(第35章)どうあがいても絶望

(第35章)どうあがいても絶望

 

再びセヴァストポリの研究所内のウィルス遺伝子改良実験室内にある

厳重にロックされた分厚い扉の向こう側の改良ウィルス遺伝子サンプルを持つ

実験動物を入れる隔離部屋では萌博士はスペンス主任やエイダ・ウォン、ダニエル。

クリスティンの会話の内容をようやく性的興奮が収まった頃に教えられていた。

彼女は彼らの会話を聞いて正に天国から地獄へ突き落された最悪気分になっていた。

「はあっ!どうしてよ!私の胎内にいるのは胎児じゃなくて!!

G胚ですって?ふざけてんのか?!えっ?じゃ!早くしろよ!

早くしろ!分かるだろ?分かるでしょ?寄こせ!ワクチンをっ!!

『新型T-エリクサー(仮)(E型特異菌有り』ウィルスのワクチンを!!

早く投与しろ!早くしろ!私は怪物じゃないっ!!

おい!聞いてんのか??スペンス??ダニエル??クリスティン??」

するとスピーカーからまるで水を差す様にAI(人工知能

アポロは淡々と萌博士にこう報告した。

「現在!萌・被検体は新たな生物として誕生したリッカープラントデッド・プロト

のGの能力を持つ貴重なサンプルです!そしてダニア研究開発主任の指示により!

ダニア研究開発主任の指示により!

『新型T-エリクサー(仮)(E型特異菌遺伝子有り)

のワクチンを投与する事は禁止されました!もしもこのルールに違反した者は

HCFの重大な背信とみなし!!査問委員会の収集に応じて処分を受けてください!」

「はあー私は査問委員会に収集されなかったわよ!

どう言う事よ!不公平じゃないの??」

そう我が意を得たとばかりに萌博士は指摘した。

しかしAI(人工知能)アポロは相変わらず淡々とこう説明した。

「貴方は入社してからすでに怪しい存在でした!案外スパイは素人だったようですね。

そして反メディア団体ケリヴァーと貴方が繋がっている可能性も

ダニア博士はお見通しでした。貴方の様に裏も表もちゃんとどこの社会の常識とルール

もろくに守れない自己満足に浸る貴方が査問委員会で説明させるまでもありません!

既に貴方は取り返しのつかない事をここでしてしまったんです!

おとなしく我々HCFの研究開発のモルモットになって下さい!」

すると萌博士は悔しさの余りその場で両目から涙を流して泣き崩れた。

そして本気で激しく泣き始めた。更に続けて

AI(人工知能)アポロはこうも付け加えた。

「それに貴方の事ですからこのままワクチンを渡して外へ出てしまったら。

貴方他の裏社会の企業やメディア関係者の方々に色々迷惑をかけるでしょ??

それに我々、HCFを逆恨みされてまた色々とバイオテロやら

我々の正体を暴こうとしたり面倒な事になります!HCF上層部も査問委員会も

ここで働く大人達はみんな多忙です!貴方一人の大人であるのに子供のような

思考から来るワガママに誰も付き合っている暇がありませんので!」と。

更にAI(人工知能)アポロはある事も指摘した。

「それとこの隔離部屋に万が一に備えて白いタイルの一部に細工して

新型T-エリクサー(仮)(E型特異菌遺伝子有り)のウィルスワクチンを

隠し持っていたようですが。ダニア博士とわたくしAI(人工知能)アポロ

によって正確にサーチしていますので無駄です。

全てダニエルとクリスティンが処分しています。」

「なっ!なんですってええええええっ!」

萌博士は慌てて自分が隠していた白いパネルを調べ始めた。

そして白いパネルを外した窪みには全て予め入れておいた筈の

ワクチンケースは影も形もなかった。

「くそおおおおっ!クリスティン!ダニエル!お前らああああっ!」

萌博士は厳重にロックされた分厚い扉の向こう側にいるダニエルと

クリスティンを恐ろしい悪魔のような形相で見た。

しかしダニエルとクリスティンは小馬鹿にしたように笑って見せた。

「ううっ!くそっ!くそっ!ウィルスワクチンさえあればあっ!

ワクチンさえあればあっ!胚が成熟する前にワクチンを使って

胚と私の細胞が融合する前に始末してしまえば!くそっ!

くそっ!あたしの勝ちだったのにいいいいっ!!」

悔しそうに泣き叫ぶ萌博士に対してAI(人工知能)アポロは

何かの計算と計画の内容を考えていた。

間も無くしてAI(人工知能)アポロは淡々とこう話し始めた。

「萌・被験者がリッカー・プラントデッド・プロトに変化するまでの時間は不明。

Gウィルスに関してはアンブレラ社が途中で研究開発を中止した為、

有力な参考資料は残っていません。子宮に宿った胚はいずれ成長するでしょう。

勿論、何度も言いますが胚の成長を『ウィルス兵器遺伝子改良実験室』の

研究員や職員、スタッフはしっかりと成長を記録して下さい。

勿論、萌・被検体の人間の細胞は全て廃棄して下さい!

もはやこんな非常識な態度と攻撃的な態度を取る彼女は子供を

出産して子育てするのは不向きです。子どもの虐待や育児放棄をする

危険性が極めて高いでしょう。故に『R型シリーズ』の被検者にも

『新型ハンター』の被験者にも適さないでしょう。

不適切な子育ては『子供型BOW(生物兵器)』開発や一般の社員や職員

になる子供達の脳が変形しても困ります。特に『子供型BOW(生物兵器)』

はそれが原因で暴走してしまい、敵も味方も無差別に

攻撃を始めてしまったら元もこうもありませんでしょう。

この萌・被験者はこのリッカー・プラントデッド・プロトの

実験に極めて良い結果を生むでしょう」

「はああああっ!何訳の分からない事をぐちゃぐちゃ言ってんのよ!

早くここから出してよ!早くワクチンを投与して出しなさい!」

萌博士は声を荒げた。するとAI(人工知能)アポロはまた冷たい口調でこう言った。

「貴方が仮にここでウィルス抗体を手に入れようとも

貴方が萌・被験者である事実は変わりませんよ!ワクチンも無い以上!

どうあがいても絶望です!諦めて下さい!」

「そんな筈は無いっ!私はっ!私はっ!くそっ!くそっ!」

萌博士は自分ではどうしたらいいのか

分からず絶望の中、両手で頭を抱え苦悩し続けた。

 

HCFセヴァストポリ研究所の医療室。

アッシュ博士とブレス保安部長と他の隊員達はセヴァストポリ研究所から

さほど遠くない第二次世界大戦時に存在していた

旧米陸軍研究所跡地で手に入れた研究資料をまとめて

報告書を書こうとブレス保安部長は近くのディスクに向き合って

ノートパソコンのキーボードを指で叩き、文章を入力していた。

グーフィ隊員は自分が改造したウィンドウズ10のノートパソコンを開いて

またキーボードを叩き、パソコンの検索欄に

色々なキーワードを打ち込み、検索していた。

するとマッドがコカ・コーラの缶の蓋をプシューと開けた。

「なんかネットに出たか?グーフィ?」

「まだだよ!検索ワードになかなか引っかからない。」

グーフィーは困ったように黒い茶髪を右手で掻いた。

マッドはさっとグーフィから離れた。

「困った時に頭を掻かないでくれ!フケが飛ぶ!」

「るせえな!あんただってろくに風呂に入らないじゃねえかよ!」

するとマッドが何か何かを言い返そうと口を開きかけた。

しかし急にグーフィが声を張り上げた。

「あった!あった!あった!この土地に関係ありそうな。えーと。

そのーなんだ??都市伝説みたいなもんか?」

グーフィはそう言いながらもあのディズニーキャラクターの

グーフィの顔の模様が付いたマウスを動かしてクリックした。

そこはアメリカ各地の都市伝説を紹介するサイトで。

パソコン画面にある都市団説の解説ページには。

ニューヨーク市内のM島のS地域の郊外は今は廃墟となったD市街地にある旧米陸軍

研究所は悪魔王ルシファーの霊的な力が

宿った強力な細菌兵器の開発をしていると言う。

しかもこの細菌兵器の開発は母国を裏切った元大日本帝国陸軍731部隊

(正式には関東防疫冷水部本部)の元科学者と細菌学者。

更に霊能力者や呪術師、アメリカ陸軍所属の科学者と研究員。

上層部に陸軍の情感が多数そこに所属していたらしい。

またダヴウェイ細菌研究場の職員やスタッフも何人か

関わっているらしいが正確には不明である。」

その文章を読んでいたマッドは口の中に飴玉を放り込み、口に含んだまま話し始めた。

「『胡散臭いな!本当じゃないだろ?』と言いたいところだが。

実際に魔女王ホラー・ルシファーの姿を監視カメラで見ちまっているし!」

「えっ?マジで??初めて聞いたぞ!」

驚きの余り、アフリカ人青年は茶色の瞳の両眼を大きく見開いた。

マッドはそのアフリカ人の青年隊員の顔を見て危うく噴き出した。

そして危うく食べかけの飴玉を発射するところだった。

「ウース!俺の目の前でいきなり変顔すんな!」

 

(第36章に続く)