(第25楽章)幻想曲・現世の記憶にして激戦のセプデッド

(第25楽章)幻想曲・現世の記憶にして乱戦のセプデッド
 
混乱しているジルを観察していた鋼牙は更にこう付け加えた。
「悟ったようだな!前世のジャンヌ・ダルクはドラキュラ伯爵と共に
その紅魔館の主であるレミリア・スカーレットとも会っている!」
「ただし!仲魔でも戦友でも無く敵としてだがな!」
その時、ジルは目の前が真っ白になるフラッシュバックに襲われた。
同時に前世のジャンヌ・ダルクの記憶の一部が見えた。
自分は真っ赤な館の広場の中央に立っていた。
そして空を仰ぐと夜空に鮮血のように真っ赤に輝く月が浮かんでいた。
更にその真っ赤に輝く月の中央にはー。
青みが掛かったウェーブの銀髪。
ドアノブ型のナイトキャップを被っていて周囲は赤いリボンで締めていた。
身長は空中を飛んでいて判別し辛いが少なくとも自分の娘と同じ位、
背が低いので多分だが、まだ10歳にも満たないのかも知れない。
背中から紫色の蝙蝠の翼が生えていた。
服はピンク色に太い赤い縁が入り、レースが付いた襟をしていた。
両袖は短くふっくらとしていて袖口に赤いリボンが結んであった。
腰には赤い紐が結ばれており、そのまま後ろから伸びていて。
夜風に吹かれてヒラヒラと美しく揺れていた。
赤い紐の付いたスカートは踝まで伸びていた。
これもよ風に吹かれてヒラヒラと揺れていた。
彼女は静かに余裕たっぷりな口調で口を開いた。
「フッ!たかが人間の小娘に私を殺せないわよ!」
更に彼女は口元をゆっくりと緩ませて大きく笑った。
その口元はべっとりと真っ赤な人間の生き血で染まっていた。
滴る人間の生き血は下顎まで伸びていた。
私の前世のジャンヌ・ダルクは大きな威厳のある声でこう言った。
「私はジャンヌ・ダルク!赤い悪魔を討ちに来た!」
「フフフフフフッ!また性懲りもなく雑兵を送ってきたか!
いいわ!丁度!筋肉質な男の血には飽きてきたところ!」
彼女は大きく口を開けて高笑いをし始めた。
「キャハハハハハハハッ!血を吸い尽くしてやる!!」
レミリアは高速で降下して大口を開けて、ジャンヌの白い肌が露出した首筋を狙った。
ジャンヌは冷静に腰からぶら下げた鞘から剣を引き抜いてレミリアに切りかかった。
レミリアは驚き、一瞬だけ焦ったものの間一髪のところでジャンヌの斬撃を回避した。
更にジャンヌの持っている剣を見るなり、血のように赤い瞳を見開いた。
「バカな!なんで!なんで!あんたが!狂血剣なんて持っているのよ!」
「御免なさい。私、あの人の知り合いなの……」
ジャンヌは真っ赤に輝く両刃の長剣を両手で構えた。
「チイッ!ドラキュラ伯爵!同じ吸血鬼なのに!何を考えているの??」
最初は取り乱した素振りを見せたレミリアだったがやがて冷静になった。
「でも!それは吸血鬼!しかも我が吸血鬼の祖たるドラキュラ伯爵様のもの!
貴方にそれが使いこなせるのかしら?たかが矮小な人間如きに
それを使いこなすなど不可能よ!直ぐに殺してやるううううっ!」
レミリアは悔しさとも怒りともつかぬ感情を爆発させた。
「天罰を与えてやる!!喰らえええっ!スター・オブ・ダビデ!!」
レミリアは両腕を大きく広げると夜空の暗闇が妖しく発光した。
同時に六芒星の形をした真っ赤なレーザーが高速でジャンヌに向かって放たれた。
続けて大量の紫の光弾とリング弾が放たれた。
ジャンヌはほぼ無表情で冷静に両手で狂血剣を両手で構えた。
さらに自分でも驚く程の高速で狂血剣をあらゆる全方位に振リ、どうにか弾き返した。
だが全ては弾き返すことが出来ず何十発もの光弾とレーザーが
ジャンヌの両肩や脇腹と両頬を焼き切り裂いた。
同時に焼き切られた場所からは黒い煙と赤い血が噴き出した。
更に皮膚を焼かれる激痛を感じ、肉が焼け焦げる匂いが鼻を突いた。
それでもジャンヌは激痛を歯で食いしばって耐え抜いた。
レミリアは悔しそうだが少し笑いながらこう言った。
ぐぬぬぬ!私の技を食らっても簡単に死なないのね!
でも!面白いじゃない!じゃあ!これは耐えられるかしら?」
しかしジャンヌは両手に狂血剣を握り締めて、助走をつけるように駆け出した。
やがて赤い床を力強く踏みしめて大きくジャンプした。
レミリアは意外にも足が速く、跳躍力が高い事に驚き、隙が出来た。
「なっ!人間に癖に!早いっ!うっ!ぐぞおおっ!」
ジャンヌは渾身の力で真っ赤に輝く両刃の長剣をレミリアに向かって振り下ろした。
レミリアは咄嗟に右拳でジャンヌの右頬を殴りつけた。
ジャンヌは右頬の骨が砕けるのを感じた。
唇が切れて血が出た。口の中で鉄の味がした。
彼女の華奢な身体はぶっ飛ばされ、
ジャンヌはそのまま高速で赤い床に叩きつけられた。
赤い床はジャンヌの身体が叩きつけられた勢いで蜘蛛の巣状にひび割れた。
しかしジャンヌは全身に激痛を感じ、赤い床に後頭部を強く打った
勢いで激しい頭痛とめまいに襲われつつも怯む事無く勇敢に
レミリアと戦う為に狂血剣を何度も何度も何度も振るい続けた。
それに対してレミリアは力任せに素手で何度も何度も何度もジャンヌを
叩きのめし光弾やレーザ光線で肉を焼いて激しい痛みを与え続けた。
その為、ジャンヌは全身に激しいダメージを負っていた。
対してレミリアもジャンヌの自分の赤い瞳ですら予想出来ないような。
いや、もはや有り得ない人間業とは思えない角度から襲い掛かる
狂血剣の斬撃により、ジャンヌと同じ位、全身に激しいダメージを負っていた。
戦闘力はもはや互角だった。それは美しくまるで花火の様に鮮血が周囲に散った。
同時に激しいオレンジ色の火花が何度も何度も散っていた。
レミリアとジャンヌの戦いはいつ終わらぬとも分からぬ
長時間に及ぶ激しい戦いの末、ようやく決着の時がやって来た。
「これで!ハアハア!終わりよ!死ね!死ねえええええっ!」
最初の余裕とは打って変わって荒々しく息を吐き続けた。
更にレミリアは全身から大量の血を流し、身体はボロボロだった。
それでもレミリアは口から憎悪に満ちたまるで野獣のような絶叫を上げた。
彼女は右手に全身の魔力を全て集中させた。
間も無くして右手は真っ赤に輝き始めた。
そして掌に真っ赤に輝く光弾が徐々に現れた。
ジャンヌは額から大量の血を流していた。
しかも砕けた胸部の鎧から白い布の下着が露出していた。
更に長い間、続いていた激戦で足の鎧は砕けて無くなっていた。
右足の太腿はバッサリと切れて、大量の血を流していた。
ジャンヌはヒューヒューと不自然な呼吸を繰り返していた。
とても苦しそうで今にも意識を失いそうに足元がフラフラしていた。
あっちこっち固い赤い壁や床に叩きつけられたので
頭や体は少しでも動かす度に激痛が走った。
それもとんでもないもので普通の人間なら
ショック死してもおかしくないレベルだった。
常人にはとてもではないが無理な状態だ。いつ意識を失ってもおかしくない。
レミリアはそんな重体のジャンヌを確実に殺そうと
激しい殺気を真っ赤な瞳から放ち、右腕を真上に持ち上げた。
「これで!刹那に消えて!無くなれえっ!ジャンヌ!」
彼女は高速で右腕を振り下ろしたと同時に叫んだ。
「神槍(しんそう)スピア・ザ・グングニル!!」
彼女の手から放たれた真っ赤な光球は瞬時に
真っ赤に輝く巨大な長い両刃の三角形の槍に変わった。
両刃の三角形の槍の先端は高速でジャンヌの目前まで迫った。
その時、ジャンヌは歯を食いしばり、手に持っていた両刃の真っ赤に輝く長剣
「狂血剣」でスピア・ザ・グングニルの鋭利な槍を渾身の力で受け止めた。
彼女は雄叫びを上げて。弾き返した。
弾き返されたスピア・ザ・グングニルレミリア
頭上をかすめて反対方向に飛び去った。
「バッ!バカな!人間の小娘如きに!神の槍が!!
有り得ない!有り得ない!ふっざけるなああああああああっ!」
満身創痍のレミリアとジャンヌは
そのまま赤い床にほぼ同時に倒れ、同時に意識を失った。
そこでジルは我に返った。
「はっ!今のはレミリア?戦っていたの?」
「気が付いたな!前世の記憶が一時的に復活していた。」
気が付くとジルは運転席では無く助手席に座っていて。
いつの間にか鋼牙が運転席でハンドルを握っていて。
しかも何事もなかったかのように運転していた。
ジルは「へあっ!」と声を上げた後、大慌てて謝り始めた。
「ああ!私!御免なさい!ヤバい事故るところだった!」
「全くだぜ!俺様も一瞬ひやりとしたぜ!」
「ザルバ!冗談はその位にしてくれ!万が一やられたら!シャレにならんぞ!」
鋼牙はザルバをそうたしなめた。
「それにしてもあの子どうなったの?」
「生きているぞ!勿論!前世のジャンヌ・ダルクもだ!
レミリアが言うにはあの激戦の後にドラキュラ伯爵が
双方の体力と回復と怪我の治療をしたようだ!」
それを聞いたジルはほっと一安心した。
間も無くして鋼牙はニューヨーク市警の玄関の前で停車した。
それからジルと鋼牙は車のドアを開けて降りた。
また鋼牙はジルにレミリアについての説明を始めた。
ジルはそれを黙って聞いていた。
レミリア・スカーレットはジャンヌやドラキュラ伯爵に会う前はな。
独りぼっちでとても寂しかったんだ。
しかもそのジャンヌやレミリアのいた時代はいわゆる魔女狩りが起こっていた。
そしてレミリアも人間達に特にキリスト教を信仰する人々に赤い悪魔か
赤い魔神として憎悪の対象だった。彼らは自分達は神に選ばれた優秀な人間で。
レミリアや他の悪魔や魔神達、つまり異教の神々は
劣悪な人間の成れの果てと考えられ。ひたすら差別され、迫害されてきたんだ。」
「ドイツのナチスの考え方みたい!吐き気がするわ!」
 
(第26楽章に続く)