(第29章)アヤ・ブレア

(第29章)アヤ・ブレア

 

さっきの天魔エグリゴリの激しい攻撃により周囲に剥がれた鋼牙が纏っている

黄金騎士ガロの鎧の黄色のメッキがバラバラと剥がれて飛び散っていた。

「うっ!ぐああっ!」と鋼牙は背中の激痛で声を上げた。

しかし鋼牙は決して牙浪剣は離さなかった。

更にヘリックスの3種類の弾丸は全て鋼牙の黄金騎士の鎧の背中に直撃し続けた。

その度に周囲に剥がれた金色のメッキがバラバラと剥がれて飛び散り続けた。

鋼牙は激痛で悲鳴を上げ続けた。

更に両脚の力が抜けて危うく天魔エグリゴリの巨体から転げ落ちそうになった。

しかし鋼牙は両脚をしっかりと踏ん張って耐えた。

「うっぐっ!うおおおおおおおおおおおおっ!!」

鋼牙は歯を食いしばり痛みに耐えつつも大きく吠えた。

彼は力の限りグルリと手首を捻った。

やがて渾身の一撃によって天魔エグリゴリの渦巻き状の裂傷が大きく割れた。

やがてピキピキピキと真っ赤な分厚い鎧のような皮膚が蜘蛛の巣状にヒビが割れた。

プシューと全身から白い霧を吹き出した。

ドスンと大きな音と共に地震を起こし、天魔エグリゴリの巨体は崩れた。

天魔エグリゴリはとうとう真っ赤なガラスの床の上に倒れた。

鋼牙は天魔グレゴリーが倒れたと同時に目の前が待っ白になった。

しばらくして鋼牙は瞼を開いた。

そこは真っ赤な海岸の砂浜の上だった。

更にザバーン!ザバーン!と真っ赤な血の海が引いたり、押し寄せたりしていた。

そして海岸には一人の金髪の女性が赤子を抱いているのが見えた。

鋼牙は真っ赤な海岸砂浜に佇んでいる赤子を抱いた一人の

金髪の若い女性ゆっくりと近付き誰か尋ねようとした。

するとまた目の前が真っ暗になった。再び鋼牙は瞼を開けた。

既に場面が変わっていた。それはどうやらそれは赤子の視点の映像のようだ。

恐らくあの天魔エグリゴリに転生する前の巨大生物の記憶を見ているのだと

鋼牙は直感した。天魔エグリゴリに転生する前はまだ幼い赤子の姿をしていた。

やがて目の前に金髪の若い女性が現れた。

しかも顔だけで赤子の天魔エグリゴリは両腕で優しく抱かれて胸の中にいた。

金髪の若い女性は歳は20代。特徴は。

両首筋まで伸びたサラサラの金髪。キリッとした茶色の細長い眉毛。

ぱっちりとした緑色の美しい瞳。美しい顔立ち。

丸っこい低い鼻。首には銀色のネックレスを付けていた。

茶色のロングコートを着ていた。中は黒いシャツを着ていた。

金髪の若い女性は赤子に優しく語り掛けた。

「ヘリックス!へリックス!ママよ!アヤ・ブレア!」

赤子の天魔エグリゴリに転生する前のヘリックスはパチパチと瞼を開け閉めしていた。

やがてアヤ・ブレアは赤子のヘリックスに向かって優しく笑った。

アヤ・ブレアは悲しみに満ちた表情をした。

「御免なさい。せっかく貴方を産んだのに!!私から産まれたツイスデッドの仲間も

妹のイヴから産まれたハイ・ワンズ(高次種族)もどちらも救えなかった!!

御免なさい!御免なさい!救えそうなのは貴方だけ!いい子ね!可愛い子!!

いい。良く聞いて!貴方のその不完全な生命を完全な主として治してくれる凄い

お医者さんを見つけたの!お医者さんに治して貰ったら!!

無闇に殺生しないで沢山の家族を作って!そのー。

せめて!せめて!貴方だけでも幸せにしたいの!もう!もう!行かなきゃ!!

いい子にしているのよ!私も戻らなくちゃ!!

もう時間が無いの!お腹空いた?最後にをあげる!」

再び鋼牙の目の前が真っ暗になった。

真っ暗な中、「おぎゃあああっ!おぎゃああああっ!」と言う赤子の鳴き声がした。

しかしすぐに静かになった。

再び瞼を開くと鋼牙はまたあの真っ赤な海岸の砂浜に立っていた。

そしてあのアヤ・ブレアと天魔ヴァルティエルがいた。

自分の我が子であるヘリックスの赤子を天魔ヴァルティエルに渡していた。

アヤはヘリックスの赤子を抱いた天魔ヴァルティエルに背を向けた。

彼女は両眼から涙を流した。流れた涙は両頬を伝い、下顎まで落ちた。

アヤ鼻をすすり、片手の指で流れた涙を左右に拭き取った。

そして顔を上げ大きく深呼吸した。やがてアヤは歩き出した。

そしてこうつぶやいた。

「さあ!行かなくちゃ!みんなが待ってる!タイムゼロで!」

再び鋼牙の目の前が真っ暗になった。

また瞼を開けると今度は書庫の裏世界の真っ赤なガラスの床の上に

鋼牙は大の字で倒れていた。やがて鋼牙はゆっくりと上半身を起こした。

しかもすぐ近くにはー。超巨大な真っ赤に輝く糸に覆われた繭が転がっていた。

やがて魔導輪ザルバが鋼牙に語り掛けた。

「おおっ!良かったぜ!ふうーこのまま目覚めないかと思ったぜ!」

鋼牙は魔導輪ザルバに自分が意識を失っている間に何が起こっていたのか尋ねた。

「どうなった?」

「あいつはどうやら弱点をあんたに攻撃されて致命傷を受けて。

このまま消滅するかと思いきや。

あいつは全身ヒビだらけになってもくたばらなかった。

あいつは意識を失った鋼牙を吹っ飛ばしてそのまま赤い繭を作った。

現在!奴は内部で急速に液化して肉体を再構成して

全ての致命傷を直そうとしているようだぜ!!」

「なんて生命力だ。恐れ入ったな。」

鋼牙は心の何処かで安心したようにフッと笑って見せた。

しばらくして金網に覆われた四角い部屋と中央の広場のガラスの部屋

真っ赤なガラスの床の上に着地した。

そして金網に覆われた四角い部屋の中で輪廻転生を象徴する赤いバルブを

回し続けながら天魔ヴァルティエルは鋼牙を褒め称えた。

「流石は黄金騎士ガロ!『守りし者』の役割を十分に果たした!

何時は我が与えた課題をクリアした。

約束通りに女性一人を救い出す権利を与えよう!!」

天魔ヴァルティエルははっきりとした日本語でそう言った。

鋼牙は真っ赤なガラスの部屋の中に閉じ込められているはるかまゆみを

救い出して裏世界から脱出すべく歩き出した。

しかし不意に黒いブーツの爪先に何かが当たった。

鋼牙は反射的に床の方を見ると長四角の鉄板を見つけた。

彼は屈んでそれを手に取った。鉄版の中央には『種族』と言う文字が刻まれていた。

「これは?なんだ?」と鋼牙は天魔ヴァルティエルに見せた。

「いずれ必要になるものだ!」とだけ答えた。

鋼牙はとりあえず『種族の鉄板』を白いコートの内側にしまった。

すると今度はあのブラックフランドールがどこからともなく姿を現した。

「おい!彼女を助けよう!」と魔導輪ザルバ。

「しかしこの地下にはまだ大勢の女性達がまだいるんだ!可能性があるのは・・・」

と鋼牙が言い返した。すると鋼牙は軽い頭痛に襲われた。

続けてまた脳裏にアヤ・ブレアと赤子のツイスデッドヘリックスが映像として流れた。

しかもアヤ・ブレアは両腕で優しくヘリックスを抱き抱えていた。

彼女は黒いシャツを裾から捲り上げて柔らく丸い豊かな右乳房を露出させていた。

更に赤子のヘリックスはピンク色の美しい乳首から母乳を口内の短い管の先端から

チュウチュウと母乳を美味しそうに飲んでいた。

アヤはそのヘリックスの姿を我が子として

優しいまなざしで見ると優しく語りかけていた。

「貴方は幸せになるのよ!沢山の家族に囲まれて貴方は生き続けるのよ。」

アヤ・ブレアはヘリックスの赤子を離して黒いシャツに右乳房をしまった。

「はい!おしまい!乳離れの時間よ!」

アヤはにっこりと笑った。しかしヘリックスは寂しそうに小さく鳴いた。

「ピーッ!ピーッ!ピーッ!ピーッ!」と。

それから脳裏の映像が終わり、鋼牙は我に返った。

「・・・・・幸せか・・・・・・」と小さくつぶやいた。

鋼牙は広場の中央にあるガラスの部屋の前に立った。

彼は部屋の中にいるはるかまゆみに「ガラスから離れろ!」徒話しかけた。

はるかまゆみは鋼牙の声を聞き、ガラスから遠くに離れた。

鋼牙は素早く拳でガラスをガッシャーン!と音を立てて粉々に破壊した。

はるかまゆみは目を丸くして両手で口をふさいで呆然とした表情をしていた。

しかし鋼牙の「脱出するぞ!」と言う言葉にはるかまゆみは我に返った。

はるかまゆみは鋼牙に無言で頷いて答えた。

それからすぐに割れたガラスの破片に気おつけつつも外へ出た。

天魔ヴァルティエルはさらに鋼牙とはるかまゆみにこんな話を始めた。

「ツィスデッドの唯一の生き残りのヘリックスの記憶は『はるかまゆみ』を初め

この倉庫内にいる28987万人の女性達を見ていて全員、理解し、

そして彼のお腹に子供を宿す事を受け入れたのだ!

故に汝が手を出す事では無い!これからこちら側(バイオ)の世界は新たな世界。

そして本来在るべき原初の自然な世界に戻ろうとしているのだ!!

歪みが消え去り。全てが元通りの『静かなる丘』に戻るのだ!

これは始まりに過ぎない!」

「だからあいつをここへ連れて来たんだな?あんたが治したのか?」

「そうだ。我がツイスデッドの唯一の生き残りのヘリックスの赤子の種として

不完全な部分を消滅させ、あのヘリックスの赤子が成長した時、

完全な種として仲間を増やして自身の種を維持させる生殖能力を与えた。

大人になったツイスデッドの唯一の生き残りのヘリックスは

天魔エグリゴリに転生し、人間の女の子と交わり、子供を創る力がある。」

鋼牙は「成程」と呟いた。

魔導輪ザルバは「だから巨大な分厚い鎧の皮膚に覆われた

巨大生物でも独自の生殖器がどっかにある訳か?」

「話はこれで終わりだ!元の表世界へ戻るがいい!」

「まて!」と鋼牙は大声を上げた。直後にまたサイレンの音が聞えて来た。

ウウウウウウウウウーウウウウウーツ!ウウーウウウーウーウーツ!

続けてまた真っ赤な血と錆に覆われた壁がぺリぺリと剥がれて行った。

やがて壁の天井や灰色のタイルや鉄板の壁が次々と元に戻って行った。

そして真っ赤なガラスの床も天魔ヴァルティエルの金網の小部屋もガラスの部屋

跡形も無く消えて無くなった。代わりに雑貨物や家電製品、生活用品、古びたVHS

テープ、パソコン、スマートフォンが置かれている棚が次々と姿を現して行った。

鋼牙とはるかまゆみは気が付くと最初に入ったあの倉庫の中にいた。

どうやら表世界に戻ったらしい。しばらくして魔導輪ザルバは鋼牙にこう報告した。

「なあ。はるかまゆみと言う人間の女だが間違いなくあの

天魔エグリゴリの子供を妊娠しているようだぜ。」

勿論、鋼牙は魔導輪ザルバは決して間違った事を言わないのは長年の付き合いから

良く知っていた。止む負えず鋼牙ははるかまゆみをフィッシャーズの

レンタルキャンピングカーに避難させる事にした。

そして二人は無事に倉庫から出た。

やがてふと鋼牙は倉庫の外コンクリートの道路には一枚の文庫本が落ちていた。

どうやら日本の書店で発売された映画のノベライズ小説のようだった。

そのタイトルはー。『ミミックウォーターゲート』とあった。

「確か原作はドナルド・A・ウォルハイムで。

一作目の映画監督はギレルモ・デル・トロだったな。」

「あともう一つあるけど。どうやらさっきの文庫本の続編らしいわよ。」

はるかまゆみは『ミミックウォーターゲート』の続編の

新作のミミックのDVDを鋼牙に見せた。

「ふーむ。俺はよく知らん」

鋼牙はそっけなく言うと白い長いコートの赤色の内側にしまった。

はるかまゆみは笑顔で鋼牙にこう言った。

「結構気持ち悪いけど。話は面白いよ。2022年辺りにテレビドラマされたし。」

魔導輪ザルバと鋼牙は止む負えず倉庫から出ると救出したはるかまゆみを

フィッシャーズのキャンピングカーに避難させる為に移動を開始した。

そして白い霧を進む内に鋼牙はマンホールの上に落ちているメモを見つけて拾った。

するとはるかまゆみは「あっ!」と声を上げた。

 

(第30章に続く)