(第56章)魔人フランドール

(第56章)魔人フランドール

 

スイッチを入れたカメラは音声は聞こえるがしばらく画面は真っ暗なままだった。

やがてどこかが動き、レンズに日本人女性が映った。

日本人女性は間違いなくメンバーの女子大生の一人であろう。

サラサラの胸元まで伸びた黒髪のロングヘア。キリッとした太く長い眉毛。

怯え切った丸々とした茶色の瞳はユラユラと揺れ続けていた。

丸っこく低い鼻。ピンク色の唇。ふっくらとした両頬は紅潮していた。

長く黒い前髪は汗でビショビショに濡れていた。

更にモニター画面の角の隅に白い赤い苺の模様のパンツを持って

嬉々として騒いでいるズタ袋の男の12名がいた。

アメリカ大学所属の『オズ』のメンバーの純粋な日本人女性が

撮影したカメラのレンズには泣き出す女子大生の顔が映っていた。

更に一人のズタ袋男は丸顔の彼女の美しさに惚れたのだろう。

そのまま日本人女子大生に飛び掛かって仰向けに押し倒した。

ビリッ!ビリッ!と服を破る音が聞こえた続けた。

やがてガツン!ガツン!ガツン!と腰を振り、叩く音が冷めたく響き続けた。

更に悲鳴にも近い甲高い声で長々と喘ぎ続ける声が真っ暗闇になった

モニター画面に響き続けた。そして音は止み、続けて場面が変わった。

次の場面には別メンバーと思われる日本人とアメリカ人のハーフの女性の顔が映った。

彼女の両耳まで伸びた金髪のベリーショートヘア。

しかしうしろの金髪は首まで伸びていた。

キリッとした細長い茶色の眉毛。ぱっちりとした美しい宝石のような青い瞳。

丸っこい高い鼻。ふっくらとした両頬の形の整った顔立ち。

そして首を左右に神経質に振った。

その時、エイダはビデオカメラに映っている彼女の顔に見覚えがあった。

彼女は間違いない彼女の母親は1998年ラクーンシティ事件当時の

ラクーン市警のRPDの巡査だったリタ・フィリップスの姉妹の妹の方だ。

彼女の母親は生存者数名と共にラクーンシティから脱出に成功していた。

更にすでに最強の薬品にして対Tウィルス用特効薬『ディライト』をラクーン

大学研究所で作成して自身と生存者に投与。残りのサンプルを持ち帰ったようだ。

彼女、姉妹の母親のリタはアンブレラ社とアメリカ政府と国そのものに恐怖を感じて

日本の北海道に移住し、乗馬教室の先生をしている日本人男性との間に姉妹を儲けた。

自立してアメリカに住み大学に通い始めた姉妹の名前は。確かー。

妹が『山岡・フィリップス・詩音』。

姉が『山岡・フィリップス・莉奈』だったわ。

そして皮肉にもまた大事件に巻き込まれてしまったようだ。

一方、ビデオカメラに写っている

妹の山岡・フィリップス・詩音はシクシクと泣き始めた。

間も無くして彼女は震える唇でしゃべり始めた。

「私のせいで。ここに来るんじゃなかった。こんな危ないところ。

私以外のお姉ちゃんを含む4人の仲間はズタ袋の男達と女達に攫われた。

そして私は彼らを追ってメリーゴーランドまで来たの。

ズタ袋の女達は守るようにメリーゴーランドの外に立っていて。

私は怖くて近付けなかったのよ!!助けようとした・・・・けど・・・・。

それからズタ袋の男達は仲間メンバーを怪力で押さえつけて。

うっ!げっ!あっ!くそっ!くそっ!ああ!もう!嫌!思い出したくないッ!!」

それから日本人とアメリカ人のハーフの女性が黙り込んだ。

長い間、沈黙が流れた。

間も無くしてゆっくりと口を開いた。そしてしゃべり始めた。

「ズタ袋の男は私の『オズ』の仲間達はメリーゴーランドの馬のように

四つん這いにしてやり始めたの!!

そしてやった後!仲間達は『教団』の思想に染まって

ズタ袋を被って!同じになったのよ!!あいつら!そうやって!

密かに仲間を増やしていたんだわ!!洗脳よ!!

仲間達は洗脳されて男達の言われるがままに自分のスマートフォン

カメラやゲーム機を狂ったように笑って壊し続けたのよ!!

もう完全な別人よ!人間じゃない!!」

次の瞬間、日本人とアメリカ人のハーフの女性は大粒の涙を流した。

「私はそうはなりたくない・・・ハッ!ママ!パパ!

生きて帰ってこなかったら御免なさい!親不孝な娘でごめんなさい!ああ!くそっ!」

日本人とアメリカ人のハーフの女性は立ち上り、荒々しく息を切らせて走り始めた。

そのカメラのフレームの外で甲高い狂った笑い声が聞こえた。

「いやああああっ!嫌だっ!仲間になりたくないッ!!」

彼女はただただ甲高い悲鳴を上げて走り続けた。

やがてどこかの小石につまずいて転倒したのか?

ドスン!と言う音と共にカメラのレンズは茶色の土の地面を映した。

そこで再生は終わり、画面は真っ暗になった。

鳴葉とエイダは心底、背筋が凍り付いた。2人共、血の気を失い、青くなっていた。

レッドフランドールも余りにも生々しい映像に無言になった。

それからガタン!と音を立てて、メリーゴーランドの回転が停止した。

「見て!入り口がある!!」とレッドフランドールは入り口のある場所を指さした。

4人はメリーゴーランドをぐるりと半回転に歩きながら

赤いフェンスが左右にある細長い入り口に入って行った。

そこは床も壁も真っ赤な錆とヘドロがこびりついていた。

しかも歩く度にぬちゃっ!ぬちゃっ!ぬちゃっ!と気味の悪い音を立てた。

やがて目の前の赤い扉をガチャッ!と開けて先へ進んだ。

そこはわりと綺麗で白いコンクリートの壁とコンクリートの床に木の柱に

左右に四角い光るランタンがあった。そして横の壁に血文字があった。

どうやらアキュラスが書き残したものらしい。

「この世界はゲーム、テレビ、スマートフォン、携帯、AI(人工知能)。

ソフビ人形における害悪に塗れ、私達は悲しみをためる。

それを満たすのは貴方、完全な神だけ。」と。

さらに先にも血文字があった。

「余すことなくこの身の全ては完全な神である貴方に捧げられる供物である。」

更に先にも血文字があった。しかも内容は少し違っていた。

「どんな暗闇、つまり死は何度も私を遮った。

我が宿敵ジル・バレンタインの中にある魔神ヴィシュヌ。

サ・ガーランドと黄金騎士ガロの冴島鋼牙。私は死を認知した。」

「羊のように従順に尽くす我らの魂。ああ神よ。楽園へお導下さい。

しかし私は死を恐れる。私は自らの破滅は恐ろしい。

私は神と共に生き続けたい。私は死にたくない。何も残らないのは嫌だ。

私は何かを残したい。女は喰うだけではなく。

私は女を(ここは真っ赤に塗りつぶされている)

私も子孫を残したい。私もあの男のようにイヴが欲しい。

私の中で貴方の信仰が揺らいでいる。生命が欲しい。」

「もう神よりも若村よりも神よ。我が子に恵みをお与え下さい。」

4人は錆びだらけのフェンス横道を通り過ぎそのまま

長いコンクリートの階段を鳴葉、エア、エイダ。

先頭にレッドフランドールが立ち、上へ上へと駆け上がって行った。

そして茶色の扉を開けてとうとう敵の本丸の教会の中へ、4人足を踏み込んだ。

そこは教会の礼拝堂だった。そして目の前を見た。

教会の礼拝堂の大きな長四角のベッドがあった。

更に教会の礼拝堂の長四角のベッドの上にはあの焼き尽くされて

動けなくなっている魔人フランドールの肉体が仰向けに寝かされていた。

あの写真通りに赤黒く焼け爛れていてまだ微かに息のあるようだが。

どの道、アレッサ・ギレスピーと同様に第三熱傷を負っていた。

その為、彼女はとてもでは無いが

動く事も出来ない上に生きている事さえ不思議だった。

表皮の四肢のみが焼き尽くされ、内臓は無事だった。

しかしそれを引き換えに彼女は火傷の激痛と熱さと周囲に漂う自分の肉が焼け焦げた

匂いと呪いによる感覚の増幅によって生きながらにして地獄の苦しみを受け続け、

その苦痛がこの『静かなる丘』を中心に全世界と全米を異世界に変えて行った。

エアは推測した。つまり彼女が台風の目のようなものだ。

エアもエイダも鳴葉も周囲に漂う焦げ臭さに思わず口を押えた。

鳴葉は焼けた人間(一応吸血鬼だが)見るのが初めてであろう。

吐き気を堪えてただ茫然と見ていた。

エアが目の前の3列に並んだステンドグラスを見ると黒髪に白と緑の服と

スカートを履いた聖人の女性。白と赤のスカートを履いた聖人の女性。

赤の円形が頭に付いた茶髪と青い服と

黄色のスカートを履いた聖人の女性の絵があった。

下の四角部分にはクローバーの形の緑の光が差し込んでいた。

それから長四角のベッドの上に仰向けに寝かされている

全身焼き尽くされ、深い火傷を負った魔人フランドールの肉体に

レッドフランドールはゆっくりと近付いた。すると魔人フランドールの肉体は

完全に焦げて真っ黒になった唇をゆっくりと動かした。

「何・・・・故?・・・・魂が・・・・戻って・・・・来たんだ・・・・・。」

掠れる声で黒い身体の魔人フランドールの肉体は言った。

「これ・・・・以上・・・・被害を拡大させる訳に・・・・は・・・」

レッドフランドールは静かに瞼を閉じ、首を左右に振った。

「いいえ!これじゃ!被害を食い止められてもいつまでも

長く長く続ける訳にはいかないわ。これじゃ根本的解決にならない。」

「・・・・」と火傷した魔人フランドールの肉体は黙り込んだ。

「それに貴方もこれじゃ!何の解決にならない事も分かっている筈よ!

だって貴方は・・・・私の肉体だもの・・・・」

「でも私は怖い。このまま世界を人々も。生活を破壊してしまう。」

レッドフランドールは再び瞼を閉じ、首を左右に振った。

「いいえ。私と仲間が絶対にさせない。

必ず私自身で全ての始末をつけるわ!勿論手伝って貰ってね!」

 

『静かなる丘』の教会の鐘桜内。

「うううっ!」と大きく唸り、両耳まで伸びた金髪のベリーショートヘアの

日本人とアメリカ人のハーフの女性がゆっくりと立ち上がった。

彼女はさっきアキュラスと戦って。

どうにかアキュラスを退けたけれど。力尽きて失神してしまったんだっけ。

彼女はアメリカの大学サークルの『オズ』の

リーダーの山岡・フィリップス・詩音である。

彼女は気が付いて周囲を見渡すとどうやら教会の鐘桜の中にいるらしい。

彼女はまた着ていた純白のシルクの美しい花弁模様の付いた

ウェディングドレスには大量の血が付いていた。

彼女はしばらく呆然とした表情で座っていた。

さっきのは悪夢なのか?それとも現実か?アキュラスは殺した筈。

あの仲間を洗脳したズタ袋男共のリーダー(多分)。いい気味ね。

とにかくここはどこ??家に帰れるの??詩音はとても不安になった。

本当に帰れるのか??すると鐘桜の天井からあの天魔アルミサエルの声がした。

「案ずるな。必ず現世の自分のあるべき家へ帰れる!!

君は人間としての可能性を示した!約束しよう!

既に七羽に託された『ディライト』もメンバー全員に投与した。

あのケリヴァー・ミショナリーに取り込まれた仲間達も助かる。」

「七羽!無事だったんだ!約束してくれるんですね!また彼らに会える・・・・って」

詩音はドスッ!と太陽の聖環の描かれた床に倒れた。

やがてドアが開く音がした。そして一人の女性が入って来た。

彼女はジル・バレンタインだった。

「やはり。あの天魔アルミサエルの言う通り彼女はここに」

「フム!どうやら戦い疲れて精神を消耗したようだ!」

「一応、ジョンからは天魔アルミサエルの手によってズタ袋の怪物から洗脳の記憶を

消し去り、『ディライト』を投与され、元の人間に戻した他の日本人の女子大生の

『オズ』のサークルのメンバーも異世界の出口から現れて保護されたようね。

彼女も同じメンバーの人ね。」

「だが。全員ハズレだぞ!目的は達していない!」

「でもせっかく見つけた以上保護するわ!」

「分かった!我の力であいつの屋敷にターミナルしよう!!」

ジルはよっこらしょと詩音を抱き上げると自ら精神世界に存在する

魔神ヴィシュヌの力を借りてジョンの屋敷にテレポーテーションをした。

ジルと詩音の姿は金色の光に包まれてふっと消えた。

同時にぱらぱらと音を立てて小さなメモが太陽の聖環の床に落ちた。

メモには『アグラフォティス』とあった。

 

(第57章に続く)