほぼ同時に驚いた顔をした。
「残念ながら行方を調査中だ!だがこれは未確認だが。
彼はリカルドと言う情報屋からスペンサーの行方を知っているらしく。
スペンサーの屋敷に向かったと言う情報だ。」
「あいつが!」
「オズウェル・E・スペンサーの屋敷に行った!?」
「そう、これでスペンサーとウェスカーを
まとめて逮捕できるかも知れんと言う事だ。」
ジルとクリスはお互い顔を見合わせた。
そう、これはチャンスだった。
オズウェル・E・スペンサー。
ジェームス・マーカスとエドワード・アッシュフォールドと
共同でアンブレラ社を創設し、Tウィルスや始祖ウィルスを
利用した生物兵器の開発を極秘に進めていた。
いわゆる黄道特急事件、洋館事件、ラクーンシティ壊滅事件、
ロックフォート事件の全ての黒幕であり、元凶である。
彼はとあるヨーロッパの名門貴族の出身でアンブレラ社の統帥である。
彼はあらゆる人間を利用して始祖ウィルスを初め、
Tウィルスの実験体として次々と命を奪い続けた。
後の追跡調査でも世界中の大勢の人間達を誘拐し、
ウィルスの実験体として利用し、失敗もしくは利用価値が
無くなれば部下に命じてボロ雑巾の様に捨てさせていた。
それは違法な研究所を隠す為に洋館を設計・建築させた
ジョージ・トレヴァーを洋館の地下に閉じ込めて餓死させた。
更に彼の妻のジェシカとその娘のリサを始祖ウィルスの実験体にする事で
研究が外部に漏れないように始末して行った。
さらに共同研究していたジェームス・マーカスのヒルを利用した
Tウィルスの研究を全て取り上げた後に
研究仲間に命令して彼を射殺させた。
彼を射殺した仲間の研究者は
アルバート・ウェスカーとウィリアム・バーキンである。
しかしそんな彼もクリス達の活躍により、アンブレラ社が崩壊した後。
彼は表舞台から姿を消し、彼の消息はBSAAも掴んではいなかった。
ジルもクリスもアンブレラの総帥スペンサーを
逮捕するチャンスを虎視眈々と狙って来た。
最初の黄道特急事件、洋館事件が発生してから72年が経過し、
ようやく決着が付くのだ。
だが、クリスとジルはまず今回のクイーン・ゼノビアで起こった
不可思議な事件の調査報告をまとめる仕事が残っている為、
一度北米支部に戻るつもりだった。
そして鋼牙達に頼まれた通り、魔戒騎士野魔戒法師、
魔獣ホラーについては一切、報告書に記入しない事にした。
無論、闇を生きる彼らの秘密を守る為である。
もちろん口外も一切禁じる誓いを既に立てていた。
クリスとジルはヘリに乗り込んだ。
続けてパーカーもクエントも乗り込もうと歩き出した。
しかしふとクエントは足を止め、名残惜しそうに
クイーン・ゼノビアの船首甲板から船を眺めた。
その船の上は丁度、展望台のあった船の上部が正面から見えていた。
するとパーカーはポンとクエントの肩を叩いた。
「なーに、また会えるさ!」
「そうですね。」
クエントは笑った。
そしてパーカーがヘリに乗り込んだ直後、クエントは
ふと自分の無線機を烈花法師から返して貰う事を忘れていた事を思い出した。
だが彼は「まあいいっか!」と言う表情をした。
「おい!見ろよ!」
ヘリのパイロットのカーク・マシソンが声を上げた。
ジル、クリス、クエント、パーカーが
ヘリの窓から外に映る景色は澄み渡った青空だった。
更にクイーン・ゼノビアの方を見ると異変が起こっていた。
突如、クイーン・ゼノビアの船全体がオレンジ色に発光した。
オレンジ色の発光は強くなり、
ジル、クリス、クエント、パーカーは両手で目を覆った。
やがてオレンジ色の発光が収まる頃にはクイーン・ゼノビア
バミューダ・トライアングルの海域から忽然と姿を消していた。
「おい!どうなっているんだ!消えちまったぞ!」
「ああそうだな」とクリス。
「さあ、時空が不安定だからじゃないか?」とパーカー。
「時空と言うより次元でしよう」とクエント。
「そうね」とジル。
またジルは北米支部に戻ったら
一回家に帰って父親に話さなければならない事があった。
それは今回の事件で知った
自分の母親の正体と母親にまつわるある真相について。
後は自分の母親の霊に会って話をした事を色々とにかく話したかった。
だが彼女はあの魔獣ホラーの遺跡の事も
黒い卵の事も父親にも誰にも話さない事に決めた。
そしてカーク・マシソンが操縦するヘリプターは澄み渡った青空と
昇り続ける太陽をバックに徐々に空の彼方に消えて行った。
 
牙浪の世界。
「あっ!ヤバイ!」
森を邪美と一緒に散歩していた烈花はある事を思い出し、酷く焦っていた。
「クエントに無線機を帰し忘れたあああああっ!」
彼女は我を忘れて森の中で叫んでいた。
「どうしよう!邪美姉!
クイーン・ゼノビア元老院の所に行っちゃったし!」
我を忘れ、大慌てで邪美と森の周囲をキョロキョロ見渡していた。
邪美はハハハハハッ!と笑った後、こう言った。
「なんだい?そんな事かい?また再開したら返せばいいじゃないか?」
烈花は邪美の言葉を聞き、ようやく我に返った。
「あっ!そうか!」と。
翼は再び魔戒騎士の修練場に戻った。
そしてレギュレイスや他のホラー達が時空の歪みから復活した事。
自分や鋼牙達と共に戦った勇ましい異世界から来た人間達と共に
魔獣ホラーやレギュレイスに立ち向かった話を子供達に話して聞かせた。
彼は魔戒騎士になる子供達を教育し、厳しい修行をさせ、
立派な魔戒騎士に育て上げる重大な仕事だ。
それは大変だが、大変やりがいのある仕事であり、天職だった。
一方、鋼牙もようやく元老院に立ち寄った後、自分の屋敷に帰って行った。
そして屋敷の玄関のドアを開けると少し白が入った黒髪と髭。
丸いメガネを掛けた黒い服の紳士の男が出迎えた。
「おかえりなさいませ!鋼牙様!」
彼は冴島家に代々仕えている執事のゴンザである。
続けてパタパタと音がして階段を降りる音が聞えた。
暫くして玄関に一人の若い夫人が立っていた。
かつて鋼牙に魔獣ホラーの魔の手や様々な事件から命を掛けて守り抜き、
ようやく結婚し、子宝に恵まれ、幸せいっぱいの彼女こそ。
御月カオル。鋼牙の恋人であり、現在は妻である。
「おかえーり、長かった!もう早く帰って来るって!」
「すまない、思いの他、帰って来るのが遅くなった。ただいま!!」
更にゴンザとカオルの隣には居候の不道レオが立っていた。
「おかえりなさい!大変でしたと聞きました!」
「ああ、大変だったよ!でも、ようやく仕事が片付いた。」
こうして向こう側(バイオ)の世界と
こちら側(牙狼)の世界に平和が訪れたのであった。
 
(牙浪バイオハザード・伯爵騎士編・完結)
 
最後のおまけ。
牙狼GARO第一期のエンディングテーマ。
『僕が愛を伝えて行く』
歌っているのは第一期の京本正樹さんがプロデュースした
牙狼GAROの出演者達で結成されたGAROプロジェクトです。
最後のおまけをゆっくりと楽しみください。
本当に長い間、牙浪バイオハザード・伯爵騎士編を
読んでくれた皆さん!!
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本当にありがとうございます!!