(第39章)親子にとって耐え難い事実

(第39章)親子にとって耐え難い事実

 

「ふっ!ふざけるな!まさか?魔女王ホラーだか!ルシファーだか!

訳分からん奴に魂を喰われて憑依されたとか言うんじゃないだろうな?

クソっ!何故だっ!ストークスと息子を守りたいからって・・・・これじゃ!」

ブレス保安部長は急に子供のように泣き出した。

そして全身の力が抜けてその場に座り込んだ。

彼は嗚咽を漏らして小さくシクシクと泣き出した。

こうして彼は自分の妻、そして自分の息子の母親のアンヘラを永遠に失う事になった。

それは親子にとって耐えがたい事実だった。

アッシュ博士は泣き崩れたブレス保安部長に近づいた。

「まさか?こんな悲しい結末とは。私も予想外だ!残念だったよ!

彼女はHCFの優秀な研究員であり、良き妻だった。

君と恋人と息子想いのとても優しい母だった。」

「ああ、俺の妻は我々、HCFの・・・HCFの誇りさ!!ううっ!くそっ!俺は!」

ブレス保安部長は苦々しく口を噛みしめた。

「余り自分を責めるんじゃない!それに君には息子がいる!!いいか?

父親と言うのは家族の大黒柱だ!それが大きく心が乱れて

揺らいでしまってはどうしようもないぞ!」

アッシュ博士はブレス保安部長に優しくティッシュを手渡した。

ブレス保安部長はティッシュを受け取り、鼻をチーンとかんだ。

それからもう一枚のティッシュで零れた涙を拭いた。

「そっ!そうだな!俺がしっかり息子を支えないと!支えないと・・・・」

ブレス保安部長は鼻をすすり、ようやくしっかり立ち上がった。

筈が足元がふらついて危うく転びそうになった。

まるで全身がマヒしているような感覚だった。

しかしどうにかブレス保安部長はバランス良くしっかりと立ち上がった。

「妻は本当に死んじまったのか?アッシュ博士?教えてくれ!」

「少なくとも以前、君の息子のように目の前で仲間の人間が

ホラーに憑依される瞬間を目撃した事があるダニア博士によれば。

『ホラーに憑依された人間の魂は死んでいる』だそうだ。」

「俺の妻の魂は本当に。死んじまったのか?」

とブレス保安部長は重苦しい表情をした。

同時に広場全体も重苦しい空気に包まれた。

ブレス保安部長もグーフィもマッドも他の隊員達もあっと言う間に黙り込んだ。

するとアッシュは静かにこう言った。「魔獣ホラーと外神ホラー。不思議な存在だ。

連中はまるで時空に巣食うウィルスとも細菌ともつかぬ存在。

人間の邪心や欲望に反応して憑依して自我(魂)を喰らい肉体を乗っ取る。

高い知能があり。太古から各世界で伝承された悪魔や日本の鬼神達や

邪悪な女神や神々の姿を持っている。

奴らは人間の心の隙を突いて人間と接触をし、心を侵食して肉体を乗っ取る。

しかも高い知能を駆使して自ら優位に立ち回り、他の人間を誘って。

騙して。捕らえて血肉魂を喰らう。」

「じゃ!魔女王ホラー・ルシファーに憑依されたアンヘラも!!

人を騙して!誘って!捕らえて!人間を喰うのか??」

「その可能性の高さはもはや想像するまでもあるまい。いいか!

ブレス保安部長!理由はどうであれ!もうアンヘラは死んだ!

人間じゃない!!魔女王ホラー・ルシファーなのさ!」

 

HCFセヴァストポリ研究所の『ウィルス兵器遺伝子改良実験室』の厳重に

ロックされた分厚い扉の向こう側の改良ウィルス遺伝子サンプルを持つ

実験動物を入れる隔離された部屋の中ではリッカー・プラントデッド・プロトは

萌博士にG胚を植え付けただけでは満足しないのか更に他の若い女性達

(主に女性研究員や職員やスタッフ)にも自らのG胚を植え付けて子孫を残すべく

何度も何度も執拗に厳重にロックされた分厚い扉を破壊しようと野獣のような

甲高い鳴き声を上げた後、全身と全体重で激しく体当たりを繰り返していた。

その度に物凄い激突音が実験室内に響いていた。

幸いにもその厳重にロックされた分厚い扉はびくともしなかった。

勿論、そうそう簡単に壊せるような代物ではない。

しかしその余りにもリッカー・プラントデッド・プロトの扉を

破壊しようとする姿に全員、長い間、終始無言だった。

まるで凶暴なベンガルトラが怒り狂って柵を破壊しようとしているように見えた。

それから何度も何度も目にも止まらぬ速さで体当たりを続けていた。

しかし当然、厳重にロックされた分厚いドアは破壊出来なかった。

幾ら全体重で体当たりしようとも無駄な足掻きだった。

だが約3時間か5時間余り、リッカー・プラントデッド・プロト

は同じ行動を延々と続けた。恐らく理由は魔女王ホラー・ルシファーの

目に見えない力(AI人工知能アポロによれば

それは一種の命令に似た電気信号らしい)

のせいでリッカー・プラントデッド・プロトの生殖細胞に強い刺激が当たり

細胞増殖が活発となり、生殖能力が強くなっているせいであろうと。

だからいつまで経ってもリッカー・プラントデッド・プロトの激しい

攻撃的な繁殖行動は収まらないのだ。

もう、いい加減、スペンス主任はうんざりしてきた。

それは周りにいる男性職員、スタッフ、職員も同じだった。

女性研究員や職員、スタッフ達は気の弱い何人かは

リッカー・プラントデッド・プロトの攻撃的な

繁殖行動に怯え切っていて顔を真っ青にしていた。

怯え切っていて顔を真っ青にしていた女性研究員や職員、スタッフ達は

他の男性職員、スタッフ、研究員に抱きついたりしていた。

また他の女性研究員、スタッフ、職員はこの実験室内にいる事自体が耐えられなくなり、どんどん出て行ってしまった。多分、怖くて仕方がないのだろう。

これじゃ!女性研究員やスタッフ、職員達が怖がるし、何よりもこんな大きな音じゃ!

おちおち仕事に集中出来ない!早いところ!おとなしくしてくれ!!マジで頼むぜ!!

全員が同意見だった。魔女王ホラー・ルシファーのせいでとんだ迷惑だった。

何故なら存在するだけでこのHCFのセヴァストポリ研究所内にいる

BOW(生物兵器)達やプラントE46-43、プラントデッド。

そしてプラントデッドプロトの生殖活動と捕食活動が活発になり続けるんだ!

あの魔女王ホラー・ルシファーがいなくならない限り!畜生!全く!

あの保安部隊員エア・マドセンは何をしてるんだ!!

間も無くしてダニエルの疑問をAI(人工知能)アポロは説明した。

「魔女王ホラー・ルシファーとエアの戦闘後の様子を確認!

エア・マドセンは無事に魔女王ホラー・ルシファーの撃退に成功しました!

そして魔女王ホラー・ルシファーに囚われていたストークスも無事に救出されました!

これにより活発化していた新陳代謝細胞分裂は収束し、

通常の新陳代謝に戻りました。

BOW(生物兵器)達。プラントE46-43.プラントデッド。

リッカー・プラントデッド・プロトの生殖活動の活発化も収束し、

現在!人間の同レベルの細胞分裂まで回復しました。

これにより全ての個体から魔女王ホラー・ルシファーの一種の命令を持つ電機信号も

恐らく消失したと思われます!全ての個体は通常の繁殖能力と捕食における

通常の食欲にまで回復大体、落ち着きを取り戻しています。」

それを聞いていたダニエルは急に衝突音が静か

になったのでおずおずと窓から隔離部屋を確認した。

するとリッカー・プラントデッド・プロトは厳重にロックされた

分厚い扉を全体重を使って体当たりするのを止めて

また部屋の中央に向かい、そこでじっとしていた。

どうやらかなり落ち着いて攻撃的な繁殖行動も収まったようだ。

これで安心だ。もうしばらくは。いや。もう暴れたりするまいな。

ダニエルはスペンス主任や他の男性研究員、職員、スタッフに伝えると

全員、緊張の糸が切れてしまい。何人かが一斉に実験室の金属の床にへたり込んだ。

しかし今度はバアン!と分厚い扉を手で叩く大きな音の後にまた萌博士が窓に現れた。

お陰で全員はまたビクン!となり、全身を震わせた。

萌博士は分厚い扉の窓から顔を見せて泣き出した。

そしてスペンス主任と研究員、スタッフ、職員達が萌博士の顔を良く見ると

彼女の右目はオレンジ色に変色していて更に目の周りには真っ赤な皮膚の

裂け目が現れていた。更に萌博士は右目に激痛を訴えた。

「痛いっ!痛いっのっ!さっきのは!悪っ!助けっ!」

どうやらかなりG生物化の症状が進んでいるらしい。

もしかしたらもっと早いかも知れない。

するとAI(人工知能)アポロはこう解説した。

「現在!萌被験者の子宮内では

リッカー・プラントデッド・プロトのG胚は急速に成長し!

彼女の細胞と胚の植物細胞が急速に融合し続けています!」

「なんだって??原因は??どうして??急速にそんな胚が・・・・・」

驚きを隠せずにいるスペンス主任にAI(人工知能)アポロはこう淡々と答えた。

「リッカー・プラントデッド・プロトの胚は何故か急速に成長している模様!

しかし胚の内部を分析した結果。胚内部に自らの胚の成長を促す作用のある

未知の物質と高濃度のGウィルス変異株に成長に加えて

必要な栄養素が多量に含まれていると判明しました。

つまりあのリッカー・プラントデッド・プロトの胚は

萌・被験者の胎内で急速な成長を促している模様。

このままにした場合。彼女は24時間以内にG変異株の力によって

リッカー・プラントデッドと化してしまうでしょう。」

 

(第40章に続く)