(第34章)2柱の天魔の狂乱
エアはヒューッと空を切る音と共に一直線に道路へ向かって仰向けに落下して
行ったエイダ・ウォンに寄生していた巨大蛾が遂に道路に激突する姿を最後まで見た。
そしてまるで糸が切れネジが切れた操り人形のように巨大蛾は仰向けに
ひっくり返ったまま二度とピクリとも動かなくなっていた。
その時、「カチュカチュカチュ」と奇妙な鳴き声が聞こえた。
エアはこの鳴き声に聞き覚えがあった。
まさか?嘘だ・・・・ろ?ここにまさかあいつが?
エアが屋上から覗いているとそこには。
人間の仮面をした上に黒いコートを着た成人男性5人がすでに死んでいる
パペットエイダモスを取り囲んだ。やがて5人の人間に擬態した何かは正体を現した。
5人の何人かは左右に黒いロングコートを大きく左右に広げた。
同時に4対の昆虫に似た巨大な翅に早変わりした。
さらに両肩から巨大な亜挟状の鎌をパペットエイダモスの胸部や下腹部に振り回した。
ドカッ!グシャアッ!バキッ!と音を立ててパペットエイダモスの胸部と
下腹部をズタズタに引き裂いた。続けて5体の巨大昆虫は逆三角形の頭部を右に振り、
4対の刃物状の鋭い牙をパペットエイダモスの引き裂いた柔らかい胸部や
下腹部の肉を食い千切り、何度も咀嚼した。
エアは思わず顔を青くしてウッ!と口を押え吐き気を堪えた。
更に5体の巨大昆虫は短時間でパペットエイダモスの今日から下腹部まで
存在していた内臓をごっそりと喰い尽くした。
そしてエアはあの巨大昆虫が自身の賢者の石の力によって
『あれは人間と昆虫の交配種』だと何故か理解出来た。
その為、エアは危うく発狂しそうになった。
つまり?人間の女性と昆虫の雄との間に子供?それはないだろ!!
しかしふと空を見上げた時、もう一匹の巨大昆虫が多分、どこかの
屋敷のメイドの若い女性を胸部から伸びた細長い昆虫の2対の脚で
大きな丸い両胸をしっかりと掴み、どこかへ運んで行くのが見えた。
しかも見たところ日本人とフランス人のハーフのようだ。
そして巨大昆虫は闇に溶け込み、あっと言う間に見えなくなった。
エアの目の前が真っ白になった。
そしてエアはあっと言う間に意識を失った。
何分語った頃、エアはハッ!と目覚めた。
エアはあの悪夢から目覚め、素早く上半身を起こした。
気が付くと白い霧に覆われた表世界に戻っていた。
床も白いタイルに戻り、水道タンクも青い鉄に戻っていた。
建物の壁も白い壁に戻っていた。更に周囲は白い霧の中に覆われていた。
エアは気が付いたように大声を上げた。
「エイダ!鳴葉さん!」と。
するとホワイトフランドールがエアを安心させるように落ち着いた口調でこう言った。
「大丈夫よ!エア!既にエイダさんは回復魔法で傷口を塞いで元通りにしたわ。
あと鳴葉さんもあの蛾の毒はごめんなさい!
勝手に貴方の持ち物からブルーハーブを取り出して。
えーとレッドハーブとブルハーブの調合薬を彼女に飲ませて
毒を解毒させて体力を回復させたわ。もう安心よ。
あと勝手に取り出してごめんなさい。」
「いいよ。とにかくみんな無事ならね!」
エアはすっかりさっきまでの真っ青な顔は消え去り、顔色も良くなった。
そしてようやく顔色も良くなった鳴葉の顔を見た。
エイダもすでに背中の多分あったであろう傷も元通りの皮膚に戻っていた。
またエイダのおかしな呼吸は無くなり、普通の穏やかな呼吸に戻っていた。
2人は静かな寝息を立てて眠っていたのでとりあえずエアも
白いタイルの床に座り、かなり疲れたので一休みする事にした。
すると自分のお尻の下に何か踏んだ気がした。
エアは立ち上がり、白いタイルの床に落ちている長四角の鉄板を拾った。
長四角の鉄板の中央には『母親』と言う文字が刻まれていた。
本当にさっきのアルミケラ病院のツーバックを倒した時に手に入れた
『父親』の鉄版。これはどう使うのだろうか?
ホワイトフランドールは目覚めた鳴葉とエイダと闘いが終わって一休みしていた
エアにブラックフランドールと言う存在について静かに説明した。
「貴方達や他の人間達に危害を加えて来たブラックフランドールの正体は
自分の魂の片割れで悪の部分なの。そしてこの裏世界と異形の怪物達
を産み出して人を襲わせているのも私なの。
あれは私のあの子で善と悪であり、光と闇なの。だから・・・・・・」
それからホワイトフランドールは静かにブラックフランドールが悪さした事を謝った。
またエアの屋上から道路を何気なく覗いた。
そしてさっき落下した筈の巨大な蛾の喰われた死骸は影も形も無かった。
エアはまた元の場所に戻り座った。
とにかく今は色々あり過ぎて頭の整理が追い付かない。
きっとエイダも鳴葉も同じだろう。
それから3人は電気屋の上の白いタイルに座り、一度、身体と心を休ませた。
「ねえ?エアさんだっけ?貴方の心の中にも悪と闇はあるの?」
エアは鳴葉の質問に特に驚きのもせずこう返した。
「ああ、もちろん!あるさ!怒りや憎しみも・・・・」
エイダもエアに続いてこう答えた。
「無いと言えば大嘘になるわね。ある程度は人に同情できるけど。
我慢できずに怒る事だってあるわ。
あのディレックやカーラみたいな奴らのせいでね。」
多分、そう言った憎しみや怒りはきっと誰の人間の心にもあると思う。
この街はそんな人間の心の闇に反応するのよ。
つまり『静かなる丘』は人間の心の闇を吸収して返す力があると事前の話で聞いたわ。
友人からね。でもその力はあくまでも『静かなる丘』の街中だけだったと。
でもここ最近、街の外にも闇の力が街の中へ拡大している。それは何故?」
「多分!人の想いが場所に宿ればどこも異世界化するのかも?
オカルトの話になるけどやっぱり!自殺や事故で急死した人間の霊魂は
死の認識出来なくてその場に留まって所謂、地縛霊になってしまう。
大体の地縛霊は人間としての記憶や意識を失って死んだ時の痛みや
苦しみだけを幾度と無く追体験してしまうそうだ。
だから地縛霊が生きた人間を襲うのは苦しみの余り、救いを求めてしまったり。
あるいはその生を妬んだり、憎んだりして同じ苦しみを味合わせようとする。
だから生きている僕達人間達を引きずり込もうとする。
つまりここ表世界と異世界、リビドー・ストランディング(性の座礁)や
異形の怪物達が産まれた可能性が高い。
最近のオカルト研究会の独自調査がネットで公表されたのを知っていますか?
「あっ!知っているわ!異世界やリビドーストランディング(性の座礁)が
最も発生しやすい場所で一番多いのがいわゆる『自殺の名所』や『事故多発地域』
だと言われているわ。だからユーチューバ達や良くそこに集まるようになったの。
あの最近のサウスアッシュフィールドハイツに』人間の女性の
はるかまゆみさんが失踪したのもそんな都市伝説の噂のせいよ。」
「成程。あとで色々勉強したんだけどね。
実際、動物にも第六感と言うものがあるらしいよ」
「あら!それは初耳ね!」とエイダはフッと笑った。
そして調子良くなったエアはまだ話を続けた。
「でも僕達人類がそれを言語化して計画を立てて行動を選択出来る。
それが現在のルールを守る人もいればルールを守らない人もいるのもそのせいだって
どこかのアメリカの学者がテレビのワイドショーのトーク番組でそう言っていたな。
「ある意味では僕達人間の能力の一つでもあるって。
僕達人間は明日を想像しながら今日を生きている。
だから今の僕達が静かなる丘の異世界で異形の怪物に襲われて
生き残れるのもそのおかげかも知れない。
だからこそ僕達、人間の文明、社会、あるいは色々な宗教や文化が。
あと天使や大天使、悪魔、神様が産まれてそれらが混ざり合って
文明を発展させてきたと思う。少なくとも個人的に僕はね。
未来の為に自分や最悪他人すら犠牲にする。
そうやって文明は良い技術も悪い技術も生まれた。
でもここ最近、反メディア団体ケリヴァーの人々も
自殺を考えているたくさんの人々ももう明日を見ようとしていないんだ。
反メディア団体ケリヴァーは現在、発展し続けているテレビやゲーム、携帯。
そしてスマホを一方的に悪と決めつけてそれらが発展して人間がより。
なんだろう自然と機械が共存して明るい未来が来る可能性を見ようとしていない。
自殺しようとする人々もやっぱり自分が社会で明るく仕事して
生きている自分の未来が見えていない。見ようとしていない。
自殺しようとしている人々は自分が死ぬ未来を想像しては恐怖を覚えている。
でもどうしても辛く苦しくてそう言う未来を選んでしまう。
あるいは反メディア団体ケリヴァーの人々はメディア社会を攻撃して。
悪を倒すヒーロ像を造り出して演出するのに手一杯でどちらの二つの明るい未来を
想像出来ないのも結局は動物と変わらないのさ。」
エアの話を聞いていたエイダと鳴葉は感心した表情になった。
ホワイトフランドールも「確かに一理あるかも知れない」とつぶやいた。
「明日を創造する能力。もしかしたら?重要かも?」
エイダはそう考えてエアの言葉を自分の心に留めておいた。
しかしようやく少しだけ力を抜ける穏やかな時間はいきなり発生した
轟音のような爆発音と激しく地震のようにグラグラと電気屋の屋上が揺れる
感覚をエア、鳴葉、ホワイトフランドールは感じてしまい。
せっかくのリラックス気分がどこかに吹き飛んでしまった。
エアは双眼鏡で電気屋の屋上から爆発の轟音がした方角をじっと見た。
Evangelion 2.0 - In My Spirit (feat. Megumi) 【Intense Symphonic Metal Cover】
すると双眼鏡のレンズには真っ赤に輝く外側の2つの円は慈悲と再誕。
内側の3つの円は現在、過去、未来を意味している模様が映った。
間違いない太陽の聖環だ。しかも太陽の聖環の先端に
超巨大な真っ赤に輝く極太の光線の柱が一本あった。
周囲には吹き飛んだアスファルトの道路の破片や木々が空高く舞い上がっていた。
しかも瓦礫の上に人らしきものが見えた。
いや人間ではない異形の鬼神のような生物だ。
そして巨大な翼と鋭利な尻尾を持ち、右手に持つ銀色に輝く両刃の長剣は
漆黒の獄炎に包まれた。そして自由自在に鞭のように伸ばして同じく上昇して来た
敵を攻撃した。しかも相手の敵は銀色のボブカットにもみ上げ辺りから
3つ網を結ったツインテールだった。またツインテールの髪の先に緑色の
リボンを付けていた。大体、10代の若い女性だろうか?
そして異形の鬼神のような生物が両刃の長剣から伸ばした
漆黒の獄炎の鞭は敵の若い女性に向かって高速で伸びて行った。
しかし若い女性は両眼を真っ赤に発光させた。
次の瞬間、若い女性の目の前に今度は真っ赤に輝く太陽の聖環の形をした
超巨大な結界の塊を放った。
そしてたちまちの内に漆黒の獄炎の鞭を無理矢理、力で押し返した。
押し返された獄炎の鞭が自分に直撃してしまい。
爆発音と漆黒の炎に包まれた。やがて漆黒の炎と黒い煙が消え去り、
傷だらけの鬼神のような生物の姿が見えた。
更に若い女性は両腕から4対の真っ黒なベルト状の触手を瞬時に伸ばした。
同時に反射的に回避したものの4対の真っ黒なベルト状の触手の内、
2対の真っ黒なベルト状の触手は鬼神のような生物の右肩と右脇腹を切り裂いた。
同時にブシュウウッ!とどす黒い血が噴水のように噴き出した。
轟音のような爆発音と共に再び電気屋の屋上がが激しく上下にグラグラと揺れ続けた。
エアはバランスを崩して後ろに倒れ、アスファルトの床に
後頭部をぶつけて意識を失った。そして目の前が真っ暗になった。
それから数時間後。
エアは「うーん」と大きく唸り、ゆっくりと上半身を起こした。
起き上がったエアの横には鳴葉がちょこんと座っていた。
「一体?!どうなったんだ??」
「気が付いてよかった!私達もあの爆風で失神してしまって。」
「どうやら!俺達が失神している間に去ったようだな」
(第35章に続く)