(第53章)敵か味方か?

おはゆございます。
畑内です。
ゴジラの自作小説を載せます。

(第53章)敵か味方か?

 老人から発せられる死臭を嗅ぎ、激しい自己防衛本能に目覚
めた洋子の身体に大きな変化が現れ、変身の兆候を見せ始めた。
「バリバリバリ!」と音を立て、洋子の下顎が真っ二つに裂け、
全身が青黒く変色し、もはや日本人とロシア人のハーフの美人とはほど遠い、
蛇とトカゲを掛け合わせたような凶暴な宇宙人の顔に変化していた。
 蛇とトカゲを掛け合わせたような頭部には、
元人間の女性の名残として、他のノスフェラトゥと同じく茶髪はそのまま変わらず残されていた。
その時
「誰だ!そこで何をしている!」
と言う大声と共に付近を巡回していた警官の姿が見えた。
洋子は反射的に蓮の車の後部座席の中に飛び込んだ。
蓮は遠くにいる警官に向かって
「駄目だ!危険だ!こっちに来るな!」
警官は蓮の声を聞いてその場に立ち止まった。
ノスフェラトゥに変身した老人は蓮が警官の方に
注意を逸らした隙に元の服装のまま闇に姿を消した。気が付くとその老人は影も形も無かった。
ようやく蓮が安心して拳銃を腰のホルスターにしまうのを見た警官は、
ポケットから僅かに見えたゴジラの形をしたバッジを見ると
「もしかして君は地球防衛軍の『特殊生物犯罪調査部』の?」
「はい!山根蓮です!」
幸いにも老人や洋子が変身したノスフェラトゥの様子は見られずに済んだようだ。
 一方、反射的に車の中に逃げ込んだ洋子は
既に元のロシア人と日本人のハーフの美女の姿に戻り、
車の後部座席の窓からじっと警官と蓮を見ていた。
 それから蓮は車の運転席のドアを開け、無線を手に持ち、仲間の『特殊生物犯罪調査部』に
「こちら!山根蓮!警視庁から解放された老人が私の目の前で、
なんだか分からないが!ノスフェラトゥに似た何かに変身して逃亡しました!
すぐに応援をこちらに寄こして下さい!
現場は東京の銀座のトレーニングジム!到着したら!
現場駐車場一帯を封鎖して下さい!大至急お願いします!」
と伝え無線を切った。
蓮は疑問に満ちた言葉をブツブツとつぶやき始めた。
「しかし……凛から送られたⅩ星人達の会話の盗聴テープの
最後に確かそんな話はあったが……
信用出来るのか?いや!出来るわけがないだろう!だが……
あの背筋も凍るような激しい殺気は何だったんだ?
しかも老人の肉体がノスフェラトゥに変身した!
しかも洋子は仲間じゃないと言っている?
それに『第3の堕天使』ってなんだ?ゴジラ
ケーニッヒギドラに復讐したいとあの老人は言っていたが?どういうこった?
単なるノスフェラトゥの考古学者じゃないのか?今回は全くもって!訳が分からん!」
と言い終えると運転席のドアを開け、中へ入り、ドアを締め、
後部座席にちょこんと座りこんでいる洋子に向かって厳しい口調で
「駄目だ!あんなところでむやみに変身したら!」
しかし洋子は放心状態のまま
「あんなに本能的になったのは初めてだわ!御免なさい!迷惑かけて……」
「いいさ!今後は気を付けるんだぞ!」
と穏やかに言うと車を発進させ、トレーニングジムを後にし、
とりあえず一度、洋子を自宅に送り届ける事にした。
 それからすぐに地元の警察や大勢の特殊生物検視官や特殊生物犯罪調査部の関係者が集まり、
レーニングジムの駐車場一帯は完全に封鎖された。
 果たして老人の言う事は真実なのか?
 老人は本当に何者なのか?謎は深まるばかりである。

 地球防衛軍・特殊生物病院内『怪獣カウセリングセンター』
の一室でジェレルは落ち着かない口調で
「カナダで初めてその宇宙人に遭遇したガーニャさんの話では、
あいつらがⅩ星人の支配から逃れてこの地球に来た本当の目的は……繁殖の為……
だから最初はカナダやロシアの男を狙っていた。
でも!あいつらはミュータントの存在を知った途端!
普通の人間や身体能力が遥かに上回るミュータントの男を狙い始めた……
より強い子孫を残せるとあいつらは考えたんだ!」
「そう……あなたの言う通りだわ!でも……考え過ぎよ!
大きくゆっくりと深呼吸をしなさい」
ジェレルはカウンセラーに促され大きくゆっくりと
何度も深呼吸をするとようやく気分が落ち着いた。
「それじゃ!気分が落ち着いたところで!
例の幻覚について話してくれない?大丈夫!あたしは味方よ!」
そうカウンセラーが落ち着いた口調で言うとジェレルはようやく安心し、
自分が見た幻覚を短く簡潔に話し始めた。

 アメリカのチェサピーク湾から上陸したゴジラアパラチア山脈の森を進んでいた。
 ゴジラが木々をなぎ倒し、遠くの空を見ると、
米軍の戦闘機やヘリが飛び回っているのが見えた。また遠くの木々の隙間か
ら山羊の様な角を持つ、竜の頭部の形をした背びれらしきものがチラチラ見えた。
 ゴジラはすぐに宿敵のジラだと分かるとその方角に向かって早足で始めた。
 別の場所ではガイガンが木々や米軍の戦車隊をゆっくりと踏み潰し、
冷酷な表情のまま歩き続けていた。地球防衛軍のランブリングや
米軍の戦闘機やヘリも攻撃を続けたが、ガイガンはたじろぎもせず、堂々と歩き続けていた。
 やがてふとガイガンは足を止めて下を向き、米軍の戦車隊のいない地面を眺めた。
 モノアイの内側の赤いモニター画面には、目標であるアルカドラン地下研究所の地図が表示され、
自分の現在位置を示す黒い点が光っていた。
目標のアルカドランの研究所に到達するまでまだ時間が掛りそうだった。
それからガイガンには、幾つかの武器を持ち、木々に覆われた
森の中を歩き回っている米軍兵が赤いモニター越しに見えた。
画面に「保護対象検索モード」と表示された。
赤いモニター画面には音無凛と美雪の全身写真が表示され、
撤退する為に森の中を走っている米軍兵を赤いモニター越しで観察を続けていたが
「体格不一致・全て男性」と表示された。
またブロンド(つまり金髪)の女性米軍兵のうしろ姿が
木々の隙間から見えたので再びガガガッと音を立て、
その女性米軍兵の年齢、身長や体重、バスト、ヒップ、
ウェストに至るまで細かい計算を繰り返し、
美雪と凛の体格データ比較した末の結論は「女性だが、体格不一致」と表示された。
つまり別人だと言う訳である。
また女性米軍兵の、正面もしくは横顔も木々の僅かな隙間から見えた。
しかしやはり「女性だが体格不一致」と表示された。

(第54章に続く)

では♪♪