(第31章)安全

(第31章)安全
 
閑岱の魔戒法師の練習場になっている広場。
「あれは何?」
ジルが白く輝く無数のアルファベットの
文字の塊を指さしたので烈花はこう答えた。
「あれがセディンベイルの本来の姿だ!」と。
やがてアルファベッドの文字の塊は急激に変化した。
それは全身が紫色の体色にオレンジ色に輝く
模様を持つ人型のホラーだった。
頭部には4本の角と仮面のような顔には
オレンジ色の2本の縦線が付いていた。
両手はオレンジ色に輝く不定形な塊が絶えず蠢いていた。
「クソっ!せっかくあの女の肉体は気に入っていたのに!」
セディンベイルは両腕を組んだ後、両腕を大きく広げた。
すると再びアルファベットの文字の塊に変化した。
さらに文字の塊はまるで単細胞の様に分裂した。
続けて多数のアルファベットの文字の中で
DとOを組み合わせた文字の一つがOの文字の部分を高速回転させた。
更に猛スピードで烈花の身体に切り掛った。
烈花は2つに組み合わさった文字を魔導筆で弾き返した。
続けて烈花は巧みに次々と襲いかかるABCEFGの文字を
上下左右に魔導筆を振り、弾き返して行った。
しかし本体の文字を攻撃しない限り、ダメージは一切与えられない。
烈花はパタパタと飛び交うアルファベットの文字を
鋭い茶色の瞳で睨みつけていた。
やがて多数のアルファベットの文字とは全く異なる文字を見つけた。
その文字はRに限り無く近い形でオレンジ色に発光していた。
「見つけたぞ!旧魔戒文字!あれが奴の本体だ!」
その時、ガサッと大きな音と共に白いスーツの男が草むらから飛び出した。
白いスーツの男は地面を力強く蹴り、まるで疾風のように駆け抜けた。
そして瞬く間に烈花とジルを追い抜き、魔導書のページを開いた。
白いスーツの男はオレンジ色に輝くセディンベイルの本体の
旧魔界語の文字を右手で掴むと左手に持っていた
魔導書のページに思いっきり叩きつけた。
白いスーツの男は魔導書のページを大きな音を立てて閉じた。
その後、両脚でブレーキを掛けた。
暫く白いスーツの男は土埃を上げ、地面を滑走した後、止まった。
ジル・バレンタイン氏!烈花法師!
こんばんは!いや、はじめましてかな?」
突然、草むらから現れたドラキュラは恭しく2人に向かって頭を下げた。
「お前がドラキュラ伯爵か?」
「いかにも私がドラキュラ伯爵だよ。」
「貴方がドラキュラ伯爵?魔獣ホラーだったの?」
「その通り、ある意味、本物のドラキュラ伯爵とは私の事だ!
さて!烈花法師!これはお前達魔戒法師にとって必要な魔導書だろ?」
ドラキュラ伯爵は右手に持っている魔導書を烈花法師に見せた。
「ああ、セディンベイルは魔界について深い知識を持っている。
だから俺達、魔戒法師達はセディンベイルの深い魔界の知識を得る為に
魔戒騎士も承知の上で真魔界に送る小さな剣の中で
は無く魔導書に封印するの留めた。」
「その通り、それに魔導書に封印され、
しかも邪美法師の2番弟子の君がこの魔導書を
所有していればセディンベイルの安全は保障されたものだ。」
「お前!最初からそれを狙って?」
「御察しの通りだよ。レギュレイスは危険だからね。」
「魔獣ホラーにも仲間思いの奴がいる訳ね。」
「私にとってセディンベイルは大事な家族であり!仲間だ!
お前達人間共が我々を幾ら凶暴でおぞましい人
を喰らう化け物だと思ってもね。」
「貴方達は忌まわしい人類の敵よ!でも……」
「ジル!奴の言う事を余り深く考えるな!惑わされているぞ!」
烈花はそうジルに警告した。
「これは返すぞ!実際これは借りたものだからね。」
ドラキュラはセディンべイルを封印した魔導書を烈花に向かって投げた。
烈花はそれを両手で受け止め、黒い魔導衣の懐にしまった。
直後、ドラキュラは目にも止まらぬ速さで動いた。
しまった!早い!
気が付くと烈花は瞬時にドラキュラ伯爵に背後を取られていた。
更にドラキュラ伯爵は彼女の首筋の皮膚に
上顎の4対の鋭利な細長い牙を突き刺した。
烈花の首筋の太い血管からズルズルと大きな音を立てて大量の血を啜った。
しばらくして彼女は全身が徐々に熱くなるのを感じた。
彼女は額にしわを寄せ、荒い息を吐き、甲高く喘ぎ声を上げた。
黒い服に覆われた大きな丸い両胸は上下に大きく何度も痙攣した。
「ジル早く!逃げ……あっ!あっ!逃げっ!ああっ!はあん!あっ!」
烈花は荒々しく息を吐き、喘ぎつつもジルに
その場から逃げるように警告した。
ジルはその場で何も出来ずただ茫然とその様子を見ていた。
 
バイオの世界。
クイーン・ゼノビアのプロムナード。
「私に協力要請??しかも元沈没船の
船底区画の研究所を使う為に回収まで?」
夜遅くクエントはBSAA代表からの連絡を受け、大慌てで答えた。
「ああ、そうだ!製薬企業連盟の御月製薬の社長の御月勇気氏の意向でな!」
「御月製薬?確かトライセル社のライバルの会社でしたっけ?」
「我々BSAAは御月製薬からの出資もある!」
「ですが、待って下さい!
今この元沈没船の回収は危険です!以前説明した通り!」
「しかしクイーン・ゼノビアの船内の
あっちこっちに時空の歪みが出来ていて。
太古の昔から人を喰らう魔獣ホラーと言う怪物が異世界から出現する?
それはSFの中の話ではないのかね?」
「本当です!私は2度もその魔獣ホラーに危うく喰われ掛けました!」
「それで異世界から来た烈花と言う名前の女の子に命を助けられた?
悪いが冗談はよしてくれ。それにそもそも製薬企業の出資者の結婚話を断ったのは君だ!ついでに君が断ったのは
その御月製薬の社長の御月勇気氏の娘だぞ!
名前は『御月カオリ』これから
社長の父の跡を継ぐかも知れない最重要人物だ!
『御月製薬』は我々BSAAに『トライセル社』
以上の多額の資金を投資してくれている!
意味が分かるかね?我々BSAAと『御月製薬』
とは常に協力関係でいたいのだ!」
「いや、それとこれとは話は別ですよ。代表!」
BSAA代表とクエントのやり取りを見かねた
パーカーは彼から無線機を取り上げた。
「はいこちら!パーカー・ルチアー二―です。
そちらの御月製薬の社長の娘さんの結婚話と
烈花と言う女の子の話はこちらで解決します」
「ちょっと!パーカーさん!」
クエントは大慌てでパーカーから無線機を取り上げようとした。
しかし彼は爽快な身のこなしでスルリスルリと
クエントの手を巧みに回避し続けた。
「はい!そうです!私がどうにか説得します!御心配なさらずに!」
そこからパーカーは素早くクエントの結婚話から話題を変えた。
「ところで御月製薬の御月勇気社長は何故?クエントに協力要請を?」
「彼らが言うにはクエントの高度な
解析装置を作り出す技術が必要だと言う事だ!」
「つまり?彼のウィルスや隠れた物体を解
析するジェネシスの技術が狙いか……」
「そうだ!その御月勇気社長によれば『現在、研究所内に保管されている
賢者の石と呼ばれる物体の研究を出来るだけ穏便に進めたい
と言うことらしい。」
「賢者の石?まさか不老不死の薬でも作るつもりか?」
パーカーはBSAA代表から賢者の石の話を聞き、思わず小首を傾げた。
クエントは「もう!結婚話はいいですよ!」
とプンスカ、プンスカと不満の声を上げた。
 
牙浪の世界。
閑岱の魔戒法師の練習場になっている広場。
ドラキュラ伯爵に背後を取られた烈花法師は
4対の鋭利な細長い牙に噛みつき、首筋の太い血管から
ズルズルと大きな音を立てて大量の血を啜った。
彼女は両頬と胸の深い谷間を紅潮させ、
ただ荒々しく息を吐き、甲高く喘ぎ続けていた。
ドラキュラ伯爵は烈花の首筋の皮膚に突き刺さっていた
4対の鋭利な細長い牙を離した。
そして白いハンカチで彼女の血が付いた口元を丁寧に拭いた。
烈花は地面にうつ伏せにバタンと勢い良く倒れた。
「心配しなくていい。ほら?
血が足りないと良くあるだろ?貧血と言う奴さ!」
ドラキュラ伯爵は自慢げに自分の人間の知識を披露した。
ジルは恐怖の余り、一歩、二歩とジリジリと後退した。
「儀式の時が来たんだ。怖くはないよ。
ただ君と気持ちいい事をしたいだけさ!」
「何よ……それ……」
「言葉で伝えるより、肉体で感じた方が早く理解できるよ!」
「もう、遅いよ。ジル。」
ジルは素早くドラキュラ伯爵に背を向けると暗い森に向かって走り出した。
同時にドラキュラ伯爵は白い霧に変身した後、瞬時に移動した。
再び白いスーツの男の姿でジルの目の前に現れた。
その後、彼は榛色の瞳でジルの青い瞳を
見据えると何度も繰り返し、こう言い続けた。
「君は両頬と深い胸の谷間が紅潮し、全身が熱くなる。
心臓が早鐘の様になり始める。全身の力が抜け、倒れそうになる。」
ジルはドラキュラの言葉を何度も聞いている内に
次第に両頬と深い胸の谷間を紅潮し、全身が熱くなるのを感じた。
そして心臓も早鐘の様に鳴り始めた。
ジルは急に全身の力が抜け、仰向けにバタッと倒れそうになった。
ドラキュラは両腕でジルの身体を優しく抱き上げた。
「ドラキュラ!ジルを離せ!」
ようやく異変に気付いたクリスが芝生から飛び出した。
彼は両手に魔戒超合金で改造されたペイルライダーをドラキュラに向けた。
「ドラキュラ!ジルを離すんだ!」
続けて芝生から鋼牙が飛び出し、
赤い鞘から魔戒剣を引き抜き両手で構えた。
 
(第32章に続く)