(第6章)俺は怖がりなストークスを守りたい

(第6章)俺は怖がりなストークスを守りたい

 

エア・マドセンはHCFの医療室で一応、大事を取って

ベッドの上でもう少し休むように両親に説得された。

しかし僕はどうしても休んではいられなかった。

とにかくあの地下室にいるストークスが心配でたまらない。

僕はとりあえず彼女の様子を母親アンヘラに聞こうとした。

しかしアンヘラは僕よりもさらに厄介な報告書を同僚の

男性職員から貰い、それを読み、頭を抱えた。

僕はベッドの上に寝転がっていて母親は両手に報告書を見ながら

行ったり来たりと歩き回り何かを悩んでいたのは表情で分かった。

しかし報告書の内容は見えなかった。

「それ?何の報告書?」と僕は母親に尋ねた。

「大した事ないのよ。ただあの魔女王ホラー・ルシファーだったかしら?

あの存在は実在する生物にもBOW(生物兵器)にも当て嵌らず。

しかもUMA(未確認生物)とは違う超常現象を起こす存在『SCP』である可能性を

一部のHCFの研究員が指摘していて。だからそのSCP専門の組織『財団』に

正式に調査を依頼するようにって報告書があるのよ。」

「それで?正式に依頼するの?」

「HCFは超極秘の組織会社よ。

ここの情報は全てBOW(生物兵器)かウィルス兵器の研究開発情報ばかり。

どんな理由があっても外部に情報を漏洩させる訳にはいかないわ。

でも・・・・確かにあの魔女王ホラー・ルシファーは我々HCFのBOW(生物兵器

やウィルス兵器の技術や現人間の技術では到底対応しきれない可能性が高いわね!

実際、あのセヴァストポリ研究所のAI(人工知能)のアポロさえも軽く超える程の

高い知能に未知の力。全く通用しない現人類が持つ武器。

いずれは我々の脅威になるかも知れないわ!これからHCFの上層部とよく相談して

ちゃんとして貰った方がいいわね。それにー。

我々だけであいつの収容なんて・・・・」

母親のアンヘラはふと急に不安さと心配の入り混じった複雑な表情をした。

母親のアンヘラは茶色の瞳で僕の顔を真剣に見た。

そして静かに口を開き、ストークスについてこう言った。

「私は今のストークスが心配なのよ。さっき他の研究員の報告では

トークスは先の魔女王ホラー・ルシファーの

存在を何らかの方法で感知しているのか?

凄く怯えているらしいの。」

「そうか。じゃあ!せめて僕が……」

「分かったわ!ストークスを頼んだわ!」

「ありがとうママ!大好きだよ!」

僕はまるで純粋な子供の笑顔を見せた。

母親のアンヘラもまた僕の純粋な幼い子供のような

笑顔に癒されて穏やかな笑みを見せた。

そして僕はストークスが隔離されている地下室へ向かった。

僕は分厚い扉のID照合パネルを使って自分のID情報を照合した。

自分のID情報が一致すると自動扉のロックが解除され、開いた。

それから僕は自動扉の先のストークスがいる極秘の隔離地下室へ向かった。

僕はまた自分のID情報を照合させ、ロックを解除して隔離地下室へ入った。

隔離地下室の中は相変わらず殺風景で僕と母親が持って来た幾つかの

本と漫画の入った棚やゲーム機の入った木箱。椅子や洗面台。

歯ブラシやその他の生活に必要な物が置かれていた。

トークスはベッドの上にまるで胎児の様に

座り込んで丸まり、恐怖でブルブルと震えていた。

僕が近付くと気配を感じた瞬間、ストークスはビクンと激しく全身を震わせた。

そして真っ青な表情で怯え切った青い瞳で僕の顔を見た。

間も無くして青い瞳からぽろぽろと大粒の涙を一気に流し始めた。

僕は無言で優しくストークスのスレンダーな身体を両腕でしっかりと抱き締めた。

そして僕は抱き締めた両手や両腕を通してストークスの恐怖による激しい震えが

ブルブルと伝わって来た。僕は激しい恐怖で怯え切ったストークスをなだめる様に

ポンポンと彼女の背中を叩き、上下にさすったりを繰り返した。とにかく無言で。

トークスは大声こそ出さなかったが静かにすすり泣き続けた。

ぐずぐずと言うストークスのしゃくり上げる声が聞こえた。

間も無くしてストークスも泣いてしゃくり上げる声は

徐々に小さくなり、やがて消えた。

どうやら彼女も僕に抱かれてあの魔女王ホラー・ルシファーに

恐怖を感じていたのも和らぎ、次第に安心し落ち着きを取り戻して行った。

僕が彼女を抱きしめるのを止める頃にはストークスは泣くのを止めた。

しかもその表情は恐怖こそなくなったもののまだ真っ赤に

顔も目元も泣き腫らし、恥ずかしそうにしていた。

僕は真剣かつ茶色の瞳でストークスの真っ赤な

恥ずかしそうな表情をしっかりと見据えた。

そして何か言おうと思ったがなかなか口に出せなかった。

怯え切ったストークスをなだめる時といい、

今口に出すべき時に言葉を出せないといい。

つくづく自分は不器用な恥ずかしがり屋の男だなと心底思った。

それでも僕は長い間、口を閉じていた。

しかしようやく意を決し、勇気を出して口を開き、こう言った。

「大丈夫だ!君は僕が命懸けで守って見せる!!」

トークスは安心した表情で口元静かに緩ませて笑った。

僕とストークスは静かに瞼を閉じ、お互い唇を重ねた。

そして2人はキスをした。ストークスはそれ以上の行為、

つまり一線を越えようとした。

しかし僕はキスをした後「それは駄目だ」と言った後、首を左右に振った。

理由はまず僕自身が父親になっても子供が大人になるまで

責任をもって育てる自信が無い。

また子供を妊娠したとしてもストークスは冷凍冬眠しなければならない。

つまり予定通り彼女はコールドスリープ(冷凍冬眠)カプセルに入るので

今更変更出来ない。それと安易な性行為によってHIVウィルスや性病を

僕から彼女に感染させてしまう可能性。勿論、僕もストークスも

ちゃんと健康診断は受けているから問題ないが。ただここにいると

やはり必然的に自分も彼女も性病の原因となるウィルスや細菌などの知識に触れる

機会が多かったので良く母親のアンヘラ博士やダニア博士から詳しく良く学んでいた。

つまりある意味で恵まれた環境ともいえるかも知れない。皮肉な事に。

実際に僕とストークスはダニアからその性病の代表の一つのHIVウィルスが

人間に感染した時の細胞の様子を電子顕微鏡で見せて貰った。

そしてHIVが人間の細胞に侵入して人間の免疫細胞に感染して

細胞内で増殖して行く過程が生で観察する機会に恵まれていた。

人工の人の細胞と免疫細胞にHIVを感染させて増殖するウィルスの姿は

僕や一緒に観ていたストークスに生々しい恐怖を与えた。

しかもこのパターンを10年間繰り返し、やがて身体の免疫による力が弱くなる。

その結果、日和見感染症を引き起こすのである。これをエイズと言う。

またHIVウィルスは性行為で感染するケースが多いが。

コンドームなどの避妊用具を使用すれば防げるとダニア博士は僕達の学校で言う

先生のようなものだった。だってストークスも僕もまだ未成年なのだから。

また一回だろうと二回だろうとコンドームを付け忘れたら

低確率で感染する事があるようだ。

だから僕もストークスも怖くてまだ性行為はしていない。

母親のアンヘラからコンドームを渡されているがダニア博士が電子顕微鏡で見せた

あのHIVの生の映像がトラウマになって性行為をする勇気が無かった。

未だに僕もストークスも童貞と処女である。

またダニア博士がいる研究室と繋がった広い集合室、いや講演室があるのだが。

そこの6対の長四角の木の机の上にパソコンが置かれていて。

講演室の奥の中央には先生や博士の講演用の長四角の木の机があるが。

たまにダニア博士や他の博士が忘れたと思われる研究資料が置いてあったりする。

僕とストークスは怖いもの見たさでたまに研究資料を拾って読んで読んだりしていた。

そして読んでしまったが最後、2人は結局「読まなきゃよかった」と激しく悔やみ

怖くてそれぞれ一人でトイレに行けなくなったりするのである。

あの人生の中で一番怖い内容のは今でも思い出すと背筋が凍って冷や汗が止まらなくなる。マジで怖いのだ。その内容はとにかく怖くて気持ち悪いのだ。

あとあの講演室内で聞いた大きな何かを叩く物音や笑い声と呻き声らしきものが

ほぼ同時にストークスとエアの耳に聞こえて本気で怖い思いをしていた。

しかもストークスは特に一番怖がっていて彼女の眼には白い影と黒い影が

あっちこっちで見えたらしい。しかも何言っているのか支離滅裂で

訳の分からない内容らしい。更に執拗に何度も何度も

「ストークス」の名前を呼んだり。

「こっちにおいで!」と言う言葉が何度も聞こえてきたと言う。

僕達はその正体不明の幽霊の声にたまらず全力ダッシュで講演室の

分厚い茶色の扉を開けてその場から全量疾走で逃げ出した。

とにかく恐ろしかった!恐ろしすぎるっ!

僕とストークスはその正体不明の幽霊が聞こえなくなるまで

講演室からできるだけ離れた。

それから二人は正体不明の幽霊の声がようやく聞こえなくなり、走るのを止めた。

2人はハアハアと激しく息を切らしていた。

勿論、僕もストークスも顔に冷や汗をかいていた。

そして僕もストークスはようやく正体不明の幽霊の声

から逃れほっと胸を撫で下ろした。

 

(第7章に続く)