(第30章)肉屋(ブッチャー)
はるかまゆみはしばらく動揺した表情を見せつつも鋼牙にこう言った。
「これ!過去にYouTubeの自分のチャンネルで都市伝説・事件の
コーナで紹介する為にあたしが調べて書いたメモだわ」
はるかまゆみの都市伝説・事件コーナの紹介用の情報メモには。
彼女がネットや現地の人々の話を書いた内容があった。
「犯人のウォルター・サリバンは合計10人の人間を様々な手口で殺害しており。
殺害後に心臓を取り出して持ち出している。
彼は幼い兄弟を斧でバラバラにして殺害後に警察に逮捕された。
それから警察署内で食事についてくるスプーンで自らの首を突き刺して自殺した。
犯人が死亡して事件が終わりかと思われた。しかしー。
模倣犯により第2のウォルター・サリバン事件が発生。
やはりウォルター・サリバンの手口と類似性がある事から
模倣犯による犯行と断定した。
勿論、模倣犯を逮捕する為に捜査が続けられたが犯人は逮捕されず。
第3のウォルター・サリバン事件によって被害者は19人まで達した。
目的も動機も不明で世間は震え上がった。
さらにもっと恐ろしい噂としては実は彼が行っていたのは。
『12の秘跡』と呼ばれるもので自殺したのは
自らを生贄とした『解放』だったらしく。
しかも死後に幽霊となった連続殺人鬼のウォルター・サリバンは『第2』と
『第3』のウォルター・サリバ事件を起こし、儀式を完成させる為に怪異を起こして
18人の人間を殺し続けた。また怪異に遭遇したヘンリー・タウンゼットと
アイリーン・タウンゼットの夫婦はサウスアッシュフィールドハイツで悪夢の世界に
囚われ協力して幽霊となったウォルター・サリバンを殺して最後に生贄から逃れたと
言う話を同じユーチューバーで過去にコラボした『STスタジオ』のせーぎさんから
ツイッターのDM(ダイレクトメール)を通して情報を提供共有して貰っていた。
実際事件は未だに迷宮入りだが2人の活躍によって
『第4のウォルター・サリバン事件』も発生せず殺人もぴったりと止んだと言う。
あとは現地の人々の話が読み切れない程に
沢山の白い紙の裏にびっしりと書いてあった。
はるかまゆみはにっこりと笑い、こう言った。
「じゃ!詳しくは私の動画で!チャンネル登録とベルマークの登録をよろしく!!」
鋼牙は呆れてしまい、やれやれと首を左右に振った。
魔導輪ザルバは「要は運悪くその場に居合わせただけだな」とさらりと解説した。
『静かなる丘』の『CIELOARE』通りをエアとホワイトフランドールは
クリーパー、ワンバック、ツーバック、ベビーバックの4点のハッピーセット達を
うまい事かわして、何匹かハンドガンで倒して退けながら肉屋に向かって進み続けた。
やがて角を曲がり、『LOWST』通りをまっすぐ走り続けた。
途中ストレッジジャケットフラン何体か現れたが体力の温存の為、無視した。
しかしホワイトフランドールに向かって来る個体だけは彼女を守る為にハンドガンで
倒し続けた。そしてとうとう白い看板の赤い文字で
『RUTCHRER』の看板が見えた。
肉屋だ。そして茶色の扉は僅かに開いていた。
エアは扉の四角いガラスから覗き込んだ。
しかし内部は良く見えなかったのでキイイッ!と音を立ててドアを開けて
中へ入って行った。するとカンカンコンコンと音が鳴り続けていた。
入り口の隅っこにはピンク色の肉の塊があった。
更に壁には加工済みのソーセージやハムが吊り下げられていた。
更に大きな肉を入れて売る台の上にもピンク色の大きな肉が置かれていた。
先へ進むと肉を冷凍保存する為の4つの扉が付いた冷凍庫が横と正面にあった。
また段ボールの山があった。その時、ヒッ!と言う女性の短い悲鳴が聞こえた。
やがて段ボールの箱はバラバラと崩れて中からホワイトフランドールが言っていた
日本人女性が慌てて四つん這いで出て来た。そしてフラフラと立ち上がった。
エアはその日本人女性の顔をよくテレビで見ていた。
僕の母親も父親もエイダさんも毎日見ているのでなじみ深かった。
彼女の特徴は首筋まで伸びた茶髪のショートカット。
真っ直ぐに整えられた茶髪の前髪。細目の茶色の瞳。
長い前髪で眉毛は見えない。丸っこい低い鼻。
ふっくらとしたほんのりピンク色の両頬。丸顔にピンク色の唇。
灰色のスーツに白いシャツを着ていた。
ちなみにエアは後で肉屋を出る時に気付いたが鼻の下の右側に黒いほくろがあった。
「君は鳴葉裕子さんですね。?」
「はい!そうです!ここに来たのは一ケ月前に失踪した親友の
ヴァイオレット・ネズリーを探してここへ来たの。」
「あの友人のテレビレポーターの?」
「はい!とても心配しています!早く見つけてやりたい!」
それから「あっ!」と声を上げて思い出したように鳴葉は灰色のズボンのお尻の
ポケットからメモと新聞を取り出した。
それからエアとホワイトフランドールに見せた。
「ここに?エア・マドセンって名前があるけれども?もしかして?」
「エア・マドセンは一応、僕の事です。」と迷いつつも答えた。
エアは新聞に書かれた殴り描いたような落書きを読んだ。
「『何で彼女を助けるんだ!エア・マドセン!』どういう意味だ?」
更にエアは落書きの大文字を見ない様にして新聞を良く見ると気になる記事を
一つ見つけた。見つけた記事は以下の通り。
「ニューヨーク市内及び全米各地で発生している原因不明の超常現象
『リビドー・ストランディング(性の座礁)』は現在、BSAAとブルーアンブレラ社
超常現象調査チームによって行われ、調査結果を世間に公表した。
『リビドー・ストランディング(性の座礁)』は各地に原因不明の霧を発生させる。
これは白い霧だが(リビドーミスト)と呼ばれ、排卵期の若い女性が吸い込むと
強い性衝動に駆られて霧の中に潜む巨大生物(ヘリックスと呼称される)やセミ類と
推測される人型生物(ワンバック)との間にSHB(サイレントヒルベイビー)なる
異世界の住人と現地の住人(つまり人間)との間に子供を儲ける。
それから約28週後で元の現実世界へ帰ってくる。
またワンバックは現在、10ケ月以上前に失踪したサトル・ユウマと言う
日本人の少年の顔にそっくりだと言う目撃証言から。
異世界である可能性が高いと発表。今後も予報と謎の解明に全力を尽くすと
調査チームの代表のサム博士はコメントした。」
「成程なー。鳴葉さん。これは?」
エアが指さしたメモは鳴葉は「あっ!これ!」と渡した。
どうやら過去にマイケル・カウフマン医師が残したメモのようだ。
高さは30-40cm。長楕円状の葉を持ち、白い花を咲かせる。
種に幻覚作用のある成分が含まれている。
古来、この幻覚作用を利用して宗教儀式が行われた。
そしてこの種から『PTV』の開発に成功。
新たなビジネスとして観光客に売る事にする。(さらに続きが書いてある)
『PTV』は病院を通して観光客に売買して成功。」
「やっぱり『PTV』も関係してるのかしら?」と鳴葉。
「分からない。ただどうなんだろう?」とエア。
「でも最近、サム博士に取材した時にー。サム博士はー。
今まで目に見えない悪魔や神々や人間の精神は生きた人間には全く認知出来なかった。
でもある特殊な遺伝子やウィルスや粒子、細菌、生体磁気とか言った物質を通して
認知出来るようになっていると語っていたわ。つまり目に見えない存在が目に見える
私達の世界に来ちゃっているのよ。だからこの先にいるあいつも。
でも?なんで?あたしにしか見えないのかしら?」
鳴葉は急に怯え、引き攣った表情で肉屋の扉を見た。
エアも扉の先をじっと見た。「そこに何が?」とつぶやいた。
「・・・・・・」鳴葉は目をつぶり、固く口を閉じた。
エアは無言で肉屋の扉の前に立った。
そして静かにキーッ!と音を立てて扉を開けた。
茶色の扉の先にはさっきの鳴葉よりも体格が一回り
大きく肉屋に白いエプロンを身に纏い。
顔の右半分を三角形のマスクで隠している謎の怪物がいた。
しかも左半分は鳴葉そっくりの顔が露出していた。
更に謎の怪物『ブッチャー』は肉屋を入れる箱の上に別のクリーチャーも座っていた。
その別のクリーチャーは豚のようなマスクに肥大化した両腕に革の袋に覆われていた。
ブッチャーは右手に持っていた刃渡り1mの長四角の
鋭利な刃を持つ肉切り包丁を構えた。
更に右手で別のクリーチャー『セクシャルスラーパー』の首をむんずと掴んだ。
そして軽々と真上へ持ち上げた。たちまちセクシャルスラーパーの身体は宙に浮いた。
続けてブッチャーは右手に持っていた長四角の肉切り包丁をセクシャルスラーパーの
下腹部に深々と突き刺した。同時にプシューと血が噴き出した。
やがてスパン!と下へ右腕を振り、セクシャルスラーパーの下半身を切り裂いた。
セクシャルスラーパーはブルブルと体を震わせた。
そして右手を離すと息絶えたセクシャルスラーパーは肉を入れる箱にゴロリと
横倒しになり、ピクリとも動かなくなった。
やがてブッチャーはのそのそと歩き、肉屋の奥の通路を曲がり姿を消した。
エアと鳴葉、ホワイトフランドールは息を殺してそれを見ていた。
やがてブッチャーが去ると肉屋はまた元の静寂を取り戻した。
鳴葉はエアの右腕にしがみつき、表情を死人のように真っ青にした。
エアは恐る恐る殺されたセクシャルスラーパーに近付いた。
セクシャルスラーパーはもう息は無かった。
『静かなる丘』の表世界と裏世界の異世界の外の現世のニューヨークにある
秘密組織ファミリーの長でシモンズ家現当主のジョン・C・シモンズの大きな屋敷。
マルセロ博士の報告を聞き、彼が部屋を出たあと。
自分のベッドの上に仰向けに寝転びジョンは休息をしていた。
しばらくの間、彼はベッドの上でまどろんでいた。
目をつぶり、小さく鼻歌を歌い、くすくす笑っていた。
しかしその長い静かで穏やかな昼寝はあっさりと終わりを告げた。
しかもそれは若い女性の甲高い絶叫と共にだ。
「きゃああああああああああああああっ!!」
ジョンは流石に驚きを隠せない様子でベッドから飛び起きた。
そしてガラッと窓を開けて外を見た。
その時、突然、ジョンの目の前に巨大な昆虫が姿を現した。
しかもその姿はカマキリとシロアリを合成させた姿をしていた。
さっきマルセロ博士と丁度、話していた『ミミック』に登場する
合成昆虫の姿だとジョンは直感した。
「僕の屋敷になんの用だい!天魔イロウル!!女に手を出したな!!」
ジョンがグルル!と獣のように唸り、指さした。その先には。
胸部から伸びた細長い昆虫の2対の脚で若い女性をがっちりと掴んでいた。
その若い女性はシモンズ家のメイドだった。
彼女は日本人とフランス人のハーフで両肩まで伸びた茶色の茶髪のサラサラの髪は
ポーニーテールに束ねられ、細長い茶色の眉毛。茶色の宝石のような瞳。
長い四角い茶色の前髪。2対の細長い前髪。やや高い鼻。整った顔立ち。
透き通るような白い肌の両腕。メイドドレスに覆われたマシュマロのように
柔らかそうな両乳房は天魔イロウルにがっちりと掴まれていた。
「返せ!そのメイドの女は僕のものだ!!そして去れ!今すぐに!」
しかしジョンの警告に耳を貸す事無く天魔イロウルは黒い複眼の付いた
緑色の逆三角形の頭部を上下に揺らした。更にシモンズ家のメイドの大きな
丸い両乳房を弄ぶように上下左右に激しく強く、時には優しく揉み続けた。
その度にシモンズ家のメイドは小さく息を吐き、
喘ぎ、恥ずかしさで両頬を真っ赤にした。
「この女は私の家族になる。もう渡せない。」
シモンズ家のメイドのメイドドレスから見える深い胸の谷間には
真っ赤に輝く太陽の聖環があった。「契約か」とジョンは叫んだ。
「いかにも間も無く『子宮の卵』が現れる。世界は変わる。
同時に我々も変わらなくてはならない。失礼する。」
天魔イロウルは大きなブブブブブブと言う羽音と共に空高く舞い上がった。
そしてシモンズ家のメイドの若い女を連れ去り、どこかへ飛び去って行った。
(第31章に続く)