(第7章)迫る真実

(第7章)迫る真実
 
ジェレミー刑事とマーゴット刑事はカイラ博士が
所持していた黒い手帳を真剣な表情で読み続けていた。
何故なら黒い手帳には女性記者ケイト・クレインと
マイケル上院議員惨殺事件の捜査に関する
重要な手掛かりになり得る情報が書かれているからである。
 
(カイラ博士の黒い手記の続き)
 
20XX年7月2日。
アメリカ政府と関わっていたワシントンDC選出の
上院議員からユダの血統の研究に必要な多額の資金を提供される。
 
20XX年7月17日。
ユダの血統の遺伝子を解明すべく体細胞を研究。
ユダの血統の体細胞には恐らくタイラー博士や科学者達が
シロアリとカマキリの遺伝子を融合させる為に使用したと思われる
運び屋のレトロウィルスが突然変異を起こしていた事が判明する。
のちに新型のレトロウィルスは『ユダウィルス』と命名される。
どうやらユダの血統に人間の遺伝子が混入した原因は
この突然変異したレトロウィルスと推測される。」
「何だと……」
「ちょっと!レトロウィルスってどうなっているのよ!」
彼の手記からレトロウィルスと言う単語を見るなり、
マーゴット刑事は厳しい口調で追及した。
「このレトロウィルスはユダの血統の体内で共存していて…。」
「人間に感染するのか?」
ジェレミー刑事の更に厳しい質問にカイラ博士は冷静にこう答えた。
「いや……どうやら既に感染能力は失っているようだ。」
カイラ博士の言葉に2人の刑事はホッと胸を撫でおろした。
しかしマーゴット刑事は黒い手帳の一文を指さした。
「それで貴方はユダの血統の研究に必要な
多額の資金を提供されたとあります。」
アメリカ政府と関わっていた
ワシントンDC選出の上院議員って誰ですか?」
暫くカイラ博士は顔をうつむき、黙っていた。
やがて重々しく口を開いた。
「ディビッド上院議員」と。
「ディビッド上院議員??」
今日の朝のテレビのトップニュースでホワイトハウスの壇上で
今年の大統領選挙での自分の投票をアメリカ国民に呼び掛ける為に
精力的に選挙活動をしていたディビット上院議員の姿を思い出した。
「あの自己中心的で偽善的なあいつが……」
「だが一体??彼は何処からユダの血統の研究の多額の資金を??」
暫くカイラ博士はうつむき、盛大に溜息を付いた。
「政治とカネだよ……ジェレミー刑事殿!」
ジェレミー刑事はカイラ博士の予期せぬ発言に驚きを隠せなかった。
「まさか?政治資金から?」
カイラ博士は無言で頷いた。
マーゴット刑事は自分の心の底から怒りがこみ上げ、大きく吼えた。
「あいつ!政治資金を不正にあっちこっちに横流していたのね!!
しかもあいつがアメリカ政府の関係者を装って!
ワシントンDC首都警察に圧力をかけて!
莫大な保釈金を支払い、全員釈放させた「D」って男もあいつだった!」
「成程ね。ウォーターゲートビル6階の民主党全国委員会本部がある
オフィスに6人の不審な男が侵入した事件も彼が深く関わっていたと……」
「謎は解けたけど。彼を犯人だと決定する物的証拠が無いと……」
「ご協力感謝します!カイラ博士!
貴方も女性記者ケイト・クレインとディビッド上院議員
連続惨殺事件の捜査の重要参考人として
署の方までご同行をお願いします。」
「もっ!もちろんだ!」とカイラ博士は直ぐに答えた。
マーゴット刑事とジェレミー刑事はカイラ博士を
女性記者ケイト・クレインと上院議員の連続惨殺事件の捜査の
重要参考人としてパトカーに乗せ、
ワシントンDC首都警察まで任意同行させた。
カイラ博士の詳しい事情聴取は何故か
本人の熱心な希望でマーゴット刑事に任せた。
一方、ジェレミー刑事は一人でニューヨーク市内にある
容疑者ディビット上院議員の自宅を訪ねた。
ジェレミー刑事が乗ったパトカーはディビット上院議員
2階建ての家に庭とプール付きのやや豪華な自宅に到着した。
彼はパトカーから降り、大きな門の近くにあるチャイムを鳴らした。
間も無くしてディビット上院議員が刑事の来訪に応じた。
彼の家の中に入るとジェレミー刑事は早速、周囲の部屋を観察した。
彼の家の内装はごくごく普通の白い壁。
やや豪華なカーペットが床一面に敷いてあった。
更に天井には黄金に輝くシャンデリアがあった。
また周囲の棚にはいかにも高そうな壺や骨董品が置かれていた。
「何の用かね?今大統領選挙で忙しいんだ!」
「心配ありません。お手間は取らせ無いので!
幾つか質問させて欲しいのですが。」
「質問?なんなのかね?政治についてなら答えるがね!」
ディビッド上院議員はやや高圧的な口調でそう言った。
流石のジェレミー刑事も内心、ムカッとなった。
しかしジェレミーは刑事としての仕事を
全うする為にそのムカッ腹を押さえた。
「それで。現在、貴方の政治資金は誰が管理しているのですか?」
「政治資金??何の話だね??」
「では質問を変えます。
ウォーターゲートビル6階の民主党全国委員会本部がある
オフィスに6人の不審な男が侵入した事件はご存知ですね?」
「ああ、知っているよ!6人の不審な男が捕まった。
だが残念ながら、私とは何の関係も無いよ!」
「では?女性記者ケイト・クレインが惨殺された事件はご存知ですね?」
「ああ、酷い事件だ……一刻も早く犯人が捕まるといいね。
正直、彼女には困っていたよ。私の周辺を嗅ぎ回って……」
「周辺を嗅ぎ回って?」
「あっ、いや、何でもないよ。彼女には迷惑していた。
彼女は特ダネスクープを求めて私の周辺を調べていた。
しかもどこからかタレこみ情報を得ては
まるでストーカーの様に大統領選挙のホワイトハウス以外の
各地に移動する先で必ず現れては写真や取材を何度も執拗に求められて」
「では?彼女が殺害された日。貴方は何処へ行っていましたか?」
「何処にも行っていないよ。
家でゆっくりシャワーを浴び、酒を飲んでいたよ」
ジェレミー刑事はディビット上院議員の表情を良く観察した。
「では。何処にも行っていない事を証明する人は?」
「いるよ!カイラ・ウルフ博士さ!
一度彼と電話で他愛も無い雑談をしたよ。」
「そうですか……」
ジェレミー刑事はしばらく考えを巡らせた。
「分かりました。ご協力感謝します。」
「どうも。犯人が速く捕まるといいですね。」
ジェレミー刑事はディビッド上院議員に見送られ、彼の自宅を後にした。
ディビッド上院議員はマーゴット刑事が
パトカーに乗り込むのを窓で念入りに確認した。
彼は軽く舌打ちをした。
「チッ!マズイな。早くあの女刑事も男の刑事も始末しないと……
このままでは今回のアメリカ大統領選挙で私が心酔している
現大統領の現職の維持が困難になるかも知れない。
それに……六ヶ月に行方不明になったあの女も見つかれば……大変だ……」
ディビッド上院議員は直ぐに電話で何処かに電話した。
「もしもし?アメリカ政府の関係者ですか?
緊急の連絡だ!私の計画を勘付いた刑事がいる!
彼らの始末を頼む!名前はマーゴット刑事とジェレミー刑事だ!」
「その必要はありません!!」
「何?どういう意味だ!!」
ディビッド上院議員は戸惑いの表情を浮かべた。
やがて「今までのご協力感謝します」と言う言葉の後、電話は切れた。
ふとディビッド上院議員は背後に気配を感じ、振り返った。
そこには黒いスーツ姿の男が彼の額にハンドガンの銃口を突き付けていた。
「まさか…CIAの工作員が……何故だ……何故だ……」
間もなくして大きな銃音が部屋中に響いた。
CIA工作員は躊躇なくハンドガンの引き金を引いた。
結果、ディビッド上院議員は額から後頭部を撃ち抜かれ、即死した。
その後、誰かと争った様に偽装する為、
部屋の家具やディビッド上院議員の身体を動かした。
続けてユダの血統に関した資金の資料や
カイラ博士との密会テープは全て持ち去った。
 
(第8章に続く)