(第45章)ガルヴァスター・スカーレット
エアは直ぐに意識を失っているエイダの元に駆け付けて抱き締めた。
「エイダさん!しっかりして下さい!エイダさん!」
レッドフランドールはエアに向かって大声でこう叫んだ。
「行きましょう!!ここは危険よ!異世界と現実の境が曖昧になっているの!!
これ以上は普通の人間じゃ耐えられないわ!
急いで!目覚めたら!また取り込まれる!」
エアはエイダをおんぶするとレッドフランドールと共にその場所を後にした。
小さな柵を通って元の場所へ戻った。そしてレッドフランドールは
その小さな柵をまた元通りの小さな鍵が壊れた柵になり。
最初と同様、二度と開く事は無かった。
やがて数分後。エイダが意識を取り戻し、ゆっくりと瞼を開けた。
彼女は茫然としていていた。まるで悪夢の中に取り込まれたようだった。
一体?!私は・・・・・????
そう!まるで何だろう?曖昧な眠りの中で私は??私は??
エイダは正気に戻り、上半身を起こした。頭が少し痛い。
見るとエアの顔が見えた。私何があったの?いや・・・・覚えている・・・・。
レッドフランドールは落ち着きを払ってこう言った。
「貴方は沢山の世界に囚われていた生霊に憑りつかれたの。
今!背中を叩いて貴方の肉体から全て追い出したわ。」
それからレッドフランドールはエイダの首に掛けられていた
太陽の聖環のネックレスを外した。
「これは没収よ!さあーてと。これはもう駄目よ!悪いけどこれはもう駄目。
身に着けるのは危険よ。このネックレスは異世界と現実世界を繋げるもの。
だから貴方は異世界に取り込みやすくなっている。」
「ええ、たった一度だけ。これを使って異世界へ行った。」
「だからよ。きっとその時に彼女達に目を付けられていたのよ」
レッドフランドールはそのネックレスを魔力で完全に封印して無力化させた。
「一応!それ借り物なの」
「知っているわ!それはHCFの上層部に渡されたのよね?」
「ええ『静かなる丘』のあのサヴウェル地区の療養所に潜伏している
反メディア団体ケリヴァーが創設した『教団』の実態調査の命令を受けて。
実行しただけ。それ以上は何も知らないわ。」
「そのHCFの上層部とは知り合いで今回の危険な任務をさせた組織が裏にいるのよ」
「その組織は誰ですか?まさか?コネクト?」
しかしレッドフランドールは首を左右に振った。
「違うわ。あの組織コネクトもこちら側(バイオ)の世界の
ブルーアンブレラ社もBSAAもアメリカ政府も特に関係無いわ。」
「じゃ?何の組織?」
「うーん。うちの顧客にそんな非常識な話を持ち掛けるなんて」
「それはこちらの所属している組織のファミリーの調査してくれたの。
正直信じられなかった。まさか?まだ生きていたんて・・・・あの・・・・。
最古にして最強の吸血鬼。私達。最上級吸血鬼、上級吸血鬼、
下級吸血鬼達やメシア一族のホラー達や魔戒法師や魔戒騎士。
そしてこちら側(バイオ)の世界の人間達からも文明と文化と
街の発達と共に誰もが忘れ果てていた生きた伝説。最古の吸血鬼」
「それが?つまり?そのクライアント(依頼者)が
『3年前までそこを反メディア団体ケリヴァーが活動していた事』を知っていた。
恐らく『6か月前から発生している原因不明の霧の正体があの太陽の聖環。
『静かなる丘の土着神の儀式と神降ろしの儀式』だと知っていた。
ただなんで今になって活動し始めたかは良く分からない。
彼女はかつてジャンヌ・ダルクが生きていた中世の時代の
ヨーロッパよりも更に遥か昔に生き続けていたの。
彼女が誕生したのは正確には他の吸血鬼でさえ誰も分からない。
分かっているのは最古の吸血鬼はドラキュラでは無くリリスの直系の家系と
言われていますわ。それ以上は古過ぎて分からない。
私。義理の妹フランドール。血の繋がった姉のレミリア・スカーレットのお母様。
スカーレット家先代当主ガルヴァスター・スカーレット。」
「お母様??まさかこちら側(バイオ)の世界に
本物の吸血鬼が実在していたの??知らなかったわ。」
「ええ、実はスカーレット家の他にも実は沢山の吸血鬼の一族が
アメリカやヨーロッパを中心に実在してたのよ。
特にスカーレット家はヨーロッパ周辺ではかなり有名な吸血鬼の家系だった。
でも余り記憶が無いの。しかもこちら側(バイオ)の世界を破壊して
今の人間の社会秩序を消し去ろうとしている『教団』に所属している
反メディア団体ケリヴァー幹部達を次々と暗殺するように命令出しているわ。
ちなみガルヴァスター・スカーレットは表では人間のふりをして
任天堂のゲームの大乱闘スマッシュブラザーズの世界大会で
赤い色のデデデ大王でフィッシャーズのリーダーのシルクロードのデデデ大王と
決勝戦を争っていたらしいのよ。昔から無類のゲーム好きだから。」
「それ去年、グーフィと観ていたなー。まさかー本物の吸血鬼なんて。
でも実力は互角だった。勝敗はどっちだっけ?忘れちゃった。」
「命令は誰に??まさか?吸血鬼の仲間が生き延びているとか?」
「どうやらアメリカ合衆国のスパニッシュハーレムの山中奥深くに前々から
人間や大都市の接触を可能な限り避けて。
動物の血を餌にして赤ワインを飲んで静かに暮らしているみたい。
でも一方で物乞いや街の人々を凶悪な悪魔や天使や『静かなる丘』の
異形の怪物達から守っているらしい。
それと新型ウィルスの(COVID19)と(COVID20)の
パンデミックでもアメリカのスパニッシュハーレムやメキシコシティの貧困層の
生活を支援してその見返りに自分の仲間の吸血鬼組織の幹部や構成員達を
自らの血液と自分由来の賢者の石を移植しているみたい。
しかも始祖ウィルスや賢者の石は良く知っていた。」
「勿論。始祖花の事もTウィルスやGウィルス、Aウィルス、Cウィルス。
E型特異菌の事も何もかも知っているわ。
でもコネクトともあの魔女達や狼男の事を知らなかったみたい。
だけど吸血鬼の組織の幹部も家族も構成員達も多分、普通の人間じゃない。
当然、みんな吸血鬼かそれに近い私のような混血児になったと考えられるわ。
勿論、彼らが『静かなる丘』の異世界に迷い込んでも生還できるわ。
自分の肉体も精神も強化しているから。
でも何の力も存在しない普通の人間が簡単に異世界に行っちゃ駄目よ!
現実と空想の区別はしっかりと付けないと。
じゃないとまた心が狂気に浸食されて最後は死ぬか異生物になってしまうわ。」
「あの時、私はたくさんの人の心を見た気がするの・・・・・」
エイダはふと悲しそうな表情をした。そして身体を丸め、体育座りした。
やがて悔しそうにシクシクと泣き続けた。しばらくずっとずっと。
しばらくエアとレッドフランドールは傍に座っていた。
エイダはまだ悲しみに暮れて泣き続けていた。
鳴葉有子はモーテルの304号室の門からマイキーらしき人影を追って
エアやエイダやレッドフランドールとはぐれて独りで走り続けていた。
すると『STAFFACCOMDATION』の下部の細長い通路を息を切らせて
走り続ける内にまるで不思議の国のアリスのように気が付くとサイレンの音も
壁や床が剥がれる変化もなければ天空の白い霧に覆われた空が暗闇になる瞬間も
何も全く感じない内に鳴葉は細長い通路の建物の壁が赤い血と錆で覆われていた。
空もまるで夜の様に暗闇に覆われていた。どうやら裏世界らしい。
鳴葉は不安気に通路の先へ進んだ。そして片手にマシンガンを持ちながら歩き続けた。
やがて長い通路を抜けた。そこはモーテルの下の方で
うしろを振り向くと金網に覆われていて入り口は封鎖されていた。
しかも門は壁に溶接されて開かなくなっていた。
「何これ?怖い!怖いんだけど・・・・」
鳴葉は顔面蒼白のままその先へ進んだ。
彼女は赤い血と錆に覆われた壁沿いを進んでいた。
途中現れたツーバックに鳴葉はマシンガンの銃口を向けて引き金を引いた。
ツーバックは絶叫して血と錆の金網の床にうつぶせに倒れて動かなくなった。
鳴葉は無表情のままその辺りを幽霊のように彷徨った。
彼女は真っ直ぐ歩き『504号室』後と錆の扉の前に立った。
そしてガチャッ!と音を立てて扉が開いた。
そこは床が黒い鉄の金網で覆われ、壊れたベッドの骨組みがあった。
更に部屋の奥へ進むとそこは何故か何処かの湖だった。
「あれ?」と鳴葉は首を傾げた。やがてドボーン!!
と音を立てて何か白い袋のようなものが湖に投げ落とされた。
鳴葉は何かに怯えた様子で慌てて『503号室』から出た。
それから息を荒々しく吐き、恐怖で身体をブルッと震わせた。
「私は悪くない。私は何もしていない。なんで??なんで??」
『502号室』の扉の前に立った。また鳴葉の耳に聞こえたのは。
女性の甲高い長々とした悲鳴と苦しそうな呻き声だった。
鳴葉は大慌てで『502号室』の扉から離れた。
続けて鳴葉は『501号室』の扉の前に立った。
すると今度は鳴葉とヴァイオレッド・ネズリーと口論して暴言を吐き合い。
激しく争っている声がずっとずっと聞こえ続けた。
鳴葉は耐えられずまた逃げ出した。
そして最後に彼女は『500号室』の扉に立った。
しかし開けるのが怖すぎる為、止めた。入りたくない。この先は怖い。
思い出そうとしているの?嫌だ!思い出したくない!あの日の事は!!
彼女は首を左右に激しく振り続けた。
それから真っ直ぐ目の前の茶色の扉の中に逃げ込むように中へ入って行った。
その先は細長い四角い通路になっていた。
その先には穴があり、進んだ。
そして左右に丸い覗き穴があった。
その穴から見た光景はー。
鳴葉と失踪して行方不明になった親友のヴァイオレッド・ネズリーがいた。
金髪のショートヘアーに黒い服とズボンの女性だった。
鳴葉はヴァイオレッドに近付いた。
ヴァイオレッドは鳴葉を恐れた。
穴は真っ暗になった。
鳴葉は続けて更にその先にある穴を覗いた。
鳴葉はヴァイオレッドを捕らえた。右手で首を掴んで締め上げた。
彼女は苦しそうに両手で鳴葉の右手を叩き続けて抵抗した。
更に鳴葉は憑りつかれたようにヴァイオレッドを掴んだまま笑っていた。
(第46章に続く)