(第38章)決戦

(第38章)決戦
 
牙浪の世界・真夜中の閑岱の広場。
ジル、鋼牙、邪美、翼、クリスはそれぞれ武器を持ち、
周囲の真っ暗闇に覆われた木々を長い間、睨みつけていた。
空は既に日が落ち、夜になっていた。
明日は白夜の決戦の日、そうレギュレイス一族が復活する日だ。
恐らく奴は広場の社の中に奉納してある『鷹燐の矢』。
もしくは一族復活の生贄になる魔戒法師を
狙って出現する可能性が高いかも知れないとゴルバは推測した。
翼は白夜槍を緊張した様子でギュッと強く握った。
「どうした!来るなら……来い!」
クリスは小さな声で呟くと両手で改造
ぺイルライダーを構え、額に脂汗を滲ませた。
邪美も両掌に汗を滲ませつつも両腕で魔導筆をしっかりと構えた。
鋼牙は緊張した様子は無く堂々と広場の真ん中に仁王立ちになっていた。
しかも真剣な表情で周囲の暗い森の奥を見据えた。
その時ザルバがまるで警告音の様に大きな声を上げた。
「来たぞ!奴一人だ!」
ザルバの言葉に一斉に鋼牙、翼、邪美、クリスは反応した。
そして全員、ザルバが赤い目で見据えている方角を見た。
茂みがガサガサと大きく揺れた。
茂みを左右に掻き分け、巨大な傘を被り、
茶色のボロ布を着た大男『レギュレイス』が現われた。
クリスは先陣を切り、改造ぺイルライダーの引き金を何度も引いた。
鋭い銃音と共に10発のホラー封印の法術が
施された銃弾が銃口から次々と放たれた。
レギュレイスは耳まで裂けた大きな口を開けた。
そして口内から無数の棘に覆われた長い舌を伸ばした。
無数の棘に覆われた長い舌は弾丸よりも早く上下左右に動いた。
同時に飛んで来たホラー封印が施された
10発の銃弾を次々と撃ち落とした。
続けて鋼牙が両手に構えていた魔戒剣で切り掛った。
レギュレイスは真上から大きく振り降ろした魔戒剣の下部の刃を
右手の2本の青白い指でピッと受け止めた。
続けてレギュレイスは左手の拳で鋼牙の
顔面を左右に轟音を響かせ殴り続けた。
流石に魔戒騎士の最高位の黄金騎士ガロの
称号を持つ鋼牙といえどもレギュレイス
の凄まじい拳の一撃は重く、ノックアウト寸前まで追い込まれた。
レギュレイスは右脚を振り上げ、鋼牙の下顎を蹴り上げた。
鋼牙は空高く吹き飛ばされた。
しかし空中で後転し、地面にしっかりと両足を付け、着地した。
鋼牙の横を疾風の如く駆け抜ける白と赤の影が見えた。
そう、山刀翼である。
翼は両手に白夜槍を構え、レギュレイスに突進した。
レギュレイスは慌てず冷静に右腕で翼の持っている白夜槍を弾き飛ばした。
その後、翼の襟首を掴み、軽々と持ち上げた。
続けて拳で翼の下腹部を何度も豪快に殴り付けた。
翼は下腹部から腰まで激痛と共に衝撃が貫くのを何度も感じた。
レギュレイスは自らの巨大な傘を取った。
そして巨大な傘を容赦なく翼の脳天に叩き付けた後、
気絶してぐったりとした翼をまるでボロ雑巾の様に投げ捨てた。
「翼!この野郎!」
「待て!無茶をするな!邪美法師!」
邪美は鋼牙の警告が耳に入らず、魔導筆を構えた。
『巨大棘』と言う文字を描いた。
このまま串刺しだよ!
邪美はそう思い、ハアアアッ!と気合を入れた。
『巨大棘』と書かれた文字から巨大な三角形の鋭利な棘が一本発射された。
それはレギュレイスに向かって一直線に飛んで来た。
レギュレイスは自らの巨大な傘を盾にする様に両手で構えた。
巨大な棘の先端はレギュレイスの巨大な傘に直撃した。
そして巨大な茶色い傘の表面は激しく擦れ、
摩擦熱でオレンジ色の火花を散らした。
レギュレイスは思いっきり、
巨大な傘を巨大な鋭利な棘の先端に強引に押し付けた。
すると鋭利な棘の先端から全体まで一気に粉々になった。
レギュレイスは巨大な傘を降ろすと青白い掌でパンパンとはたいた。
すると巨大な傘に乗っていた巨大で鋭利な三角形の棘の
細かな破片がパラパラと地面に落ちた。
そして自ら巨大な傘をギュッギュッとしっかりと被り直した。
ジルが短いソウルメタルの棒を振り、大きく飛翔し、躍り掛った。
レギュレイスはいつの間にかソウルメタルを操れる様になった
ジルの姿に驚いたものの、目にも止まらぬ
速さで右腕を大きく外側に振った。
レギュレイスの右腕はジルの横顔に直撃した。
彼女の身体はそのまま真横に吹き飛ばされ、地面に墜落した。
最後にレギュレイスは黄色に光る眼で邪美法師を見た。
そして口元を緩ませ笑った。
邪美法師は再び魔導筆を天に掲げた。
レギュレイスは大きくジャンプし、
目にも止まらぬ速さで邪美に突進して来た。
邪美はすぐさま回避の体勢を取ったが間に合わなかった。
レギュレイスは邪美の真横を通過した瞬間に青白い右手を振り、
彼女の首筋に強烈なチョップを喰らわせた。
瞬時に邪美は意識を失い、うつ伏せに地面に倒れた。
「邪美!」
鋼牙は邪美を取り返そうとレギュレイスに突進した。
レギュレイスは「邪魔だ!」
と言わんばかりに再び拳で鋼賀の顔面を殴り飛ばした。
続けてようやく意識を取り戻した翼も起き上がった。
レギュレイスの背後で倒れている
邪美を見ているの見るや否や翼は激昂した。
「貴様ああああっ!」
凄まじい声で絶叫した後、翼はレギュレイスに突進した。
レギュレイスは平然とした表情で右脚を勢い良く振り上げた。
レギュレイスの足の爪先は翼の下顎に直撃した。
翼の身体は天高くロケットの様に打ち上げられた後にうつ伏せに落下した。
レギュレイスはうつ伏せに倒れて失神している
邪美を軽々と抱え上げ、自分の肩に乗せた。
邪美はまだ失神しているらしく両瞼を固く閉じ、
両腕と両脚をダランとしていた。
「コノナザレロボウシヲドリモドジダゲレバ!
オウリンノヤボモッデ!アノバジョ二ゴイ!」
鋼牙、翼、クリスには日本語とは異なる言葉の魔界語で聞こえた。
しかし不思議な事にジルだけははっきりと
魔界語が日本語として聞えていた。
「この魔戒法師を取り戻したければ!
鷹麟の矢を持って!あの場所に来い!」
なんで?魔界語の意味がこんなに速く簡単に理解できるの?
まさか?ドラキュラのせい?
レギュレイスは地面を蹴り、大きくジャンプして夜の闇夜に消えた。
「くそっ!邪美!」
翼はおぼつかない足取りで立ち上がりレギュレイスを追跡しようとした。
邪美を!邪……美……を……かえ……」
翼はその場で力尽き、地面に倒れ、再び気絶した。
「鋼牙!恐らく奴は!」
「分かっている!恐らく奴は
邪美を生贄にして一族を復活させるつもりだ!」
「くそっ!相変わらずとんでもない野郎だ!」
クリスはレギュレイスの圧倒的な怪力とスピードの高さに舌を巻いた。
「あたし……あいつに一撃もダメージを与えられなかった……」
ジルはがっくりと頭を下げた。
鋼牙は励ます様にこう言った。
「いや、おまえはよくやった!」
「まだまだ未熟者よ!」ジル。
「これからどうするんだ!」とクリス。
「とにかく明日、白夜の闘いに備えなければ……」
鋼牙は夜の闇世に光る満天の星を見た。
 
バイオの世界。
「なんだって!邪美姉がレギュレイスに
連れ去られた?それは本当なのか?」
数時間前に向こう側(バイオ)の世界に到着したばかりの烈花法師は
無線を通してクリスから邪美が
レギュレイスに連れ去られた事を聞かされていた。
「なんで?邪美姉なんだ?なんで……」
「ザルバによれば!どうやらあいつは過去に復活した時の
闘いで邪美法師に鷹麟の矢の力で一時的に追い詰められた事を
未だに根を持っているらしい。つまり怨恨による復讐さ!」
  怨恨による復讐?」
「まさか過去の闘いを覚えていたとはな……」
過去に邪美法師は新たな力を吹き込んだ鷹麟の矢を使い、
レギュレイスの動きを封じ込めている間に
牙浪剣でレギュレイスの身体を切り裂いた。
その後、鋼牙達の活躍で一度、レギュレイスは封印された。
しかし時空の歪みで再び復活した際にレギュレイスは
その出来事を昨日の様に覚えていたのだった。
「心配しなくていい。邪美法師は必ず俺達が取り戻す!約束する!」
「頼んだぞ!明日!俺達も頑張るからな!」
それから無線が切れた後、烈花は無線機をクエントに返した。
「レギュレイスって意外と執念深いんですね。」
クエントはレギュレイスの執念深さに驚きつつも大きく溜め息を付いた。
「お―い手伝って
手伝ってくれ!武器に鋼の牙を貼るぞ!」
「分かりました!今!烈花さんと行きます!」
烈花とクエントはパーカーの声がした方に向かって駆けて行った。
明日、果たして鋼牙達はレギュレイス一族の復活を阻止できるのか?
 
(第39章に続く)