(第50章)終焉

(第50章)終焉
 
大戸島近海、海轟天号のブリッジ。
「恐らく膨大な核エネルギーの使用と旧支配者のクトゥルフの強力なテレパシーから
防御する能力の長時間の持続によって一時的に精神が混乱して、記憶を失ったのでしよう。」
スノウや他の乗組員達は初代ゴジラのクローンが再び目覚め、海へ帰って行く様子を眺めながらそう言った。
「それって記憶喪失か?」
杏子とジェレルの顔は疲れきっていて目の下に深く黒いクマが出来ていた。
でも、まさか、スノウの正体が偉大なるイースの種族なんて、
地峡防衛軍司令官の熊坂さんや上層部の人達は信じてくれるのだろうか?
自分の席に座っていたスノウはまるでグレンの考えを見透かしたかのように絶妙なタイミングでこう言った。
「私の知っている禁断の知識を得ようする悪党どもが現れるかも知れませんので
くれぐれも内密にお願いします。」
「こちら轟天号、東京の地球防衛軍に帰還する。」
艦長のダグラス・ゴードン上級大佐はやれやれと首を振ると無線を取り、そう熊坂司令官に報告した。
新・轟天号はジェレル、ニック、グレンの懸命な修理の末、ようやくエンジンは復帰した。
ちなみに轟天号の機能システムに侵入していたあのクトゥルフの意識を持つ電気信号は消滅していた。
そして昇りつつある朝日を背景に東京の地球防衛軍本部に向かって順調に飛行を続けた。
 
大戸島病院。
覇王、蓮、凛、山岸、真鍋の5人は田中健二の病室に行ったあと妻のル―シと共に島上冬樹の病室にも行った。
そしてベッドの上で島上冬樹は疲れ切った表情をしていたがふいに口を開き、こう言った。
「あの旧支配者のクトゥルフ同族が放ったテレパシーは人間の精神を狂わせて、狂気を伝染させたんでしよう。
さっきテレビのニュースで見ました。」
「そうか……君には逮捕状が出ている。例のGコロニ計画についての重要参考人として。」
地球防衛軍本部に来て下さいですよね?分かりました。行きます。」
覇王と島上冬樹のやり取りの聞いていたル―シは両目から涙を流しシクシク泣き始めた。
「大丈夫だよ。心配ない。私は……君を愛している……」
「島上冬樹さん一つ教えて下さい。」
真鍋はマイクを彼に向けこう質問した。
「旧支配者のクトゥルフはまた復活すれば、また昨晩の様なおぞましい出来事が起こるのでしようか?」
「昨日の出来事は彼らの前哨戦に過ぎません。
いずれ星辰の位置が揃い、ルルイエが浮上すれば、更に酷い地獄絵図が世界中で起こるでしよう。
それこそ大いなる災いどころか、人類やミュータントを含む
地球上のあらゆる生物がこの世から消し去られる事なる。」
島上冬樹の回答に真鍋は思わず口をつぐみ、僅かに恐怖と戸惑いの表情を見せた。
 
旧支配者クトゥルフ同族との死闘を終え、轟天号は無事に東京・地球防衛軍本部に帰還した。
艦長のダグラス・ゴードン上級大佐轟天号のタラップを降りて行く途中、
ふと自分は定年を迎え退職する事を昨日の事の様に思い出していた。
さらに目の前には腰に両手を組んで立っている地球防衛軍の司令官の熊坂司令が声を掛けた。
「最後の艦長の任務ご苦労だった。」
「ありがとうございます。」
ダグラス・ゴードン上級大佐は右手を上げて敬礼をした。
熊坂司令官はスノウの顔に視線を向けた。
「新たな報告として、スノウ・ニクヴィスト大佐。
貴方を新しい轟天号の艦長に任命する。」
「はい!これから精いっぱい頑張ります。」
スノウは元気よくそう敬礼して答えた。
その様子を横目で見ていたダグラス・ゴードン上級大佐はこう考えた。
彼は新しい敵、旧支配者のクトゥルフの事を良く知っている。
彼になら隊長の座を譲っても大丈夫だろう。
熊坂司令官により新しいSPBの司令官と館長に任命されたスノウは元気よく敬礼した。
やがて熊坂司令官が去った後、スノウはゴードン上級大佐と尾崎達に向き直った。
「実は貴方達人類にとって重要な事実を伝えなければなりません」
「いっ……一体何をだ?」
「実はキングギドラが金星の文明の一日で滅ぼしたと言う話です。」
「それは、確かお袋と親父でセルジナ公国に旅行に行った時に向こうの国のテレビで見た様な気が……」
ニックは天井を見上げ、そうつぶやいた。
「そうです。実は金星には貴方達人類よりも遥かに高度な文明が存在しました。
しかしその高度で豊かな文明を金星人に与えたのは実は大いなるクトゥルフ達だったんです。
金星にはこの地球と同じルルイエに似た巨大都市が存在していました。」
「と言う事は?金星人達はクトゥルフを崇拝していたのか?」
「はい、しかしごく一部の金星人達だけです。他の金星人の中にはクトゥルフを危険視する者達もいました。
最後はキングギドラによりルルイエに似た巨大都市は完全に破壊されました。
つまりキングギドラゴジラには巨大都市を破壊する力がある事です。」
スノウの答えに全員、信じられずただ口を僅かに開け、茫然と見ていた。
 
大戸島病院からモーテル風ホテルに戻った日東テレビのドキュメンタリーの最後の撮影を行う事にした。
真鍋はマイクを持ち、緊張した様子で山岸が構えるカメラを見た。
「ええ、日東テレビのレポーターの真鍋・ヴェラスコです。
悪夢の様な昨夜から夜が明けました。
大戸島内で失踪した島上冬樹は無事MBI捜査官の協力により、発見されました。
さらに我々は島上冬樹の失踪事件を追う内に我々の住むこの世界を超越した存在に出会いました。
そして昨日の悪夢のような出来事は名状し難くもおぞましい冒涜的な存在、旧支配者のクトゥルフの仕業です。
旧支配者であるクトゥルフは人間を発狂させ、大戸島の大勢の島民達に暴動を起こさせました。
暴動の騒ぎにより、大戸島自然博物館は襲撃され、あの島上冬樹が発見した
例の遺骨は島民達によってドラム缶の中に放り投げられ、その後、彼らによって焼かれ灰にされました。
しかし、偉大なるイースの種族のある計画によって本来の宇宙怪獣バガンの能力に
目覚めたゴジラにより旧支配者クトゥルフの怪物は撃退され、今、我々は絶望の夜から希望の朝を迎えました
島上冬樹は後の取材でこう述べました。
悪夢は過ぎ去ってないと。
更に彼は「ふんぐるい、むぐるうなふ、くとぅるふ、るるいえ、うが、ふだくん」と言う言葉を言いました。
島上冬樹によればこの言葉の意味は。
『ルルイエの館にて死せるクトゥルフは夢を見るままに復活の時を待っている』と言う意味だそうです。
「今回の事件が幸運にも解決したからと言って彼らはまだこの世から消滅した訳ではない。
貴方達にはクトゥルフの復活のカギとなるこの大宇宙の星辰を動かす歯車を止める事はできませんと語りました。
更に彼は今回起こった昨晩の大戸島で発生したおぞましい一連の出来事は彼らの前哨戦に過ぎません。
いずれ星辰の位置が揃い、ルルイエが浮上すれば、更に酷い地獄絵図が世界中で起こるでしよう。
それこそ大いなる災いどころか人類やミュータントを含む
地球上のあらゆる生物がこの世から消し去られる事になる。」と語っていました。
私はこの真実をどう受け止めていいのか?正直分かりません。
我々は科学と言う道具を使って生や死を初め、様々な事を何でも知った気になっています。
しかし宇宙の規模の視点から見れば無限の宇宙と言う名の蚊帳の外の地球と言う名の青い風船の中
にいるちっぽけで血に飢えた狂気と恐怖に狂わされた小さな蚊の群れに過ぎません。
もし再びクトゥルフが星辰の位置が元に戻った時、偉大なるイースの種族達と同様、
我々人類は宇宙規模の恐怖の敵を前に種をうまく存続できるでしょうか?
以上、日東テレビの真鍋・ヴェラスコが大戸島からレポートしました。私には撮り直す元気がありません。」
そこでテープは完全に終わり、山岸が構えていたカメラの画面は真っ暗になった。
 
(第51章に続く)