(終章)奈落の王―アバドン―

(終章)奈落の王―アバドン―
 
ジェレミー刑事、マーゴット刑事、ヴィクトリアの
3人が貸倉庫の外へ運ばれたのと入れ換わりに火炎放放射機の
ガスボンベを背負った白い防護服の男達が大勢突入した。
ゴオオオオッと言う轟音共に貸し倉庫内に巣喰っていた
ユダの血統の巣は塵も残さず全てが焼き払われた。
やがて一人の白い防護服の男が貸し倉庫内の隅で
弱り果てているユダの血統を見つけた。
しかもユダの血統の細長い下腹部はグシャリと潰れていた。
それは今しがた墜落の胴体のようだった。
やがて白い防護服の男は火炎放射機の銃口
ユダの血統に向け、引き金を引いた。
ユダの血統はたちまち全身、業火に包まれた。
甲高い断末魔の絶叫が響き渡った。
 
翌日。
マーゴット刑事はベッドの上で目を覚ました。
視界に白い壁と天井が見えた。
どうやらここは病院らしい。
助かったの?助かったのね……。
彼女はようやくそう思い当たり、安堵の表情を浮かべた。
そこに病室のドアをガラッと開け、
丸いメガネを掛けた若い青年の医者が入っていた。
「はい!元気かね?」
丸い眼鏡を掛けた若い青年の医師は優しく微笑んだ。
「ええ、おかげさまで!」
暫くして丸い眼鏡を掛けた若い青年の
医師は笑顔のまま、マーゴット刑事に説明した。
「君の身体を精密検査した結果、何処にも異常は見られなかった。」
「そう、それはよかったわ。」
彼女は再び、安堵の表情を浮かべた。
しかし何か忘れている気がした。
やがてそれは直ぐに思い出された。
「ジェレミー刑事は?」
「はい!失血多量でかなり危険な状態でしたが。
大量の輸血を使用した胸部と両肩の深い傷口を縫う大手術は成功しました。
いま!丁度、意識が回復しました!もう心配はありません!」
「そう!よかったぁ!じゃ?ヴィクトリアさんは?」
すると丸い眼鏡を掛けた若い青年の医師は急に気難しい表情になった。
「実はヴィクトリアさんは精密検査の結果、
彼女の子宮に異常が発見されました。」
「どんな?」
すると丸いメガネを掛けた若い青年の医師はこう話した。
「彼女の子宮は突然変異を起こして、人間の子宮では無くなっていた。」
「と言うと?」
「彼女は新しいタイプの不妊症だ。
人間の子供はおそらく一生出来ないだろう。」
マーゴット刑事は信じられないと言う表情をした。
「そんな……酷い……残酷すぎる……」
彼女は唇を震わせ、掠れた声でそう言った。
丸いメガネを掛けた若い医師が病室を後にした。
それから暫くしてマーゴット刑事は再びある事を思い出した。
彼女は何気なくリモコンを手に取り、テレビを付けた。
するとテレビ画面には朝のニュースが放送されていた。
それによると昨日の夜7時頃、ディビッド上院議員は自宅で
何者かと争いの末、拳銃で額を撃ち抜かれ射殺されたらしい。
「なんですって??」
マーゴット刑事は素っ頓狂な声を上げた。
美人女性ニュースキャスターのマリア・ユーローは事件の報道を続けた。
「ディビッド上院議員の部屋の家具等が荒らされており、
彼を殺害した犯人は何かを探しているようすだった事が
ワシントンDC首都警察関係の取材で明らかになりました。」
マーゴット刑事は暫くテレビ画面に釘付けになっていた。
しかしそのディビッド上院議員殺害事件に関するニュースの
続きはマーゴット刑事にとっては非常に残念ものだった。
「しかしワシントンDC首都警察の署長ドナルド・ウォルハイム氏は
『これ以上の捜査に進展が見られない為、この事件の捜査を終了とする』
というコメントを昨日の夜、記者団に発表をしました。」
「なんですって!!今まであたし達の捜査が全部無駄になる訳!」
マーゴット刑事は驚きと怒りと悔しさで歯ぎしりした。
やがてテレビ画面ではが映っているカメラの画面の外から
別のスタッフが新しいニュース原稿をマリアに渡した。
マリアは新しいニュースの原稿を確認した後、読み始めた。
「新しいニュースが入りました!ニューヨークの街の各地で市民が
突然、凶暴化した事で大規模な強姦等の
性的暴行及び暴動事件が多発しています。
現在!ワシントンDC首都警察や各地の警察、
FBI連邦捜査局)、米軍が出動し!
大規模な強姦等の性的暴行及び暴動事件の鎮圧に当たっています!
しかし強姦等の性的暴行及び暴動事件はますます拡大するばかりで
ニューヨークの街は未だに混乱状態にあります!」
「一体?何が?起こったって言うの?」
更にテレビ画面では謎の強姦等の性的暴行及び
暴動事件に関するニュースの報道は続いた。
「またCDCアメリカ疾病管理センター)による報告によれば
ニューヨークの各地で凶暴化及び性的興奮症状を起こしている
市民の多くは若い男性である事が判明しました。
また病院内の検査によれば過去に大勢の子供達の命を奪った
ストリックラー病の媒体となったゴキブリを駆逐する為に
人為的に産み出された人工昆虫『ユダの血統の幼体』と思われる
未知の昆虫が狂暴化した男性の脳内に寄生している事が発覚し、
全米の遺伝子学者達に衝撃を与えました!!」
「そんな……ユダの血統の幼体が?まさか?
ヴィクトリアから産まれたあの卵から……」
マーゴット刑事はしばらく唖然とした表情でテレビ画面を見ていた。
突如、バタンとスタジオのドアが勢い良く開いた。
丁度、テレビを見ていたマーゴット刑事は
当然の大きな音にビクンと全身を震わせた。
「何が……起こるの?一体?」
マーゴット刑事は唖然とした表情でテレビ画面に釘付けとなった。
スタジオ内でニュースの報道を続けていたマリア・ユーローを初め、
数人のスタッフ、カメラマンはハチの巣をつついた様に騒然となった。
やがてバタンとスタジオのドアが勢い良く開いた。
同時に開け放たれたスタジオのドアの前に一人の黒髪の男が立っていた。
彼女にはその黒髪の男の名前も姿も覚えがあった。
彼の名は確か『アルフ』と言う名前だった。
そう!彼は六ヶ月前にうす汚い路地で新聞を布団代わりに
身体に乗せて眠っている最中にふと目を覚まし、
暗い路地の裏でヴィクトリア・マクライと成人男性に擬態した
ユダの血統を目撃したホームレスだった。
恐らくまた裏路地で寝ている間に寄生されたのだろう。
しかもアルフはうつろな表情でただ不気味に立っていた。
数人のスタッフやカメラマン達は
支離滅裂な事を口走りながらその場から逃げ出した。
「嘘……まさか?あの人……ユダの血統の幼虫に寄生されたの?」
するとユダの血統の幼虫に寄生されたアルフは
本能赴くままにマリアに襲い掛かった。
マリアは胸元まで伸びた美しい茶色の髪を
左右に振り乱し、椅子から転げ落ちた。
その後、不様に四つん這いになり、床を這って逃げようとした。
アルフは目にも止まらぬ速さでマリアの大きな丸いお尻を掴んだ。
「いやっ!いやっ!ああ、神様!神様!神様!助けて!助けて!」
そう叫びながらマリアは抵抗したが無駄だった。
アルフの股間のズボンの間からあのユダの血統と
同じ短い緑色の突起物が勢い良く伸びた。
そしてマリアの黒いスカートの中に
潜り込んだ後、彼女のパンツと膣を貫いた。
「あっ!はっ!ひいいん!ああああっ!はあああっ!」
やがてマリアは突き刺すような痛みで悲鳴を上げ、高い喘ぎ声を上げた。
同時に黒い服に覆われた大きなマシュマロの様に
柔らかい両胸は前後にゆっくりとプルプルと揺れ続けた。
やがてマリアの両頬と大きく開いた黒い服の胸元から露出した
深い胸の谷間は徐々に紅潮して行った。
マリアは茶色の瞳をうつろにし、口を大きく開けた。
やがて小さな呼吸音は次第に大きくなり、極めて速く呼吸し続けた。
更に高い喘ぎ声も次第に大きくなり、甲高い声に喘ぎ声に変わって行った。
「ああっ!ああっ!あああっ!ああああっ!
ああああっ!あああああっ!あああああっ!」
更にマリアの大きな丸いマシュマロの様に柔らかい
両胸は大きく痙攣するようにブルブルブルブルと前後に激しく揺れ続けた。
ユダの血統の幼虫に寄生されたアルフは強い性的興奮に駆られたのか?
あのユダの血統と同じ独特の鳴き声を上げ続けた。
「カチュカチュカチュカチュカチュカチュ!カチュカチュカチュカチュ!」
マーゴット刑事はそんなテレビ画面の光景を茫然とした表情で見ていた。
しかしふと自分の隣のベッドで新約聖書
読んでいる男性の入院患者がいるのに気付いた。
彼は新約聖書ヨハネの黙示録の第九章・
第一節から六節までを朗読していた。
 
「(第一節)
第五の御使いがラッパを吹き鳴らした。
すると私は、一つの星が天に落ちて来るのを見た。
この星に底知れぬ所の穴を開く鍵が与えられた。
そして底知れぬ所の穴が開かれた。
 
(第二節)
すると、その穴から煙が大きな炉の煙の様に立ち昇り、
その穴の煙で太陽も空気も暗くなった。
 
(第三節)
その煙の中から、イナゴが地上に出て来たが、
地のさそりが持っているような力が、彼らに与えられた。
 
(第四節)
彼らは、地の草や全ての青草、また全ての木をそこなってはならないが、
額に神の印が無い人達には害を加えてよいと言い渡された。
 
(第五節)
彼らは人間を殺すことはしないで五カ月の間苦しめる事だけが許された。
彼が与える苦痛は、人がさそりに刺される時の様な苦痛であった。
 
(第六節)
その時には、人々は死を求めても与えられず、
死にたいと願っても、死は逃げて行くのである。」