(第26楽章)亡き死者の魂に捧げる転生のセプデッド

(第26楽章)亡き死者の魂に捧げる転生のセプデッド
 
「故にレミリアや悪魔や魔神達、異教の神々は
穢れているから一掃すべきだと考えていた。
だからレミリアは長い間、人間達に命を狙われ続けた。
その内にレミリアの心を荒み、人間を憎むようになった。
結果、一部の地方を支配して、そこに住む人々を無差別に
血を吸い尽くし、多数の村や町を壊滅させた。
そしてフランス軍レミリア討伐に乗り出したが。
結局はジャンヌが現れるまで負け戦だったそうだ。」
「彼女の圧倒的な力に成す術が無かったんだ!!」
「そしてジャンヌが彼女の凶行を命懸けで止め、人間と共存する道を示した。
それからドラキュラ伯爵と隙間妖怪の力を借りてな。
紅魔館ごとジャンヌのいた外の世界から幻想郷に移されたんだ!
今じゃ幻想郷の人間や妖怪や妖精や幽霊達と面白おかしく
楽しく暮らしているって話だぜ!幸せな生活だそうだ!」
「そう、あの子が幸せで良かった!安心したわ!」
ジルは振り向く事無くそう答えるとニューヨーク市警の玄関の階段を昇り始めた。
そのあと鋼牙は後を追って階段を上り始めた。
鋼牙とジルはニューヨーク市警に入ると早速連絡を
受けていた巡査部長が対応してくれた。
巡査部長はサングラスをかけた強面の屈強な男だった。
そして彼に案内されて街の各所の仕掛けられた防犯カメラの映像を管理し、
犯人の顔や服装を分析する部署へ向かった。
その部署に入ると中には幾つものテレビが多数並べられていた。
いや正確には4つづつ長々と積み上げられていた。
目の前には多数のビデオの操作パネルが見えていた。
監視を担当している警官は小太りの白髪の中年だった。
しかも堂々と監視をさぼり、ニューヨークタイムズ紙を読んでいた。
そのニューヨークタイムズ紙の記事の見出しはこうだった。
「出産してから1か月後に捨てた若い母親が逮捕される。」
それを読んだジルは不意に悲しみと怒りが同時に湧き上がるのを感じた。
異変を察知した鋼牙はジルを見た。
ジルは両拳を固く握りしめ、下唇を噛み、全身を震わせていた。
それは今にも爆発しそうで大声で怒鳴りかねない程の気迫を周囲に放っていた。
頭に血が昇って今にも夏の暑さ以上にのぼせ上りそうだった。
正に瞬間、湯沸かし器と言ったところか?
しかし自分達の仕事を優先していたので最悪ギリギリ爆発を堪えていた。
鋼牙はこれ以上何も聞かなかった。
これで激昂したら暑苦しいばかりか。
今、取り掛かろうとする仕事まで支障をきたしかねない。
それにこれじゃ!また話がややこしくなって面倒だ!
すると屈強な警官はそのジルの様子を察してくれた。
しかし新聞を読んでいる白髪の中年の警官は知らん顔をしていた。
「おい!また!しかも今日の新聞なんか読んでサボるな!」
強面の屈強な男は小太りで白髪の中年の男から
ニューヨーク・タイムズ紙をさっと取り上げた。
「おい!何をするムー二様が読んでいるんだ!」
「そのムー二様は新聞は読んでも目の前の犯罪と防犯カメラはちゃんと見ないのか?
いい加減にしないとクビにするぞ!」
「はいはい、分かったよ!」
ムー二は舌打ちをすると目の前の防犯カメラに目を向けた。
その時、上司の屈強な男は鋼牙とジルに例の防犯カメラの映像を見せるように指示した。
「はいはい!ボス!この怪しい赤いセダンだろ!」
ムー二は目の前の操作パネルを操作した。
そして幾つもの防犯カメラの録画映像が流れた。
しかもどれも同じ場所の映像だった。
全て共通して近くにバーのある人気のない駐車所だった。
しかも裏路地に入る怪しい赤いセダンの映像が映っていた。
そしてバーから出て来た若い茶髪の青年は最初に赤いセダンに接触した
ケリーとマイクは赤いセダンに乗った。
やがて赤いセダンの車内で暴れる様子が映し出されていた。
また別の日に犯罪カメラの裏路地に入る怪しいセダンに同じバーから出て来た
トルコ人の男のガイラと日本人のケントが出て来た。
赤いセダンに乗って。セダンの車内で暴れた後に静かになった。
そして赤いセダンは何処かに走り去って行く様子が映っていた。
「こいつはただのイタズラだよ!きっとそうだ!」
「だがこの4人は現在失踪中だが……」
「きっと俺達警察をからかう為のタチの悪いイタズラさ!
ほとぼりが冷めたらきっと出てくるさ!」
鋼牙とジルは2人の警察に協力の礼をした後、ニューヨーク市警を出た。
そして二人は4人の若者を乗せた怪しい赤いセダンを追って捜査を始めた。
さらに鋼牙とジルはケントとガイラが赤いセダンに乗って失踪した現場である
裏路地の人気の無いバーの駐車所に行った。
鋼牙とジルは車から降りると赤いセダンが停車していた場所に立った。
そこで鋼牙は赤いセダンが駐車していた場所の
右腕を差し上げ、魔導輪ザルバを向けた。
ジルもその場で静かに手を合わせて目を瞑った。
間も無くしてジルは自らの全身の細胞内に寄生されている
賢者の石の力を利用して、魔導輪ザルバと同様に魔獣ホラーを探知する能力で
この場所に残っている魔獣ホラーが放つ邪気や気配を僅かながら探知しようとした。
しかしジルの耳に微かだが赤ん坊の泣き声が聞こえた。
鋼牙はジルの言葉に反応した。
「ザルバ!赤ちゃんの声が?」
魔獣ホラーではなく赤ちゃんの声がしたと答えたジルに鋼牙は少し動揺していた。
「いや、俺様には聞こえない!」
「こっちから!ちょっと行ってみましょ?もしかしたら?」
ジルは裏路地の細長い道へ入って行った。
鋼牙は警戒しつつもジルにこう呼びかけた。
「気おつけろ!もしかしたら?罠かも知れない!」
鋼牙はジルの背中を追った。
ジルと鋼牙は無言で裏路地の細長い道の奥え行った。
黙々と細長い道を早足で歩き続けた。
やがて長い細長い道を抜けて裏路地から出た。
目の前には広々とした荒野のような空き地があった。
中央には青緑色に輝く物体が見えた。
ジルは無言で青緑色に輝く物体に近づいた。
よく見るとそれは赤ちゃんだった。
おぎゃあ!おぎゃあ!おぎゃあ!おぎゃあ!と苦しそうに泣き続けていた。
鋼牙は緑色に輝く赤ちゃんを見た。
「この子がジルを呼んでいた?何故なんだ?」
「お腹が空いているのよ!きっとここで一ケ月も!」
鋼牙は静かにジルにこう言った。
「ジル!もうこの子は一ケ月前に死んでいる!」
しかしジルは分かっているとでも言うように
悲しそうな青い瞳と表情で青緑色の赤ちゃんを見た。
しばらくしてザルバはこう説明した。
「多くの不幸で死んだ人間はこうやって成仏できずに死んだ時のままになっている。
恐らくこの赤ちゃんの想いも考えも止まったままなのだろう。」
「そして同じ時のループし続け、この場から離れられずにいる。
特にこの赤ちゃんは母親から母乳を与えられず、死んでも
ずっと一ケ月以上も飢えて泣き続けているんだ。」
「じゃ!こうすればいいじゃない!」
ジルはBSAAの服の上着とTシャツの裾を掴み、静かにめくり上げた。
更にブラジャーの下部も掴むとそれをめくり上げた。
同時に右側の白い肌に覆われた柔らかく大きな丸い乳房が露わとなった。
ジルはそっと青色に輝く赤ちゃんを両手で優しく持ち上げた。
そして両腕でしっかりと優しく抱き上げた。
ジルは自分の細胞内の賢者の石を活性化させた。
すると不思議な事にジルの右側の乳房が大きく張るのを感じた。
そしてまだ泣いている青緑色に輝く赤ちゃんは何かを感じたのだろう。
小さな口を精一杯、大きく開き、ジルのピンク色の乳首をカプッと咥えた。
そしてジルの乳首からチュウチュウチュウと音を立てて、
恐らく賢者の石が含まれた母乳を飲み始めた。
ジルは優しく母親のような穏やかな優しい表情で青緑色に輝く赤ちゃんを見ていた。
青緑色に輝く赤ちゃんはようやく酷くお腹が空いた一ケ月の飢餓から解放された。
そしてジルの母乳を満腹になるまで飲み終えると背中をさするまでもな
く大きな派手なげっぷをした。やがて青緑色に輝く赤ちゃんは
「あぶあぶあぶあぶっぅっ!えへっへへへへへへっ!」
と笑顔であどけない天真爛漫な愛らしい表情で笑った。
ジルは静かに青緑色に輝く赤ちゃんに優しく
ゆっくりとしたメロディで子守唄を歌った。
 
早すぎる死を迎えし、人の魂よ。天上へ昇れずに永劫の時を回る。
永劫の時に。縛られし人の魂よ。さあ亡き女王が輪廻の道しるべを示す。
貴方の運命を見通す紅き瞳よ。さあ、行くがよい。この神の槍の行く先が。
貴方の新しい輪廻の道。不浄な者は神の槍に吹き飛ばされ貴方の運命は来世の幸運を。
私は指し示そう。紅き亡き女王の神の力で貴方を来世の運命を操って。」
そのジルの子守唄を聞いていた青緑色に輝く赤ちゃんは徐々にスーッと消えて行った。
続けて美しい七色の光の小さな細長い柱となって天空へ飛び去って行った。
「さっきジルが歌っていた曲は?レミリア『亡き女王の為のセプデッド』か?」
「ああ、本来は『亡き女王の為の歌』でもあるがそれ以外にも!
早すぎる死や不幸な死をしてしまった人間の魂のことを想い。
輪廻される人間の魂を新たな来世に送る『送別曲』でもあるんだ。」
「と言う事はちゃんと輪廻転生をしたようだな!ジル!」
鋼牙はついうっかりとジルの方を見てしまった。
 
(第27楽章に続く)