(第55章)プロメテウス

(第55章)プロメテウス

蓮は凛に向かって
「それは自分が見た夢だろ?幻想だよ!お前の両親が体験した事も同じさ!」
凛は彼の言う事を無視し、自分が経験した事を脳裏に思い浮かべた。
 しかしいくら思い浮かべても何も変わらなかった。
凛はあきらめず、今度はサンドラに
「助けて!」
と呼ばれ、どこかビルの屋上へ立っている様子を思い浮かべた。
しかし現実の風景は全く変わらなかった。
蓮はさらに冷たい声で
「無駄だよ……それはあんたがイメージした完全な空想世界に過ぎない……」
凛は
「それなら……」
蓮は
「酒でも飲むつもりか?だったら辞めとけ!怪獣世界に行く前に二日酔いになるのが落ちだよ!」
とからかった。
それでも凛はあきらめず、必至に脳裏にイメージを浮かべ続けた。

 全身が肉芽種で覆われ、醜い姿になったサンドラは起き上り、
獣の唸り声を上げ、真っ直ぐゴジラに向かって襲いかかって来た。
ゴジラは素早く横飛びでかわした。
サンドラはマンションに突っ込み、倒れた。
ゴジラは悟っていた。
彼女は……死にかけていると……。
ゴジラはそんな哀れな彼女をどうしたらいいのか全く分からず、
ただ呻き声を上げ、苦しんでいる彼女を見ていた。

しかしサンドラはそんな混乱しているゴジラにお構いなく
マンションの瓦礫から起き上がると再び闘牛の様に猛然とゴジラに向かって行った。
 アメーバ状の腕から伸びた鋭く長い爪を振り回し、ゴジラ
肩を深く切り裂いた。ゴジラは痛みで呻き声を上げたが、
もう片方のアメーバ状の腕に鋭い牙で噛みつき、反撃を仕掛けた。
しばらくしてゴジラの背びれが青白く輝き、放射熱線で片方の
アメーバ状の腕を吹き飛ばし、蒸発させた。
サンドラは痛みで錯乱状態になり、激しく頭を振り回した。
ゴジラは突然、右の頭部をバットで殴られた様な衝撃を感じ、
身体がフラつき雪の降るアスファルトの上に右膝をついた。

 トオルの言葉を聞いてしばらく黙りこんでいた各国の企業関
係者のうち、ロシアの企業で働いているロシア人の男性は
「そうです!トオルさんの言う通りです!下手に動けば!
我々の企業の不正が明るみに出るでしょう……しかし!
我々にも考えがある!」
中国人の女性は
「それは?あの計画でしょうか?_」
ロシア人は
「はい!万が一ロシア人のウィルス計画が失敗した時の為に考え出された新しい計画です!」
野中剣士は
「そして今まで失敗したと皆さんが思っている!
『インファント島攻撃作戦』や『音無美雪および覇王圭介誘拐事件』
『対ゴジラ兵器神獣計画』、『音無凛誘拐計画』は、この新しい計画
の準備の為の下調べに過ぎません……今までの計画で分かった全ての情報は
極秘にこの真鶴の特殊生物研究所に保管されています!」
ロシア人の男性は
「そして必要な情報のみを引き出し!残りは破棄します!」
ビリーは
「それでは?あのウィルス計画は?」
ロシア人の男性は
「はい!もうすでに新しい計画の第一段階は始まっています!」
金田トオル
「第二段階の具体的な計画の全貌はいずれ!あなた達に知らされるでしょう!」
韓国人の男性は
「その計画の第二段階はいつどこで公開されるでしょうか?」
金田トオルは少し笑いながら
「計画のコード名は『プロメテウス』です!」
と言ったが、新しい計画の全貌が明かされぬまま会議は終了した。

 再び北海道網走市
 テントの取り調べ室でガーニャの事情聴取は続いていた。
「ピーター・ハイブスとはいつ知り合った?」
レベッカは怖い顔つきになり
「あたしは知らないわよ!」
ガーニャはさらに
「何を隠している!」
と大きな声で怒鳴った。
レベッカはそれよりもサンドラの話をしたがっていた。
ガーニャは首を左右に振り
「サンドラにこだわるんだ!」
レベッカ
「彼女は!ウィルス計画の実験体だからよ!」
と返した。
ガーニャは
「話にならないぞ!ちゃんと真面目に答えるんだ!」
レベッカは真剣な表情で
「彼女はどこまで変異したの?」
ガーニャは両手で頭を抱え
「分から無い……一体?どこまで変異したのか?」
と悲痛な表情で返した。
レベッカは小さい声で
「サンドラはどうなったの?」
と尋ねた。
ガーニャは首を振り
「さあ…分から無い……」
レベッカ
「本当に彼女の事が好きなのね?」
ガーニャは
「そんな事より!……」
と言い掛けた時、レベッカ
「彼女はゴジラと『つがい』になろうとしてるわ!あなたはどうするの?」
ガーニャは
「それは?どういう事だ?」
レベッカ
「あなたは彼女が好きなんでしょ?」
ガーニャはさらに険悪な表情になり
「それがどうしたんだ!」
と怒鳴った。
レベッカ
「なら?怪獣化した彼女は?ゴジラとあなたどっちが好きなのかしら?」
ガーニャは
「もう!彼女の話をするな!」
と怒鳴りつけた。

(第56章に続く)