(第38章)敗北を知った男
バーン!と言う大きな音と共に黄金の三角頭(ゴールドピラミッドシング)の
両脚も三角形の装飾の付いた靴も強烈に光り輝く
真っ赤な電撃の力によって何も見えなくなった。
続けて黄金の三角頭(ゴールドピラミッドシング)は
エアに向かって地面を蹴り、全速力でエアに向かって走り始めた。
エアは逃げようとした。しかし高速で追ってくる黄金の三角頭
(ゴールドピラミッドシング)の圧倒的な賢者の石の力と威圧感に
精神が呑み込まれ金縛りになった。
彼は怖くて動けなかった。
その場から一歩も。そしてー。
その場で三角頭(ゴールドピラミッドシング)はエアの目の前で大きくジャンプした。同時に大きく前転し、身体を丸めた。
続けて黄金の三角頭(ゴールドピラミッドシング)は
真っ赤な電撃に覆われた両脚を高速で突き出した。
黄金の三角頭(ゴールドピラミッドシング)が放った超強力な
真っ赤に輝く電撃を帯びたキックはエアの腹部に直撃した。
エアは「ぐああああああっ!」と悲鳴を長々と上げ続けた。
エアは身体を大きくの字に曲げて、両足は地面をフワッ!と離れた。
彼は身体をくの字に曲げたまま超高速で後方に吹っ飛ばされた。
超高速で吹っ飛ばされたエアはそのまま近くの木をバキッとへし折ってなぎ倒した。
それでもエアの身体は吹っ飛び続け、やがて電柱さえもへし折ってなぎ倒した。
そして彼の身体を下敷きしてようやく地面に落下した。
エアは瞼を開けた。目の前はまるで曇りガラスのようにぼんやりとしていた。
直ぐ近くに黄金の三角頭(ゴールドピラミッドシング)がいた。
しかし輪郭がはっきりとせず辛うじて黄金の三角錐と人型が見えた。
ゆっくりとエアの視界ははっきりとした。
黄金の三角頭(ゴールドピラミッドシング)の姿が見えた。
黄金の三角頭(ゴールドピラミッドシング)はもはや戦う必要は
無いと思ったのかクルリとエアにあっさりと背を向けた。
立ち上がってエアはじっと黄金の三角頭(ゴールドピラミッドシング)を見た。
またズズッ!ズズッ!と三角形の装飾の付いた靴を擦らせて霧の奥へ歩き始めた。
やがて黄金の三角頭(ゴールドピラミッドシング)はふと立ち止まった。
黄金の三角頭(ゴールドピラミッドシング)は三角の頭を横にして
背を向けたまま静かにこう名乗り、言い残した。
「俺は破壊神ミカエル!!ゴールドピラミッドシング!!
かつては黄の神ロブセルビスだった存在!
その程度の力では!!完全な神は殺せないぞ!!」と。
やがて黄金の三角頭(ゴールドピラミッドシング)、
またの名の破壊神ミカエルはズズズッ!ズズズッ!
と三角形の装飾の付いた靴を擦らせて再び白い霧の中を歩き続けた。
やがて破壊神ミカエルはすーつと白い霧の奥へあっと言う間に姿を消した。
そして奴の賢者の石の力もあの威圧的な気配も
すーつと霧の中へゆっくりと消え失せた。
エアは動こうとしたが全身に激痛が入り、
起き上がる事はおろか指一本すら動かせなかった。
「くそっ!!あいつ!何故?!あんなに強いんだ!くそっ!ちくしょう!」
しかしすぐにエアはあの黄金の三角頭(ゴールドピラミッドシング)事、
破壊神ミカエルの正体が自分自身の心が具現化したものだと気づいた。
そしてあいつの圧倒的過ぎる戦闘力は僕自身が強く望んだ。
だからこそあいつは途轍もなく強いんだ!!
僕は守りたい人を守る為に強さを求め過ぎたから・・・・。
だからこそあいつは途轍もなく強い。僕の望んだ通りに。
あいつは僕の片割れであり、分身なんだ。自分の心の・・・・。
エアは何処からか声がした。それは女の声。
しかも鳴葉でもエイダでもホワイトフランドールの声では無かった。
誰の声か全く分からなかったが幻聴か?他の生存者の女の人か?
やがてエアの前に若い女性が現れた。両頬まで伸ばした金髪。長い金髪の前髪。
キリッとした細長い眉毛。ぱっちりとした茶色の瞳でエアを見ていた。
高い鼻。ピンク色の唇。ふっくらとした両頬と丸顔。
彼女は分厚い真っ黒なコートを着ていた。
その黒いコートの女はエアの隣に座っていた。
彼女は右手の黒い手袋を外した。
「ちょっと!君は?何者なんだ??」
「動かないで治してあげる!私はシェリル刑事!」
シェリル刑事はエアの胸元に向かって太陽の聖環が描かれた左掌を差し出した。
やがてシェリル刑事はエアの胸元に当てて自ら宿した神の力の一部を
利用した方法でエアの三角頭(ゴールドピラミッドシング)に
負わされた重傷を急速に回復させた。
エアは荒々しく息を吐き、苦しそうだった。
しかし直ぐに激痛や麻痺が消えて行き、呼吸もゆっくりと楽になった。
「君は何故?僕を助ける?君は何者なんだ?」
シェリル刑事はゆっくりと口を開き、こう答えた。
「私はかつて聖母となり、神を産み、楽園を作り出すのを拒み、神を裏切った者。
いい!エア・マドセン!今は黙って聞いて!
今この街でアキュラスが行った神降ろしの儀式で誕生した土着神は・・・・」
「土着神は?なんなんだ?」とエアは呟くように言った。
「もう我々人類と動物達に時間は余り残されていない。
だから私の神の力を少しだけあげる。」
シェリル刑事の左掌の太陽の聖環が真っ赤に輝いた。
エアは全身が強く張るのを感じた。シェリル刑事はゆっくりと立ち上がった。
「さあー。仲間と共にお行きなさい!周りを見れば事態の深刻さをすぐに知るわ。
急いで神の転生の儀式を止めなさい!モーテルにブラックフランドールがいるわ!
もう一度融合して一つにして肉体に還して彼女の神の胎児と戦いなさい!!」
そう告げるとシェリル刑事は鳴葉とエイダがエアの元に駆け付ける前に
あっと言う間に霧の中に消え去った。
続けて入れ替わりに白い霧の中から鳴葉とエイダが仰向けに
倒れているエアの所へ急いで駆け付けた。
「エア!エア!大丈夫???」とエイダ。
「まさか?さっきので死んじゃいないよね?」と鳴葉。
しばらくしてエアは再び意識と取り戻し、エイダに助けられ上半身を起こした。
「・・・・・・・・・・」しばらく黙った後、エアは口を開いた。
「女性が!シェリル刑事に会った。君達は見た?」
エイダと鳴葉はお互い顔を見合わせ、「えっ?」と声を上げた。
2人は「見ていない」とはっきりとエアに行った。
「まさか?シェリル刑事は?幻覚?夢?」
いや違う!確かに彼女に触られた感触もあった。
あれは幻覚でも夢でも無い!確かに現実だ!
きっと白い霧に消えたのもあれは・・・・・・・。
茫然とした表情のエアを心配そうにエイダが言った。
「怪我は?かなり酷いダメージを負っていたようだけど。」
「大丈夫です!シェリル刑事に治療してもらいました。」
「シェリル刑事って誰?」と鳴葉はエイダに尋ねた。
「ニューヨーク市警の殺人課の刑事さんよ」と答えた。
不意に鳴葉は軽い頭痛がした。「痛っ!」と頭を押さえた。
しかしすぐに頭痛は収まったのでエイダとエアにはあえて言わなかった。
それからすぐにまたエアの無線が鳴った。エアは無線に出た。
「グーフィか?」と恐る恐る尋ねた。
グーフィはエアをからかうように楽し気にこう言った。
「うーらーめーしーやー」と。
「やめてくれ!『静かなる丘』じゃ!本物がいるんだから!」
エアは苦笑いを浮かべて返した。グーフィもクスクス笑いながら謝った。
「いやーすまんすまん」と。
「それで何か情報が入ったのか?」
「ああ、アメリカのニューヨークのチェルシー地区の中学校にあの
マネキンモンスターが現れた。
かなりの人数が襲われていて大勢の死者や失踪者が出ている。
現在のOSAの情報記録によると現在マネキンモンスターを
撃退する為にアメリカ合衆国のエージェントのシェリー・バーキンと
マネキンモンスターが交戦中らしい。でも今、えーとBSAA特殊部隊と米陸軍、
OSAの最新の記録ファイルからマネキンモンスターと交戦中の
シェリー・バーキンと生存者と連絡を受けた女性教師と女子中学生達が
まるで魔法のように姿形を消して失踪したらしい。
事件のあったグラウンドには散乱した女子中学生や女性教師の
ズタズタの衣服と所持品。グラウンドの地面に空いたまるで
小型爆弾が炸裂したような巨大な深いクレーターが一つ残っていたようだ。
でも誰がやったのか不明で目撃者も誰もいないんだ。奇妙だろ?」
「ああ、奇妙だ。一体?シェリーさんも女性教師や女子中学生達もどこに?」
「現在OSAのレオン・S・ケネディと烈花法師が彼女の行方を捜索しているらしい。
これ以上の情報は無かった。」
「分かったありがとう。グーフィ!」
「いいか?そんなところで死ぬなよ!」
「勿論さ!何が何でも生き残ってやる!ストークスの為に!」
エアは無線を切って服にしまった。
(第39章に続く)