(第63章)マグダラのマリア

(第63章)マグダラのマリア

 物置小屋に隠れていた凛は、何か彼女を助ける手掛かりが無いか、
ふと真っ暗な物置小屋の中を見渡した。
 暗闇で何も見えなかったが、やがて部屋の中心に十字架らしきものが見えた。
すると暗闇の中で山岸の
「どうしたの?」
と尋ね来る声が聞こえた。山岸が
「これからどうするの?」
と暗闇の中、誰かに聞いた。
洋子は
「長野先生を探さなきゃ!」
蓮は
「でも!ヤバいぞ!警備員とか?機動隊とか?自衛隊がウロウロしているよ!見つかったら?」
その時、暗闇の中、凛は
「なにかしら?……」
と言った。
凛は、ちらちら光るろうそくの明かりに恐る恐る近づくと、
十字架らしきものと新約聖書が置かれているのを見つけた。
凛はその開かれた新約聖書のページの文章を、
そばに置いてあったろうそくの明かりを頼りに読み始めた。
 そのページには「マグダラのマリア」について書かれていた。
凛は
マグダラのマリアって?7つの悪霊をイエスに追い払ってもらった女性……」
すると凛はふと脳裏に
『助けて……真実を見つけて……ガーニャ……』
と言う怪獣化したサンドラの声を思い出した。
凛は顔を上げ、思わず少し高い声で
「これが真実だわ!見つけたわよ!」
蓮は持っていたデジタルカメラの光を頼りに凛の隣へ来ると
「これが彼女の言う真実?」
と言いながら新約聖書を指さした。
凛は興奮した様子で
「そうよ!彼女は!」
蓮は嘲笑いながら
「つまりマグダラのマリアのサンドラが、
エスゴジラに救いを求めている?そんなバカな話があるか!」
と笑いながら言った。しかし再び眉間にしわを
寄せて真剣に考え込んでいた凛は
「もし?マグダラのマリアが真実なら!あたしはどうやって?
助けてあげたらいいのかしら?やっぱり……あたしが怪獣世界
に行くしか方法が無いのかしら?……」
と言った時、再び蓮は呆れた声で
「まだ!そんな事を考えているのか?」
と言った。

 ゴジラは刺し貫かれた傷口をかばい急いで起き上がり、
いつでもサンドラの攻撃をかわして反撃できるように戦闘態勢を取った。
すると案の定、サンドラは元通り再生した長く鋭い爪を
振り回し、ゴジラに襲いかかって来た。
ゴジラは動けない身体で素早く放射熱線を吐いた。
放射熱線はサンドラの額に直撃して、大爆発を起こし、
サンドラは再び苦しみ悶え倒れた。

 轟天号内ではニックは
「どうやら……額が弱点の様です!」
グレンは
「どうしますか?」
しばらく考えていたゴードン大佐は
「クソ!ワクチンはまだなのか?」
と怒鳴り、無線を取り出し、網走厚生病院のウィルス
対策本部に連絡しようとしたが、無線が故障しているのか連絡が出来なかった。
ゴードン大佐は
「故障しているのか?」
ニックは
「そんな筈は……」
とつぶやいた。
ゴードン大佐は仕方無く、
「とにかく時間を稼ぐんだ!額に冷凍攻撃!」
と号令をかけた。轟天号のドリルの先端から冷凍レーザが放たれた。
だが基本的に寒さに強いサンドラには全く効果が無いようだった。
サンドラは轟天号では無くゴジラに向かって冷凍弾を吐いた。
ゴジラは素早く避けようとしたが、先程負った胸の大きな傷口のせいで思う様に身体が動かず、
冷凍弾は、かわし切れずに頭部、両腕、刺し貫かれた胸に直撃した。
ゴジラは酷い凍傷で痛みに呻き声を上げた。
更にサンドラは大きくジャンプしてゴジラに飛び掛かった。
しかしゴジラは思う様に回らない身体を回し、
サンドラに尾を振り回し、カウンターを決めた。
ゴジラの尾に叩きのめされたサンドラはそのまま弾き飛ばさ
れビルの瓦礫に沈んだ。
 しばらくして瓦礫を弾き飛ばし、醜い姿のまま起き上がり、
ゴジラに向かってラドンに似た声で怒りの咆哮を上げた。
ゴジラも答え、咆哮を上げた。

 網走厚生病院の広場にある研究所になっているテント付近では、
神宮寺博士から連絡を受けた自衛隊地球防衛軍の関係者
が集まり、かなり忙しくなっていた。
 美雪は、G塩基を組み込んだ宇宙植物の
大きな透明の箱を運ぶ為に集まって来た関係者に、忙しく指示をしていた。
ちなみにレイが捕らわれているコンテナのガラスはマジックミラーに変えており、
万が一の為、彼女に目隠しをして外部の音は完全にシャットダウンされていた。
 その為、レイは外部の情報も全く分からずただじっとしているだけで、
退屈のあまり、適当に
「美雪さん……」
とコンテナ内に常備されたマイクで呼びかけて見た。
 丁度近くで自衛官達に忙しく指示をしていた美雪はふと足を止め、コンテナの外にあるマイクで
「何かしら?」
と話かけた。
レイは
「あなたは知っているのかしら?」
美雪は
「何を?」と。
レイは
「黒い竜と黄金の竜の話」
と言った。
すると傍にいたサミーが美雪の肩を叩き、
「相手にするな!マイクのスイッチを切るんだ!」
と警告した。

(第64章に続く)