(第85章)殺しの代償

ゴジラの自作小説です。

(第85章)殺しの代償

 地下研究所アルカドランでは美雪は失意のどん底のまま、
暗い表情で覇王に付き添われ、マークが倒れている部屋の陰気な廊下に通じるトンネルへ歩き始めた。
 マークを射殺したキエフ隊長とすれ違いざま、覇王はキエフ
隊長に静かで重みのある口調で
「経験から忠告して置こう!『殺人の代償』は精神と肉体が崩壊する程、
高くつく!君が殺した男の顔を絶対に忘れるな!」
と言った。
キエフ隊長は顔を硬直させ
「すまない……これも!」
と懐のポケットからⅩ星人のメッセージが書かれた白いボードを見せ
「これも!サンドラさんと交換条件だったんだ……私にはどうしようもなかった!命令だから!」
と言うと再び白いボードを懐のポケットにしまい込んだ。
 その時、覇王は彼の白いボードを持っている手が僅かに震えているのに気が付いた。
覇王は直感で
「このロシア人の男は生れて初めて人を殺したんだ」
と分かった。
覇王は未だに暗い表情で僅かに鼻水をすすり、
静かに涙を流し泣いている美雪を連れ、
ウラヌス部隊と共に、マークの死体を置いて部屋の外へ出て行った。

 音無凛はガイガンと同化している洋子の意識に
「もう時間はないわ!なんとかしてあいつと
アトランティス大陸の住民達の怨念を浄化させないと!
この戦いはいつまで経っても終わらない!でも!
洋子ちゃんならきっとやり遂げられる!あたしは信じている!」
その時、ウリエル・バラードは驚くべき言葉を口にした。
「私も君の守護天使だ!最後まで君を信じている!」
そう言い残すと姿を消した。
それと入れ替わりにジラの逆三角形の顔が現れ、
「あいつらが!何を話したが知らんが!どの道お前達はここで死ぬ運命だ!」
と全身血みどろでボロボロになったゴジラガイガンと洋子の目の前に差し出した。
 ゴジラは頭から多量の出血をしつつも、頭を起こし、ジラを鋭いオレンジ色の目で睨みつけ
「グオォォオオ―ン!」
とこれまでで一番大きな咆哮を上げた。
 まさにその時、フラフラ起き上がったゴジラガイガンの身体に変化が起こった
 ゴジラの背びれは青白く輝き、その青白い光は強くなり、
8枚のギザギザの形をした翼が現れた。更に「バーン!」と大き
な音を立てて、ガイガンの背中からも青緑色に輝く帯状の翼が
伸びて来た。その形は良く見ると烏の羽に似ていた。

 レイから電話があったというアヤノの証言を聞いたゴードン上級大佐
「それは国際警察が通話記録を調べ!判明している!だが……これだけでは君の無実は証明出来ない!」
「どうして!?あたしがあいつの仲間だと言うんですか??
あたしは確かにロシア語を聞いたのよ!」
とアヤノは急に怒り出し、拳で「ガンガン!」と金属音を立て、鉄格子を叩いた。
その時、ゴードン上級大佐
「アヤノ……落ち着いて聞け!実はアヤノの家族構成を調べたんだが……」
と言い、アヤノの家族構成が書かれた資料をアヤノ本人とジェレル、山根蓮に見せた。
その資料を読んだジェレルはみるみる表情を変え、
「そうだ……彼女のお母さんはロシア人だった……」
「間違いないんですね?」
「そうよ!あたしの母はロシア人で父親は日本人なの!でも?それが何なの?」
ジェレルはすっかり動揺し、今にも気を失い倒れそうになった。
「君と初めて会ったときからそう思っていたんだ!
それだったら整形手術でもロシア人の顔に近づける事くらいは可能じゃないのかな?」
とガーニャ。
「そう言えば!奴は倉庫で俺から逃げる時、彼女はアヤノさん
が嫌いな理由は、自分が彼女のクローンだからって、
言っていたな?これはどういう意味だろう?」
 その時、ガーニャの頭の中に、元FBI捜査官と調べた
「カナダ政府が極秘に行っていた人体実験」の事が浮かんだ。
「実はカナダ政府が極秘に人体実験を行っていた事が分かったんだ!」
ゴードン上級大佐やアヤノ、ジェレル、蓮は口をポカンと開け
「なんだって?人体実験?」
それからガーニャはすぐに『ホムンクルス』計画について話し始めた。
 詳しい実験の内容は最高機密扱いだから分からないが、
具体的には、親となるノスフェラトゥとミュータントや人間の女性
の優勢遺伝子を掛け合わせたクローンを複数作り出す。
精神が安定し、成功したホムンクルス達には
開発途中のG塩基を持つゴジラの細胞を培養したG血清を投与して人工的に
『モンスター・キャリア』を作るという実験を行っていたらしい。
 クローン実験の過程で『シャラン』も『レイ』もホムンクルスだったが、
10歳で殺人癖や妄想などの精神異常を起こし、
G血清の投与実験には利用されなかった。
 ほとんどはその際に拒絶反応を起こし消滅したが、
たった一人生き残り『モンスター・キャリア』となったホムンクルス
いた。その成功したホムンクルスは脱走したと言う。
「しかし残念ながらその情報は誰かにハッキングされてもみ消されました。」
そして続けてガーニャは
「カナダの政府と地球防衛軍の上層部達、ノスフェラトゥ、Ⅹ星人達の間で
アヤノさんのクローン実験が極秘に進められていた可能性も否定できません!」
「しかし……よく考えて見たまえ……その『陰謀説』の話はあまりにも突飛すぎるぞ!」
 冷静にゴードン上級大佐は指摘した。蓮も確かにその通りだと思った。
更にジェレルも
「そうだ!それも!きっとあいつの妄想だ!ひょっとしたら?
単に強引にその妄想で出来た『ホムンクルス
』の人体実験説で理由を付けて逆恨みしているだけかもしれない!」
 ジェレルはあくまでもレイがアヤノのクローンだとは認めたくなかった。
その時、「ビーイービーイ!」と大きく警報が鳴り、赤いランプがついた。
天井のスピーカーから
「逃走中のレイを発見!直ちに現場に急行せよ!場所は……」
蓮はスピーカーから流れる情報を聞き、
「まさか?この近くに?」
「そんなバカな!さっき来る時は一度も会わなかったぞ!」
とガーニャ。
そして蓮は腰のホルスターからレーザー銃を取り出し、攻撃態勢に入った。
「きっと!何処か誰も通らない通路や排水溝を通って来たのかも?」
独房の中のアヤノは天井や壁に顔を向けた。
ゴードン上級大佐もレーザー銃を取り出し、
「かもな!彼女が目撃された場所はここから階段を登って……」
「よし!すぐに行こう!」
とジェレル。
「気を付けて!」
とアヤノ。
「心配するな!彼女とは必ず決着をつける!」
と言うなり、ジェレルはゴードン上級大佐の制止も聞かず、
一人、レーザ銃を構えるとアヤノが監禁されている独房の薄暗い廊下を一人走り出て行った。
 その後を追ってゴードン上級大佐とガーニャ、蓮も独房から出て行った。

 未だに行方不明の音無凛と川根洋子を除く覇王圭介、
音無美雪、キエフ隊長率いる「ウラヌス部隊」は地下研究所から脱出
しようと暗い陰気な廊下の先を歩き続けた。
 長い事、何処までも永遠に思える長く暗い陰気な廊下を歩き続ける事1時間、
今度は研究用の怪獣の飼育室と思われる強化ガラスが張られた部屋のドアの前に立っていた。
 キエフ隊長と他の隊員達は、安全かどうか確かめようと、
覇王と美雪の先頭に立ち、全員、銃を構え、ドアの前に立った。
 緊張感と静寂が辺りを包んだ。
キエフ隊長は
プーチン!部屋の中の様子は?」
「誰もいない様です!部屋の中は暗くて何が何だか分かりません!鍵も開いているようです!」
「分かった!皆!懐中電灯を!」
と言い全員、ポケットから懐中電灯を取り出し明かりを付けた。

(第86章に続く)

今日の変更はここまで
では♪♪