(第67章)歴史の闇に生まれつつある兵器と怪獣世界

(第67章)歴史の闇に生まれつつある兵器と怪獣世界

轟天号内でニックは、網走市内に発生した弱エネルギー反応の分析を進めていた。
その結果、この弱エネルギー反応は電磁波を遮断するAサイクル波と、
発明家の鳥居哲夫と言う人物が開発した痴漢防止機のレディ・ガードの
不協和音に類似している事が判明した。
最近の研究で「G塩基を持つ生物は、自分の身を守る為に
この不協和音とAサイクル波に類似した脳波を発生させ、
その脳波が一種の電磁パルスの役割を果たすのでは無いか」
と言う学説が発表されたばかりだった事を思い出した。
ゴードン大佐は
「これは?X星人の因縁によるものなのか?……でも!これなら!彼女を救えるかも知れない!」
とつぶやくと、すぐに不協和音を発生させる
12連のスピーカーを搭載したAサイクル光線車を緊急に準備するよう自衛隊に求めた。
Aサイクル光線車とレディ・ガードの不協和音の初登場は以下のとおりである。
数年前X星人がゴジラキングギドララドンをコントロールし、
最初に地球を襲撃した際、偶然、鳥居哲夫が開発した
レディ・ガードを聞いたX星人が突然、両耳を
押さえ、平静を保つ事が出来なかった事から、これがX星人の弱点だと判明した。
さらにAサイクル光線車は、現在解散された宇宙連合宇宙局に保管してあった
「電磁波に対するAサイクルの影響」と言う研究論文をもとに作成された。
2つの新兵器の効果は絶大で、X星人の計画は見事失敗に終わり、
統制官は「未来へ向かって脱出する!」と言う意味深い言葉を残し自らの基地で自爆した。
それからとあるセキュリティ会社がこのレディ・ガードの権利を買い取り、
X星人を撃退した防犯ブザーとして世間に売り込んだ。
しかし世界的な金融危機の影響で赤字になり、事実上倒産した為、販売は停止となった。
 一部ではそのセキュリティ会社は世界教育社から衣替えしたX星人の会社で権利を買い取り、
処分したのではないかと言う憶測が、メディアやネット上で都市伝説として語られていた。
事実この会社が倒産してわずか
2週間後にX星人が地球に来ていたのでますます信憑性が高くなっていた。
 一方、Aサイクル光線車も、世界的な金融危機の経済悪化と
ゴジラを倒す程強く無い最弱兵器』だと評価する一部の自衛隊関係者の意見、
さらに様々な最新兵器が続々開発された事も要因となり、
事実を知る自衛隊関係者や地球防衛軍関係者は極端に少なくなり、
歴史の闇に埋もれつつあった。だからこの2つの兵器を掘り起こす事は
容易ではないとゴードン大佐は分かっていた。
当然、地元の自衛隊にはその2つの兵器は全く整備されていなかったので、
わざわざ東京を始め、日本中の自衛隊本部に連絡し、
地球防衛軍や内閣の協力で北海道までその2つの兵器を運ぶ準備を始めていた。

 サンドラは咆哮を上げ、踵を返すと壊れかけたビル街をまる
で何かに引き寄せられるかの様に網走厚生病院の方向へ歩き始めた。
ゴジラも埋もれていた民家の瓦礫を弾き飛ばして起き上がり、
おぼつかない足取りでサンドラを追いかけ始めた。
サンドラは壊れかけた建物やビルの間を走り、すぐ後ろをすぐに振り返った。
しかしうしろにゴジラの姿は無くただ寒い風の音と白い粉雪が見えた。
サンドラは不審に思い、周りの瓦礫を撒き散らしながら高層ビルの目の前で止まった。
その時「バリバリ!」と何かが割れる音が聞こえ、すぐに高層ビルの方を見た。
ビルの表面のコンクリートの壁がクモ状にひびが入っていた。
サンドラは怒りに唸りの表情で「グルル!」と唸ると、
すぐに高層ビルから離れた。その瞬間「バキキッ!」と言う大きな
音が聞こえ、高層ビルが土台から一気に崩れ、そこから身をかがめ、
ゴジラがジャンプをしながら飛び出した。
しかしゴジラは体力の限界で疲れ果て、全身の痛みに耐えられず、その場に倒れた。
サンドラが網走厚生病院の方向まで移動を開始したので、
サンドラの進行を止めようとゴ―ドン大佐はプロトンミサイルで攻撃するよう指示した。
轟天号から放たれた数発のミサイルをサンドラは素早く察知し、振り向いて正確に全てのミサイルを
撃ち落としたが、サンドラも体力の限界で疲れ果て倒れ、2体のその場から一歩も動けなくなった。

網走厚生病院の広場の物置小屋。
蓮と凛と喧嘩中に凛の首にかけていた
インファント島のお守りが一瞬黄金に輝き、2人が眠るように倒れた瞬間、
「見つけたわ!」
と物置小屋の何処からかロシア語が聞こえた。
柱の陰から懐中電灯と拳銃を持ったロシア人女性が現れるのを見た時、
山岸は驚きと恐怖で青白い顔になり
「嘘……どうして僕達の場所が……」
「分からないわ……」
と洋子。
ふと洋子が地面に落ちていた小さいボタンを拾うと
「これは発信機だわ!」
と言った。
山岸は
「いつの間に!こんな物を?」
と言った。
レベッカは気絶しているロシア人らしき男性を凛達の眼の前まで転がし、
「あなた達はこの男と一緒に人質になるのよ!」
と言いながらポケットから拳銃を取り出そうとした瞬間、
別方向から銃声が聞こえ、レベッカの拳銃を弾き飛ばした。
長野先生がレベッカに向かって銃を突き付けていた。
銃口が赤く光り、白煙が立ち上っていた。

物置小屋で眠るように倒れた蓮と凛が意識を取り戻すと、
どこかよく分からない空間の中にロシア人らしき男性が立っているのが見えた。
凛は
「ここは?まさか?空想と現実の間の怪獣世界?」
蓮は混乱した様子で
「まさか?ここが?」
と声を上げた。
2人が無言で脳裏に移る映像を見ていると、
ボロボロで一歩も動けなくなったサンドラとゴジラが、
ビルのわずかな隙間から見える映像が一瞬だけ見えた。
蓮は
「そんな……馬鹿な。そんな……ありえない!科学的にありえない!」
凛は静かな声で
「言ったはずよ……ここは、半分は今の科学で証明できるかもしれないけど、
もう半分は証明出来ない曖昧な世界よ!」
蓮は
「それじゃ?これは夢か?」
凛は首を振り
「いいえ!半分は現実の筈よ!」
しばらくして「うーん」と唸る声が聞こえ、ガーニャがうっすらと目を覚まし
「ここはどこだ?」と映像の中でつぶやいた。
凛は脳裏に移るガーニャに向かって
「ここはどこなのかはっきりと説明する事はできないわ!」
と答えた。

(第68章に続く)