(第6章)手記

(第6章)手記
 
ユダの血統について情報を得たマーゴット刑事と
ジェレミー刑事は彼の自宅を後にした。
それからカイラ博士は2人の刑事が載せた車が自分の敷地内から
出て行くのを念入りに確認した後、直ぐにあの男に電話した。
「マズイ!刑事二人が家に来た!ユダの血統の話だ!どうなっている??」
「彼らは何を聞いて来た?」
「ユダの血統についてだ!
例のニューヨークタイムズの女性記者の惨殺事件の犯人は??」
「心配するな。邪魔になればその2人の刑事の口を封じればいい。」
「馬鹿な事を言うな!君との資金の関係がバレたら?」
「またアメリカ政府の関係者を装って
色々圧力をかけて置くから心配ないさ!」
「だが、口封じに雄のユダの血統を使うのは本気で止めてくれ!
あいつは君のせいで人間の血と肉の味を覚えている上に発情までしている!
ここ六ヶ月前にニューヨーク市内で
一人の若い女性の失踪事件が起きている!
だから!あんたに雄のユダの血統を完全に制御するのは不可能だ!」
「だから心配ないと言っただろ?ちゃんと制御出来ている。
例の一人の若い女性の失踪事件も直ぐに警察が
雄のユダの血統以外の単純な原因を突き止めるさ!」
「何を言っている! いいか!本来は……」
「今年の大統領選挙に勝ち抜く為にもあれが必要だ!話は以上だよ!」
そう言うと男はカイラ博士の言葉を遮り、一方的に電話を切った。
「やはり明日にでも2人の刑事さんに真実を打ち明けよう!
これ以上犠牲者が増えない内に!」
カイラ博士はそう固く決意の言葉を言った。
 
二人の刑事がワシントンDC首都警察に戻ってから間もなく
近所の男がマイケル上院議員の惨殺死体を発見したと通報が入った。
もちろんジェレミー・セレーズとマーゴット・クイーン刑事も
休む間もなく直ぐに現場となった彼の自宅にパトカーで急行した。
「またこれは酷いわ……」
マーゴットは再び顔を酷くしかめた。
彼女は自宅の玄関先で血みどろの変わり果てた
マイケル上院議員の死体を見た。
「これは相変わらず惨いな……やはり!内臓がごっそりない!」
ジェレミーはマイケル上院議員の死体の胸から腹にかけて指さした。
「同一犯の仕業で間違いないわね!」
「ああ、だが、人間業じゃない手口はケイトの時と全く一緒だ……」
「ええ、今回は内臓全てを持ち去ったけど……
頭部は持ち去っていないわね。」
「きっと!頭部はもう食べ飽きたのかも?」
するとマーゴット刑事は再び顔をしかめた。
「ちょっと。まさか?
またあの巨大昆虫のユダの血統の仕業って言うんでしょ?」
「御名答!間違いないだろう。」
「でも、彼の検死結果は……」
「流石にこれだけ手口が似ていれば!私でも簡単に予想はつくさ!
凶器は亜鋏状の鎌、4本の刃物、複数の歯だ。」
「一体?何が目的でこんな事を?」
「腹が減ったのだろう。」
「つまり?ケイト・クレインもマイケル上院議員も捕食の為に襲ったの?」
「間違いない。だから2人の被害者は共通して
胸から腹にかけて内臓が無いのさ!」
「そしてユダの血統はマクライ夫人の娘を誘拐して繁殖している訳??」
マーゴット刑事は「出来れば嘘であって欲しい」
と思いつつもジェレミー刑事に尋ねた。
しかし彼の言葉にマーゴット刑事はその事実を認めざる負えなくなった。
「ああ、間違いないだろう。基本昆虫は本能で動く捕食と繁殖は単純な生命維持の形さ!」「最悪!あたしも狙われるじゃないの??」
マーゴット刑事はまた頭痛がしたのか片手で頭を押さえた。
「そうだな。だからお互い気付けて捜査しないと。
命が幾つもあっても足りそうにない。」
ジェレミー刑事はため息交じりにそう答えた。
 
翌朝のニューヨークタイムズ紙には複数のこんな見出しの記事が躍った。
『今年の大統領選挙候補の民主党
マイケル上院議員が自宅で何者かに惨殺!!』
『犯人はエド・ゲインを模倣した快楽殺人鬼か??』と。
ワシントンDC首都警察に朝早く新聞を持って出勤したジェレミー刑事は
そのニューヨークタイムズの記事をマーゴット刑事に読ませた。
エド・ゲイン??違うわよ……」
「まさか信じる気になったのか?」
ニューヨークタイムズ紙の記事を読んだマーゴット刑事の第一声に
ジェレミー刑事は驚き、唖然とした表情で彼女の顔を見た。
その彼の唖然とした表情を見た途端、不機嫌になった。
「まだ半信半疑よ!完全に信じた訳じゃないわ!」
マーゴット刑事はジェレミー刑事に別のゴシップ雑誌を見せた。
「成程!『黒いロングコートの男!
ニューヨーク各地の食品専門店で目撃相次ぐ!!』か?
まあ、いずれ真実は俺達が見つけ出す!犯人が昆虫であれ!人間であれ!
これ以上犠牲者を増やす訳にはいかない!必ず!星を上げるんだ!」
「ええ、必ず!」とマーゴット刑事も決意を新たにした。
その時、不意にマーゴット刑事の携帯が鳴った。
マーゴット刑事は携帯の電話に出るとカイラ博士の切迫した声が聞えた。
どうやら大事な話があるから直ぐに自宅に来て欲しいとの事だった。
「大事な話があるらしいって!」
「もしかしたら!ユダの血統について新たな真実が分かったのかも?」
「そんなに早く?なんか怪しい気がするわ……」
「だが、とにかく行ってみないと分からないだろ?」
ジェレミー刑事は直ぐにワシントンDC首都警察から
カイラ博士の自宅に向かってパトカーを走らせた。
やがてパトカーはワシントン郊外のカイラ博士が
住む大きな家の敷地に停まった。
カイラ博士は2人の刑事の姿を小さい覗き
窓で確認するとすぐさま玄間のドアを開けた。
「待っていました!良かった!無事だったんですね!」
「ああ、今のところね……」
カイラ博士の言葉に思わずジェレミー刑事はドキッとなった。
「刑事さんに大事な話があります!」
カイラ博士は2人の刑事を自宅の中に招き入れた後、
テーブルに紅茶を出した。
「大事な話とは?」
「じっ!実は……」
カイラ博士は落ち着かない様子で
ゴソゴソと自分のズボンのポッケを探った。
そして一枚の黒い手帳をテーブルに乗せた。
「これに!貴方達の知りたい事実の一部始終が書いてあります!」
「まさか?貴方が??」
マーゴット刑事の疑いの視線を感じると
カイラ博士はなるべく冷静にこう答えた。
「もちろん!私は犯人ではありません。本当です……しかし……」
そこまでカイラ博士は話しかけたが直ぐに口をつぐみ、
暫く黙りこんでしまった。
ジェレミー刑事は黒い手帳を取り出し中身を開くと無言で読み始めた。
「これは……まさか……」
「何て書いてあるの??」
ジェレミー刑事はカイラ博士を真摯に見据えた。
「貴方は知っていたんですね?今回の事件の一部を……」
「はい!でも!逮捕されるのが怖くて昨日は出来ませんでした……」
マーゴット刑事は横からジェレミー刑事が
読んでいる黒い手帳のページを読んだ。
「嘘……でしよ?まさか……本当に??」
マーゴット刑事の茶色の瞳は驚きと喜びで大きく見開かれた。
黒い手帳には女性記者ケイト・クレインと
ディビッド上院議員の惨殺事件の捜査に
関する重要な手掛かりになり得る情報が書かれていた。
 
「20XX年6月16日。
アメリカ合衆国ニューヨーク市の地下トンネルの爆破事件発生。
地下鉄内に巣を作っていたユダの血統のコロニーは全滅する。
(最初のロング・ジョンとモグラ達に言われた第一種)
アメリカ政府の現地調査の協力の際にたった
一つ残っていたユダの血統の卵嚢を発見。
大量の卵は既に孵化していたが一匹の新種のユダの血統の幼虫を捕獲する。
 
20XX年7月1日。
あの卵嚢から産まれた自分が捕獲したユダの血統の幼虫とは
別の人間の女性との交配が可能な新種の成虫が出現。
レミ・パノスと言う人間の女を追って彼女が勤務していた小学校に侵入。
一度はガスで死んだかに見えたが脱皮して進化して生き延び、
レミの恋人のクラスキー刑事に擬態して彼女の新居に侵入。
首を切断され、9日後に餓死する。
そしてクラスキー刑事に擬態したユダの血統と
彼女の間に生まれた幼虫の群れはアメリカ政府が回収する。」
 
更に2人の刑事はカイラ博士の黒い手帳の続きを読み続けた。
 
(第7章に続く)