(第76章)『クリーナー』

ゴジラの自作小説を載せます。
そろそろラストまで書けたので一気に載せます。

(第76章)『クリーナー』

 東京のある廃ビルの会議室に、MWM社の上層部と思われる人物が集まっていた。
「それで『プロメテウス計画』の進行状況は?」
「成功だ!」
「サンドラの体内に宿した胎児は順調に成長しているようだ……」
「生まれるのは?」
「人間の胎児の成長に合わせて10カ月後だろう……」
「パシフィック製薬にA群溶血性レンサ球菌の抗生剤
タブリス』の製造は中止させ、世界中に配給された薬も回収作業を終え、全て処分済みだ」
「それから、A群溶血性レンサ球菌に感染したミュータント達は、
あのG細胞の遺伝子情報をコピーしてレントゲン技術を応用した
『Gメ―サー』で治療出来る事が判明しているのでそちらを医師達に推薦したいと思う」
「成程」
「『第3の堕天使』と名乗る裏切り者達は?」
「まだ始末していない!」
「早く始末しなければ!」
「この計画は我々の戒めだ!」
「計画に関わっているⅩ星人達も!」
「彼らは我々や人類・Ⅹ星人を全滅させようとたくらんでいる!」
「目的は分らぬ!」
「とにかく計画を成功させなければ!」
「健闘を祈る!」
それから廃ビルでひっそりと行われた会議は終了した。

 ウラヌス部隊と覇王があらかじめ確保して置いた脱出経路を辿って、
洋子、凛、美雪、マーク達は、アルカドランの地下研究所を
脱出しようと暗い陰気な廊下を歩いていた。
父親の覇王は娘の凛に
「仕事は?東京の地球防衛軍の特殊生物犯罪調査部か?」
「うん!」
と凛は答えた。
「でも?それだけじゃないだろ?」
と覇王は凛の心を見透かした様な自信に満ちた口調で言った。
凛は少し驚いた顔をしたが冷静に話題を変えた。
「実は……あたしパソコンを最近習っているの!」
「へえ!凄いね!」
「情報を集めるのが趣味なの!あと中学生の頃、クリーニング屋でバイトしていたのよ!」
クリーニング屋?」
覇王と凛の会話を聞いていた美雪は急に心配になり、眉をひそめた。
 何故なら『パソコンで情報を集める』と言う言葉は、
地球防衛軍の特殊生物諜報員、つまりスパイの事を、
また『クリーニング屋』とはクリーナー、つまり
他のテロリストや政府が実験で作り出した怪獣に関する情報を隠ぺいし、
きれいに掃除する始末人の事を業界用語で指していたからである。

 遺伝子検査を受けた蓮が、
ノスフェラトゥでは無いと国連から派遣された医師団から判断され、
ようやく解放されて歯医者へ向かう廊下を歩いていると、
アヤノに似た女性が、立ち入り禁止区域に通じるドアを開け、入って行くのが見えた。
服装からして内閣の関係者らしい。
 もちろんその正体はアヤノそっくりに整形し、
内閣の関係者を装って地球防衛軍内に侵入したレイである。
 蓮は不審に思い、女性の後を追って立ち入り禁止区域へ入って行った。
 レイはうす暗い廊下を歩いていた。その背後で蓮はレイの跡を追い続けた。
 しばらくしてカウセリングセンターへ通じる広い物置き部屋へ出た。
そこはどうやら何年も使われていないらしく、壊れ掛けた木材や機械が置いてあった。
 蓮が着くとレイの姿は消えていた。
「あれ?何処へ行った?」
と蓮は周りを見回した。
 そこにレイが目の前に姿を現した。やはりアヤノにそっくりの顔だった。
 蓮はすぐに拳銃を取り出し、両手で構えると
「動くな!あんたは何者だ?何故アヤノそっくりの顔をしている?」
と大声で言った。
蓮の声に反応し、動きを止めた途端、急にレイの脳裏に、
しわがれた声で誰かが命令するかのように
「カバンから取り出してそれを撒け!」
と聞こえた。
レイは脳裏に流れた声に従い、カバンらしき袋から親指ほどの大きさのカプセルを取り出した。
更にしわがれた声は彼女の脳裏で
「繁殖の邪魔をするミュータントを殺せ!」
「ためらうな!あいつらを脅せ!」
と続いた。
レイは蓮に向かって
「それ以上!動かない方が身の為よ!」
と親指ほどの大きさのカプセルをチラつかせた。
すかさず蓮は
「それは何だ?」
レイは恐怖に堪えるような不気味な笑みを浮かべ
「これはね!例のM塩基破壊兵器よ!」
蓮は目を丸くし
「まさか?G塩基を組み込んだA群レンサ球菌か?」
「そうよ!ここでばら撒いたら?何人のミュータントが死ぬのかしらね?」
すかさず蓮は
「やめろおっ!」
と大声で言った。
「こんな楽しいおもちゃを取り上げるつもり?」 
とレイはうすら笑いを浮かべ、震えた声で笑った。
「ふざけるな!それはおもちゃじゃない!お前も死ぬかもしれないんだぞ。分からないのか?」
と蓮は怒りに満ちた様子で声を荒げた。
レイの脳裏に再びしわがれた声がまるで彼女の恐怖を煽るように
「撒け!」
「繁殖の邪魔をするミュータントを殺せ!」
「ためらうな!」
と連続して続いた。
レイはしかし脳裏に流れた言葉に逆らう様に
「やめて!やめて!」
と長い沈黙を破り、怯えた様子で金切り声を上げた。
蓮はすぐにレイの異変に気が付き
「どうしたんだ……なにがあったんだ?」
とレイに向かって一歩足を踏み出した。レイは
「やめて!撒くわよ!繁殖の邪魔をするなら!あなたも殺すわ!」
と激しい口調で脅した。
それから長い沈黙がうす暗い部屋を包んだ。

(第77章に続く)

では♪♪