(第84章)悪食

こんにちは畑内です。
ゴジラの自作小説を載せます。

(第84章)悪食

「次の仕事があるのでここで失礼します!」
と杏子は敬礼すると2人とは反対の方向に歩き去った。
「気を付けて!」
とゴードン上級大佐と山根蓮は敬礼し、反対側に歩き去る杏子を見送ると、
隔離されたカウセリングセンターにジェレルを迎えに行った。
 ジェレルは地球防衛軍本部内にレイが歩き回っている事を知っていたので、
最初カウセリングセンターから出る事を拒んだ。
しかしカウンセラーの助けを借り、ゴードン上級大佐と蓮は
「アヤノさんと面会出来る」
とジェレルを説得した。
彼は渋々カウセリングセンターの外へ出ると、
アヤノが閉じ込められている地下の独房へ向かった。
その途中、レイを逮捕すべく集まった警備員や国際警察、
国連の関係者は廊下でチラホラ見たが、
幸いにもレイと遭遇する事は無く、無事、地下の独房に辿りついた。
 地下に続く階段を降りて行くと、そこは長い石造りの冷たい廊下になっていて、
左右に幾つもの独房が設けられていた。
ここは比較的新しい時期に造られたものらしい。
 一番奥の独房を覗くとそこに真っ白な服を着たアヤノがベッドの上に体育座りしていた。
「アヤノ!アヤノ!」
とジェレルはベッドに座りこんでいるアヤノに呼びかけた。
彼女はそっと顔を上げ
「えっ?ジェレル??」
とつぶやくとベッドから降り、特殊な鉄格子の前に座りこみ、急に泣き出した。
蓮は静かに
「あなたの事は前々から他の関係者達から聞いていました!」
「いや!違います!犯人はあたしじゃないわ!レイよ!間違いないわ!」
「だけど……彼女は3年前からロシアの地球防衛軍にいる筈だ
!なんで??ここに??」
「彼女はロシアの地球防衛軍から脱走した!」
と聞き慣れたロシア語が聞こえたので4人がふりかえると、
そこにロシアの地球防衛軍『特殊生物犯罪調査部』のガーニャが立っていた。
ジェレルは驚きと同様の入り混じった複雑な表情を浮かべ、
「本当ですか?あいつがロシアの地球防衛軍を脱走してこの日本に??」
「その可能性は大いにあり得るだろう……」
とゴードン上級大佐
すかさずアヤノは鉄格子から
「あたしがテロリストとして逮捕される前にレイから電話があったのよ!」
と証言した。

 アメリカ・アパラチア山脈・シェナンド国立公園。
 ゴジラより先にジラの挑発に乗ったのはガイガンと同化していた洋子だった。
 ガイガンは右腕に装備された巨大な鉤爪を振り回し、
宙に飛び上がってジラの逆三角形の頭部を切り裂こうと、
斜め右に強くその鉤爪を「ブン!」と空気を切り裂き勢い良く振り降ろした。
 しかしジラは「馬鹿め!」と言う様に軽くグルル……と唸ると、
その鉤爪を、下腹部から伸びたオレンジ色の触手の内、
2本をバツ印に組んで軽く受け止め、残りの6本の触手でガイガン
両腕、両足、両腹の人工皮膚をノコギリ状の細かい棘で次々と切り裂いた。
鮮血が吹き出した。
 洋子はまるでバラ線に身体を引っ掛けた様
なこれまでで激しい激痛を感じ、気を失いそうになった。
ガイガンも半分は生身故、口から血を吐き出した。
 ゴジラは洋子とガイガンを助けようと助走をつけ、
身体を回転させ、ジラの背中に尾の一撃を喰らわせた。
 不意を突かれたジラは8本の触手をガイガンから放し、地面に倒れた。
 ガイガンと洋子も立っていられず、その場に倒れた。
 薄れゆく意識の中、急に目の前に
黄金の光をバックに女性らしき人影と、
黄色に縁取られた稲妻模様を散りばめた漆黒のモスラが立っていた。
 女性らしき人影は音無凛で、もう一人はバトラ事、ウリエル・バラードである。
ウリエル・バラードは再びあの時の様に太い男の声で
「ここであきらめるのか?前世の罪を償い!自らの存在を正さずに死ぬつもりか?」
「やっぱり!あたしには無理よ!『第3の堕天使』
に乗っ取られたジラを封印して!怪獣世界に取り込まれたアトランティス
大陸の住民達の怨念を消し去るなんて!」
「あきらめるな!お前は『朱雀』の巫女だ!」
「もう……嫌なの……死にたくない……」
「ここで前世に犯した罪を償わねばまた来世に繰り返しになるぞ!」
と太い男の声で言うとウリエル・バラードは洋子の顔を赤い目
で見降ろした。
 一方、ゴジラはジラが吐いた火球を何度も食らい、
更に追い打ちを掛ける様に、鋭い死神のカマに似た巨大な爪で右肩を切
り裂かれた。ゴジラはそのままバランスを失い、
ガイガンの上に「ドシン!」と地響きを立てて、倒れた。
 洋子は胸に強い痛みを感じ「ウッ!」と呻き声を上げ、
「助けて……」
と弱しい声で凛とウリエル・バラードに助けを求めた。
「立て!」
ウリエル・バラード。
「助けてあげる!でも!その前に今!この因縁に立ち向かわないと
また来世の繰り返しになるわ!だから!立ち上がって!お願い!」
「無理よ……」
ガイガンの胸に下敷きになったゴジラは倒れた時に
腕に突き刺さった回転カッタ―の刃を無理矢理引き抜いて立ち上がった。
それからジラの右腕に噛みつき、たちまち力を加え、強靭な牙がジラの腕に深く食い込んで行った。
 ジラはゴジラの腹を膝で何度も蹴り上げ、反撃を試みた。
しかしゴジラは決してジラの腕から牙を放さなかった。
 ジラは憤怒の形相に変わり、
噛まれた右腕を左右に乱暴に振り回し、宙へ投げ飛ばすことでゴジラをようやく退けた。
そして倒れているガイガンに静かに歩み寄るとガイガンの顔面を思いっきり蹴り飛ばした。
 ガイガンと同化していた洋子は顔面に「見えない力」で蹴られたような激痛に襲われ、鼻血が出た。
 その時、ゴジラが放った放射熱線がジラの頭部に直撃した。
ジラは振り向き、ゴジラを睨みつけると地面を揺らし、
再び牙を剥き出し、ゴジラに襲い掛かった。
 ゴジラが時間を稼いでいる間、凛は洋子に訴えていた。
「あの『第3の堕天使』とアトランティス大陸の住民達の怨念を
封印出来るのは洋子ちゃんしかいないの!」
「君の首に掛けている勾玉にはまだ覚醒していない力がある!
その力は非常に危険で悪食だ!」
「あくじき?」
と言い洋子は鼻を押さえ、自分の首に掛けている勾玉を見た。
「この勾玉が原因でアトランティス大陸が海に沈んだ。
アトランティス大陸の住民を食いつくすまで『朱雀』の怪獣達を凶暴
化させた理由もすべてこの勾玉の強大な力だ!つまり!
この勾玉を覚醒させれば!君と同化しているガイガンを凶暴化させられる!
 本来、ゴジラも『悪魔』を手当たり次第食い尽くす凶暴極ま
りない魔神の仲間だ!必ずゴジラも同じ力を受けるだろう。
但しゴジラは一度、そうなったが最後、『悪魔』を手当たり次第喰らう!
お前自身も少しでも邪心が表に出れば!同化しているガイガンは朱雀のように狂い、
今度はたちまちゴジラの餌になるだろう!」
「もろ刃の剣ね!」
と洋子の意識は理解し、答えた。
 ウリエル・バラードは無言で頷いた。

(第85章に続く)

では♪♪