(第28楽章)殻に籠る少女と大人の好奇心は猫を殺す(前編)

(第28楽章)殻に籠る少女と大人の好奇心は猫を殺す(前編)
 
シャノンの家のある住宅街。
「ありがとう!話してくれて!」
「感謝するわ!ご協力ありがとう!」
ジルは笑顔で鋼牙は穏やかに微笑み、なぜか感謝の言葉を
口にされ、アヴドゥルは正直戸惑いの表情を見せた。
「えっ!あっ!信じるんすね!あっ!どうも!」
アヴドゥルは混乱しつつも2人の前から立ち去った。
そしてあのテロリストの仲間がいる空き地に戻る道中。
アヴドゥルは鋼牙とジルが口にした感謝の言葉の意味を
両腕を組み続けながらしばらく考え込んだ。
ジルと鋼牙はお互い顔を見合わせた。
「決まりだな!」「ええ!シャノンの家に間違いなく!」
2人の会話の間に魔導輪ザルバはこう言った。
「シャノンと言う女性の家、恐らくガレージにホラーが潜んでいる!」
ジルは魔導輪ザルバと鋼牙と会話していた途中、
不意にジルの携帯にBSAA代表マツダ・ホーキンスから電話が掛かった。
どうやらニュヨーク市警ので拘置所からアレックスと言う少年が
行方不明になっている事が伝えられた。
また留置所の分厚い壁は何者かによって破壊されたらしい。
鋼牙とジルは早速ニューヨーク市警へ車へ向かった。
それから実際、破壊されて放置された壁の大穴がある現場へ向かった。
ジルとザルバはホラー探知能力によってその破壊された
分厚い壁の穴の周辺から僅かながら賢者の石の力のホラーの邪気を感じた。
更に警官の一人から現場から押収された本物のアレックスのハンドガンを渡された。
警官によるとこのアレックスのハンドガンは彼が盗みに入った
家主の女性を射殺した時に使用したものらしい。
ジルとザルバがホラー探知をした結果。
やはりこのハンドガンから僅かながらホラーの邪気を強く感じた。
勿論、賢者の石も含まれているようだ。
つまりハンドガンがこちら側(バイオ)の世界の現世と真魔界を
結ぶゲート(門)となったオブジェ(物体)だと分かった。
恐らくこのゲート(門)から現れた魔獣ホラーがそのまま
アレックスに憑依したのだろうと結論付けた。
つまり、アレックスの憑依した魔獣ホラーは恐らく
変化自在に赤いセダン等の乗り物に化けられるのだろう。
更に凶器のハンドガンを警官に返した時、ぽつりとこう漏らした。
「そういえば!アレックスの仲間の不良少年のピートやビリーもここ最近、
失踪していたな。まさか?またアレックスとつるんで悪さをしていなきゃいいが」
鋼牙とジルは無言で聞いていた。
恐らく二人はアレックスに捕食された可能性が高いだろう。
鋼牙とジルは再びニューヨーク市警を後にした。
それで空を見るとだいぶ日が落ち、周りはうす暗くなっていた。
でも相変わらず暑いままだった。
しかし昼のお日様カンカン照りと比べたら少し風が吹いてマシに思えた。
そう間も無く日没だ。
魔獣ホラーが餌である人間を求めて活発に動く頃合いだ。
そこでジルと鋼牙はシャノンの家の近くで
車を停めて張り込み作戦を実行する事にした。
一応、コンビニに立ち寄り、夜食を買った。
更に自宅にベビーシッターに「今夜遅くなるので」と伝えた。
すると「ジルの父親が代わりに面倒を見る」とベビーシッタ―が伝えてきたので
「それでいいです!ありがとうございます!」と伝えた。
間も無くしてベビーシッターの代わりに娘の
アリス・トリニティ・バレンタインが電話に出た。
しかもなんだか深刻な悩みがあるのか?大きくため息をついた。
「ママ!ちょっと!今夜マズいことになりそうなの!」
「それってどういう事?まさか?」
「ううん!いじめられたとかそんなんじゃないの。
ただ実はあの日本で超有名なYOU TUBER(ユーチューバー)
FISCHRRS(フィッシャーズ)さんが今、この近所に来ていて
ちょっと話をしてサインを貰っちゃった!えへへへ。でもね。
実は次の動画でいわゆる都市伝説を探る企画でね。
今回はね。『人食い車』について調べるみたいなの」
「『人食い車』って?もしかして赤いセダンの事?」
「そう!言っていたよ!赤いセダンが夜な夜な無人でニューヨークを
走り回って人を乗せて溶かして食べちゃうって」
「まさか?もう噂になっていたのはちょっと困るわね。」
「調べにシルクさんとンダホさんが行くって!」
「嘘っ!ちょっと!それは本当に危ないわね!」
「心配だから。ママと鋼牙おじさんに伝えておいたから!じゃあ!」
「うん!伝えてくれてありがとう!じゃあね!おやすみ!いい子にね!」
ジルは電話を切るとやれやれと首を左右に振った。
「いい!鋼牙!もしもあのガレージから赤いセダンが出てきたら!
絶対に見失っちゃ駄目よ!一般人がいるかも?」
「なんだって?都市伝説を調べに?」
「おいおい!これだから最近の若い人間の少年は困るぜ!」
「一応、彼らはもう大人だけどね……。
とにかく捕食される前に赤いセダンをあたし達が抑えるわよ!」
 
それから日没後の深夜0時。
まずは鋼牙とジルはシャノンのガレージが見える前の隅っこの林に車と停めて
フロントガラスを通してシャノンのガレージを徹底的に見張り続けた。
そして夜食を食べつつも何度もチラチラとフロントガラスを通して
シャノンの家のガレージを見続けた。
やがて30分程、時が過ぎた頃。
深夜0時30分。鋼牙とジルは車のフロントガラスを通して
シャノンのガレージを見ている内に突然、ゆっくりとガレージの
シャッターが昇って行くのが見えた。
しかも白い服を着た少年らしき人影が一瞬見えた後、ガレージの闇に消えた。
やがてガレージからあの都市伝説となった赤いセダンがゆっくりとタイヤを回し、
ガレージの外へ出て、道路へ出て走り出した。
すかさず鋼牙もジルも尾行を悟られぬように
赤いセダンと距離を保ちつつも後を追った。
シャノンの家の近くの空き家ではアヴドゥルはさっきの赤いセダンの事が気になり、
暑苦しいので寝られず、仲間のテロリスト達が完全に寝静まった事を見計らい、
空き家の外へ出た。すると赤いセダンとその後を追うジルと鋼牙が乗る車を目撃した。
それからアヴドゥルはこっそりと近くのごみ捨て場に隠しておいた
白いバイクのところへ走って行った。でも一緒に追うべきかどうか迷っていた。
 
シャノンのガレージを抜け出した赤いセダンはまた人気の無いバーの近くの
東口の駐車場の前辺りで餌の人間を待ち伏せしようといつもの場所に停車した。
すると意外にも早く人気の無いバーから2人の若者が出て来た。
どうやら二人は日本人のようだ。
短い黒髪に細長い黒い眉毛。
これと言って特徴の無い鼻に少しだけ細い鋭い茶色の瞳。
やや大きなピンク色のたらこ唇の若者の男性。
黒いTシャツには大きな青と黒のピン黒のたらこ唇の
サメのキャラクターが胸元に印刷されていた。
もう一人は小太りの男で黒髪に右側だけ剃って無かった。
細長い眉毛につぶらな茶色の瞳。顔は丸くお腹もある程度出ていた。
恐らくダイエットに成功したのだろう。
Tシャツにはバーベルを持ち上げて2本足で立つダックスフンドの絵が描かれていた。
またダックスフンドの絵の下には『ダックス奮闘』と書かれていた。
俺は変な奴らだなと思った。
ちなみにこの二人の若者こそ、ジルの娘のアリスの大ファンだと言う
FISCHRRS(フィッシャーズ)のメンバーのシルクとンダホである。
ちなみにサメのキャラクターが胸元に印刷された黒いシャツを着ている
タラコ唇の男性がリーダーのシルクロードでバーベルを持ち上げて
2本足で立っているダックスフンドの絵と『ダックス奮闘闘』の文字が
書かれたピンク色のTシャツを来ている小太りの男性がンダホである。
シルクとンダホはさっそく赤いセダンを見つけた。
「これじゃね?」とシルクは手持ちのビデオカメラで赤いセダンを映した。
「うん!どうかな?ただの普通の車でしょ?」
ンダホは怖がりなのかシルクの傍から離れなかった。
続けてシルクは自ら持っているビデオカメラに向かってこう話した。
きっと動画を見てくれる視聴者さん用なのだろう。それから俺はピンと来た。
なるほど!こいつらが!YOU TUBER(ユーチューバー)って奴らか?初めて見たぜ!
「今、それっぽい赤いセダンを見つけました!」
「見つけたはいいけれど!どうすんの?本物か確かめんの?」
「そうだね!そうだね!ンダホ君!よろしく!」
「ええっ!ちょっとまってよ!ちょっとまってよ!ちょっと!」
ンダホはシルクに必死に首を左右に振ったり、
腰を何度も曲げて、額にしわを寄せていた。
 
ニューヨーク市内の住宅街の片隅にある虐待シェルター。
マツダBSAA代表は「私はどうしてもエミリーさんに決めて
貰いたい事があるんです。面会をお願いできますか?」と頼んだ。
職員は冷静にやや厳しい表情で「決めて欲しい事は?」と尋ねた。
マツダBSAA代表は職員に詳しくその事を丁寧に説明した。
すると職員は「分かりました!」と言って彼女の面会と許可した。
マツダBSAA代表は職員に施設の中を案内されてエミリーのいる部屋を尋ねた。
エミリーの部屋はピンク色のドアで女の子らしい
ティディベアーの看板の名前が印刷されていた。
「エミリー・鈴木」と。
エミリの部屋のドアは固く閉じられ、ドアノブにはチェーンが何重にも巻かれていた。
更に鍵も5か所一列に掛かっていた。ドアの窓はカーテンで仕切られていた。
「エミリーさんですね!私の話を聞いてくれますか?」
マツダBSAA代表は呼び掛けた。
しかし間もなくしてヒステリックな甲高い声でこう叫び返した。
「帰れ!帰れ!大人の小汚い言葉なんか!聞きたくないっ!」
 
(第29楽章に続く)