(第12章)秘密結社ドラクル

(第12章)秘密結社ドラク

 秘密結社とは、会員以外知られていない儀式目的を持つ団体の事である。
秘密結社は3つ種類がある。
 ひとつは反体制的な政治活動を目的とする『政治的秘密結社』。
 2つ目はその名の通り犯罪を目的とする『犯罪的秘密結社』。
 3つ目は加入する際、内部での会員以外決して知らされない秘密の通過儀礼を行う。
この秘密の通過儀礼そのものが存在意義である『入社的秘密結社』。
以上の3つである。

 2時3分。
 大戸島米軍基地内の豪華な客室。
ウィルソン上級大佐はワイングラスを片手に椅子に座り、目の前の大きな監視カメラの映像を見ていた。
 監視カメラには大戸島米軍基地の米軍兵と思われる3人の男の姿が映し出されていた。
 その3人の男達は何処か大きな貨物室らしき場所を両手で拳銃を構え歩いていた。
「我々が戦艦ランブリング内の極秘貨物室に招き寄せた君達がここの最初の感染者だ。
そしてあとは必要最低限の人数の人間達のみに感染をさせればいい。
基地の人数と機能を保ったままね。」
 ウィルソン上級大佐はリモコンで監視カメラの画面を切り替えた。
切り替わった画面は大戸島米軍基地から5m程、離れたとある洋館内の監視カメラだった。
 監視カメラには長い木製の廊下を米軍兵と同じく両手に拳銃を構え、
慎重に進むブロンドの女性の姿が映し出された。
ウィルソン上級大佐はあの大戸島米軍基地内のヘリポートで見せた不敵な笑みを浮かべ、こう言った。
「ようやくここに気が付いたか。いい子だ。ミセスG」
そこに若い米軍兵のオニール軍曹が現れた。
「ウィルソン様」
ウィルソン上級大佐の目の前で胸の前で右腕を水平にする独特の敬礼をした。
「オニール軍曹か?」
ウィルソン上級大佐はオニール軍曹を横目で見るとワイングラスをテーブルに置いた。
「我々秘密結社ドラクルの次の『ブールアイ計画』、
ついに3年前に宇宙植物アオシソウ・プライムのDNAを遺伝子操作で組み込み、
ようやくミュータントや普通の人間を新人類に進化させる為の試作用の菌糸が開発されたのだ。
他にも厄介なゴジラ族の根絶やゴジラ族以外の『怪獣種族』達の抹殺等これらの問題を片づければ
我々はゴジラ族やその他の怪獣種族の一切存在しない未来に向けて
新たな世界秩序を創り出す事が出来るのだ。」
「ところでウィルソン様。」
「なんだ?発言を許可する。」
「例のMBI(怪獣捜査局)と日東テレビクルーは島上冬樹と言う男の失踪事件を調べているらしいです。
去年の8月10日の新聞記事でも我々の存在を知られてしまいました。」
「だが世間が新聞で知ったのは我々の名前だけだ。だが厄介な事になりそうだな。」
「実は我々の敵である島上冬樹はアメリカの機密機関『MJ12』
が推し進めている『Gコロニ―計画』に関する情報を自ら日記に残していました。
『MJ12』の連中に渡る前にあの日記を奪えなければ、
我々は『MJ12が非人道的な人体実験を行った確かな真実』
を世間に知らせる唯一の物的証拠を永遠に失う事に。」
それを聞いたウィルソン上級大佐はその通りだと思った。
「現在その日記は、貴方の妹のル―シさんから、
あの島上冬樹の失踪事件を調べているMBI(怪獣捜査局)と日東テレビの誰かの手に渡ったと思われます。」
「ではその島上冬樹が残した日記を連中よりも早く見つけ出すように早めに策を立てよう。
MBI(怪獣捜査局)や日東テレビの居所を探るとしよう。
日記も彼らが持っていたら急いで奪い取るんだ。
もちろん中身が本物かどうかは部下に確認させる。
彼女や連中が偽物とすり替えているかも知れない。」
「しかも君の独自の調査報告によれば、
世界中であの忌まわしい怪獣と人間の混血児を産み出す人体実験が極秘に行われている。
既に実験の成功した事で初代ゴジラそっくりの代替人間達が世界中で誕生している。
早急に手を打たないと我々人類の大半は奴らに変身してしまうだろう。
奴らの侵略を阻止できるのは我々、アメリカの組織である『秘密結社ドラクル』だけだ。
新人類の未来を頼んだぞ!オニール軍曹。」
と言うと目の前の大きな監視カメラの映像に視線を戻した。
「分りました。ウィルソン様。」
オニール軍曹はワイグラスをテーブルに置いたウィルソン上級大佐
再び胸の前で右腕を水平にする独特の敬礼をすると、磨き上げられた銀色のドアノブに手を掛けた。

 2時30分
 大戸島自然史博物館・館長室。
 大戸島自然史博物館の館長である田中健二は黒縁の眼鏡を掛け直した。
「一週間前に失踪した島上冬樹の行方は現在、東京の地球防衛軍のMBIが捜索している。
島上冬樹の優れた人骨鑑定により、これまで数多くの人骨が男性か女性かは
もちろん年齢まですぐに判明した。
彼のおかげで大戸島自然史博物館の研究員達もとても助けられている。
私や研究員達も彼の無事を祈っている。
何か有力な手掛かりが得られないか、私は一週間前に失踪する前に、
彼が残した人骨鑑定の資料やメモ帳などの情報を独自に集めていた。」
 彼が独自に集めた島上冬樹が失踪前に残したメモ帳にはこう書かれていた。
「MJ12は国連を利用して瀕死の状態の子供とロシア人を保護。」
「MJ12が進めているGコロニ―に反対する者達が集まって秘密結社ドラクルを結成。」
「そして私達の計画よりも一週間も早く『ゴジラが一切存在しない世界』を創り出そうとする。」
「我々に残された希望は僅かしかない『呉爾羅』
「それと帝洋パシフィック製薬会社に勤務する科学者の手によって作られた初代ゴジラのクローン。」
「我々は何故生まれ?これから何処に行こうとしているのか? 」
と言う所でメモの内容は終わっていた。
 そのメモの内容は老人の田中健二には理解し難い内容だった。
 呉爾羅?
それは大戸島の伝説に伝わる海の怪物の名前じゃないか?
秘密結社ドラクルは新聞で読んだ事がある。
だが名前だけしか知らない。
彼らが売春をしている事以外はどんな犯罪行為をしているか全く分からない。
まさか?彼はその秘密結社のドラク
とMJ12と言う組織の抗争トラブルに巻き込まれたのでは?
だとしたら?もうすでに死んでいるのでは?
いやいやそれはあり得ない。
彼に限って。
無事ならせめて君の妻や私に無事の連絡を欲しいものだ。
 田中健二老人は心の底から島上冬樹の無事を祈った。

(第13章に続く)